30.陥ちた王都にて―― - 魔剣 -
・復讐鬼ガブリエル
「ガブリエル! お前は兵もまともに指揮できないのかっ!!」
「勝てる戦いだったのだ! 勝てる戦いを、貴様とベロスのバカが台無しにしたのだ!!」
王都に帰還した俺を待っていたのは激しい叱責だった。勝った気になって兵力の出し惜しみをしていた諸侯どもが、狂ったように俺を取り囲み、糾弾の言葉を吐いた。
だが俺にはこの黒い剣がある。この剣さえあれば、この愚か者どもの首を一瞬ではねることができる。こいつらは怒るにすら値しないカスどもだった。
「ど、どうしますか、ホーランド公爵!? 東は手詰まり、捕らえた諸侯には決起され、静観していた諸侯が次々と我々の敵に……っ」
「自分の指を落とすなんてバカげてるっ!!」
「ここのままでは……このままではジワジワと丸裸にされますぞ……」
やつらのうちの1人が怒りに任せて、ひざまずく俺の横腹を蹴った。何度も、何度も、執拗にだ。さすがの俺も苦痛に胃液を吐きかけた。
他の連中も一緒になって俺を蹴った。ホーランドは止めようともしなかった。
「ガブリエル、命が惜しければあまりその剣を過信しないことですよ」
「ホーランド公……この剣は、なんだ……?」
「魂を食らう剣、と呼ぶ者もいる。それがあれば、盗賊ドゥやカーネリアを討つことも可能でしょう」
ホーランド公、貴様は何者だ……?
そう問いかければ、俺はドゥへの復讐の機会を失うかもしれない。問いたいが口をつぐんだ。
「決戦が迫っています。部隊を率い、ベロスと合流して下さい」
役目など捨ててドゥを追いたい……。
この剣があればヤツに勝てる。こんな戦争、もはやどうでもいい……。決着、決着さえ付けられればそれで……。
「どれだけの犠牲を払おうともやつらを殲滅しなさい。ベロスには、総攻撃を仕掛けろと伝えるように」
「待て、総攻撃だと……? 正気か、ホーランド公……?」
「言い方が悪かったですか? ベロスには、河を越えて敵軍を殺すよう伝えなさい」
「……わ、わかった。だが、ベロスがもし逆らったら……?」
「斬りなさい」
「……承知した」
俺の目には、ホーランド公爵が我を忘れて乱心したようには見えなかった。おびただしい死傷者が出ることを承知で言っていた。
新たな報告によると対岸には3万を超える軍勢が集まっていると聞く。
確かに数の面ではまだ俺たちが勝っている。味方の屍を踏んで突撃を続ければ、対岸の軍勢を飲み込めるかもしれない。
しかしそれはあまりに短絡的で、人の命をなんとも思っていない最低の愚策だった。
あのベロスさえも、さすがにこの命令には逆らうだろう。
「引き替えに、ドゥの情報を掴んだら俺に報告を頼む」
決戦は目前。だがあちらにドゥが帰還したという報告は確認されていない。
やつは決戦土壇場になって、己の本陣にも返らずに姿をくらましていた。




