042 みんなで行けば怖くない
◆王都グレアム
「一緒にガーソンまで行かないか」
そう言うガルドの表情は何処か子供の無邪気さを彷彿とさせるような笑顔であった。
アルマはその言葉に疑問を感じずにはいられなかった。
「少し待ってくれ………鉄のほうがブロンズよりいいのは何となく想像ができる。だけど態々ガーソンまで行く必要があるのか?王都との流通が回復しているならそのうちこっちの市場にも回ってくるんじゃないか?」
鉄が見つかったからと言っていきなりそこに行こうと言われて、じゃあ行こうと即答はできなかった。
確かに新しい素材には興味があったが現時点では今の武器「恐竜牙の青銅短剣」に不満は無いのだ。
多少なら待ってもいいのではないかと考えた。
「ああ、おまえさんの言う通り時間がたてばこっちでも鉄が手に入るようになるだろう。だけど俺らはゲーマーなんだ。新しい発見があれば我先にと集まるものだろ?それにおまえさんだって、いつまでも強化せずに待っていることはできないだろ?」
「う、確かにそれはそうだ。」
ガルドのもっともな返答にアルマは言いよどむ。
確かに現時点で今の武器に不満が無いとは言え、いつになるか分からない鉄の入荷を待って強化せずにいることはできない。
アルマはいつまでも王都にいるわけではないのだ。
「それにな、別に俺たちだけでガーソンまで行こうってわけじゃない。」
「それはどういうことだ?」
「それはね。今王都にいる生産職で集まってガーソンまで行こうって企画が上がっているのよ。発起人はそこにいるガルド君ね。」
ガルドはてるるのその説明に少し照れ臭そうに頭をかいている。
「護衛に戦闘職を雇って何人かの生産職とレイドを組んで大移動するの。楽しそうでしょ?」
そういうてるるの表情は満面の笑みを浮かべており、そのイベントを楽しみにしていることが見て取れた。
「おう。アルマもそれに参加しないか?」
生産職と戦闘職。
普段は一緒にフィールドに出ることのない2つの職種に着いたプレイヤーたちが一堂に集まって一緒に旅をする。
それは確かに心躍るものであった。
その光景を思い描いてアルマも思わず笑みがこぼれる。
アルマは2人についていく決心をして口を開いた。
「分かった。参加するよ。いや、是非参加させてくれ。」
アルマがそう言うと2人は笑顔でアルマを迎え入れた。
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「さて、それじゃあ武器の方はとりあえずは保留だな。アルマは『錬金』で「猛毒大蛇の毒腺」と「猛毒大蛇の蛇眼」が加工できたらその素材を見せてくれ。」
そうだ。
元々はアルマの新装備について話していたのだ。
ガルドはそう言って話を基に戻す。
「ああ、わかった。」
「それで、今回これはどうする?」
そう言ってガルドが指さしたのは「レーンクヴィストの毒核」………ユニーク素材だ。
前回、ダールベルクの時は防具に使用した。
その結果、その防具は「品質:ユニーク」となり付与効果に「決死の覚悟」というユニーク効果が発現した。
このレーンクヴィストのユニーク素材も何使うかを決める必要がある。
ここで決めなければ結局インベントリの肥やしとなってしまうからだ。
しかし、アルマはすでに決めていた。
前回は防具に使った。
なら、今回は………。
「今回は武器に使用するよ。」
「………そうか。」
軽く相槌を打つガルドの表情は綻んでいた。
きっとうれしいのだ。
ユニーク素材を使った生産はそう何度も経験できることじゃない。
特にこんな序盤では倒せるユニークだって限られてしまっている。
だからこそ、次の武器には自分が持てるすべてを詰め込んで挑もうとガルドは決意していた。
そんなガルドの胸中を知ってか知らずかてるるがアルマに話かけてきた。
「じゃあ、だいたい決まったかしらね。それで、防具の方はすぐに作成に取り掛かるのだけど………アルマ君、外套はどうする?」
アルマは今は外套に当たる装備をしていない。
それは単純に以前装備を作ってもらったときにダールベルクの素材が外套には向かなかったからであったからだ。
しかし、レーンクヴィストの素材は外套を作ることができる。
それならば態々装備枠を開けておく必要はないであろう。
「ああ、作ってもらえるか?デザインはローブ型で頼む。」
「ローブね。分かったわ。」
「お金はどれくらい必要だ?」
「そうねー。素材はほとんどアルマ君の持ち込みだから1Mギルでいいわ。もちろん今回もレーンクヴィストの素材引き取りでもいいわよ。」
てるるのその言葉に若干引いてしまうような値段が聞こえた気がした。
1M。
つまり100万ギルである。
しかし、今のアルマには払えない額ではなかった。
「まだ武器で素材を使うかもしれないからお金で払うよ。今は組合に預けてあるから後で引き出して払うね。」
アルマはそう言うとウィンドウを操作して素材と装備をてるるに渡した。
てるるはそんなアルマの言葉に「わかったわ。」とだけ言って受け取った素材を確認していった。
そんな2人のやり取りを見ながらガルドが不意に気になったのか口を開いた。
「そう言えば。アルマ、おまえさんアクセサリーは付けないのか?」
「アクセサリー?ああ、確か2つ枠があったっけ?そう言えば何もつけてないな。」
「2つ以外にもおまえさんは頭枠も空いているだろ?アクセサリーのピアス系の装備はアクセサリー枠だけじゃなくて頭枠にも装備できる。それを考えるとおまえさんの場合は3枠付けることができるな。」
ガルドから聞いてアクセサリーについても頭を巡らせる。
確かに装備枠を開けたままにしているのはもったいない気がしてきた。
「確かにアクセサリーの装備も考えたほうがいいかな?ガルドはそう言うのも作れるのか?」
「いや、俺は作れない。もちろんてるるもな。でも、アクセサリーを作れるやつに心当たりはある。というか、今度のガーソン移動のメンバーの中にいるな。その時に紹介してやろう。」
「本当か?それは助かる。ありがとう。」
アルマの感謝にガルドは「いいってことよ。」と軽く返事を返した。
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「さて、これで確認したいことは全部か?無いならお開きにするか。」
そんな風にガルドが2人聞いてきた。
「いや、まだガーソン行きの日取りとか聞いていないぞ。」
「おお、それは失念していた。わるいわるい。えっと、ガーソン行きはリアル時間で明日の18時半を予定している。ちょうど土曜日で他のメンバーと調整しやすかったんだ。アルマもそれでいいか?」
ガルドの言葉を頭の中で反芻し、自身のスケジュールと照らし合わせる。
と言っても男子大学生の休日のスケジュールなどあってないようなものだ。
アルマはすぐに問題ないことを結論付けるとそれを伝えた。
「明日の18時半ね。うん、大丈夫。」
「おう。じゃあ、その時間に王都北門前の広場に来てくれ。」
「わかった。」
アルマの返答を聞いてガルドが「今度こそ問題ないな?」と再び2人に聞いてきた。
2人は問題ないことを首を縦に振って伝える。
それを見てガルドは解散を宣言した。
「ああ。てるる。この後お金下ろすからそしたら渡すね。」
「うん。こっちも装備ができ上ったら連絡するわ。」
そう言いながら生産室を出て、その足で組合の窓口に訪れた。
アルマから請求されていた1Mを下ろすと、その場でてるるにそれを手渡した。
てるるはそれを受け取るとアルマに挨拶をして、そのまま生産室へと行ってしまった。
(さて、これからどうするか………)
ガルドとてるると別れたアルマは次に何をするか頭を悩ませていた。
ガーソン行きは明日とは言え、ゲーム内では結構な時間がある。
そのため、準備をするといっても今すぐにする必要はなかった。
(生産でもするか?………そうだ、ガルドに素材の錬金を頼まれているんだった。)
そう思い至るとアルマは生産者組合の窓口で生産室の使用を取り付ける。
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(さて、やるのはガルドから依頼されていた「猛毒大蛇の毒腺」と「猛毒大蛇の蛇眼」の加工と他にもポルジン森林で手に入れたアイテムがあったからそこから何か作れるか確認していくか………)
アルマはそう思うと早速「猛毒大蛇の毒腺」を加工するために机の上に取り出した。
猛毒大蛇の毒腺【素材】
品質 :B+
レーンクヴィストからとれる毒腺。レーンクヴィストが毒を生成する器官とその毒を体外に分泌するための器官。レーンクヴィストの毒は強力でなおかつその毒性は都度変化するため完治させるのは困難を極める。この器官から毒性を抽出することで強力な毒薬を作成することができるが扱いには注意が必要。
アルマはその素材の『鑑定』結果を確認していた。
確かにそこには毒性の抽出と書かれていた。
現状アルマが知っている毒性、薬効の抽出方法としては乾燥させて粉末状にしてしまうか、『錬金術』スキルの【分解】を使用するかだ。
これらの処理は今までだってやってきていた。
しかし、それは大量に手に入る薬草を使ってだ。
アルマはいきなり貴重な素材を使用することにためらいを持っていた。
(何かで試してみたほうがいいかな………でも、試せるものなんてあったっけ?)
アルマは再度インベントリを開いて中を順に確認していった。
(お?………これは。)
その時、1つの素材に目がいった。
森林蛇の毒腺【素材】
品質 :C
ポルジン森林に生息する蛇からとれる毒腺。蛇が毒を生成する器官とその毒を体外に分泌するための器官。この器官から毒性を抽出することで毒薬を作成することができる。
それはポルジン森林で嫌って程戦った蛇から手に入れた素材アイテムであった。
アルマはその『鑑定』結果を確認して、これなら試しに使ってみても問題が無いと思った。
アルマは早速その毒腺を使って毒の抽出を試みる。
まずは、乾燥させて粉末状にする方法を試した。
蛇の毒粉末【素材】
品質 :D+
毒性 :毒(第2種)
蛇が持つ毒を粉末状にしたもの。
単純に毒の粉末が出来上がった。
これでいいのかなと頭を悩ませながらもアルマはとりあえず今の結果をレシピブックに記載した。
頭を切り替えて次は『錬金術』による抽出を試みた。
蛇の毒粉末【素材】
品質 :C-
毒性 :毒(第2種)
蛇が持つ毒を粉末状にしたもの。
森林蛇の毒源【素材】
品質 :D+
森林蛇の毒腺から毒を生み出す要素を結晶化したもの。これ自体に毒性はない。
『錬金術』スキルの【分解】を使用したら2つの素材アイテムが手に入った。
1つ目は単純に乾燥した時と同じものだが、『錬金術』を使用したほうが品質が良くなった。
さらに2つ目素材。
フレーバーテキストを見る限り武器に使用するべきなのはこちらではないかとアルマは直感した。
そうでなくとも2つの方法を比較した場合、『錬金術』を使用したほうが良い結果なのは間違いなかった。
アルマはこの結果を受けて早速レーンクヴィストの素材でも『錬金術』を試みることにした。
大蛇の毒粉末【素材】
品質 :B-
毒性 :毒(第5種)
大蛇の持つ毒を粉末状にしたもの。通常の大蛇種より強力な毒を持つレーンクヴィストの素材を使用することで毒性が強くなっている。
大蛇の致死毒源【素材】
品質 :C+
大蛇の毒腺から毒を生み出す要素を結晶化したもの。これ自体に毒性はない。通常の大蛇種より強力な毒を生み出すレーンクヴィストの素材を使用することで生み出される毒は強力になっている。
机の上に出現した2つの素材アイテムを見た瞬間、アルマは小さくガッツポーズをした。
アルマの狙い通りに2つの素材が出来上がったのだ。
アルマは心躍る気持ちを抑えながら「猛毒大蛇の蛇眼」も同様に処置をしていく。
大蛇の麻痺毒粉末【素材】
品質 :B-
毒性 :麻痺(第2種)
大蛇種が稀に持つ麻痺毒を粉末状にしたもの。通常の大蛇種と異なり特殊な蛇眼を持つレーンクヴィストの素材を使用することで毒性が強くなっている。
大蛇の麻痺毒源【素材】
品質 :C+
麻痺毒を持つ大蛇種の毒腺から麻痺毒を生み出す要素を結晶化したもの。これ自体に毒性はない。通常の大蛇種とは異なり特殊な蛇眼を持つレーンクヴィストの素材を使用することで生み出される麻痺毒は強力になっている。
毒腺に続きこちらも予想通り2つの素材を得ることができた。
アルマは再びガッツポーズをする。
これでガルドに依頼された分は問題なくそろえることができた。
その達成感からかアルマは鼻歌交じりにその後もポルジン森林で手に入れた素材を使っていくつかのアイテムを作っていった。




