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054 最後の戦い


◆誰も知らぬ廃墟


長く続いたイベントも残るところあと1時間となった。

もうすでに戦闘可能なフィールドすべてをアルマの生み出した濃霧は包み込んでいた。

その中で感知できるプレイヤーはアルマを除いて1人のみ。


アルマはそのプレイヤーのもとへ歩いていた。

1歩1歩が緊張と高揚感を生み出していく。


既に残り2人。

だからこそこれに勝てば優勝できるのだ。


濃霧を生み出した直後は視界と毒という優位性から容易にプレイヤーを倒していたが、ある程度ふるいにかけられるとその優位性などあってないようなものだった。

終盤に至るにつれて敵の驚異は上がる一方だ。


最後に残ったこの敵が弱いわけがなかった。

それゆえの緊張感。

それゆえの高揚感だ。


何よりアルマはそのプレイヤーのことを知っていた。

目で見ずとも【センス】で感じ取れるそのプレイヤーの名はディートヘルム。

紅蓮の剣のリーダーだ。


彼の強さは知っている。

彼がプレイヤーの中で抜きんでたステータスを持っていることも知っている。

彼が自分と同じくユニークを倒していることを知っている。


だからこそ楽しみでならなかった。

強敵と戦えることが。


アルマの表情が綻ぶのがわかる。

気持ちに引っ張られて歩む足が弾む。

右手にはすでに抜き放たれた短剣が握られていた。


あと少し。

後ほんの少しで戦闘可能な距離にたどり着くだろう。


彼………ディートヘルムはアルムが最初に濃霧を発生させたホールにいた。

そのステージの真ん中でロングソードを抜き放って、立ち尽くしている。

堂々とするその立ち振る舞いは1人の騎士のようであった。


―カツ、カツ


アルマの歩く足音が響く。

ここに至っては奇襲などとっても意味のないことをアルマは今までの戦いで嫌と言うほど経験していた。

だからこそ正面から近づく。


「ディートヘルム。」


「む。その声はアルマか?そうかおまえが相手か。」


「はい。そしてこれが最後の戦いだ。」


「と言うと、他のものは皆倒れてしまったのだな。」


声を掛け合うごとに2人の間に張り詰めた空気が流れる。

アルマがステージに上がる。

ディートヘルムが剣を構えた。

アルマも応戦するように短剣をディートヘルムに向ける。


「おまえとは1度こうして競い合いたかった。だからこそ、この機会に恵まれたことを俺は幸運に思う。」


「俺もだよ。自分がここまで好戦的な人間だとは思わなかった。多くのプレイヤーと競い合える今回のイベントには感謝している。」


「うむ。では、行くぞ!!」


ディートヘルムのその掛け声とともに2人は地面を蹴った。

互いの距離が縮まる。

先に動いたのはディートヘルムだった。


ロングソードと短剣両者の武器の間合いの差がそのままアルマに襲い掛かる。

上段から繰り出された強烈な振り下ろしをアルマは短剣を巧みに操っていなした。

その勢いを殺さずにすぐさま懐に滑り込む。

繰り出された短剣の一撃を返す刃でディートヘルムは受ける。


1撃でダメなら2撃で。

それでもだめならそれ以上で。

アルマの小柄な体から繰り出される息もつかぬ連撃をディートヘルムはすべてその手に握ったロングソードで受け切った。


濃霧のせいでアルマの姿はまともに見えないはずなのに寸分たがわずタイミングで受け止めるその絶技はまさしく歴戦の技であった。

それでも視覚の優位性の分この攻防はアルマに分があった。

ディートヘルムはすべて防ぎきるも決して攻撃に転じることができなかったのだ。


(このまま押し切れば行ける!!)


確かな手ごたえを感じたアルマの短剣を握るその手に力が入る。

その剣劇も激しさを増す。

それでもディートヘルムの防御を突破することができなかった。


右に左に。

アルマは縦横無尽に動いてはその腕を大きく振るっていた。

何度も何度も。

ディートヘルムの防御が崩れるまで攻撃の手を緩めるものかという意地を持ってアルマは攻撃を続けるのであった。


(こんちくしょう!!)


そんな意地のせいであろうか。

強く力みすぎたアルマの攻撃を流麗な動きでディートヘルムは受け流した。


(しまった!!)


その動きがあまりにも滑らかすぎた。

受け流されたアルマの短剣はアルマの意思に反して空を大きく切る。

それによってアルマの繰り出していた連撃の中に一瞬の空白が生まれてしまった。


その空白を、その隙をディートヘルムは見逃さない。

一瞬のうちに自分の攻撃に適した間合いを確保するとまたも強力な振り下ろしを繰り出した。

体勢の整わないアルマはこれを短剣で受けてしまった。


受け流すではなく受け切ってしまったがために足が止まる。

こうなってしまえばディートヘルムの次の攻撃の起こりを防ぐ術はなかった。

立て続けに繰り出されるロングソードでの袈裟切りを短剣で受ける。


続く2撃目、3撃目も同じだ。

何度も何度もアルマは攻撃を防ぐことしかできなかった。

完全に攻守が逆転した。


今やアルマの足は地に縫い付けられ、ディートヘルムと距離を取ることも逆に詰めることもできない。

今のこの間合いが一番危険であることは十分理解している。

だというのにそこから脱することができないのだ。


(こうなったらイチかバチか!)


ディートヘルムが再びアルマに向けて剣を振り下ろした。

その剣を受け切った瞬間アルマは口を開いた。


「【ウォータアロー】【シュート】!」


肉薄したディートヘルム目掛けて打ち出される水の矢。

ディートヘルムは横に体を反らすことでそれを避ける。

その隙をついてアルマはすぐさま距離を取ろうとする。


当然ディートヘルムもそれを許してはくれない。

距離を詰めるために足に力を入れた。


「【ウォータアロー】【シュート】!」


前に出ようとするディートヘルムを牽制するように再度放たれる水の矢をまたもディートヘルムは体を反らして避けた。

しかし、それによって十分な距離を確保することができた。


アルマは再度攻撃を繰り出すためにディートヘルム目掛けて駆けた。

次こそは足を止めてなるものかと精一杯の力を込めて肉薄する。

それをディートヘルムは巌のような堂々とした立ち振る舞いで受け切った。


両者が鍔迫り合いを繰り広げる。

下手に距離を開けられない。

その考えがアルマの脳裏によぎった。

そんな時不意にディートヘルムが口を開いた。


「使ったな、魔法を。」


「なに?」


「いやなに。アルマよ、魔法はおまえだけの道具ではない。【フレイム】【ブラスト】!」


ディートヘルムがそう口にすると2人の間に現れた炎が爆ぜた。

その勢いはすごく2人は吹き飛ばされてしまう。


先に姿勢を立て直したのはディートヘルムだった。

しかし、アルマもそれに遅れずにすぐに立ち上がる。

両者の距離はまたも開かれた。


「ようやくこの鬱陶しい霧が晴れて、おまえの姿を確認することができた。」


そうだ。

ディートヘルムの今の魔法でアルマの張っていた濃霧は晴れてしまっていた。

今まさにディートヘルムに対するアドバンテージが失われたのだ。


「ついでだ。もう1つ俺の魔法を見せてやる。【フレイム】【ウェア】!」


ディートヘルムがそう詠唱するとまたも炎が生み出され、彼のロングソードがそれを纏った。

炎の剣だ。


「行くぞ!!」


アルマがそんな魔法もあるのかと唖然としていると、ディートヘルムはそう言ってアルマとの距離を詰めてきた。

アルマも短剣を構え、ディートヘルムの攻撃に備える。

先ほどと同じように剣劇が始まった。


しかし、先ほどと違うのは一歩的な攻防ではなく両者が互いに攻撃を行い、互いに防御を行っていることだった。

それはこの短い時間に互いの攻撃の癖を読み取ることができからこそ成り立ったのだろう。

そんなことを考える余裕は両者には無くただ相手を倒すことのみが頭の中を埋め尽くしていた。


そんな攻防の中でアルマは異変を感じた。

ディートヘルムの攻撃は確かにすべて防いでいる。

なのに自分のHPが徐々に減っていってしまっているのだ。


緩やかではあったが確かにディートヘルムと剣を合わせるたびに減るHP。

それこそがディートヘルムが使用した魔法の効果なのだと気づくのに時間はかからなかった。

このままではそう遠くないうちに自分のHPは0となってしまうだろう。


何か手立てはないかそう考えるも答えは浮かばない。

ただ時間だけが過ぎていった。


(何か!ここから逆転する秘策は!………あ!)


ディートヘルムとの攻防を続けながらも必死に考え続けるアルマに1つの策が思い浮かんだ。

その策を実行に移すためにアルマはすぐさま………動かなかった。

ただ、ディートヘルムとの剣劇を続けるのみであったのだ。


HPは徐々に減りその割合が残り3割を切る。

アルマはまだ動かない。

ディートヘルムは自分が優位であっても決して焦ったりはしない。

常に同じようにただ淡々と攻防を続けているだけで勝てるのだ。

そこに漬け込むことはできないだろう。


HPが残り2割を切った。

アルマはまだ動かない。

アルマもディートヘルム同様に焦って動くようなことはしない。

このバランスが崩れたときに真っ先に死ぬのは自分だとわかっているからだ。

だからこそ剣劇を続けていることしかできなかった。


HPが残り1割を切った。

この瞬間、アルマが動いた。

先ほどまでの攻防の延長戦。

しかし、先ほどまでよりもより早く、より強く打ちつけるその攻撃にディートヘルムはたまらず防御に回る。

しかし、防御に専念してもアルマの攻撃を防ぎきることはできなかった。

ディートヘルムの体に少しづつ傷が増えていく。


なぜ、アルマがこれほどまでに激しい攻撃をすることができたのか。

その答えはアルマの防具にあった。

岩狂暴竜のジャケット。

その装備の付与効果「決死の覚悟」はHP残量が1割未満の時に全ステータスを100%上げる。

アルマはこの効果が発動するのを待っていたのだ。


今すべてのステータスが100%上がったことでアルマの攻撃はディートヘルムの防御を突破するまでに至った。

この攻撃を持って削り切る。

それは炎の剣によるダメージでアルマが先に倒れるか、それともアルマが先にディートヘルムのHPを削り切るかの競争となっていた。


(あと少し!あと少しなんだ!!)


アルマの攻撃はますます激しさを増す。

アルマのHPもディートヘルムのHPももう風前の灯だった。

もう残された時間は僅かしかない。

アルマは最後の1撃と意気込んで地面を大きく蹴った。


「ああああああああ!」


アルマの叫びとともに放たれたその1撃はディートヘルムに届かなかった。

その前にアルマのHPが尽きたのだ。

体が光のかけらとなって消えていく。


「見事。」


薄れゆく意識の中でディートヘルムが最後にそう呟いたのが聞こえた。


--


視界は反転し、気が付くと廃墟に飛ばされる前にいた真っ白な空間に座り込んでいた。

目の前には先ほどまで死闘を演じていたディートヘルムもいた。

周りには他のプレイヤーもいる。


「コングラチュレーション!!」


またも空からゲームマスターが降ってきた。


「いや、熱い激戦だったね。素晴らしい。本当に素晴らしい戦いだったよ。もちろん、最後の2人だけじゃない。それまでの戦いだってどれ一つとっても貶していいものはなかった。本当に素晴らしい激闘だった。」


ゲームマスターはそこで言葉を区切った。


「名残惜しいがこれにて本イベントはお終いだ。最後にイベントの討伐数、生き残り時間のランキングを発表して締めさせて貰うよ。みんなも気になっているだろうし前置きは無しにして一気にドーン!」


ゲームマスターがそう言うと空中にそれぞれの上位ランキングが表示された。

アルマはそのランキング表示を驚きながらも満足げな表情で眺めるのであった。


=====================


      生存時間ランキング  


 1位:ディートヘルム -

 2位:アルマ     23:12:43

 3位:ヨルゴ     22:57:20

 4位:カグヤ     21:21:51

 5位:十兵衛     21:02:30

 6位:セージ     19:22:12

 7位:リュカ     19:01:44

 8位:デリア     18:29:37

 9位:紅葉      17:42:19

10位:コンドラト   17:19:28


=====================



=====================


      討伐人数ランキング  


 1位:アルマ     3,032人

 2位:ヨルゴ     1,119人

 3位:ディートヘルム   734人

 4位:紅葉        712人

 5位:ユキナ       391人

 6位:カグヤ       352人

 7位:猫宮        257人

 8位:十兵衛       199人

 9位:セージ       141人

10位:ヘクトール     112人


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本日、新作小説を投稿いたしました


タイトルは「可愛いスライムで始めるVRMMO~魔物だからっていじめる人には容赦しません~」(https://ncode.syosetu.com/n8428gi/)


本作品と同じくVRMMOゲームを題材とした小説となります


こちらも見ていただけると幸いです<(_ _)>

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