第94話 誰にも渡したくない男の子
月曜日、いつものように愛翔たち3人は一緒に登校していた。周りには黄色い悲鳴と男子生徒の羨望とやっかみの視線が集まっている。とはいっても、やはりそんなものには何も気にしない3人。桜と楓がそろって靴箱のフタを開けるとパサパサパサ桜と楓の靴箱から数通の封筒が落ちた。
桜と楓は顔を顰め異口同音に愚痴る。
「こういうものをもらっても困るのだけど。ここしばらく無かったから安心していたのにね」
その反応に苦笑しつつ愛翔も靴箱のフタをあけると数通の封筒が入っていた。
「俺にもか」
愛翔の大切な人発言以降、桜や楓に言い寄る男子は鳴りを潜めていたし、愛翔に告白をしようという女子生徒も現れなかったけれど、人の感情というものは割り切れるものでは無いようだ。それでも面倒なものは面倒で3人揃って溜息を吐いていた。
教室に入ると愛翔の机に集まる3人。
「昼休みに体育館裏……」
「放課後にA棟2階渡り廊下」
「昼休み部室棟裏」
封筒の中を確認し呼び出される場所をそれぞれが見ていく。
その中で、愛翔の手が一瞬止まり、それに気付いた桜が不思議そうな顔で尋ねた。
「ん?愛翔何かあったの?」
「いや、よく知りもしない人間相手にこんなことをって思ってさ」
すっとポーカーフェイスをつくる愛翔。
「それでも一応お断りにはいかないとってのがメンドイ」
そして、机に突っ伏す。
「愛翔が机枕なんて珍しいわね。そんなに私たちがモテるのがショックだった?」
楓が愛翔の頬をツンツンとつつきながら揶揄うように声を掛けた。
愛翔はガバッっと顔を上げると
「いや、楓にしろ、桜にしろ魅力的な女の子だからな。モテるのは分かっていたからな。それより俺が色恋沙汰に巻き込まれるって意識がなかったからさ」
そんな愛翔に桜も呆れたように口をだす。
「愛翔さぁ。そろそろ自分のことも客観視しようよ」
めずらしくボォーっとしていた愛翔が桜の言葉に我に返った。
「え?俺の事?」
そんな愛翔を見ながら桜が続ける
「愛翔ってさ、あたし達幼馴染の欲目を別にしてもすっごく素敵な男の子なんだからね」
そう言って愛翔の右腕に抱きつき、頬にキスを落とし
「誰にも渡したくないって思うくらいにね」
愛翔の耳元でそっと呟いた。
「まだあたしは、愛翔の横に立つ資格無いけど、きっと一緒に歩いていけるようになって見せるから。でも愛翔は待ってなくていいからね、きっと追いついて見せるから」




