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051 奇妙な同行者


◆ランフランク山


装備を新調したあの日から数日が過ぎた。

アルマはその間ガーソンを中心に冒険者組合の依頼をこなしたり、素材を採取しながらレベル上げに勤しんでいた。

今日もガーソンの南東に位置するランフランク山まで来てロックリザードを討伐していたのだ。


ガーソン廃棄坑道に出現するギガントロックゴーレムに比べれば大分物足りないロックリザード狩りではあったが、以前の経験からかアルマは油断することなく狩り続けていた。

1匹1匹を丁寧に倒しながらランフランク山の頂上付近まで登ってきてしまった。


その場にはアルマ以外のプレイヤーの影はなかった。

それもそのはずである。

ガーソンまでたどり着いたプレイヤーからすればロックリザード狩りは割の良いクエストとは言えないからだ。

多くのプレイヤーは廃棄坑道に行くか素直に街道のモンスター狩りをしていることだろう。


では、何故アルマがそんな不人気なクエストを受けているかと言うと特に理由などないのだ。

たまたま冒険者組合で目についたクエストがロックリザード狩りであり、以前は逃げるしかできなかったが今ならば倒せると思ったがために受けたのだ。


(経験値的に割がいいわけではないけど、それでも数が狩れるからそこそこレベル上がるな………)


ギガントロックゴーレムを倒して上がったアルマの種族レベルがここ数日の狩りでまた1つ上がったのだ。

それもあって現在では累計種族レベルが17。

2回目の種族進化まであと少しと言うところまで来ていた。


(種族進化と言えば早い人はそろそろ2回目になりそうって言っていたっけ………)


少し前にガーソンであった紅蓮の剣のリーダー、ディートヘルムはその時すでに累計種族レベルが19だと言っていた。

ならばすでに2回目の種族進化をしているかもしれない。

いったいどれだけの時間を狩りに費やせばそれだけ早くレベルが上がるのか正直謎ではあったが、アルマはアルマのペースで狩りを続けていた。


(ディートヘルムと言えば今はもうガーソンを出たのかな?)


彼は近いうちにガーソンを出て北の町ルースに向かうと言っていた。

そうルースである。

グルナラの弟子、アルマにとっての姉弟子のゲイルがいるルースはガーソンの北にあるというのだ。

ディートヘルムの話を聞いたとき、アルマもすぐに行こうと決意したものの未だにガーソンを出れずにいる。

その理由は遂に明日行われる公式イベントのためである。


公式ホームページでもイベントの詳細が発表されて久しく、プレイヤーはそのイベントに対する期待を膨らませていた。

アルマ自身もイベントが楽しみなのには違いなかった。

そのために今はレベル上げと、資材集めに奔走しているのだ。

だからこそルース行きを遅らせていた。


(別にすぐに行かなければいけない約束があるわけでもないし………)


心の中でそんな言い訳をしつつガーソンに留まり続けていた。


(さて、あれを狩ったらガーソンに戻るか………)


目についた1匹のロックリザードを討伐するためにアルマは短剣を抜いた。

気づかれる前に接近すると、その首目掛けて短剣を振るった。

硬い鱗に覆われたロックリザードの首は恐ろしいほど簡単に切り裂かれた。

アルマの持つ武器、猛毒大蛇の毒短剣がそれだけ強力な武器なのだ。


攻撃を受けたロックリザードはすぐさまアルマに反撃しようとするが、体はびくびくと痙攣するばかりで思うように動かない。

短剣の付与効果、麻痺攻撃によって麻痺毒に侵されているようだ。

アルマはロックリザードの挙動から反撃が無いことを確認すると続けざまに短剣を振るった。

ほどなくしてロックリザードは倒れ、光のかけらとなって消えてしまった。


「ふぅ。」


難敵ではないものの完勝したことに達成感を感じながらアルマは短剣を鞘に戻し、踵を返そうとする。

その時であった。


「―――っ!!」


どこからか声が聞こえた気がした。


「だ、………て!!」


確かに聞こえる。

ランフランク山の頂上どこかで人の声が聞こえるのだ。

アルマは耳を澄ませて声のする方角を探ろうとする。


「誰かー!たすけてー!!」


しっかりと聞こえた。

助けを求める女性の声が近くから聞こえた。

アルマはその声の主のもとに走り出した。


ほどなくしてその人を見つけることができた。

子供のような体躯にボロボロの初心者装備を身に纏ったドワーフの女性であった。


「だ、誰か―!!」


どうやらロックリザードに追われているようだ。

頂上目掛けて走りながら叫んでいた。

何がどうしてこうなっているのかわかなかったがアルマはとりあえず手を貸そうと短剣を手にして声をかけた。


「こっちだ!!」


ドワーフの女性もアルマの姿を確認したようだ。

方向転換してアルマの方めがけて走ってきた。

アルマはその女性とすれ違うようにして女性とロックリザードの間に入る。


ロックリザードも今まで追っていた女性ではなく突然目の前に来たアルマに目標を定めたようだ。

立ち止まりにらみ合う形となった。

アルマはすぐさまロックリザードと距離を詰める。


それを待っていたかのようにロックリザードが尻尾を振るうも、すぐさまバックステップで距離を取ったアルマに当たることは無かった。

アルマは着地すると同時にもう一度ロックリザード目掛けて地面を強く蹴った。

ロックリザードとアルマの距離は1舜で0になる。


尻尾を振り回した直後で体勢の整わないロックリザードの首目掛けてアルマは右手の短剣を振るった。

ロックリザードもたまらずのけぞるもすぐさま反撃のために尻尾を振るう。

アルマは再びそれをバックステップで避ける。

先ほどと異なり次は続けざまにさらに後ろに下がり距離を取った。

そして水魔法で水の槍を作りロックリザード目掛けて打ち放った。


ロックリザードにとってもこの攻撃は予想外だったのかまともに受けてしまったロックリザードは体に大きな傷をつけながらのけぞった。

アルマはその隙に再度接近すると右手の短剣を2回、3回と振るった。

ロックリザードが断末魔の声を上げて光となって消えたのを確認してアルマは女性の方に向き直った。

その女性は地面に座り込んで呆けてしまっていた。


「大丈夫?」


「は、はい。」


アルマが声をかけると驚いたように飛び跳ねそう答えた。

その女性の装備からは見れば見る程に初心者だという雰囲気しか感じられなかった。


「俺はアルマ。ルサールカの薬師だ。そっちは?」


「はい。えっと、唯月です。種族はドワーフで鍛冶師をやっています。」


「そう、唯月ね。何でランフランク山にいたの?」


「ランフランク山なら錫鉱石が取れると聞いて取りに来たんです。早いとこブロンズが作れるようになりたかったので。」


そう言う唯月の表情は真剣そのものであった。

特に冗談や度胸試しで来たというわけではなさそうだ。


「見たところ初心者みたいだけどレベルいくつ?」


「えっと、4です。」


「ランフランク山の適正レベルは下層でも7だけど知らなかったの?」


「それぐらい知っています。でも、レベルが低いから来てはいけないというわけでもないでしょう?」


どうやら低いことは承知で開き直っているように見えた。

その態度に呆れるようにため息をつくとアルマは早々に会話を止めようと思うのであった。


「そう。覚悟があるならいいや。今度からは他人に迷惑かけずにね。」


アルマはそう言うと踵を返した。

そのアルマの裾をぎゅっと握るようにして唯月がアルマを呼び止めた。


「ちょ、ちょっと待ってください。」


「なに?」


「あの、せっかくなのでファートまで一緒に行きませんか?」


どうやら彼女はアルマを体の良い護衛として使いたいようだ。

その態度に若干イラっときながら、乱暴に彼女の手を振りほどく。


「悪いけど。俺はガーソンの方から来ているんだ。ファートまでは君1人で帰ってくれ。」


「ガーソン!?」


再び歩き出そうとするアルマに唯月はさらに縋りつくように足止めする。


「ま、待ってください!ガーソン、私も行きたいです!連れて行ってください!」


「はぁ。」


アルマは観念して足を止め唯月に向き直った。

唯月は期待したような目でアルマを見る。


「ガーソン!私も行きたいです!いえ、行きます!」


「なら、1人で行ってくれ。俺を巻き込むな。」


「1人でなんて行けるわけないじゃないですか。護衛してくださいよ。戦闘できるんでしょう?」


唯月のそのあまりにもな物言いに深いため息がこぼれえる。

こいつはアルマのことを馬鹿にしているのではないか?

そんな気さえしてきた。


「報酬は?」


「え?」


「報酬だよ。護衛依頼をする以上報酬が必要だ。」


「そんな!?お金取るんですか!?」


アルマのその言葉に唯月は飛び上がるほど驚いていた。


「お金である必要はない。それでもタダでやるわけにはいかない。おまえだって鍛冶師として作ったものをタダで上げるわけではないだろう?それと一緒だ。」


「ぐぐぐ。5000ギルなら何とか………」


「全然足らん。そもそも、それしか金が出せないなら今ガーソンに行っても何もできることは無いぞ。」


アルマのその言葉に唯月は頭に疑問符を浮かべながら首を傾げた。


「ガーソンにいる戦闘職の需要は鉄装備だ。それを作るためには鉄鉱石が必要だが、未だに鉄鉱石は数が少なく価値が高騰している。その金じゃあ鉄鉱石が買えないぞ。おまえの場合はそれ以前に『鍛冶』のレベルが低くて鉄をまともに扱えなさそうだがな。」


「ぐぐぐ。そ、そんなこと行ってみなければわからないと思います!」


「そんなに行きたいか?」


「はい!」


そう言う唯月の瞳には決意が満ちていた。

もうてこでも動かないとひしひしと伝わってくるようであった。


「はぁ。………スキルポイント。」


「え?」


「スキルポイントは余っているか?あるならそれで護衛依頼を受けてやる。」


「は、はい!スキルポイントは3P余っています!では、これでお願いします!」


元気いっぱいにそう答える唯月にアルマはため息が尽きないのであった。


--


ガーソンまでの道中は楽しいものではなかった。

何度も襲撃してくるロックリザードに護衛対象の唯月が毎回大げさに反応するせいで想定以上に疲れる戦いであった。

ようやくガーソンにたどり着くころには日が傾き始めていた。


「ほら。これで依頼完了だな。」


ガーソンの門をくぐりアルマがそう口にした。


「はい。ありがとうございます。」


「礼はいい。こっちは依頼をこなしただけだ。」


「はい。それでもこちらとしては助かりました。ありがとうございます。」


そう言って唯月は深々とお辞儀をする。

そのしぐさにアルマはちょっと気恥ずかしさを感じていた。


「こちらが報酬です。」


「うん。たしかに受け取った。じゃあな。」


手元のウィンドウで報酬を確認してアルマは唯月にそう言って別れようとした。

そのアルマを唯月はまたも呼び止める。


「ちょっと待ってください。」


「何だよ。もう依頼は終わりだろう?」


踵を返したものの呼び止められてアルマは振り返る。

その表情は「またか?」と怪訝そうな顔をしていた。


「依頼の件は終わりでいいです。でも、私はこの町に初めて来たんですよ?案内してくれてもいいじゃないですか。」


「案内なんてその辺のやつに聞けばいいだろ?」


「冷たいですね。いいじゃないですか。女性が案内してほしいと言っているんだから男性は黙ってエスコートするものですよ。」


「俺は男女平等を信条としているので。じゃ。」


「待ってください!!」


アルマは観念して唯月の方に向き直る。


「はぁ。案内ってどこをしてほしいんだ。さすがに全部は無理だぞ。」


「そうですね。生産者組合と物が売り買いされている市場の中心を教えてもらればいいです。」


アルマは「それくらいならいいか。」と頭の中で考え口を開いた。


「これが最後だぞ。」


「はい!」


「物の売り買いで一番盛んなのはこのガーソン北東門前広場だ。」


アルマは観念して唯月に対して説明を始めた。

その表情からはすぐに終わらせてやろうという考えが透けて見えるようであった。


「プレイヤーの露店もここが一番多い。例えば………。」


アルマはそう言いながら広場を見回す。

1角にひときわ大きい露店を広げた知り合いを見つけてそちらに近づいた。

唯月もアルマについてくる。


「よう、ジョン。」


「はい。ああ、これはアルマ様。いつもお世話になっております。本日はどのような御用でしょうか?」


「ああ。新人がガーソンに来たからついでに紹介しようと思ってな。こいつは鍛冶師の唯月だ。唯月、こいつは商人のジョン。何か入用だったらこいつのところに来ればだいたい揃う。」


「はい、こんにちは。」


「こんにちは。唯月様ですね。アルマ様に説明していただた通り、商人をしておりますジョン・ドゥと申します。私共は戦闘職、そして生産職の皆様から商品を買い付けそしてそれらを必要な方にお売りしております。何かご入用の際に当店を使っていただくのはもちろん、唯月様が作られたものを売りたい際にも当店を使っていただけると幸いです。」


「は、はい。よろしくお願いします。」


慇懃なジョンの態度に若干気圧されながらも唯月はそう言った。

そんな様子を見ながらアルマは「次は。」と考えを巡らせていた。

唯月とジョンの話がひと段落ついたところで横から口を出す。


「済まんが、まだ案内するところがあるから今日はこれくらいでいいか?ジョン何かあったら頼むな。」


「はい。もちろんですとも。」


そう言ってジョンと別れ、次は生産者組合に向けて歩き始めた。

アルマの後を唯月もついてくる。


「市場の方はいいな。次にここが生産者組合だ。」


アルマはそう言って、1つの建物の前で立ち止まった。


「組合としてのサービスはファートや王都と同じだから説明する必要はないな?」


「はい。」


「なら。これで案内は終わりだ。」


「はい。長い間ありがとうございました。」


唯月からの礼を受け取るとアルマは「じゃあな。」と言ってその場を後にした。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんな図々しい人なかなかいないですね笑笑
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