第97話 いつまでも
「あー、やっぱり愛翔。似合うわぁ」
桜と楓の声が重なった。
文化祭3日前、愛翔たち1年B組は衣装合わせをしている。白シャツの上に黒の執事服、ボウタイ、白手袋を身に纏った愛翔の周りにクラスの女子生徒が群がっている。その中でも当然のごとく桜と楓が両腕にぶら下がるように抱きついていた。そんな桜と楓の着ているものも当然のように白と黒をベースにしたゴシック調のメイド服、白の長手袋、黒のガーターストッキングと男子達の目を奪っている。
「ね、ね3人並んで写真撮らせてよ」
相澤が、何か閃いた様子で愛翔たち3人に頼んだ。
「そこ、背景はその飾り付け用の布を掛けて。そうそう。あ、華押さんも橘さんもいつも通りでいいから。そう、住吉君に抱きついちゃって」
3人をスマホのカメラで撮りまくる相澤。
「あ、こら。マウストゥマウスのキスはやりすぎ」
自然に口づけを交わす3人に相澤がストップをかける。
きょとんとする3人に、まわりから黄色い悲鳴とどす黒い怒号が響いた。
クラスメートたちを含め全員が制服に着替えた教室で相澤の不気味な笑い声が
「くくくく、これで売り上げ倍増間違いなし。ふふふふ、」
「なーに、ひとりで悪の幹部感だしてるのよ?」
後ろから相澤の頭を叩く楓。
「ふふふ、なーいしょ」
そう言って相澤は一人楽し気に帰っていった。
相澤を見送っている楓に愛翔が声を掛け
「楓、行くぞ。楓は軽音部で仕上げ練習だって言ってただろ。急がないと遅れるぞ」
「う、うん。すぐ行く。桜も部活でしょ、行こう」
「あぁその、女子バス今日から文化祭終わるまで休みなの。みんな文化祭の準備で忙しいんだって。だから今日軽音部の練習見学に行っていい?」
桜が強請るように楓に聞いたけれど
「ごめん、文化祭の練習は見せちゃダメってことになってるの。本番を楽しみにしてて」
そして迎えた文化祭当日、
「な、なんだこれは」
愛翔は教室改めクラスの出店スペース前に来て目を見張っていた。横には同じ表情で呆然としている桜と楓。
”天使と女神と光神の執事メイドカフェ”手書きのPOPが踊っていた。
「いや、別にPOPは良いんだけど……」
POPに貼られた何枚もの写真。
そこに写っているのは穏やかな笑顔の執事服の男とそれに蕩けるような笑顔で甘える二人の輝くばかりに美しいメイド服の女の子。
はっと我に返った3人は犯人捜しを始めた。容疑者は1人。
「相澤~!!!」
あっという間に確保された相澤。両腕は桜と楓にロックされ正面から愛翔が尋問をする。
「あの看板の写真はどういうことだ」
「あ、見たのね。素敵でしょ。これで売り上げ倍増間違いなしよ」
悪びれることなく言い切る相澤に
「いくらなんでも、あそこまでのプライベート写真は勘弁してくれよ」
「ええ?いつもあなた達が公衆の面前でやってることじゃない。それが写真になっただけでしょうが」
「それにしたって、俺たちに一言もなく……」
「だって言ったらダメって言うでしょ。それにもう看板付け替える時間無いわよ。今日1日はがまんしてね」
やり切った笑顔でウィンクしてくる相澤。どうやら相澤は既成事実として押し切ることにしたらしい。
いっせいに溜息を吐く3人。
「今日が終わったら外してくれよ」
愛翔の諦めた声に同意を示す桜と楓。
「ふふふ、大丈夫よ。だって明日はあの写真の意味ないもの」
愛翔は日曜日は試合のためほぼ欠席が決まっているためシフトを全て今日に集めてもらっている。そして、桜と楓もそれに合わせてもらっている。つまり日曜日には3人のシフトは無い。3人がいないところに3人の写真で客寄せはまずいという相澤の最低限の配慮。それに気付き再度溜息をつく3人。
「ま今更仕方ない着替えて準備しよう」
「凄い客の入りだなぁ」
呆れた顔で次々に来る客へのサーブをする愛翔たち。
「次、これを3番に……」
「すみません、その看板の写真の方たちと写真お願いできませんか」
客からの希望に
「すみませんが、そういうのはご勘弁ください」
相澤がきっちりと断りをいれる。
「ふーん、意外だな」
愛翔の感想に相澤が反応した。
「何が意外なの?」
「写真で客寄せするくらいだから、俺たちに客と写真撮らせるかと思ってたよ」
「さすがにそれはね。一応、線は引いてるつもりよ」
結局相澤の作戦は成功をおさめた。
大忙しのシフトを終わり3人は体育館へ向かう。
「それじゃ、私はこっちだから、愛翔と桜は客席で見ててね」
軽く手を振りステージの準備に向かう楓。
愛翔と桜は手を振り返し体育館に入っていった。ステージの合間に体育館に入ると観客の視線が愛翔と桜に集中する。
「あぁ、着替えてくればよかったかな?」
右腕に抱きつく桜にちょっと失敗したかという表情で囁く愛翔。
「多少目立つのは良いんじゃない。クラスの宣伝にもなるし」
クラス展示の執事服とメイド服のまま客席についた2人はステージに並ぶほどに視線を集めていた。
ステージでは有志によるマジックショーや短い演劇など中々に凝ったステージが行われている。
「結構面白いな」
愛翔は中学からアメリカに居たため学校での文化祭の経験がない。学生が集まっての文化祭イベントを楽しんでいる。
「そうね、高校の文化祭ってこんなに凝ってるのね」
桜も愛翔の隣でたのしそうにしていた。
『ありがとうございました。次は軽音部新人グループ”春”による演奏をお楽しみください』
「お、楓の出番だな」
「うん」
アナウンスに改めて前を向き演奏を聞く姿勢をつくる愛翔と桜。
ライトが落とされ緞帳の降りたステージでガタガタと入れ替わり準備をする音がする。そして音が静まると”ポーン””キーン”それぞれの楽器のチューニングの音が入り始めた。
そして、そのチューニングの音も静まると緞帳が上がりライトがステージを照らす。
「こんにちはー!軽音部新人グループ”春”です。今日は私たちの演奏を聞きに来ていただきありがとうございます。まだまだ新人でつたない部分もあるかと思いますが、頑張って演奏するのでみんな楽しんでください。最初はみなさんもご存知の……」
楓のMCのあと演奏が始まった。
軽いイントロから誰もが聞いたことのあるポップな曲が流れる。どうやらボーカルは持ち回りのようで、1曲ごとに変わっていく。
愛翔も桜もリズムに乗って身体を揺らしている。
「結構うまいんじゃないか?」
ごきげんな様子で愛翔が桜に話しかける。
「うん、楓、こんなにうまくなったんだ。最近聞かせてくれなかったからびっくりよ」
「さて、次で最後になります。最後は軽音部に収まらず光野高校のアイドル橘楓の作詞作曲によるオリジナルバラード”いつまでも”です。聞いてください」
リズム隊だけの静かなイントロが立ち上がり、キーボードがメロディをのせる。楓のギターが華やかに彩る。
「いつも一緒にいたね
あなたがいるだけで、強くなれる
いつも隣で笑っていたね
一緒に経験してきた
あなたはいつも一生懸命で
あなたはいつも守ってくれた
しっているかしら
あなたと一緒にいるために頑張ってきたの
しっているかしら
あなたと並んでいるために走ってきたの
でもそれだけじゃない
いつも一緒に笑ってたよね
いつも一緒に泣いたよね
いつかあなたを支えたい
いつかあなたと支え合いたい
ずっと好きだった
ずっと好きだから
あなたと結ばれたい
あなたが他の誰かと結ばれても
それでもあたしはそばにいるわ
ずっと好きだった
ずっと好きだから」
ギターがフェイドアウトする。
キーボードがリズム隊が静かに音を消す。
一瞬の静寂の後、まばらな拍手、そしてどんどんと拍手が大きくなりステージライトが落ちた。
『軽音部新人グループ”春”の演奏でした。次は……』




