第95話 レベル差
昼休みにはいると。
「ちょっと行ってくる」
一言を残して教室から出ていった。
A棟4階渡り廊下に佇むゆるいウェーブの長めの明るい茶髪を初秋の風に揺らす女子生徒。そこに愛翔が歩み寄り声を掛ける。
「西綾香さん?」
はっと顔を上げる女子生徒。
「住吉君。来てくれたんだ」
「まぁ、わざわざ手紙までもらえば校内なら来るよ」
少しばかり面倒くさそうな声ではあるけれど、そう答える愛翔に
「ありがとう。それで来てもらった理由なんだけど。その、住吉君は、華押さんとも橘さんとも付き合っていないって聞いたのだけど、それは本当なの?」
「初対面の西さんにそんなことを聞かれて答える必要性は感じないんだけど、まあそれでも一応答えるなら、まだ付き合ってはいないね」
西はホッとした表情を見せ言葉を続けた
「その、住吉君が好きです。私とつきあってください」
その言葉を聞いて愛翔は溜息をひとつ
「ごめん、俺、西さんのこと何も知らないし、そもそも西さんと交流無いでしょ。その状態から付き合うってのは流石に無理」
それに対して西は
「交流が無くてお互いによく知らないからこそ、付き合って知っていけば良いんだと思うの。だからお試しってことでどうかしら」
「ごめん、いろんな考え方があるのは分かるけど、俺にはお試しで付き合うっていうのは無理。俺にとって相手の事を好きでもないのにお試しで付き合うってことは、すごく不誠実な事なんだ。だからごめん」
愛翔は西に対し頭をさげて断った。
「そっか、住吉君はそういう人なんだ。もっと軽く考えてくれると思ったんだけど。わかった。でも私諦めないからね」
そう言うと西は渡り廊下から校舎に入っていく。
そしてそれを見送った愛翔は、深呼吸をひとつして空を眺めながら口を開いた。
「もう他に誰もいないからいいだろ。話があるなら出て来いよ」
数秒の後、柱の影からは剣崎が出てきた。
「こんなところに呼び出してすまない」
謝罪の言葉を口にする剣崎に愛翔は手を振って問題ないと示す。
「で、何の用だ?剣崎君と俺は雑談をして楽しむ様な間柄じゃないと思うんだが」
愛翔の言葉に剣崎は神妙な顔でガバッっと膝に頭をぶつけるような勢いで頭を下げた。
「すまん。サッカー選手にとって足は命だ。しかも住吉はサッカーで生きていくことさえ視野に入れているんだろう。それを俺はちっぽけなプライドと嫉妬に曇った目でやっちゃいけないことをした」
剣崎がそこまで言ったところで愛翔が口をはさんだ。
「あー、それってこないだのサッカー部での件か?」
「他にないだろう」
「まぁ、なんというか。気にすんな。確かに褒められたタックルじゃなかったけど一応ボールにいってたしな」
愛翔が気楽に返すものの剣崎は引き下がらず
「そうは言っても試合ですらない状況であれは無いだろう」
愛翔は困惑から頭をかきながら
「本当に気にしてないから。こう言っちゃ悪いけど、余裕もあったしな。あれがクラブのU18チームのディフェンダーに狙われたなら俺もあそこまで簡単に避けられなかったけどさ」
そこまで言いつつ、まだ下を向く剣崎にやむを得ないと口にする。
「極端な話、例えば剣崎君が幼稚園児に同じことされて怒るかい?」
「い、いや。幼稚園児のタックルでケガするほど……」
そこまで言うと剣崎は何を言われたのかに気付きギリリと歯を食いしばる。
「住吉、俺とお前ではそこまで差があると言いたいのか」
「そこからはもう想像にまかせるけど、俺はもう気にしていないから。話がそれだけなら、おれはもう行くよ。昼飯がまだなんだ」




