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057 ルースに住まう魔女


◆ルース


グランボルカ王国北部の町ルース。


その町は商人たちの活気に満ちていた。

ガーソンのような職人は見かけない。

王都のように貴族然とした人も見かけない。


確かにその町………ルースはまさしく商人の町であった。

それはきっとこの町が国境に面していることが理由であろう。

フリートライト帝国と陸続きで交流のあるこの町だからこそ、王国と帝国の品々が集まるのだ。


そんな品々を運んで商人は旅をする。

この町はまさにその中継地点となっていた。


町の中央に位置する広場は王都の中央広場以上の広さを誇り。

そこには数々の露店が立ち並んでいた。


その中を歩き回るのもまた商人だった。

きっとここで買ったものを王国または帝国へと運ぶのであろう。

そう言った行商を商っている人たちが物を求めて鋭い目つきをして露店の中を歩き回っていた。


(すごい活気だな。それに見たことないものが沢山売られている。)


アルマ自身、物珍しいものを見るような目でそれらの露店を眺めていた。

商品だけではない。

そこにいる人は服装1つをとっても様々な様相を呈していた。


ここより暑い王国南から来たもの。

ここより寒い帝国から来たもの

彼らの服装はそれらをうかがい知ることができるものであった。


そんな中央広場の様子を眺めていたアルマであったが、アルマが求めるのは彼らが運び込んだ王国、帝国から運ばれた品々ではない。

グルナラの弟子………ゲイル。

アルマにとって姉弟子に当たる彼女の居場所こそがアルマが求めている情報なのだ。


それはきっとここにいる商人たちは知らないだろう。

何故なら彼らの多くは町と町を旅して商売をする人たちなのだから。

この町に居ついているわけではないのだから。


アルマが話を聞くべきなのはこの町の状況に詳しい人。

特にゲイルのような薬師を生業としている人とかかわりのある人こそに話を聞くべきなのだ。


そこまで考えつけばおのずと行くべき場所も限られる。

アルマは商人の活気に満ちた中央広場を後にして生産者組合に向けて歩きはじめるのであった。


--


「ここがそうかな?」


生産者組合で聞いたゲイルの居場所。

それはごく普通の家であった。

外観は他の家々と変わらずとても稀代の魔女が済んでいるようには見えなかった。


しかし、確かに生産者組合で聞いた場所はここを示していた。

アルマは意を決してドアノッカーを打ち付けた。


―カン、カン、カン


重い金属の音が響いた。

しばらくして中から「はーい。」と返事をする声が聞こえた。

さらに待つと扉が開かれる。


中から出てきたのは30代くらいのヒューマンの女性であった。

長い赤茶色の髪の毛と同じく赤茶色の瞳を持ち、丈の長いローブを着込んだその姿は確かにグルナラ同様に魔女を彷彿とさせた。


「どちら様?」


彼女は首を傾げながらそう口にした。

アルマとは初対面である。

見覚えが無くて当然のため、彼女のその反応は当たり前の反応だったのだろう。


「異邦人のアルマです。ファートの町でグルナラさんに師事して薬師見習いとなりました。あの、グルナラさんから手紙を預かっています。」


アルマはそう口にするとインベントリから取り出した手紙を彼女に手渡した。

女性は怪訝そうな顔をしたものの、その手紙の差出人の名前を見て一応の納得をしたのであろう。

一言「入って。」と言うとアルマを家の中に招き入れた。


「そこ座ってて。」


彼女はぶっきらぼうにアルマに椅子をすすめた。

アルマは薦められるがままにその椅子に腰かけた。

彼女も別の椅子に腰かけると手紙を乱雑に開けて中を読みだした。

しばらくの時間居心地の悪い空気が室内を包んだ。


手紙を読む彼女の表情を盗み見ると読み進めていくうちにどんどん額にしわが寄っていくのが見て取れた。

どうやら彼女にとってあんまり好ましくない内容のようだ。


彼女の体から苛立ちが沸々と伝わってきた。

アルマはますます居心地の悪い空気を感じ取り肩身を狭める。

しばらくして、彼女が手紙を読み終えたのか、顔を上げてアルマに向き直り口を開いた。


「とりあえず成り行きは理解したわ。」


そう口にしながらも彼女の額の皺は無くなってはいなかった。

機嫌の悪さがその表情からしみだしていた。


「グルナラの婆さんに聞いていると思うけど、私はゲイル。魔女よ。」


「は、はい。改めて俺はアルマと言います。あの、よろしくお願いします。」


アルマがそう言うとゲイルは「うん。よろしく。」とぶっきらぼうに返事をした。

そして再び手紙に視線を落として口を開く。


「手紙には何か困ったことがあったら力になってやってくれとあるけど、あなたは私に何を期待してここを訪れたのかした?」


そう言うゲイルの表情はその丁寧な言葉とは裏腹に「面倒ごとを持ち込むな。」といった気持ちがうかがい知れるものであった。


「言っておくけど私も暇じゃないの。あんまり大きなことを期待されても何もできないからね。」


だからこそだろうか。

そんな風に釘を打つようにして予防線を張っていた。

アルマ自身そこまで言われると相談するのも躊躇してしまった。

しかし、現時点で悩んでいるのは間違いではない。

とりあえず聞いてもらうだけ聞いてもらってできるできないはゲイルに判断してもらうことにした。


「はい。実は今、錬金術で行き詰っていまして。それの解決策をご教授いただければと思います。」


「錬金術?」


「はい。」


「………はぁ。」


ゲイルは大きくため息をつくと観念したかのように改めてアルマに向き直って口を開いた。


「わかったわ。グルナラの婆さんの頼みでもあるし。少しあんたを指導してあげる。それでアルマは今何に行き詰まっているの?」


「えっと。下級錬成陣の作成前段階で魔晶石の作成です。品質が高くならず下級錬成陣が作れないでいます。」


アルマがそう説明するとゲイルは「そう。」と一言言って考え込むように黙り込んでしまった。

そして何か思いついたのか再び口を開いた。


「アルマは今、『錬金術』スキルと『魔力操作』スキルのレベルはいくつ?」


その質問はアルマの予想していないものであった。


「えっと、『下級錬金術』スキルがレベル9です。『魔力操作』スキルとは何ですか?」


「まさか、『魔力操作』スキルも持たずに錬金術を今まで使っていたの!?」


アルマのその返答はゲイルにとって驚愕だったのであろう。

椅子から立ち上がり、アルマに詰め寄るようにしてそう聞いてきたゲイルの目は見開かれていた。


「錬金術は魔法よ。当然、その出来の良し悪しは魔力の扱いに左右される。これは魔法の強さつまるところ知力の多さではないわ。あくまで魔力をいかにうまく使えるかよ。そのためのスキルが『魔力操作』スキル。このスキルなしに下級錬成陣の作成に必要な魔晶石を作るためには、そうね………『中級錬金術』のレベルが5くらいは必要になるわ。」


ゲイルはそこまで言うと「分かったら『魔力操作』スキルを取ることね。」と言って話を終えた。

アルマはすぐさま取得可能なスキル一覧から『魔力操作』スキルを探す。

しかし、そのスキルは一覧の中には見当たらなかった。


(このスキルは何か取得するのに条件が必要なタイプなのか?)


アルマは頭を悩ます。

そして今すぐに取得するための手段を1つ思い出す。


アルマは再度仮想ウィンドウを開いた。

次は第1回イベントの賞品選択画面だ。

その賞品一覧の中からスキル取得条件の欄を開いた。


(………あった!)


その中には確かに『魔力操作』のスキル取得条件付与という賞品があったのだ。

アルマはすぐさま1,000ポイントを支払いスキルを解放する。

もう一度スキル一覧を開くと今度こそ『魔力操作』スキルを取得するのであった。


「えっと、取得しました。」


「え?ああ、あなた異邦人だったね。そうね、それじゃあ今ここで魔晶石を作ってみてちょうだい。」


ゲイルはそう言うと机の上を片付け、作業スペースを作った。

アルマは言われるままにインベントリから初級錬成陣とロックゴーレムのコアを取り出すと、それを使って魔晶石を作るために『錬金術』スキルを使用する。



人造魔晶石(小)【素材】

 品質:C-

 錬金術にて人工的に作り出された魔晶石。



そこには「品質:C-」の魔晶石が出来上がっていた。

その結果に感動するように驚いたアルマの横でゲイルが口を開く。


「できたみたいね。じゃあ、そのまま下級錬成陣も作ってみましょうか。」


「はい。」


「下級錬成陣に必要な素材は羊皮紙または紙とインク、そして魔晶石。まずは魔晶石を砕いてインクに混ぜ込むところから。」


アルマは言われたとおりに作業を開始する。

はじめは魔晶石をインクに混ぜ込み、それが終わると用意した紙に作ったインクで錬成陣を書き込んでいく。

錬成陣は細かく、それを書き込むのはとても集中力が必要な作業であった。


1時間ほどかけて錬成陣を書き込んだアルマは肩の力を抜いてそれを確認する。

確かに魔導書に記載してある通りの錬成陣が書き込めた。

それを横から見ていたゲイルが口を開いた。


「できたみたいね。じゃあ、最後にそれに魔力を込めて完成よ。」


「はい。」


アルマは書き上げた錬成陣を広げ、それに手を掲げて魔力を込める。

すると錬成陣は不思議な光を強く放った。

それは普段【分解】や【合成】をしているときの光に酷似していた。


光が収まるとそこには先ほどと変わりない紙に書かれた錬成陣が机の上に置かれていた。

見た目は同じであったがそれを注視すると「下級錬成陣」というアイテム名が浮かび上がったのだ。

確かに完成した。


「完成したわね。」


「はい。」


「よろしい。ついでだから少し錬金術について講義をしてあげるわ。」


何の気まぐれか面倒そうにアルマの相談を受けていたゲイルがそう口にした。

せっかく教えてもらえるのだから大人しく聞き入ろうとアルマはそれに反論するようなことはしなかった。

椅子に腰かけゲイルの方に向き直り話を聞く姿勢を整える。

それを確認してゲイルが口を開いた。


「初級から下級に錬成陣が上がったことで今までやっていた【分解】と【合成】もできることが増えるわ。そしてそれこそが錬金術が魔法に分類される要因でもある。初級との大きな違い。それは魔法的な要素を扱えるようになることよ。」


ゲイルはそこでいったん言葉を区切ると「例えば………」と言って続きを話し出した。


「今まで【分解】では素材からその素材を構成する物質のみを分解してきた。しかし、下級錬成陣を使用するとその素材が持つ、あるいはその素材のもととなったモンスターが持つ魔法事態を分解して1つのアイテムにすることができるわ。まあ、たった1つだけ初級錬成陣でもできることはあるのだけどね。何かわかるかしら?」


ゲイルは微笑みながらアルマにそう聞いてきた。

アルマは頭を巡らせ、思い当たるふしを探す。


「魔晶石の作成ですか?」


「そう。先ほどあなたがやった魔晶石の作成は初級錬成陣でもできる唯一の魔法要素の分解よ。しかし、これでできるの魔晶石は品質が低く、また属性も失われてしまうわ。例えばあなたが先ほど使ったロックゴーレムのコアを使って下級錬成陣で分解を試みると本来であれば土属性の魔晶石が出来上がるわ。この属性付きの魔晶石は錬金術の材料になるだけでなく、鍛冶や彫金などの他の生産でも使用されるわ。ここまではいい?」


ゲイルのその問いに首を縦に振ることで大丈夫である旨を伝える。


「さて次に【合成】についてだけど。これはもう予想ができているのではないかしら。先ほど言っていた属性付きの魔晶石それ以外にもそう言った魔法を持った品々を合成することで素材元々が持つ魔法やあるいは合成された強力な魔法を宿すアイテムを作り出すことができるようになるわ。詳しいところは魔導書を読みなさい。」


ゲイルのその話を聞いてアルマは自分の興味を刺激されるのを止められなかった。

まさにファンタジー科学とも言える錬金術の可能性を前にしてアルマは興奮で体が熱くなるのを感じていた。


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