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第63話 俺はもうここにいる

「華押さん、ごめん。感情的になった」

愛翔と楓から距離を取り落ち着いた剣崎は桜に頭を下げた。

「もう、まったくよ。あたしの大切な幼馴染にあれは無いわ」

「ごめん、華押さんが好きな相手だって思ったらなおさらだった」

「……もういいわ」

そう言うと桜は俯き肩を落とす。

「じゃあ、俺の事を好きになってくれる?」

「それは……。どうしたって愛翔と比べてしまうだろうし、そもそもあたしまだ愛翔が好きだもの。何より感情の問題だし。自分でもコントロールできない。それが恋心だもの」

「そっか、でも俺頑張るから。住吉君に負けないように……」

それでも桜は悲し気な顔で俯いていた。

それからいくつかの買い物を済ませると既に時間は17時を回っていた。

「よかったら何か食べていかない?おごるよ」

剣崎の提案にそれでも桜は

「ごめんなさい。今日は疲れてしまったからもう帰るわ」

「そっか、残念。でも、それなら送るよ」

帰りの電車の中

「今日は、ありがとう。女の子目線での服の感じ方を教えてくれて助かったよ」

他愛もない話題を振る剣崎に

「そう、それはよかったわ」

桜や楓、そして愛翔の自宅の最寄り駅で降りた2人は桜の家に向かって歩いていた。

「もうすぐそこだから、ここまでで良いわ。ありがとう」

桜の言葉に剣崎は

「家まで送りたいんだけど」

「いえ、ここまでで……」

そう言うと右手を振って身をひるがえす桜。

「華押さん」

剣崎の呼びかけにふりかえる桜に、近づき顔を寄せる剣崎だったけれど、桜にすっと避けられてしまう。

「ごめん。無理」

そう言うと、桜は家に向かって駆け出した。

ひとり残された剣崎は

「くそっ。やっぱり住吉か」

苦々しいい顔でつぶやいた。


桜が帰宅するとそこには帰国の挨拶に来た愛翔が、桜の母親と談笑していた。

「愛翔~」

我慢できず愛翔に飛びつき抱きつく桜。

「おいおい。相変わらずの甘えっこだなぁ」

やさしい笑顔で抱き寄せ桜の頭を撫でる愛翔。

「愛翔、愛翔、愛翔。寂しかったんだから」

「大丈夫。俺はもうここにいる。それが何を意味するかは桜なら分かるだろ」

愛翔は頷く桜の頭をぽんぽんと軽く叩き

「じゃぁ、おばさん、今日はこれで失礼します」

「なによ、晩御飯くらい食べていきなさいよ」

「すみません。まだ引っ越しのごたごたが片付いてないのでしばらく色々忙しいんですよ」

そう言うと、桜をそっと離して

「じゃ、また明日な」

愛翔の言葉に桜はそっと頷いた。

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