表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/58

044 パルマーダ街道の戦い


◆パルマーダ街道


透き通るような青空に真っ白な雲がゆっくりと流れている。

遥か高みにある太陽からは心地よい日差しが降り注ぎ、草原を駆ける風は火照る体を冷ましてくれる。

喉かな雰囲気に包まれながら一行はガーソンに向けてパルマーダ街道を進んでいた。


先頭を歩くのは攻略組トップパーティの紅蓮の剣。

次いで生産職が続き、その周りを別の戦闘系プレイヤーが固めている。

索敵を持つアルマは1人隊列の後ろを歩いていた。

後方からの奇襲を警戒しながらも他メンバーに遅れないようについていく。


パルマーダ街道を進み始めて半日ほどが経過したが特に問題らしい問題は発生していなかった。

接敵する敵は紅蓮の剣をはじめとする戦闘系のプレイヤーが率先して倒してしまいアルマの出番はなかった。

唯一与えられた役目である後方からの奇襲も来る気配はない。


(普段している1人の旅と違って暇だな………)


普段であれば索敵も戦闘も全部自分1人で行わなければならない。

それに比べて今の状況は良く言えば安定している、悪く言えば暇であった。


(パーティの旅は以前に王都に行った際に経験していたが、あの時は全員で戦闘していたからそこまで暇とは感じなかった………)


ファートから王都への道中。

初心者でパーティを組んで旅をしたことを思い出していた。

あの時は確かに戦闘と言っても常に皆が動いていた。


それに対し今はそれぞれの役割がきっちりと分けられていた。

これがトップパーティの普通なのか、はたまたレイドパーティだからこそなのかアルマには判断できなかった。


(………でも、俺にも役割はあるんだ。それをこなそう。)


それでも油断してはいけないとアルマは気を引き締める。

後方からの奇襲はいまだ来る気配はなかった。


そんなアルマが暇と戦っている時、前方のグループから1人抜け出しアルマのもとにやってきた。


「のう、お主。暇そうだのう?」


それは頭から2本の角をはやした小柄なオーガの少女………紅葉であった。

そう彼女も今回のこのガーソン行きレイドメンバーに加わっていたのだ。


「ユニークを2体も倒す英雄様は血に飢えておるとみたが………違うかや?」


彼女はアルマをからかうようにそう言った。


「そんなことは無いよ。安全なのはいいことさ。………あと、英雄って言うのやめてくれ。」


「かかか。安全はいいこと、か。およそRPGプレイヤーのセリフとは思えんのじゃ。」


紅葉は声を上げて笑っていた。

それほどまでにアルマの物言いはおかしかったのだろうか?

いや、きっと彼女の感性だろうとアルマは考えた。

以前に見た紅葉の戦闘姿はまさに戦闘狂と言って間違いないものであった。

そんな、彼女からしてみれば戦闘は無いほうがいいというアルマの物言いはおかしく聞こえたのだろう。


「それにしても。お主、しばらく見ない間に装備がだいぶ変わっておるのう?」


「ん?ああ、そう言えば紅葉と旅した時はまだ初心者装備だったっけ?というか、それならそっちも同じだろ?」


アルマが言う通り紅葉の装備は初めて出会った時と大きく変わっていた。

動きやすさを優先してかレザー製の軽鎧に所々がブロンズで強化されていた。

腰に佩いたロングソードもおそらくブロンズ製であろう。

そんな彼女の装備を眺めていると紅葉が口を開いた。


「女性のことそそうじろじろと見るとは。お主、助べえじゃのう?」


「な!?」


そう言う紅葉の表情はにやにやと笑みを浮かべており、アルマをからかうことを楽しんでいるのがありありとわかるものであった。

アルマもそれには分かったためすぐに冷静になろうとするも気恥ずかしさから赤くなる耳を隠すことはできなかった。


「かかか。愛い奴なのじゃ。」


「そんな風に俺をからかって、何が目的なんだよ?」


「ん?そうじゃのう………これはあれじゃ。好きな人に構いたくなる思春期特有の衝動じゃな。」


「な!!す、すき!?」


紅葉のその言葉にアルマの顔はいっそう赤く染まる。

アルマのそんな反応を見て紅葉は声を上げて笑い出した。

アルマもその笑い声を聞いて自分がからかわれていることを自覚し、せめてもの抵抗とばかりに紅葉から視線を背ける。

そんなアルマだからこそ気づけなかった、笑う紅葉の耳もほんのりと赤く色づいていることに。


--


「そう言えば紅葉はどうしてこのレイドに参加したんだ?」


紅葉が落ち着きを取り戻し笑い声が聞こえなくなったタイミングでアルマがふとそんな風に聞いた。


「ん?ああ、元々わしの武器はガルドに作ってもたっておってのう。ガーソン行きの護衛の報酬に格安で新しい剣を売ってくれると言うから、それを受けたのじゃ。」


「へー、新しい武器ね。じゃあ、鉄でロングソードを作ってもらうのか。」


「いや。わしが作ってもらおうとしておるのは刀じゃ。」


「刀!?」


「ああ。『初級剣術』スキルが上限に達した折にスキルの派生先は『下級剣術』スキルと『下級刀術』スキルの2つの選択肢があってのう。わしは『下級刀術』を選択したのじゃ。」


「確かに『初級短剣術』も同じように『下級短剣術』と『下級短刀術』があったけど………。」


そう言いながらアルマは紅葉の腰にある武器を見た。

それはどこからどう見てもロングソードであった。


「お主が何を言いたいのかはわかる。『下級刀術』でロングソードは使えるのか………じゃろう?結論から言ってしまえば使えるのじゃ。『下級刀術』は『初級剣術』の派生だからこそ『初級剣術』で使える範囲であれば問題なく使えるのじゃ。」


紅葉はそこで言葉を区切り「しかしの………」と言って続きを話始めた。


「当然、『下級刀術』の技は使えんのじゃ。それに『下級刀術』に入る経験値も少なくなってしまうのじゃ。だからこそ、早いところ刀を手に入れたかったのじゃが、ガルドいわくブロンズでは刀は打てんと言うからのう。鉄が手に入るのを待っておたのじゃ。そこにこの話が来たので喜び勇んで参加した次第じゃ。」


紅葉はそう言うと「わしの話は以上じゃ。」と話を終わらせた。

アルマとしても驚きであった。

まさか手に入っていない武器系統にスキルツリーを分岐させるとは思わなかった。

特に刀はその武器の特性なども何もわかっていないのである。

場合によっては今の戦闘スタイルと大きく変える必要がある可能性があるというのにそれをやった紅葉の行動にアルマは驚きを隠せなかった。


「何で態々『刀術』を取ったんだ?紅葉の正確なら別にかっこよさ優先とかではないだろう?」


「いや、別に大した理由は無いのじゃ。ただ、現実でも剣術をやっておっての。それで西洋剣より日本刀のほうが使い慣れているのじゃ。」


「ああ、そう言うことか。」


アルマは一応の納得を示した。

それでも現時点で手に入っていないものに手を伸ばした紅葉の行動は猪突猛進が過ぎると思ったが、それは胸の内にしまった。


「のう。お主は何故、このレイドに参加したのじゃ?わしが話したのじゃ。お主の話も聞かせてくれるじゃろう?」


「俺か?俺は………」


紅葉にそう聞かれアルマはレイドに参加することになった経緯を話した。

と言っても、紅葉とそう違いはない。

単に武器を新調するにあたって鉄が必要だったからついてきたのだ。


紅葉の刀のように特別、鉄が必須というわけではないが、それでもより高い性能を出すために鉄が必要となった。

だからこそ、アルマはこのレイドに参加したのだ。


アルマのその話を聞いた紅葉は「お主もわしと変わらんのじゃな。」と言って口を閉じた。


--


「敵だ!!」


ガーソンを目指していた一向にその声が響き渡った。

声の主は戦闘を行く紅蓮の剣のサブリーダーのヘクトールであった。

声は大きいもののその声色からは焦りは感じられなかった。


「数が多い!後ろの戦闘職も来てくれ!!」


続く声によりレイド全体を緊張感が包んだ。

アルマも急ぎ先頭グループに合流すべく駆け出した。


途中非戦闘員の生産職が固まるようにジョンの馬車の周りに集まっていた。

中にはガルドのように武器を構えた生産職もいた。


アルマはそんな生産職を一瞥しながら先頭を歩いていた紅蓮の剣に合流した。

紅蓮の剣のメンバーは全員が武器を抜き放ち、臨戦態勢を取っていた。

まだ、戦闘は始まっていなかった。


しかし、アルマの眼にもはっきりと敵の姿が映っていた。

それは20匹を超える緑色の肌を持つ小さな人の群れであった。


「あれはゴブリン?」


アルマは初めてそれを見てファンタジー世界に登場する小鬼を連想した。


「そうだ。あれがゴブリンだ。厄介なことにあいつらは武器を使う。気をつけろ。」


アルマの呟きを聞いてか横に並ぶディートヘルムがそう答えてくれた。

その言葉にアルマは緊張感が高まるのを感じた。

それは周りに集まった他のプレイヤーも同じだ。

皆一様に戦意を高めていく。


そんな様子を見ながら不意にディートヘルムが口を開いた。


「ハインツ!敵の数は!?」


呼ばれたハーフリング種の男性………ハインツは集まったプレイヤー皆に聞こえる大きな声でそれを叫んだ。


「敵、目視にて確認!剣9、こん棒4、弓6、武器なし5!合計24だ!」


「うむ。みんな聞いた通りだ!これだけのゴブリンの群れだおそらくぶつかれば乱戦となるだろう!各パーティ単位で対応を求む!敵の弓持ちそして武器なしの投擲に気をつけろ!」


ハインツの言葉にうなずいたディーヘルムは皆にそう伝えると「行くぞ!」と掛け声1つかけて駆け出した。

紅蓮の剣のメンバーは既に準備万端であったためディーヘルムを中心にしっかりと隊列を組んでゴブリンの1翼に食らいつく。

遅れて他のプレイヤーもゴブリンに向かって駆け出した。

アルマを右手に短剣を持ち突撃する。


(ソロで小回りの利く俺はまず………遠距離攻撃持ちを落とす!)


そう考えたアルマはすぐさま弓持ちのゴブリン1匹に肉薄した。

アルマの高い俊敏値で瞬く間に接敵したためゴブリンは矢をつがえる事さえできていなかった。

勢いをのせてゴブリンめがけて右手の短剣を振るう。

2度、3度と振るうとゴブリンは光となって消えた。


(よし!次!!………あ!!)


次の獲物を探そうとアルマが周りを見回すと弓持ちのゴブリン1匹がその弓を引き絞っているのが目に入った。

その狙いの先にいるのは紅葉だ。


「紅葉!あぶない!!………【ウォータアロー】【シュート】」


アルマは紅葉に危険を知らせると弓持ちのゴブリン目掛けて水魔法を放った。

寸分たがわず放たれたその水の矢はゴブリンの右肩を打ち抜いた。

その拍子に矢を手放してしまったのだろう。

ゴブリンの弓から放たれた矢はあらぬ方向へ飛んでいった。


「アルマ!すまぬ!」


アルマの警告を聞いて紅葉も自分を狙っているゴブリンがいることに気が付いた。

紅葉はすぐさま水魔法で右肩を射抜かれたゴブリンに駆け出し、その勢いをのせてゴブリンを両断した。


その光景を見ていた剣持ちのゴブリンが2匹、紅葉の方に近づいてくる。

アルマはそれを見て紅葉の横に並んだ。


「1匹は紅葉に任せるぞ。」


「心得た。くくく。こうしておると何時ぞや旅を思い出すのう?」


アルマは紅葉のその言葉に無言で答えると剣持ちのゴブリン1匹との距離を詰めた。

接近するアルマめがけて剣を振るうゴブリンだがアルマは右手の短剣を使ってその件をいなしていく。

ゴブリンが大きく剣を振りかぶった隙をついてその首を短剣の刃で深々と切り裂いた。

その攻撃にたまらずゴブリンは後ずさる。

1歩、2歩下がったところで追撃を行うようにアルマの短剣が再度襲う。

その攻撃を受けてゴブリンは光となって消えていった。


目の前のゴブリンを倒したことを確認したアルマはすぐさま紅葉の方を伺う。

目を向けるとちょうど紅葉もゴブリンを倒したところのようであった。

改めて周りを見回すともうすでにほとんどのゴブリンが討伐されていた。


残るは紅蓮の剣が相手している剣持ち1匹のみ。

それもすぐに終わるだろう。

誰一人として死に戻っている人もいなければ大きなダメージを負っている人もいなかった。

完勝である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ