第32話 U18
「へぇ、結構いい雰囲気じゃない。ふたりはこういうところでデートしてるの?」
楓の褒め言葉に照れる藤島と理子。
「こ、こないだ偶々見つけてね」
裏通りの目立たない喫茶店。アンティーク調の落ち着いた雰囲気で楓も桜も気に入ったようだ。片隅にテレビがひっそりと置かれているだけで緩やかな時間がながれている。
「それだったらふたりの秘密の場所にするものだじゃないの?」
桜が返す。
「それも考えたんだけどね、桜や楓と話そうと思っても、学校だとジロジロ見られて落ち着かないじゃない。こういうところでだったらゆっくりおしゃべり出来るかなって思ってさ」
理子が嬉しそうに笑っている。
「ああ、あの人たちねぇ」
桜も思い当たるところがあり溜息をついた。
「人の事を動物園の熊か何かみたいにジロジロ見てくるのはやめて欲しいわね。挙句の果てに私の事をよく知りもしないくせに”好きです”とか気持ち悪いったらないわ」
楓は更に辛辣だった。
「それだから告白は全部断っているのか?」
藤島が直球の質問を投げてきた。
「それもあるけど、今は誰かとお付き合いするつもりはないってのも大きいわね」
あまり深く追求するつもりも無いようで、そこからはスポーツや趣味の話に話題が移っていく。そして藤島がふっとテレビに目をとめた。
「アメリカのサッカークラブチームか。へぇー日本人が参加してるんだ。それも俺たちと同じ年でU18ってすげぇな」
ポツリと零した言葉に桜と楓が反応する。
「え?なんのこと?」
「おぉ、今そこのテレビで特集してるぞ。15歳の日本人がアメリカのクラブチームでU18のチームに招聘されたんだって言って今からやるみたいだ」
その言葉に桜と楓の目がテレビにくぎ付けになった。そこには一回りも二回りも大きな選手を相手に互角以上に渡り合う少年の姿があった。
「愛翔?」
ぽつりとつぶやく桜。楓も目を見開き言葉もない。
高速ドリブルでライン際を駆け上がる。素早いチェックで相手の攻撃の立ち上がりを潰す。広い視野で決定的なアシストをする。そしてハイボールに合わせたオーバーヘッドシュートが決まった。チームメイトと抱き合い笑顔で得点を喜ぶ。それは紛れもないふたりの大切な幼馴染、愛翔の今の姿だった。
「U18に上がったその日に1ゴール2アシストかよ。それにあの動き。凄いな」
藤島が呆然と呟く。
「あ、インタビューあるみたいよ」
理子も同じ年代の日本人の活躍にはしゃいでいる。
戸惑いながらも笑顔でインタビューに応える愛翔。その姿に涙ぐむふたり。そんなふたりに
「頑張ってる同年代見てそんなに感動した?」
理子が揶揄うように声を掛けた。そのタイミングで画面の中のインタビューを終えた愛翔に抱きつくストロベリーブロンドの小柄な美少女。驚いた表情とともに苦笑しつつなにやら声を掛ける愛翔。そこまでで画面がスタジオに切り替わった。
呆然として黙り込む桜と楓。特に桜の落ち込み具合が酷い。
「あ、あの、ふたりともどうかしたの?」
ふたりの突然の変化に戸惑う理子。
「あの男がどうかしたのか?」
藤島が何かに気付いたように問うと。
「あの男の子は、私達の幼馴染なの。凄くなっていてびっくりしただけよ」




