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ヤングポテト・セカンドフライ3

ヤングポテト・セカンドフライ3


台詞前の役名については以下のように略す。はる子→「は」、大泉→「泉」、菅山→「菅」

 電脳第二層。暗闇の中でばらばらに眠る三人。ステージ中央やや右寄りの菅山へスポットライト。菅山、目をこすりながら立ち上がって周囲を見渡す。


菅「んん。誰もいない。そうか、まだ電脳第二層か。実際の体は薬品漬けで動いてないはずだから、今の身体感覚は擬似信号だな。ふん、さすが、俺。こう言うことに気付ける人間にこそ部長は相応しいんだ。とは言っても部長職そのものはどうでもいい。俺は『豆腐の角爆弾』を実現できればそれでいい。成層圏から豆腐を落下させて無知蒙昧の輩どもの頭に打ち付けてやるのだ。科学技術の恩恵を受けながら、非科学を妄信する心臓主義者共に。落下時の空気抵抗からの豆腐保護シールド、アクティブホーミング、インパクト直前のシールド解除、そして純粋な豆腐の位置エネルギーだけで奴等の脳を打ち砕く。雨豆腐、最高の天気じゃないか。でも、これを現実のものにするには部長の椅子が必須だ。それにしても、あの馬鹿筋肉と出しゃばり女め。大泉は『豆腐の角爆弾』実験の名誉ある被験者一号にしてやるか。クク。はる子はそうだな、俺の部長就任祝いに花を添える意味も込めて、マジで犯してやる」


 菅山、立ったまま、暗転。ステージ中央やや左寄りの大泉へスポットライト。大泉、大きな欠伸をしながら立ち上がり、右腕で力こぶを作ってマッスルポージング。


泉「ふわあ。どこだここ。うんっ、むっ、とりあえず俺の上腕二頭筋は絶好調。そして俺の敬愛するジャックさんのすることに間違いはないしな。うん、今はジャックさんを信じてただ待てばいい。そう、自らの筋肉しか信ずるものがなかった俺に、初めて筋肉以外にも信ずるに足るものがあるということを教えてくれた人。あの天衣無縫のアフロヘア、天真爛漫な発言、天壌無窮な脳ミソ。俺はジャックさんになりたい。愛するジャックさんに認められ、彼と等しい存在になり、彼と一つになりたい。だからその第一歩として俺はこの筋肉で部長になる」


 大泉、ポージングしたまま、暗転。ステージ中央のはる子へスポットライト。はる子、上半身だけ起こしてため息をつく。


は「それにしても、ふう。あたしが全く知らないこの世界を、男爵イモと侯爵イモの二人がある程度知ってるというのが気に喰わないわ。何としても二人を出し抜いて、あたしが一番優秀だってことを認めさせてやる。あたしはあの二人とは違う。あたしは凡人じゃない。だからあたしは勝たなければいけない。あたしが負け犬共に興味を持てないように、負け犬になったあたしを見てくれる人なんて誰もいない。だからあたしは今日まで勝ち続けてきたし、明日からも負けられない。あたしは部長になるために勝つんじゃない。負けないために勝つんだ」


 はる子、立ち上がり、暗転。

電脳第三層へシフト。先ほどの格好のままの三人にそれぞれスポットライト。一同に会する三人、お互いの顔を見て様子を伺う。


は「アハハ。大泉先輩、何で今ここでマッスルポージングなの? ホント、筋肉の人って訳わかんないとこありますね」

泉「ああ? てめえは筋肉を馬鹿にすんのか? いいか、男の筋肉は愛する者を守り、愛する者を抱くためにあるんだ。ジャックさんじゃねえけど、てめえ、犯っちまうぞ! あ、別にてめえを愛してるわけじゃねえけどだな…」

菅「ククク。大泉の筋肉については俺もはる子と同意見だ。君はもっと頭を鍛えた方がいい。すでに脳が筋肉になっていなければの話だけどな。ハハハ」

泉「カッ! 菅山、貴様!」

は「大泉先輩、ごめんなさい! あたし、そういうつもりで言ったわけじゃないの。ああ、思ったことが伝わってしまうって、こういうことなのね。あたしは筋肉を馬鹿にしてるわけではなく、その格好が面白くて、冗談っぽくさっきみたいな言い回しをしてしまっただけなの。何だか思ったことのニュアンス全てが伝わるわけではなく、頭に浮かんだ言葉が字面どおり伝達してしまう感じ。ホント、誤解を招くような言い方でごめんなさい!」

泉「う、まあ、そういうことであれば、ゆ、許してやるよ。俺も言い過ぎたな」

は「大泉先輩、ありがとう。そして、菅山先輩。あなたも大泉先輩に謝罪して。あなたの発言はあたしのそれと違って明らかに大泉先輩を侮蔑してた」

菅「ふん。イヤだね。俺は自分の発言に自信と責任をもって生きているつもりだ」

は「ふう。現実世界じゃ大泉先輩の筋肉が怖くてそんなこと絶対言えないのにね。ならあたしも言ってあげる。アンタ、童貞でしょ? アンタにはる子って呼ばれんの、気持ち悪いんだけど」

菅「てっ、このアマ、せ、先輩に向かっ」

泉「ハハ! はる子、いや、はる子ちゃん、よく言った! おかげで頭を冷やせたぜ。そして菅山、てめえの言った事、許しはしないが今は忘れてやる。だからまずは答えな。ここは第三層か?」

菅「な、後輩に、舐められ、くっ、そうだ、三人が揃っている以上、ここは第三層だ。おい、はる子、童貞で何が悪い、このアバズレめ! 成績優秀者しかスカウトされない科楽部にてめえみたいな出しゃばり女が入れたのも、大方ジャックさんに大股開きで迫ったからだろうが!」

は「ハッ。ジャックさん曰く、あたしは本年度首席らしいよ。残念だったな、童貞!」

泉「止めろ、二人とも。第三層に来ておそらく実時間で数分もたってない。それなのにこんな状態ではジャックさんに笑われるぞ。菅山、いつもクレバーなお前らしくない。そしてはる子ちゃん、お前も少し落ち着け。いいか、俺達は今まさにジャックさんにテストされているんだ」

は「ふん。そうね。菅山先輩が冷静な話し合いのテーブルに座ってくれるなら、あたしも落ち着けるわ」

菅「てめ、どこまでコケに、グッ、いいだろう、大人の会話をしようじゃないか」

泉「OK、二人とも落ち着いてくれたな。では俺から一つ提案がある。ここは思ったことがすぐに伝わってしまう世界だ。だから自分が感情的になりそうな時、すぐに別のことを考えるよう関連付けるというのはどうだ? そうすれば皆マッスルクーリング&トークできるだろ」

菅「ふん。マッスルは置いとくとしてもだ。そういうことであれば、短く抽象的な単語と関連付けした方がいい。そう、例えば感情的になりそうな時、すぐ『チッ』という単語を思い浮かべたりな」

は「へえ。何だか、意外に、うん。先輩達、ちょっと見直した」

菅「チッチッ、それは褒めてんのか? まあいい。おい、大泉、さっきジャックさんが見てるって言ったけどな、あの人は部長選出基準さえ言ってないんだ。だからまず初めにそこを考えるべきだな」

は「ああ! 全然気付かなかった。悔しい。チッ」

泉「チッチッ、いつものお前らしくなってきたじゃないか、菅山。ふん。ジャックさんが基準を言わなかったってことは、何か意味がある。そうだな、あの人のことだ。彼の興味を引き、面白がらせることができた奴が選ばれたりしそうだな」

菅「ククク。大好きなジャックさんのことなら何でも知ってるって素振りだな」

泉「チッチッ、菅山、それくらいにしとけよ」

は「ねえ、思考との関連付けって『チッ』という言葉以外でもできるよね」

泉「慣れれば可能だろ。急にどうした?」

は「うん、『チッ』って言うのはネガ思考をスキップさせる言葉だよね。逆に無意味なテキストを発言に交えると、それはあたし達の思考会話のウェイトになる。でもその無意味な一文をあたし達は無視できるよう関連付けするの」

菅「ハハ! お前、面白いな。我々は無視できるけど、ピコプラントの制御ユニットはその思考ノイズを一字一句拾ってフルモニタすることになるだろな」

泉「そうなると、ピコプラント内をモニタ越しでしか確認できないジャックさんも思考ノイズを無視できない、か」

は「うん。ダミーテキストを関連付けした思考ノイズにオリジナルの略語なんかも織り交ぜた高速思考言語で会話するの。それをオーバー脳クロック状態で続けられれば、あたし達とジャックさんの間でディレイが発生しないかな」

菅「プラントコントロールCPUの処理速度よりも脳クロックアップ状態での高速思考言語会話の情報量がでかければ、俺達とジャックさんの間で遅延が発生する可能性は十分にあるだろうな」

泉「ハハ。なるほど。そいつは面白い。遅延が発生すればジャックさんの性格上、こちら側にダイブする可能性は高そうだ」

は「うん。高みの見物を決め込む彼をあたし達と同じフィールドに引っ張り出せたら万々歳だし、少なくとも彼の注意を引けるんじゃないかなって。…でもね、このプランには一つ問題があるの」

泉「何だ? 問題って」

は「この作戦を立案したのはあたしだし、この作戦を実行してもジャックさんへのアピールという意味ではあたしのポイントになってしまう。チッ。けどこの作戦はあたし一人よりも皆でやった方が情報量も多くなって効果的だし、チッ、本当は一人でやれたらいいんだけど、チッチッ、ええと、その、チッチッチッ」

菅「ふん。アイディアは面白いし、ジャックさんを招待するのに反対する理由もない。俺はお前のことが好きではないが、チッチッ、感情を優先させるほど愚かではないつもりだ。彼を引きずり込むまでは協力しよう。ふん。それからでも俺はいくらでもアピールできるしな」

泉「ハハ! 菅山、お前を少し見直したよ。俺もはる子ちゃんのプランに賛成だ。よし、共闘作戦・プロジェクトマッスルトークだな。ジャックさんをこちらの世界に招待するまでは俺も協力するぜ」

は「チッチッチッ、ええと、そのプロジェクト名はどうかと思うけど、チッチッチッ、あの、協力、ありがとう」


 暗転。はる子、ステージ中央で少し前進して座る。大泉と菅山だけにスポットライト。二人、キョロキョロと周囲を見渡す。ステージ中央、さきほどまではる子がいた場所にスポットライト。アフロヘアを被った男性マネキン登場。アフロマネキンは抑揚の無いマシンボイスのように発声する。なお、アフロマネキンの台詞前の役名は「J」とする。


J「大泉くん、電脳世界でみんなをまとめる姿、見せてもらいました。中々立派でしたよ。菅山くんは冷静な観察力と効果的な追加意見でアピールしていましたね。あの状況で良くできていたと思います。二人とも部長になる資格は十分にあると感じました。だから部長はやっぱり三年生の君たち二人から選ぼうと思います。そうなると、この実験、半分は終了したようなものです。そこで君たち二人から部長を選ぶ前に、私としては新入部員の春子がどういう人間かもう少し見てみたい。うん。短刀を直輸入に言いましょう。メイドインUK。今のところ三人で共闘することになっているようですが、二人は彼女を裏切って下さい。これが二人から部長を選ぶ絶対条件です」

菅「ああ、やっぱり介入してきましたね、ジャックさん。はる子のアイディアを試す間もなかったか。ええと、はる子を裏切るか否かの回答をする前にジャックさんのその姿について一つ教えて下さい」

J「いいですよ。質問に答えましょう」

菅「我々三人を電脳世界に送り込むだけでピコプラント制御CPUには相当の負荷がかかっていたんですか? ジャックさんの電脳世界でのアイコンを動かないマネキン姿とマシンボイスにして、CPUへの負荷を軽くしてやらないといといけないくらいに」

J「今回の実験ではピコプラント以外にもスーパーノヴァ級ナノコンピューティングシステム四台の使用申請を出してます。あのオクトプロセッシングユニット搭載マシンをサポートにあてて君たちの生体情報を処理してるんだ。頭の良い君ならもうわかるだろう?」

菅「それだけのパワーマシンを並べられたら共闘作戦を展開しても情報遅延の発生は無理か。ええと、じゃあその格好もいつものおふざけってとこですか」

J「うん。まあ、そんなところ」

菅「わかりました。そういうことであればはる子の作戦に固執する意味は無い。彼女を裏切ります。部長になりたいしな」

J「大泉くん、君はどうしますか?」

泉「いつものジャックさんの話し方じゃないんですね。『短刀を直輸入に』ってとこ以外は何だか真剣になったときの流暢な日本語を話すジャックさんに近い感じもします。チッ、ええと、俺も一つ質問が。その話し方は隠し事のできないこの世界だからこそなんですか?」

J「ふむ。さすがに私を良く見ているね。そう、この話し方が私の思考言語です」

泉「何だか、ちょっと、納得が、チッチッ。ああ、すいません。でも、菅山の言う通りだ。はる子には悪いが俺も部長にならなきゃいけないしな。それが条件なら俺も彼女を裏切ります」

J「うん。二人とも賢明な判断をしてくれてありがとう。そして君たちは春子に対して気に病む必要はないよ。二年経てば自動的に彼女が部長になるわけだからね。だってここは年功序列の国だろう?」

泉「ジャック、さん?」

J「ハハハ、君達、馬鹿だね。ドロップ&フラッシュアウト。バイバイシーユー」


 暗転。大泉と菅山、舞台から去る。残ったはる子とアフロマネキンにスポットライト。はる子、微動だにせずうつむいて座ったまま。


J「と、言うわけです、春子。見て聞いての通り、君は裏切られました。せっかく勇気を振り絞って協力を求めたのに残念だったね。我々が社会性動物である以上、どんなに個人が優秀であってもそこには限界があります。そう、個人ではシステムには勝てない。科学技術の発展に伴いハイパーコンプレックス化が進んだ今となっては特に、ね。だから優秀なインディビデュアリストの君が協力を求めた姿勢は評価できる。でもね、彼らは最終的に個人の利益を優先させた。君はやっぱり一人なんだ。そして一人では私という巨大なシステムに勝つことは絶対にできない。まあ、私がすでにここにいる以上、君の作戦を続行する意味も無いんだけど、一人でまだ何か他にできることがあるかい? それともこのままテストを終了するかい?」

は「じゃっくさあん、あたし、どうしよう」

J「じゃあ、もう少し君を壊してあげよう」


 はる子、うつむいたまま立ち上がる。アフロマネキンがはる子を後ろから包むように抱く。はる子、アフロマネキンの腕から滑り落ちるように崩れ落ちる。暗転。


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