表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

07:僕の願いは

 それからも僕たちは、各地でプチ冒険を繰り広げたのです。


 例えば、この獣人国で恐れられ指名手配にされていた強盗たちを倒したり。

 はたまた迷子の子豚令嬢を助けたり。

 そして山から特別な薬草を獲って来たり。


 なかなかにスリリングで楽しい冒険は、でも夕暮れ時には終わりを迎えるのです。

 夜までに帰らないと国王陛下がお冠になるですからね。


「……キャシー姫様、そろそろ帰った方がいいです。僕、疲れたんです」


「う〜ん。でもキャシー、最後に一個だけ、行きたいとこあるにゃ!」


 可愛らしいキラキラ笑顔でそう言うキャシー姫様。

 これには僕は抗えないです。


「本当の本当に最後です。どこへ行きたいですか?」


「えっとね、お花畑! 綺麗なとこがいいにゃ!」


 綺麗なお花畑ですか。

 空をひとっ飛びして探してみますです。



 空までは行けないと最初に言ったんですが、実はできないことはないです。

 風の魔法を使えば、短時間であれば飛べるのです。ただ、魔力表皮が激しく、あまりできないのですが……。


「ふはぁ、はぁっ」


「ハービー頑張れ〜」


 僕に背負われたキャシー姫様は、楽しそうに笑うのです。

 それだけで僕、死ぬ気で頑張れるんです。


 でもさすがにこれはきついです……。


「ふは、はぁ、はぁ、はぁ……」


 そうして、魔法が尽きかけてよろよろして来た頃です。

 キャシー姫様が叫んだのは。


「あそこ! あそこにある! ハービー、行くのにゃ!」


 仕方ない方なのです。

 僕はキャシー姫様が指差す方向――白い花々が咲き乱れる場所へ、そっと姫様と降り立ったのです。


 花畑の花は、夕陽に染まって赤く見えていました。

 キャシー姫様がはしゃいで、花畑を駆け回り出したのです。かと思えば、「ハービーもハービーも!」と手を引かれることに。

 はぁ。僕、疲れてるんですが。


 結局一緒に走って走って、疲れ切った頃には夕陽が落ちかけていたんです。


「……遅くなっちゃったね〜」


「そうですね。まったく、キャシー姫様は」


 僕はふぅと息を吐き、ふと花畑を見渡したんです。

 白い花々、そしてその真ん中に佇むキャシー姫様。夕陽に照らされたその光景がどこか神秘的で、だからあんなことを言ってしまったんです。


「キャシー姫様、お美しい。……好きです」


 言ってから、僕は大慌てです。

 何言ってんだー! 雰囲気に流されてついうっかりです。いやあどうしよう。


「みゃみゃ? それは知ってるけど……急にどうしたのにゃ?」


 いつも通りな、クリクリのまっすぐな瞳。

 それとまともに目を合わせた瞬間、胸の中にじわりと何かが溢れ出して来たんです。


「――姫様。僕のこと、どう思ってるんですか?」


「何にゃの、突然に。もちろんキャシーはハービーを大好きなのにゃ」


「あの。恋愛対象として……見てくれている、とか、ないです?」


 キャシー姫様は首を傾げる。

 茶色の髪が風に揺れ、それもまた美しいです。


「レンアイって……何それ美味しいのにゃ?」


 ですよね。

 僕はわかっていたんです。キャシー姫様が、そんな目では僕を見ていないこと。

 わかっていてそれを聞いたのですが、でも、ちょっぴり寂しい気もしましたです。


 僕は耐え切れなくなってキャシー姫様を抱き寄せ、頭を撫で回しました。

 ああこの温もりこそが幸せです。僕は本当に幸せ者ですね。姫様と出会えただけでも感謝しなきゃです。


 そうは思っても、この恋心はどうにもならないのですが。


 平民上がりの護衛魔法使いの僕なんかが、一国の王女であるキャシー姫様と結ばれないことくらい、頭ではわかっているんです。

 でも――。



「……キャシー姫様、いつか結婚してほしいです」


 僕に抱かれたままいつの間にか眠ってしまわれたキャシー姫様に、僕はそっと声をかけたのです。

 これが、僕の自分勝手な願いでしかないと理解していながら。


 そんな僕らを、うっすらと夜闇が包み始めていたのでした。

 そろそろ帰らなければ。僕は姫様を背負い、ゆっくりとお城へ戻ったのです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ