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第80話 まだ走れる

「今日から、お世話になります。住吉愛翔です。よろしくお願いします」

ステラスターFCでの初練習の日。挨拶をする愛翔にチームメンバーそれぞれからの返事が返る。

「おう、よろしくな」

「MLS経験者の実力見せてくれよ」

概ね良好な反応が返ってくるものの一部メンバーからは棘のある視線を向けられていた。そしてさらに奥に控えていたのは。

「よぉ、新世代のスター」

愛翔は目を見張る。J1で活躍するステラスターFCトップチームのメンバー一同がそこにいた。そして

「今日は、お前の歓迎会だ。存分に楽しんでくれ」

トップチームの司令塔アグラ・あぐら・ゆうが試すような笑顔を愛翔に向けていた。

ウォーミングアップの後トップチームとU18チームの練習試合がU18ボールで始まった。試合形式は45分ハーフのみ。

キックオフ直後、愛翔はいつもの通りライン際をスルスルと上がる。ステラスターFCとはいえ、U18チームの攻撃パターンまでは把握していなかったためいつも通りに動いてみた愛翔だったが目を見張った。愛翔の10mも先に転がるボール。それは並みのU18フォワードでは追いつくことさえ出来ない位置へのパスだった。

「チッ。いきなり洗礼くれるのか」

愛翔はギアを上げギリギリサイドラインを割らせること無く追いつく。そのままドリブルで上がるけれど、そこには当然『おもてなし』が待ち構えている。J1リーグ指折りのディフェンダー中林順一なかばやしじゅんいちが愛翔の前を塞ぐ。トップスピードのまま味方チームの配置を確認するようにチラリと視線を内に向ける愛翔。それに反応しパスコースを塞ぐように位置取りを変える中林。その瞬間視線を戻すことなく愛翔の足が動く。愛翔の足元にあったボールが中林の視界から消えた。

「なに」

不意を突かれ反応の遅れる中林とサイドラインの間を駆け抜ける愛翔。遅れて愛翔の背後からボールが前にあらわれる。ダブルヒールキック。愛翔の視線のフェイントに一瞬中林の視線がそれた瞬間にボールを背後に隠し不意打ちとは言えJ1トップクラスのディフェンダーを抜いた。トップスピードに乗った愛翔にはさすがのJリーガーも追いすがることが出来ず、愛翔は右45度からのミドルシュートをゴールマウス左角へ放つ。ステラスターFCの守護神若山豪わかやまごうが横っ飛びに飛びつくも届かない。ボールがゴール左角にと見えたものの、ゴールポストに当たりゴールはならなかった。ルーズボールはJ1チームディフェンダーが素早く確保し前線にフィードあっという間に攻守が逆転する。正攻法で責めるJIチームにU18チームはまともに抵抗ができない。攻守交代から僅か3分でボールがゴールネットを揺らした。

 「どうやら攻撃のチームらしいな」

そこからゴールを決めるまではいかないものの攻撃時にはそこそこいい形をつくるU18チーム。愛翔もスピードとMLSでの経験を活かし攻めあがる。しかし、きっちりマンマークをつけられては流石に攻めきれず時にゴールエリアまで攻め込むものの決定的なチャンスを作ることが出来ない。残り時間2分少々、9対0でセンターサークルからU18チームのキックオフ。U18チームメンバーはスタミナ切れで序盤の動きを維持できているのは愛翔と司令塔を任されているトップ下時枝裕ときえだひろしのふたりのみだった。

「住吉、まだ走れるな」

時枝の言葉に

「ああ、俺はまだいける。けど……」

愛翔は周りを見回し口ごもる。それを見た時枝は苦笑しつつ

「分かってる。だから走るのは住吉と俺だけだ」

キックオフ直後、一度時枝にボールを下げサイドラインを駆け上がる愛翔に大きくパスを出す。フォワードが愛翔以外動けない事を分かっているJ1チームはすぐさま愛翔にマークを寄せる。しかし、愛翔はマークがつく前に逆サイドに大きくパスを出しサイドチェンジ。

「おいおい、そっちの住吉以外のフォワードはもう走れないだろう」

苦笑する中林の横をそのまま抜ける愛翔。愛翔の出したパスは前線に走り込んだ時枝に通っていた。それでもやや、引き目で受けた時枝は僅かに時間を稼ぎ、ゴール前に大きくけり出す。

愛翔はゴールに背を向けパスをトラップせず、オーバーヘッドでシュートを打った。ゴールマウス右角に向かったボールはゴール手前50センチでバウンドし、結果として若山が差し出した手を超えゴール内に転がった。

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