056 ルースの町は遠かった
◆ガーソン
「うーん。」
晴れ渡る青空の下、ガーソンの東北門前広場で屋台で買ったホットドッグ片手にアルマは頭を悩ませていた。
その原因は第1回公式イベントの賞品だ。
正確には賞品と交換可能なポイントの使い道についてだ。
第1回公式イベント………バトルロワイアルの生存時間ランキングと討伐人数ランキングで与えられたものはそれぞれランキングの順位に応じた称号と様々な賞品と交換可能なポイントであった。
この賞品は本当に数が多く単純に武器や防具などの装備や素材アイテム、スキルポイント果ては特殊スキルの取得条件なんてものもある。
中には名前や簡単な説明だけでは何に使うのかわからないものやランダムボックスなんていうアイテムまであった。
アルマは生存時間ランキング2位、討伐人数ランキング1位と言う高成績を叩きだしたため、当然交換に使えるポイントも高い。
アルマの手元のウィンドウに表示された19,000Pと書かれた膨大なポイントを見ながら何に使うかを真剣に悩んでいた。
(とりあえず………水魔法の魔導書と調薬レシピ、あと錬金術の魔導書を交換しよう。)
アルマはそうしてリストにあった「下級・中級・上級魔導書(水)」「下級・中級・上級調薬レシピ」「下級・中級・上級魔導書(錬金術)」を交換した。
残りポイント数が18,580Pとなった。
まだまだ、膨大な量が残っている。
ポイント交換にはリアル時間で1カ月の猶予があるとのことなのでひとまずアルマはこのことを置いておくことにした。
そして今入手したばかりのレシピを試してみるために生産者組合の生産室に向かうのであった。
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生産室に籠ったアルマは手に入れた調薬レシピを試した。
さすがに上級に分類されるものは全く手が付けられなかったが下級に分類されるものは材料があるものについては問題なく作成することができたし、中級に分類するものも多少ならば作ることができた。
「上手くいかない。」
今試みているのは錬金術の下級魔導書に記載されている「魔晶石」の作成だ。
これができ上らないと「下級錬成陣」が作成することができず、その錬成陣なしでは魔導書に書かれている他のレシピも試すことができない。
人造魔晶石(小)【素材】
品質:D+
錬金術にて人工的に作り出された魔晶石。
魔晶石自体はできている。
問題はその品質だ。
下級錬成陣を作成するために必要な魔晶石の品質はC-以上。
だというのに先ほどからいくらやってもD+以上の品質を作り出すことができないでいた。
いくつかのモンスターの素材を試したが素材によって多少の違いはあれど大きく品質を向上させることはできなかった。
何処か根本的な部分で間違えていると考えていた。
目を皿にして魔導書を読み込む。
(えっと………魔晶石はモンスターの素材から魔力を分解してそれを結晶化することで製造できる。その、大きさは素材となったモンスターが秘めている魔力の量に左右され、魔力の量が多ければ多いほど魔晶石のサイズも大きくなる。また、品質については錬金術師の腕と使用した錬成陣に左右される。)
その記述を見ながら「うーん、うーん。」と頭を悩ます。
(つまりは、錬金術のレベルが低いことが問題?それとも初級錬成陣を使っていることが問題?でも、魔晶石の作成は錬金術で一番最初にやることだ。そうすると錬金術のレベルが低すぎるということも初級を超える錬成陣を用意する必要もないはず。)
備え付けられた椅子に深く腰掛け、膝の上に魔導書を開いて悩み続ける。
(いや、一番最初にやらなければならないのは下級錬成陣の作成だ。なら、魔晶石は別で手に入れるべきなのか?俺が作った魔晶石も人造ってなっているし、天然物があるんじゃないか?でもどこに?)
アルマは頭を悩ませ続けたが次第にその思考は今は無理なんじゃないかという結論に近づいていった。
そして意を決したように膝を叩き口を開いた
「よし!諦めよう!今は無理だ。」
そう口にすると行動は早かった。
早々に後片付けを澄ますと生産室を後にするのであった。
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喧騒に包まれたガーソン北東門前広場でアルマはある人物を探していた。
目的の人物はすぐに見つけることができた。
「よう、ジョン。」
「これはこれは、アルマ様。いつもお世話になっております。本日は当店にどのようなご用件でしょうか?」
「ああ、そろそろルースに向かうことにしたから、その準備にな。」
イベントも終わりアルマがガーソンに留まる理由は無くなった。
最近は錬金術で行き詰っていることもあり、早いところルースに向かってグルナラの弟子、ゲイルのもとを訪れようと考えていたのだ。
「そうでしたか。そうなりますと、この辺でしょうか?」
ジョンはそう言うとてきぱきと旅に必要ないくつかのアイテムを取り出していく。
「んー。ポーション類はいいや。自前のがある。」
「そうでした。アルマ様は薬師でいらっしゃいましたね。それでしたら店売りのポーションなどは必要ありませんね。でしたら、これとこれは省いて………」
アルマの要望にアイテムのいくつかを露店に戻す。
その後もいくつかのアイテムを追加で注文してアルマは代金をジョンに支払い、それらアイテムを受け取った。
「もうルースには結構なプレイヤーが移動しているのか?」
「そうですね。私共が把握している限りではそう多くないようです。確かにフリートライト帝国との国境近くにある町と言うこともあり冒険を進めるうえでは訪れなくてはならない町ではありますが資源と言う面で見るとガーソンの方が豊富ですからね。生産職の方の多くはいまだガーソンにいらっしゃいますよ。」
「やっぱりそうか。鉄鉱石が取れるのは大きいよな。」
「はい。それにフリートライト帝国は極寒の地。その環境に適応できないと冒険することができません。未だそれができているプレイヤーがいないためルースに訪れたプレイヤーも結局そこで足止めを受けている状況ですね。」
「なるほどそんな事情もあるのか。」
アルマはそんな風にジョンと最近のプレイヤーの動向について世間話をしていた。
十分に話をして満足したのかアルマは「じゃあな。」と言うと踵を返した。
「またのお越しをお待ちしております。」
ジョンの慇懃な挨拶を背中に受けてその場を後にした。
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「グゥ。」
アルマの振るった短剣が狼の喉笛を切り裂いた。
断末魔とともに狼は光のかけらとなって虚空へと消える。
アルマは何度目かになるモンスターの襲撃をやり過ごしていた。
襲撃の数は多くアルマは遅々として進まない道中にいら立ちを覚えていた。
それでも戦わないわけにはいかずアルマは渋々腰の短剣を振るっていた。
モンスターの強さ自体はガーソンの廃棄坑道に出てきていたゴーレムほど強くはない。
それでも油断することも手を抜くこともせずアルマは戦い続けていた。
それによる疲労からかアルマの顔色は優れなかった。
「ガアアアア」
また、1匹次はバトルホースと呼ばれる馬型のモンスターが襲ってきた。
自慢の足を使ってアルマに突撃をしてくる。
アルマはそれを左に飛んで回避した。
すれ違いざまに短剣を振るうことを忘れずに。
その攻撃はバトルホースの体に傷をつける。
避けられたことを知るとすぐさまバトルホースはアルマに向き直る。
距離が近いため突進は使えない。
バトルホースはその大きな体を使って前足を高く掲げた。
そのまま、全体重をかけるようにアルマを踏みつぶそうとする。
しかし、鈍重なその攻撃がアルマを捉えることは無かった。
再びステップを踏んで回避したアルマは右手の短剣をバトルホースの体目掛けて振るった。
2回、3回と攻撃を繰り返し、バトルホースのHPを削っていく。
遂にはHPをすべて失ってしまったのであろう。
バトルホースは光となって消えてしまった。
「ふぅ。」
アルマは息を整えながら体の緊張を取る。
周りに敵影が無いことを確認すると短剣を鞘にしまい、再び歩き出した。
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モンスターの襲撃は夜にまで及んだ。
敵は再び狼型のモンスターだ。
ナイトウルフと呼ばれるそのモンスターは昼間襲撃を駆けてきたグレートウルフとは別種のモンスターだ。
その特性は暗闇の中でも問題なく狩りができることにあるだろう。
やつらは宵闇に紛れてアルマに近づきその数の多さで戦況を有利に保とうとする。
アルマは辺りに明かりが無い真っ暗な暗闇の中ら絶え間なく襲い来るナイトウルフをやり過ごしていた。
アルマは視覚の不利を【ミスト】と【センス】の魔法を使うことで補っていた。
見えてしまえば昼間襲撃してきた狼と同じ。
1匹また1匹とアルマの持つ短剣が狼のHPを0にしていく。
遂には最後の1匹のHPを削り切り、ナイトウルフの群れをすべて撃退するに至ったのだ。
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2日にわたる旅に終わりが見えてきた。
アルマが歩む道の先にルースの町の外壁が見えたのだ。
それを見た瞬間アルマの胸中にあったのは達成感よりも「やっとか。」という呆れた思いである。
それほどまでにこの旅でのモンスターの襲撃は多かったのだ。
距離としては大したことないであろうに2日間も時間がかかってしまたこともそれを証明していた。
(最後のひと踏ん張りだ。)
アルマは疲れ果てた体に鞭を打ってその道を歩き続けた。
ルースに近づくにつ入れて周りに違和感を感じるようになってきた。
涼しいのだ。
明らかにガーソン周囲に比べて気温が下がっていることを実感できた。
それはまさに今北に近づいていると感じさせるものであった。
ルースの外壁はその大きさを増してきた。
その存在感がアルマを圧倒する。
(遂についた!)
ルースの門前にたどり着いたアルマはここにきてようやく達成感を味わうことができた。
その達成感とともにルースの町の中へと入っていく。




