第57話 告白(多賀の場合②)と距離感
剣崎の横に桜の姿が並んでいるのが見られたためか、それ以降桜へのあからさまな嫌がらせは鳴りを潜めた。
とは言え剣崎と桜の距離感はやや遠い。登下校を一緒にするようになったとはいえ手をつなぐわけでもなく、ましてやハグなどのスキンシップを取ることは無い。呼び方にしても
「華押さん、今度の週末部活が休みなんだけど、よかったら一緒に服を見に行ってくれないかな」
「女子バスは土曜日は部活があるので、日曜日の昼なら剣崎君に付き合えますよ」
と、少々ぎこちない。
楓はそんな2人を見てため息をつき顔を曇らせる。
楓のそんな雰囲気に気づきもせず理子はご機嫌で
「うふふ、付き合い始めの初々しさが可愛らしいわね。ね人志君」
理子からの藤島の呼び方は藤島君であったり人志君であったりと安定しないけれども、こちらは徐々に距離が近づいている。
「それにしても剣崎のやつ羨ましいったらないぜ。好きになった天使様とお試しとはいえ付き合いを始められたんだからな」
2人を眺め、楓をチラリとみやりながら多賀が口を尖らせた。
「私は桜が可哀そうだけどね。絶対に後悔するもの」
楓はとても悲しそうな顔で返した。
「そんなことわからないだろ。人の出会いなんて」
多賀も反論するけれど
「いいえ、これだけはわかるわ。100%絶対よ」
その楓の態度に腰が引けながら
「橘さんも華押さんと同じで住吉に告白して返事待ちなの?」
楓に聞く多賀。
「いえ、私は桜の告白の後押しをしただけよ。それに中学時代も桜に片思いしてた男の子はいっぱいいたけど、桜と愛翔の歴史や、桜の愛翔への想いを知っていたから誰も告白しなかったわね」
「それは、勝ち目がないから?」
「それもあるけど、ふたりの間にあった出来事や絆を知っていたら、それを汚すような事は出来なくて応援に回った感じね」
「え、そうすると今の告白されまくりの華押さんをそいつらが見たら……」
「告白した男の子全員を潰しにかかるでしょうね」
腰の引ける多賀にクスリと笑い
「さすがに冗談よ。でも告白すること自体が汚らわしいって認識だったわね男の子の間でさえね」
「それは橘さんに対しても?」
「うふふ、私には桜ほどの重いエピソードは無かったから多少はね。でもやっぱり遠慮はあったみたいね」
「そ、その重いエピソードって聞いても?」
「ダメ。いろんな人が知ってはいるけど私から教えることは出来ないわ」
「そっか。でも橘さん自身はそう言った事情があるわけじゃないんだよね」
「そうね。少なくとも目に見えるようなものは無いわね」
多賀の質問にやや意味深の返事を返す楓。
「じゃぁ、俺にもチャンスはあるよね。ずっとあきらめきれなかった。橘さん、オレと付き合ってください」
「ダメよ。多賀君は私にとって恋愛対象にはならないわ」
「せめて、お試しで。それでもダメなら諦めるから」
「無理ね」
「1週間、いや3日でも……」
必死に食い下がる多賀の態度に楓は
「ごめんなさい。それが例え1分でもむり」
「そ、そんな。どうして」
「いろんな人が、色々な考え感覚を持っているわ。でもね、私にとってお試しでお付き合いするっていうのはとても不誠実なことなの。だからごめんなさい」
「橘さん、そこまで言わなくても」
ふたりのやり取りを聞いていた藤島がとがめ
「それは、俺に対する非難でもあるのかな?」
剣崎も眉をひそめた。
「そう取られると思ったから今まで言わなかったのだけど、そうね。あなた達からすればそう感じるでしょうね。こういう感覚の違いはこれから溝として残ると思うから。せめて剣崎君がお試しでなく偽装カップルを提案していればひょっとしたらまだ違ったかもしれない。そうしている間に愛翔が帰ってきてきっと解決してくれた。でももう無理、私は、グループを抜けるね。5月からの4か月楽しかったわ。ありがとう。でもこれ以上は一緒に居られないわね」
そう言って楓は離れていった。
「楓、そんなこと言わないで。ずっと一緒にいたじゃない」
桜の悲鳴に
「大丈夫、グループとは関係なく、桜、あなたとはずっと大切な幼馴染よ。でも私はこのグループには残れないわ。ごめんね」




