3-1.追放 - 逆恨みかよ、お坊ちゃん -
勇者カーネリアはいいやつだった。世間知らずで少し男っぽいところがあったが、常に人に対して誠実で、他者への奉仕を苦痛とも感じない善人の中の善人だった。
「いつもありがとう、ドゥ! 君は本当に凄いよ! ああ、僕は君と旅ができてついてるな……」
「アンタは人の使い方がよくわかっているな」
「そんな意味で言ったんじゃないよ! 君ほど優秀な斥候は見たことがない! そう言いたいんだ!」
「ありがとう。アンタはなんというか……まぶしいくらいに真っ直ぐだ……」
「まぶしい……? なんだかそう言われるとくすぐったいな……」
「同感だ。アンタの言葉はくすぐったい」
「だって君は凄い人じゃないかっ、ドゥ!」
彼女だけが盗賊ドゥを受け入れてくれて、それ以外の連中は俺のことを最高の料理に混じった泥水みたいに扱ってくれた。
聖騎士、プリースト、騎士、勇者。この中に盗賊が混じるのはおかしいのは、俺本人だってよくわかっている。よって俺の方も狭量な仲間とは不干渉を貫いた。
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「困ったな、あの鍵がないと祠に入れない……」
「俺は頭を下げんぞ! 何度だって言ってやるっ、あの不信心者は地獄行きこそがふさわしい!」
「わたくしもお兄さまに賛成ですわ! ……よくわからないですけど」
パラディン・ガブリエルは戦士としては優秀だったが厄介なトラブルメーカーだった。その従姉妹のプリースト・マグダラは金魚の糞みたいなやつで、呆れるほどに頭が軽くて自分がなかった……。
「多少の時間はかかるが俺がここ領主に事態を伝えよう。下民が貴族に逆らえばどうなるか教えてやる」
「待ってくれベロスッ、元は言えば僕たちが彼らを怒らせたのが原因だろう! 頭を下げれば、彼らもきっとわかってくれる……」
ナイト・ベロスはパーティの最年長で傲慢な貴族主義者だ。盗賊である俺と組むのがよっぽど不満らしく、目も合わせてくれないどころか、偶然に見せかけて斬りかかってきたことすらあった。
「今帰ったぜ。町長の娘がなかなか離してくれなくてな」
「あ、お帰り、ドゥ! 外は寒かっただろう、すぐに暖炉に当たるといい!」
「ふんっ、薄汚い下民が……」
俺たちはとある迷宮を下るために、【黄金の鍵】と呼ばれる古代遺物を求めてこの町にやってきた。
「ベロス卿、なぜそうやってドゥに辛く当たる……」
「御子様、この男はクズだ。騙されてはならない」
「気にするな、カーネリア。俺たちの目的は魔将討伐だ、仲良しごっこじゃない」
「でも……」
「それよりアンタにプレゼントがある。手のひらを出して目をつぶってくれ」
町長は【黄金の鍵】を俺たちに渡す気などなかった。正義のためにお前の家の家宝を貸せと言われて、それに素直に応じる正直者ばかりではなかった。
『このパラディンがこうして頼んでいるのだぞ! ええい、この不信心者め、貴様らはまとめて地獄行きだっ! 鍵を渡さねば、親兄弟子供、全てが地獄の業火に焼かれると思え!!』
ガブリエルは最低の暴言を吐いて町長を脅したが、それは相手の激怒と交渉の決裂を招いた。
このままでは2、3日の足止めを食らうこと確実だった。
「我々の御子様に気安く触れるなっっ! なっ、それは、黄金の鍵……!?」
「えっえっ、なんであなたが持っているんですの!?」
「薄汚い盗賊が……」
ベロスが忌々しそうにそう吐き出すと、それが一応の共通認識になった。ああそうだとも、盗んできた。盗まないとらちが明かなかったからだ。
「ドゥ、これ、君が盗んだのか……?」
「落ちてたから拾ってきたんだ」
「白々しい嘘を吐くなっ! 我々は聖なる勇者の一行なんだぞっ、なぜこんな余計なことを!」
「元はと言えば、アンタの暴言のせいで話がこじれたんだろ。今回は交渉だけで片付くだけの話だった」
「お兄さまは悪くありませんわ! ……た、たぶん」
「ふんっ、外道が……」
ベロスはガブリエルも盗賊ドゥも気に入らないって顔だ。秩序を重んじる彼らは俺のルール違反にご立腹だった。
ちなみに陰からサポートしろというギルモアの頼みは半月で破綻したので、もう隠す必要もなかった。
「盗賊ドゥ!! 貴様っ、この、このパラディン・ガブリエルに……恥をかかせたな……っっ!!」
「はっ、逆恨みかよ、お坊ちゃん」
「侮辱するかぁーっっ!!」
「止めろドゥッ、ガブリエル!!」
そんなわけだ。俺たちは全くと言って気が合わなかった。俺から見ればガブリエルたちは融通の利かない傲慢なアホどもで、ガブリエルたちから見れば盗賊ドゥは身勝手な犯罪者だった。
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続きは21時更新予定です。
追記。寝ぼけて更新したつもりになっていました。
申し訳ありません。朝7時に更新します。