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045 一行に立ち塞がる者たち


◆ベルクマン街道


ゴブリン集団の襲撃。

あれ以降もガーソン行きの道中はゴブリンや他のモンスターの襲撃を受けていた。

しかし、どの戦闘も苦戦することなく道行きは順調なものであった。

パルマーダ街道を越えてベルクマン街道に出た後もそれは同じであった。


ガーソン行きの道程も2日が終わり一行は街道の隅で野営をしていた。

皆、思い思いに星空の下で談笑を楽しみ、順番にログアウトして体を休めていた。


「ゲオルクって、木工職人なんだよな?」


アルマもゲオルク、そしてシードルと焚火を囲んで一緒に食事をしながら会話を楽しんでいた。


「そうさ。と言っても、生産だけをやっているわけではないけどね。」


ゲオルクがパンを片手にそう答えた。


「ポルジン森林でトレント狩ったときの木材が大量にあるんだが要るか?要らないなら適当にジョンにでも売ろうと思っていたんだが。」


「ほう。トレント材。いいねいいね。アルマ君はレーンクヴィストを倒しているのだからポルジン森林に行っているよね。ええ、是非引き取らせてくれ。未だ市場にトレント材は十分に供給されていないから手に入れるのに苦労するのさ。」


ゲオルクがそう言うとアルマはウィンドウを操作してインベントリの肥やしとなっていたトレント材を受け渡した。


「!!こんなにあるのか!?そうだね今の相場だとこれくらいだね。」


「え?いやこれは高くないか?」


「いやいや。相場通りさ。何だったらジョンさんに聞くかい?」


アルマが想像していた以上のお金をゲオルクはアルマに受け渡した。

アルマは申し訳なく思うもゲオルクの気持ちを受け取った。


「んー。そうだ、シードル。」


「ん?なーにー?」


突然手に入ったお金を何に使おうかアルマは考え1つの使い道を思いつく。


「この金でアクセサリーを作ってもらえるか?装備枠は頭とアクセサリー2枠で計3枠だ。」


「うん。ガーソンに着いたらいいよー。何か方向性とかあるー?」


「んー、今すぐには思い浮かばないな。ガーソンに着いたらその辺を相談させてくれ。」


「うん。わかったー。」


それだけ言うとシードルは再び食事に集中し始めた。

アルマも焼けた肉に齧り付く。

口の中に肉汁が広がり幸せな気分となる。


--


「あの、ここ良いですか?」


3人で食事をしていると不意にアルマの後ろから声をかけられた。

振り返ると灰色のマントを羽織ったハイ・ヒューマンの男性がいた。


(えっと………確か、シェパードだったかな。)


彼………シェパードはアルマの横の空いた席を指しているようであった。

どうやら休憩するスペースを探していたようだ。


「どうぞ。」


特に拒絶する理由もないためアルマは快くシェパードにそう言った。

シェパードは「失礼します。」と一言言ってその場に座り込んで、インベントリから自分の分の食料を取り出した。


「何処か言っていたのか?」


「いやー、従魔に餌をやっていたら自分の分の食事が遅くなってしまいました。」


アルマの質問にシェパードはそう答えた。

その言葉を聞いてアルマはシェパードのスタイルについて考えを巡らせた。


「確かシェパードは………テイマーだったか?」


「はい。そうですね。」


テイマー。

それはモンスターを使役し、戦闘の補助をさせるスタイルだ。

シェパードの場合は3匹の狼を使役しており、その狼が主に戦いに参加していた。


「僕自身は支援に特化して戦闘はすべて従魔に任せていますね。」


「すまん。俺はテイマーって言うのがあんまりよくわからないんだが、それは珍しいことなのか?」


アルマのその素直な疑問にシェパードは特に気を悪くした感じは見せずに素直に答えてくれた。


「珍しいか珍しくないかで言ったらテイマー自体が珍しいですね。テイマーはその特性上消耗品や武器、防具、素材などのアイテム、あらゆるものが1人分以上に必要となります。そのため、パーティでは嫌煙されがちです。僕も普段はソロでやっていますからね。」


そう言うシェパードの表情は話している内容に比べて明るいものであった。

テイマーは嫌煙されている。

自身はそのことを全然気にしていないようであった。


「そうなのか。」


「はい。あの僕の方からも聞いてもいいですか?アルマさんってユニークを2体倒していますよね?その時のこととか聞いてもいいですか?」


「ん?別に隠しているわけじゃないから問題ないよ………」


シェパードに聞かれアルマは何度目になるか分からないユニーク討伐の話をするのであった。

満面の笑顔でアルマの話に聞き入るシェパードにアルマも気をよくして話に力が入る。

そんな話をしながら夜は次第に更けていった。


--


「おう。おまえさんらやってるか?」


アルマ、ゲオルク、シードルそしてシェパードが話しているところに、また乱入者がやってきた。

今度はガルドであった。

その表情は緩んでおり、ほんのりと顔が赤い。


「ガルド。おまえ酒飲んでいるのか?」


「おうよ。王都で仕入れた火酒だ。結構いけるぞどうだ?」


そんな緩み切ったガルドに呆れた表情を向けながらアルマは口を開いた。


「いやな。休憩中とは言え今は旅の途中だ。いつ危険があるか分からないのに酔えるわけないだろ。」


「こんなの、ドワーフにとっては水と同じだ。」


「そこ種族による違いってあるのか?」


「しらん!がははは。」


そう言うとガルドは笑いながら4人の間にどさりと座り込んだ。


「ハハハハ、愉快だね。うん僕も一献貰えるかい?」


「んー。ぼくも少しだけもらおーかなー。」


ゲオルクとシードルもガルドにつられてお酒に手を出した。

アルマはますます怪訝そうな顔をする。

そして言外におまえは飲まないよなっといった目をしながらシェパードの方を見やる。


「ふふ。大丈夫ですよ。僕は飲みません。未成年なんですよ。」


アルマのその表情を見て言いたいことはちゃんと伝わったようだ。

シェパードはそう言って自分の食事を続けた。


「そう言えば、おまえさんらはアップデートの話は聞いているか?」


酒を飲みながらガルドがそう口にした。


「アップデート?MSOのか?いや、まだ知らないけど。」


「そうか。実はな次の大規模なアップデートでクランシステムを導入するらしい。」


「クランシステム?他のMMOでもあるあのクランでいいのか?」


「ああ、そうだ。そこでおまえさんら、アルマ、ゲオルク、シードルに相談なんだが、今生産職でクランを立てようと計画している。もし、よければおまえさんらもそこに参加しないか?」


ガルドが真剣な表情でアルマ達にそう言ってきた。

アルマ達3人は互いに顔を見合わせる。


「そのクランに入ると僕らに何のメリットがあるのかな?」


3人の疑問をゲオルクが代表して発言した。


「そうだな。主にクランで考えているのは素材を融通することと異なる分野の技術協力が円滑にできることを考えている。」


そう言うとガルドは一度言葉を切り、酒でのどを潤した。


「素材の融通についてはいいな?技術協力に関してだが、現状武器や防具を作る際は個人が持つスキルだけで事が足りているが、今後も同じとは限らない。例えば『鍛冶』で必要な素材を『錬金』で作らないといけないとかな。こう言ったときにクラン内でそのスキル持っているどうしで協力して円滑に生産を行えるようにすることが目的だ。」


「なるほど。」


ガルドの説明を聞いて3人は再び考え込む。

ぱちぱちと焚火の弾ける音だけが辺りを包んだ。


「うん。申し訳ないけど、俺は参加できない。」


初めにアルマが口を開いた。


「俺は生産だけなく冒険もしているから、クランに入ったとしても協力することはできないと思う。」


「そうか。」


ガルドは少し残念そうにそう呟いた。

そして、ゲオルクとシードルの方に向き直った。


「僕は少し考えさせてほしいね。僕も生産だけをしているわけではないから。」


「んー。ぼくもーかんがえさせて欲しいんだよー。」


ゲオルクとシードルは保留とするようだ。

2人も何か考えがあってのことだろう。


「そうか。いや、いいんだ。まだクラン自体もないし、参加はいつでもいいからよ。そんなことより酒を飲もうじゃないか。」


ガルドは再び残念そうな顔をしたがすぐにその表情には笑顔が戻っていた。

再びインベントリから酒を取り出すと、空になった自分のジョッキに並々と酒を注いだ。


--


1夜明けてガーソン行き最後の日となった。

今日の夕刻にはガーソンにたどり着く。

皆一様にこのレイドでの最後の旅に気合いを入れていた。

異変はそんな日の昼過ぎに起きた。


「止まれ!」


ヘクトールの声が響いた。

一行は歩みを止める。

先頭集団で何かあったのか。

そんな疑問がアルマの頭の中に浮かぶも特に戦闘音などは聞こえない。

アルマは気になりディートヘルムのもとまで走っていった。


「どうかしたか?」


「ん?アルマか。プレイヤーだ。」


ディートヘルムはそう言い視線を進行方向に向ける。

そこには街道を塞ぐように冒険者の一団が陣取っていた。


「それがどうかしたのか?」


「ああ、アルマはあの手のは初めてか?あれはおそらくPKだ。」


「PK!?MSOでPKなんているのか?」


ディートヘルムのその言葉にアルマは驚きを隠せなかった。

それもそのはずである。

MSOでは死んだとしてもデスペナルティで一定時間のステータス低下を受けるだけでアイテムや所持金の喪失は無いからである。

だからこそPKなんているわけがないと考えていた。

そんなアルマの思考を読んでかディートヘルムが口を開いた。


「スキルの中に『強奪』というものがある。これは一定確率で倒した相手のアイテムやお金を奪うことができるものだ。これを使ってPKをするプレイヤーがいる。あいつらもその手合いの可能性が高い。」


「そんなスキルがあるのか。」


「ああ。今見えている範囲では目の前の8人だけだが隠れている可能性もある。アルマも持ち場の後方監視に注力してくれ。」


「分かった。」


アルマはそれだけ言うとディートヘルムの言う通り後方の監視に努めるため急ぎ持ち場に戻った。

しばらくPKとのにらみ合いは続いた。

それを破ったのは1本の矢であった。


一行の側面、草むらの影から放たれたそれは馬車の御者………ジョンを狙って放たれた。

運がいいことにその攻撃は当たることが無かった。

しかし、その攻撃を合図に前方の8人に加えて左右の草むらから2人ずつ飛び出し一行目掛けて駆けてきた。


(………後方に索敵に引っかかる敵は無し。側面を援護する。)


アルマはそう考えるとすぐに右側面を向いた。

そちらには先ほど攻撃をした弓使いとロングソードを持った剣士がいた。


「………【ウォータランス】【シュート】」


アルマは『中級水魔法』スキルの【ランス】を使い、弓使いを牽制する。

その隙をついて、側面の護衛をしていた紅葉が剣士と肉薄する。


アルマも短剣を片手に弓使いに向けて駆け出した。

弓使いはアルマの姿を確認すると弓に矢をつがえた。

強く引き絞っているのがアルマの眼に映る。

それでもアルマは足を緩めなかった。


後一息で肉薄するというところまで近づいたタイミングで弓使いが矢を放つ。

その矢はアルマ目掛けて真っ直ぐに飛んできた。

アルマは横に飛んでその矢を避ける。


弓使いが再び矢をつがえようとするがアルマが肉薄するほうが早かった。

アルマは走ってきた勢いをのせて剣を振るう。

弓使いは手を出してそれを防御しようとしたが、アルマの短剣は弓使いがつけている防具もろともその腕を切り裂いた。

弓使いがその結果に驚き、痛みに苦しんでいる隙に2撃、3撃と攻撃を繰り返した。

遂には弓使いのHPは0となり、光となって散って消えた。


アルマはすぐさま紅葉の方を見やる。

PKをやっているだけあって、剣士は戦い慣れしているものの紅葉の方が一枚上手のようだ。

紅葉の振るう剣は剣士の体に傷を増やしていった。


下手に援護すると邪魔する恐れがあると判断したアルマはすぐに左側面への援護のために移動を開始した。

そちらは、シェパード率いる従魔たちが魔法使いと剣士を相手に激戦を繰り広げていた。


「援護する!魔法使いは俺が!」


シェパードに聞こえるようにアルマはそう言うとすぐさま魔法使いにめがけて水魔法を放った。

魔法使いは突然乱入してきたアルマの攻撃をかわし切ることができずにその攻撃をもろに受けてしまった。

その隙に肉薄したアルマは右手の短剣を振るう。

魔法使いが手に持つ杖で防御を試みるも、アルマの短剣は下手な剣よりも攻撃力がある。

防御は意味をなさずに魔法使いの体に傷を増やしていく。


「っつ!【フレイムランス】【シュート】」


魔法使いはたまらず魔法を放つも起点が巨大な【ランス】の魔法は肉薄しているアルマをとらえることはできなかった。

物理的な防御力の少ない魔法使いのHPはすぐさま0になってしまい、光となって消えた。


シェパードが相手していた剣士を見るとそちらも今決着がついたようだ。

光となって消える剣士の姿がアルマの目に映った。


「たすかりました。」


シェパードがアルマに近づき礼を言う。

アルマはそれに「どういたしまして。」と言うと前方で戦っている紅蓮の剣のもとに走った。

シェパードもそれに続く。


そこで目にした光景は圧巻であった。

6対8という不利な人数差にも関わらず、紅蓮の剣はPKたちを一方的に蹂躙していた。

アルマが到着した時にはすでにPK6人が倒されており残りは2人だけとなっていた。

紅蓮の剣に欠けた人はいない。


残りの2人も危なげなく倒すとディートヘルムが一行に向き直り口を開いた。


「大丈夫か!?」


それに他のメンバーは皆それぞれが大丈夫な旨を伝える。

アルマも片手を挙げて大丈夫だと伝えた。


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