第102話 打ち上げ
「あいとー、こっちよぉ」
桜が目ざとく愛翔を見つけ呼びかける。
「おう、桜。俺遅刻してないよな」
「大丈夫大丈夫。時間までまだ10分あるから」
そう言いながら桜は愛翔に抱きつきナチュラルに頬にキスを交わす。
「楓は?」
「相澤さんと一緒に予約の確認にいってる。すぐ来ると思う」
桜は楓がいないため正面から抱きついたままだ。
「あー、桜ずるいー」
抱きついている桜ごと楓が抱え込む様に抱きついた。
「愛翔待ってたんだからねぇ」
へにゃっと蕩けるような笑顔で甘える楓に愛翔も頭を撫でながら頬にキスを落とした。クラスメートたちはイジメ事件で3人の絆を見せつけられたこともありそんな3人をたった数週間でそういうものだと認識したのだろう羨まし気な視線こそ向けるものの当初のような騒ぎは無い。むしろ多くの女子などには仲間に入りたいとうずうずしているのが目に見える。
「あれ?住吉君?」
クラスメート以外の通りかかった男の子が声を掛けてきた。
「よぅ、加藤君じゃないか。そっちも打ち上げ?」
「うん、駅向こうの食べ放題バイキング」
「あ、そっか。この時間だと飯が。まカラオケでも何かあるか。加藤君も楽しんで。またな」
加藤が駅の方向に歩き去って行った、ちょうどそのタイミングで相澤の声が聞こえてくる。
「はーい、光野高校1年B組のみんな部屋の準備が出来たから入ってね。入り口狭いから順番に」
「住吉君、こっちこっち」
クラスの女子が愛翔を呼ぶ。まだクラスの女子とそれほど絡んだことのない愛翔は首を傾げつつも近寄っていく。すると
「華押さんはここね、で橘さんはこっち」
どうやら3人を掴まえて話でもしたいようだ。愛翔を真ん中に右に楓、左に桜を座らせた。
3人を座らせると
「やっぱり3人は一緒にいないとね」
などといいつつグラスを配り、軽食用の皿を分けてくる。
「グラスはいきわたったね。じゃぁみんなグラス持って」
相澤がクラスメートに飲み物がいきわたったのを確認すると
「えー、文化祭のクラス出店、執事メイドカフェは大盛況でした。ひょっとすると学内1位を取れるかもっていうくらいにお客さんも来てくれて楽しんでもらえました。そこでその立役者の住吉君にカンパイの音頭を取ってもらおうと思います」
相澤の突然のパスに愛翔も一瞬固まる。
「え?俺?」
愛翔の言葉に相澤が頷いた。
愛翔は一瞬躊躇したものの立ち上がった。
「じゃ、じゃぁ、えと、2日目抜けた俺がってのも少しばかり引け目を感じるけど、1年B組の執事メイドカフェの成功を祝してカンパイ!!」
「「「カンパイ!」」」
カンパイが終わるとカラオケスタートなのだけれど、愛翔たち3人の周りの女子はカラオケそっちのけで3人に迫る。
「ね、住吉君は華押さんと橘さん、どっちとお付き合いしてるの?」
「ちょ、いきなりだね」
ストレートな質問に愛翔が目を白黒させていると
「ひょっとして2人とも?」
追撃が飛ぶ。
「ちょ、ちょっとそこまでプライベートな質問は勘弁してもらいたいんだけど」
愛翔が躱そうとすると
「いいじゃない、言っちゃいなさいよ。ここにもその答え次第で諦めないといけない子がいるんだから」
その言葉に桜と楓が反応した。普段以上に愛翔に両側から密着し
「愛翔はあげません」
と宣言し、周りから黄色い歓声があがる。
そこに相澤が声を掛けてくる。
「盛り上がっているところ悪いんだけど、そろそろ住吉君歌ってくれないかしら。向こうの子たちがソワソワしちゃってて」
「いいよ、リモコンかして」
逃げるのにちょうどいいとばかり愛翔はリモコンを手に曲を入れる。
前の曲が終わり、愛翔の入れた曲のイントロが流れる。綺麗なメロディにのせて愛翔が英語で歌い始めた。静かでどことなく哀愁の漂う曲調。愛翔がフルコーラスを歌い切ったとたんに
「うおぉぉ、これ知ってる、アメリカビルボードチャートベストテンに入ってる曲だろ。なんで住吉は歌までうまいかなぁ」
「向こうに居た頃に、中々日本に帰れるめどが立たなくて不安になってた頃に気に入った曲なんだよ。頑張って頑張って、でも1人だと寂しくて、支えてくれる人を探して愛し合うって曲なんだけどね。この歌を聞いて頑張ったんだ」
「住吉君でも不安になることあったのね」
周りがワイワイと騒ぐなか、次はと相澤が楓に声を掛けてきた。
「橘さんも何か歌ってよ。軽音部のステージ素敵だったし、ちょっと期待しちゃう」
相澤の声に周りが騒ぎ出した。
「あ、あのオリジナル曲聞きたい」
「あの切ないバラードおねがい」
「わたしあの時間シフトで入ってたから聞けなかったの、お願い」
次々に楓にリクエストする女子たち。
「あ、あれはちょっと恥ずかしいから……」
「そんなこと言わずにおねがい」
困惑し頬を赤く染めながら迷いふっと桜と目があったときに
「桜が一緒に歌ってくれるなら……」
楓に手を引かれて桜も前に出る。誰が持ってきたのかギターが1本楓に渡された。
「じゃ、じゃぁ1度だけ」
楓も桜も深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
楓のギターが華やかにメロディを描き出し、楓と桜の歌がハーモニーを奏でる。
「いつも一緒にいたね
あなたがいるだけで、強くなれる
いつも隣で笑っていたね
・
・
・
あなたが他の誰かと結ばれても
それでもあたしはそばにいるわ
ずっと好きだった
ずっと好きだから」
2人の視線が愛翔をとらえる。愛翔も2人の視線を受け止める。
その様子に周囲も察し静寂の中楓のギターがフェイドアウトした。




