表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/314

第60話 油断と授業中

「じゃ、俺は職員室に来いって言われているから」

「ん、わかったわ。じゃぁね」

昇降口で上履きに履き替えた後、軽くハグをかわし楓は教室へ愛翔は職員室に向かう。

楓がクラスの教室に入るとわらわらとクラスメートたちに取り囲まれる。

「橘さん、あの男の子とどんな関係なの?」

「あの男の子とお付き合いしてるの?」

「いつから、あんな関係なの?」

「男の子からの告白を全部お断りしていた理由はあの人?」

嵐のような質問に辟易した顔で

「生まれた時からの幼馴染よ。それ以上はそのうち分かるわ」

楓はクラスメート達をあしらい自席につき

「桜おはよう」

「おはよう楓。すごい注目度ね」

「でも、こんなものじゃ終わらないでしょうね。それに愛翔はかなり怒ってたから……」

後半は小声で桜にさえ聞き取れない。

そこにクラス担任の篠原が入ってきた。

「ほら、席につけ。ホームルーム始めるぞ。日直あいさつ」

「起立、礼、おはようございます」

「うん、おはよう。今日はまず編入生を紹介する。住吉入って来い」

背筋を伸ばし堂々とした態度で教室に入ってくる愛翔。篠原の横でクラスメート達に向かい合うように立った。

「住吉愛翔君だ。彼は親御さんの都合で先日までアメリカに住んでいたが、本人の希望で高校から日本に戻ってきたそうだ。一部の者は知っているようだが、サッカーでMLSにスポット参戦し、学業ではアメリカの10ThGを終了している文武両道の帰国子女だ。それでも日本の高校は不慣れということで1年に編入することになった。皆仲良くしてやってくれ。住吉、自己紹介を」

愛翔は一歩前に出ると視線をクラス全体にぐるりと巡らし、にこやかに自己紹介を始めた。

「先生に紹介いただいた住吉愛翔です。アメリカのグラスハイトハイスクールから来ました。趣味はスポーツ全般。特技はサッカーですね。バスケもそれなりに得意です。中学1年の夏までは日本にいたので知り合いもそれなりに居ますしこのクラスの桜と楓は生まれた時からの幼馴染です。みなさんとも仲良くしたいと思います気楽に声を掛けてください」

愛翔の自己紹介が終わると我先にと手が上がった。

「あ、あの橘さんとはお付き合いをしてるのですか?」

「いや、楓と付き合っている訳じゃないよ」

「じゃぁハグしたりキスしたりしてるって噂があるのだけど、それは噂だけ?」

「あぁ、それは昔からのスキンシップでね。その程度はしてますね」

「じゃあ華押さんとも?」

「昔はね。今は桜は彼がいるらしいから遠慮してるよ」

「私が恋人に立候補してもいいですか?」

「ごめん、失恋したばかりなのでそれは勘弁して」

「失恋ってお相手は誰ですか?」

「そこまで聞きますか?」

「ぜひ」

「うん、やっぱりやめておこう。相手は想像におまかせだね」

冗談めかして答える愛翔に黄色い悲鳴が上がる。

そんなやり取りをにこやかに眺める楓と悲し気な苦し気な表情で俯く桜が対照的だった。

「さ、今はここまでにして、続きは休み時間にすること。住吉は、あそこに机を準備してあるからそこに座ってくれ」

篠原の指示に愛翔は席に着いた。

そして休み時間毎に愛翔の周りにはクラスメイトが集まり質問をぶつけていた。

「え、それじゃぁうちのサッカー部に入るわけじゃないの?」

「うん、申し訳ないけど、先を見据えて考えると俺はクラブチームに所属することになるだろうね」

「えぇ、せっかくMLSのトップチームで食い下がったプレイが見られると思ったのに」

「サッカー部が許してくれれば、クラブチームの練習が無い日にちょっと混ぜてもらうかもしれないけどね」


「愛翔次は数学よ。教科書はまだないでしょう。私のを貸してあげる」

「え、でも楓が困るだろう」

「大丈夫。桜に見せてもらうから」


「では今日の演習問題。tan1°が無理数であることを証明してもらおう」

「誰か出来るか?そう言えば住吉はアメリカではもう11年生のカリキュラムを半分ほどこなしてきたそうだな。やってみろ」

「はい、これは背理法で解くのがやりやすいと思われます。ですのでtan1°が有理数であると仮定して矛盾を探します。tan の倍角公式より tanα が有理数なら tan2α も有理数ですので……

tanα,tanβ が有理数なら tan(α−β) も有理数。よって 64−4=60 なので tan60° も有理数。

しかし tan60°=√3なので矛盾します。よってtan1°は無理数です。

厳密には√3が無理数であることも証明しないといけないでしょうが、そこまではいいですよね」

愛翔の答えに一時呆然としたものの

「よく、解けたな。これはある年の京都大学の入試問題でほとんどの受験生が解けなかったと言われる難問なんだが……」


「今日の体育は体育館でバスケットボールだそうだ、遅れるなよ」

体育委員の声に桜と楓が顔を上げ目を合わせる。

「バスケット?愛翔のプレイがまた見られる」

少しばかり落ち込んでいた桜も顔をほころばせる。そしてその反応を見た周りのクラスメート達が不思議そうに尋ねてきた。

「ねぇ、住吉君のプレイがってどういうこと?」

「愛翔は小学生の時、桜と一緒にミニバスで全国MVPだったのよ。それにテレビに出た時に今でもかなり出来るって言われてたから」

「え?住吉君って得意なのはサッカーじゃなかったの?」

「今となっては一番得意なのはサッカーだと思うけど、今でもバスケットもかなりらしいの。3年?いや3年半ぶりに愛翔のバスケが見られるって楽しみだなぁ」


「今日からは住吉が入ったからちょうど4チーム作れるので1試合10分のトーナメント戦をやるぞ。チーム分けは出席番号順にAからDチーム。住吉はDチームに入ってくれ」

体育教師の指示に従いチームごとに固まるクラスメート。そして

「1回戦はAチーム対Bチーム、Cチーム対Dチームで行う」

体育教師の言葉に

「ちぇ、どうせAチームの優勝だろ。現役バスケ部が2人に中学時代バスケ部だったやつが2人でバスケ経験者独占してるんだからさ」

チーム分けの不満を口にするBチームのひとり。

その言葉通り、Aチーム対Bチームのゲームは完全なワンサイドゲームだった。

「ピー、24対6でAチームの勝ち。次Cチーム対Dチーム」


「住吉君、サッカーの実力が飛びぬけているのは聞いているけどバスケットの経験はどうなの?」

Dチームのチームメイトが聞いてくる。

「そうだねぇ。とりあえず小学校時代はミニバスで全国MVPまでは行ったよ。中学以降はアメリカでのストリートバスケで遊んでたくらい。まあそれなりには動けると思うけど、お互いの動きが分からないから最初は俺が合わせるよ。適当にパスくれたらいいからね」

そして愛翔は様子を見ながらチームメイトの実力を測り、時にドリブルで切り込み、時に自ら囮になり、スキがあれば3ポイントを決める。

「愛翔~」

桜と楓が隣のコートから声を掛ける。

「ピー、22対16でDチームの勝ち。次5分休憩の後Aチーム対Dチーム」


「住吉君、君凄いね。君からパスをもらうとあっという間にシュートまで持っていけるし、危ないと思ったときには、渡しやすいところにいてパスを受けてくれるし、なによりあのドリブルとシュート。クラスのバスケ部員のプレイも見て来ているけど、そんなの目じゃないね。次バスケ部2人と中学でのバスケ経験者2人を含むAチームが相手だから、住吉君にボール集めるようにするね」

チームメイトの言葉に

「いや、これ体育の授業だからな。ちゃんとみんなにボール回して試合しようぜ。フォローはするからさ」

愛翔はスタンドプレーはするつもりが無い。

試合は愛翔が司令塔となって本来の実力であれば勝てるはずの無いチームを動かす。

「渡辺君走って……」

「山本君シュート」

愛翔も要所要所で個人技を見せつける。相手のパスをカットし速攻を仕掛ける。相手が攻撃に移るスキを狙いスティール。そのまま3ポイントを決める。1対1では素早いフロントチェンジで、ロールターンでレッグスルーで次々相手を抜き去る。そしてあっという間にゴール下に入り込みレイアップ、愛翔の前に飛んだディフェンスを相手にダブルクラッチ、足を止めたディフェンスの正面からフェイドアウェイ、そして入りそうにない味方のシュートをジャンプして掴みアリウープ風にダンク。決して身体的に大きいわけではない愛翔が180センチを超えるバスケット経験者を翻弄する。

 コートサイドでは桜と楓が手を握り合って応援していた。

「やっぱり愛翔はすごい」

そしてタイムアップ

「ピー、32対14でDチームの勝ち」

これが体育の授業であるのがウソのような歓声が上がる。その中で楓がそっと桜に囁いた。

「桜、昨日聞こえてたかもしれないけれど、私ね、愛翔に告白したわ」

目を見開き楓を見る桜。

「そ、それで愛翔はなんて?」

桜が絞り出すように楓に尋ねる。

「愛翔は受け入れてくれたわ」

楓の返事に桜は俯き

「そう」

ぽつりとつぶやいた。

「うそよ。愛翔がそんな軽い訳ないでしょ」

楓の返し

「それじゃ」

「それでもね、愛翔が心の整理がついて私を恋人にしてもいいって思ったら付き合ってって私が言ったの。昔言ったでしょ桜が油断してたらって」

そこまで言うと楓はゲームを終えた愛翔に向かって走っていった。

「愛翔ナイスプレー。昔以上ね」

そう言いながら愛翔に抱きつく楓。

愛翔も一瞬抱き締め、それでも

「楓、今授業中だぞ」

「あはは、ごめん。つい」

「ついじゃねぇよ。ほら、女子コートに戻れ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ