第91話 愛翔の家庭事情
「へえ、丘先輩の最寄り駅って私たちと同じなんですね」
楓が意外だという顔で口にした。
「実家が少し遠いの。だからこちらに部屋を借りて一人暮らししてるのよ」
光野高校最寄駅近くのファミレス。話の流れで寄り道をすることになった愛翔たち。メンバーは愛翔、桜、楓、丘、そして加藤。6人掛けのテーブルについた。
「加藤君は実家住まい?」
自然と尋ねる丘。
「は、はい。僕は隣駅なので」
加藤は妙にカチカチになっている。それを見た愛翔は”プッ”と吹き出し
「加藤君何緊張してんのさ」
「い、いやその。僕、女の子と話すの慣れてなくて」
そういえばと、愛翔は少し考え
「そういえば、加藤君って俺とは話すけど、桜や楓と話しているの見たこと無いな。それでか。別に取って食ったりしないぞ」
この言葉にはさすがに加藤も少々憮然として
「いや、華押さんや橘さんと話せないのはそれだけじゃないよ」
そこに笑いながら丘が割って入ってきた。
「住吉君、君たち3人の中に入って男の子が華押さんや橘さんに声掛けるのは中々にハードル高いわよ」
愛翔がパチクリと目をしばたたかせ
「そうですかね。俺たち生まれた時から一緒に育って、ずっとこんななんでわからないんですよね」
加藤が首を傾げ
「一緒に育ったって言っても別の家庭だよね。ひょっとしてそんなに家族ぐるみで仲が良いの?」
愛翔がちょっと困った顔をし、それでもあきらめたように表情を変えた。
「まぁ別に秘密ってほどでもないからいいか。俺の家って俺が生まれてすぐに親が離婚したんですよ。で、俺は父さんに引き取られたんですけどね、父さんも仕事があって俺の面倒を見るのにも限界があって、それで当時から仲のよかった桜や楓の家に預けられることが多かったんですね。」
丘はややきまりの悪そうな顔をしつつも
「そこまでの状態なのに住吉君は、なぜお母さんにひきとられなかったんですか?」
「当時の事情は知りませんけど、なんでも、俺には姉がいて、姉が母親に引き取られ俺が父親に引き取られたらしいんです。母親が2人も子供を育てるのは難しいとでも思われたんでしょうね。まぁ、そのおかげで俺は桜や楓とこうしていられるので結果としては俺としては良かったと思ってます。なっ」
そう言いながら愛翔は桜と楓を抱き寄せた。
「それで、住吉君は、そのお母さんやおねぇさんと会いたいとは思ったりしないの?」
丘が尋ねると
「どんな人たちなのか興味はありますが、いまさらでしょう。それぞれに生活が出来上がっている中で無理に会って関係をいじる必要はないと思ってます。まぁそれでも成人したら姉には会ってみたいなとは思いますけどね」
愛翔が遠くを見るような目をして口にした。それを聞いた丘がそっと尋ねた。
「おねぇさんに会って何を?」
「うん?そうですね。思いっきり愚痴を言い合いたいです。でも最後には”それでも幸せに暮らしてる”って言い合いたい。そして笑って別れるんです”元気でね”って」




