2.盗賊ドゥ
2.盗賊ドゥ
「ここがドゥの故郷?」
「ああ」
「大きいね……!」
「目立つから袋から出るな!」
盗賊王は俺に使い魔を残してくれた。
いや正確には使い獣、使いモモンガだ。便利だが、お喋りで女子供の目を引くのが大きな難点だった。
「あれがドゥのお母さん?」
「ああ……」
「会わなくていいの?」
「いい。仕事の手が鈍るだけだ」
故郷では父が他界していた。母も新しい夫と盗賊王の金で幸せに暮らしていた。新しい子供だっていた。
こうやってあの盗賊王は、せっかく稼いだお宝や金を人にくれちまう。義賊を名乗るなと言うくせに、やってることは義賊そのものだ。
「モモゾウ、王宮をちょっと見てこい」
「……え」
「俺たちの初仕事はあの城にしよう」
「え……。ピ、ピィ……」
「いいから行け、剥製にするぞ」
「わ、わわわっ、わかったよぉーっ」
喪が明けると、俺は王都セントアークを拠点に近隣を荒らし回った。
悪党や、金の余っている連中からお宝をかすめ取って、盗賊王が教えてくれた悪の流儀に従った。
盗品の売買を介して闇商人たちと知り合いとなり、そしてやがて――その闇商人の1人がとある変わり者の貴族を俺に紹介してくれることになった。
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「つむじ風のドゥですね?」
「ああ」
「私はギルモア、国王陛下の補佐官を任されている者です」
「はっ、補佐官? そんな大物がよくこんな薄汚ねぇ酒場くんだりまでおいでなすったもんだ」
ギルモアと名乗るその初老の貴族は、鋭い目と老人離れした精悍な肉体を持っていた。
そんな立派な老貴族様が酒場女から俺みたいな盗賊まで、誰に対しても敬意を払った言葉を使う姿は『変わり者』と表現する他になかった。
「貴方にお願いがあります。これは我々人類の未来を大きく左右させる大切なお願いです」
「なんだそりゃ……。俺はただの盗賊だぜ、世界を救う力なんてあるわけねぇだろ」
「いえ、ありますとも。大盗賊ドゥよ、どうかお願いします。どうか御子カーネリア様のパーティに加わり、その類まれなる才で御子様を支えてはくれませんでしょうか?」
「は、冗談だろ……? 勇者と盗賊が組むなんて、そんなの聞いたことねぇぞ……」
「前金で1億、後金で4億、以降王国内での貴方の盗みにある程度目をつぶりましょう。受けて下さいませんでしょうか?」
「とても正気とは思えない。気の迷いだったと言ってくれ」
「我々は本気です、他でもない貴方が必要なのです。なぜならばあのパーティには、悪人が欠けているのですよ」
「悪人……?」
「そう、悪人です。世の中は綺麗事だけでは片付きません。悪の天敵は、同じ存在である悪だと私たちは常々思うのです」
「はっ、何言ってやがる」
「では言い換えましょう、正義の天敵は悪です。悪は秩序を逆手に取り、善人が予想もしない方法で襲いかかります。このままでは分が悪いので、悪党である貴方の力を貸して下さい」
「……ま、言いたいことはわかった。盗賊王が生きていたら、きっとアンタと気が合ったかもな。……わかった、もう少しだけ詳しい話を聞こう」
「ありがとう、ドゥ殿」
「いくらなんでもその返しは気が早いだろう……」
詳しく話を聞いた上で、俺は彼の依頼を受けることにした。合計5億という条件が魅力的だったのもあるが、盗賊ドゥ以外にこの仕事は任せられないというギルモアの熱意に負けた。
「つまり、俺はパーティの汚れ役か」
「はい、陰から貴方が支えてくれたらこれほど頼もしいことはありません。買収、恐喝、詐欺、窃盗。盗賊ドゥのあらゆる技を用いて、旅の障害を取り除いて下さい」
「アンタはとんだ食わせ者だな。よし乗った、話を受けると王に伝えてくれ」
「貴方に感謝を。どうか御子カーネリア様をお支え下さい……」
こうして俺は補佐官ギルモアに説得され、勇者カーネリアのパーティに加わることになった。
御子勇者カーネリア、聖騎士・ガブリエル、騎士ベロス、プリースト・マグダラ。そして盗賊ドゥ。
この精鋭5名で、東方を苦しめる魔将ヴェラニアを撃つ。
死ねばそれまで。生還すれば英雄。俺は盗賊の流儀に従って、この勇者パーティを支えると決めた。
明日も夜に投稿します。
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