第17話 山
「Repeat after me. I think Tom Cruise’s new movie looks good, so I want to go see it」
講師に続いて愛翔が声に出す。
「I think Tom Cruise’s new movie looks good, so I want to go see it」
「Good.You said well.」
「あーいと、どうだった。英会話教室」
英会話教室から出てきた愛翔を待ち構えたように抱きつく桜。
「いやあ、慣れない英語に四苦八苦だよ」
「お疲れ様。でも頑張ってるね」
楓も桜と反対側から抱きつく。
夏休みに入り愛翔は渡米準備のため週に5日英会話教室に通っている。そして教室の終わる時間に合わせて桜と楓が迎えに来るのがパターンだ。そして集まって一緒に遊ぶのだけれど。
「さて、今日はどこ行こうか」
「えっとね、山に行かない?」
桜がいつもと違った提案をしてきた。
「山?」
「ほら、小さい頃一緒に上って遊んだでしょ」
「ああ、あの山ね」
愛翔も楓も思い出していた。それは小学生の頃それぞれがクラブで忙しくなるまでよく一緒に登って遊んでいた、近場の小さな名も知らない山。頂上近くはちょっとした広場になっており街を見下ろせるスポットになっているのだけれど、きちんとした登山道などなく獣道のようなルートを登るため、大人はほとんど登らず、活発な子供たちが時々登って遊んでいる程度の裏山的な場所。
「いいね、久しぶりに3人で登ろう。でも先にメシにしよう」
愛翔が言うと
「これ」
桜がちょっと照れくさそうに差し出したのは大きめのランチボックス。
「3人で頂上で食べたいなって思って作ってきたの」
「久しぶりに登ったけど、こんな程度だったんだなぁ」
愛翔がつぶやくき桜も続ける。
「そうね、小学校の4年生くらいまでだっけ、ここに登ってたの」
「私は、今でもちょっと大変なんだけどね。ふたりは体育会系だから平気なんじゃないの?」
楓が笑う。
「でも、3人でよくここきてじゃない。あたし、愛翔がアメリカに行く前にもう一度一緒に来たかったんだ」
そう言いながら桜は頂上近くの広場に突き出ている岩の上に腰を下ろして弁当を開いた。その弁当箱の中には唐揚げ、ミニハンバーグ、ハッシュドポテトなどが並んでいる。
「おぉ、美味そう。俺の好物ばかりだ」
愛翔の反応に楓が桜をうかがうような表情をみせ、何かに納得したようだ。
「愛翔。アメリカに行く日は決まったの?」
「ああ、8月23日の飛行機だってさ」
楓の問いに愛翔がぶっきらぼうに答えた。
「もう、あんまり時間ないんだね」
しんみりする楓。そこに桜が
「空港まで見送りに行くからね。楓も行くでしょ」
「あたりまえじゃない」
そこからはなんとなくしんみりとしてしまった3人。それでも
「この前にも言ったけど、俺は3年で帰ってくるから」
「うん、きっとだよ」




