3-2.追放 - 善と悪は同じパーティにはいられない -
旅を始めて2ヶ月と少し。よくぞこの歪な関係が2ヶ月もったものだと、自分よりも板挟みになってくれたカーネリアを絶賛してやりたい。
「考え直してはくれないか、ガブリエル」
「断る!」
「お願いだから聞いてくれ。これは僕、勇者カーネリアたっての頼みだ」
「無理だ! いくら御子様の頼みでもこればかりは認められん!」
ついにガブリエルたちは我慢の限界を迎えた。自分たちがどれだけ盗賊ドゥに尻拭いされてきたのか、彼らは真実の一辺を知ってしまった。
俺は必要に応じて旅の抜け駆けをして、交渉相手を脅したり買収したり、密かに潰したりもしていた。
「確かにドゥがしたことは犯罪だ。そこは僕も残念だと思っている。だけど君だって、ドゥが僕たちのために、あえて自分の手を汚していたことくらいわかっているはずだ」
「だからお咎め無しにしろ? それこそあり得ない! 詐欺、窃盗、恐喝、暴行……! なんとおぞましい悪行だ!」
「わ、わたくしもなんとくお兄さまに賛成ですわ! まあ、なんて酷いのかしらーっ!」
それを知ったガブリエルとベロスは怒り狂った。全てが幻想だったからだ。全てが見下し続けてきた盗賊ドゥが描いたストーリーだったからだ。
誇り高い彼らにとってそれは屈辱どころではなかったのだろう。……あまりにバカらしい話だがな。
「しかしそれも全て、僕たちのためにしてくれたことだ」
「バカなことを言わないでくれ、御子様! こんな悪党と、このパラディン・ガブリエルが、同じパーティにいられるわけがないだろうっ!!」
「俺もこの件についてだけは、ガブリエルと同じ意見だ。極悪人の手を借りて魔将を討ったなど、そんな事実は存在してはならない。その男はもう用済みだ」
彼らには彼らの正義があり、俺には俺の悪の流儀がある。
盗賊王が俺に教えてくれたこの悪の流儀を否定してまでして、彼らと和解する気はこちらにだってなかった。
「ガブリエル、君の気持ちもわかる……。だけど今回の旅が終わるまでは我慢してくれ……。どうか頼む、この御子カーネリアの顔を立ててくれっ!」
「お断りだ! これ以上その男を庇うなら、我々はこのパーティを抜ける! マグダラとベロスも同じ意見だ!」
「で、ですのよっ! お兄さまの言うとおりですのっ!」
悪の流儀その1『テメェが悪党であることを認めろ。どう言い訳しようと俺たちは悪だ』
俺はそう盗賊王に教わった。ガブリエルとベロスが望む正義の味方になる気などさらさらなかった。
「ドゥ、君もなんとか言ってくれ……。君を失ったら僕は退屈で息が詰まってしまう……」
「はっ、それがアンタの本音かよ?」
「君を庇いたい気持ち含めて、全て僕の本音だ! 君抜きでどうやって魔将を倒せばいいんだ!」
「我々に任されよ、御子様」
彼らはきっとこれから苦労することになるだろう。
現実は英雄譚のように行く先々の者が協力的なわけでもなく、おまけにこいつらは揃いも揃って世間知らずで傲慢だ。
だから王とギルモアは俺を付けたというのに、このままではどうなることやら……。
この前は最悪の転売野郎が10億オーラムで秘宝を売ると言ってきて、本国からの送金を数ヶ月待つことにもなりかねなかった。
「ドゥ抜きでは無理だ! この中の誰か1人抜けただけでも致命的なのが、なぜわからない!」
「この男の代わりを探せばいい。俺たちは薄汚い盗賊風情とは組まない、絶対にだ!」
「我々高貴なる3人の精鋭と、薄汚い出自の盗賊1人。選ぶまでもないことだ……」
赤毛のカーネリアは分からず屋のバカ野郎どもに困り果てて、勇者様だというのに泣きだしそうな顔をしてしまった。美人にそういう顔をされると、少し胸が痛む。だがもうこれは手詰まりだ。
「俺が抜ければ満足か?」
「ドゥ、ダメだ!」
「ああ、満足だとも! 御子様のパーティに悪は必要ない。俺たちは正義のパーティだ、悪人は出て行け!」
「わかった。4億オーラムの後金は惜しいが、アンタらと一緒に全滅するよりはマシだ」
「ま、待ってくれ……っ、行くな、ドゥ!」
「悪いな、勇者様。俺も、こんな連中とはもう組めない。今日までの尻拭いを全て否定されたんだからな」
こうして俺は勇者カーネリアのパーティを去った。
前々からこの取り巻きどもの正義っつらが、鼻について堪えられなかったのもある。
悪の流儀その2『俺たちは義賊じゃない、盗賊だ。死んでも義賊とは名乗るな』
俺はそう盗賊王に教わった。
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投稿が遅くなって申し訳ありません。寝落ちしていました。
今夜こそ2話更新します。