041 装備を強化しよう
◆王都グレアム
「さて………」
北の町ルースを訪れることを決心し、薬屋を後にしたアルマであったがすぐさま向かうようなことはしなかった。
当然であるアルマはルースの場所も知らないのだから。
だからこそいったんルースのことは頭の隅に追いやり、まずは今できることを考えた。
第1に思い出したのは膨大なレーンクヴィストの素材である。
それらをそのままにするのはもったいないと考えていたアルマはガルドに連絡することを思いつく。
すぐさまフレンドリストからガルドへ通話をかける。
しばらく呼び出し音が続いたのちに繋がった。
「おう。アルマか?」
「ああ。」
「おまえさんが連絡よこした理由は何となく予想付いているが一応聞いておこう。何の用だ?」
ぶっきらぼうにそう言うガルドの声色は努めて冷静でいようとしていることが透けて見えた。
ユニークモンスターを討伐したというワールドアナウンスは全プレイヤーに届いている。
きっと今すぐにでもアルマに詰問したいのであろう。
何をやっているのだと。
しかし、もろもろの感情を飲み込んでガルドは冷静にアルマから話を聞くことにした。
「うん。ワールドアナウンスで知っていると思うけどレーンクヴィストを討伐したからさ。その素材のことで相談したいんだ。主に武器や防具の強化について。」
「………やっぱりそのことか。」
ガルドはそう言うと黙ってしまった。
きっと今も彼の胸の内には色々な感情が渦巻いていることだろう。
「おまえさん今は王都か?」
「ん?ああ。」
そんなガルドの気持ちを知ってか知らずかアルマはどうでもないことのように話を続けていた。
その言葉がますますガルドのうちの感情を高ぶらせる。
「そうか。なら前と同じで生産者組合に来い。てるるには連絡したか?」
「いや、まだだけど。」
ガルドはそんな激しい感情を飲み込んで努めて冷静にアルマに問いかける。
「なら、テルルには俺の方から連絡しておく。いいか、すぐ来い。」
ガルドはそう言うと一方的に通話を切ってしまった。
いつもと様子の違うガルドの言葉を疑問に思いながらアルマは生産者組合に向けて足を向けた。
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生産者組合に着くとそこにはすでにガルドとてるるがいた。
ガルドはアルマの姿を確認すると、受付で生産室の使用を取り付ける。
以前来た時と同様に生産室の1室に3人が入る。
ガルドはてきぱきと3人が座る椅子を用意するとその1つにどさりと座り込んだ。
遅れて、てるるとアルマも椅子に座る。
しばし、静寂が部屋を包んだ。
アルマがその静けさに我慢できずに声をかけようとしたその瞬間。
―バン
ガルドが自分の膝に手のひらを強く叩きつけた。
その勢いのままアルマをガッとにらみつけ声を発した。
「で、おまえさんどうゆうことだ!!レーンクヴィスト!?なんでポルジン森林のユニーク討伐なんてことになっているんだ!?」
これまで我慢し続けていた感情が大声となって吐き出された。
アルマは圧倒されて椅子から転げ落ちそうになる。
てるるは予想できていたのか両手で耳を強く塞いでいた。
「百歩譲ってポルジン森林に行くのはいい!王都のすぐ近くだ!適正レベルが高いことや毒もちのモンスターが多いことを抜きにすれば狩場としては良い場所だろうよ!!しかし、ユニークモンスター討伐ってどういうことだ!?」
ガルドの勢いは止まらない。
椅子から立ち上がり今にもアルマに掴みかかるんではないかという雰囲気があった。
アルマはその勢いに理解が追い付かない。
「ユニークモンスターってのはよ、普通はパーティでそれも十分にレベリングして、十分にアイテムを揃えて………そういう風に準備万端で挑むものなんだよ!!それでも勝てるかどうかはわからない!!それなのにおまえさんはちょっとついでにみたいな感じにユニークモンスター倒してくるんだ!?」
ガルドのその勢いにあたふたとするアルマはてるるに助けを求めるように視線を向ける。
てるるもアルマの目から言いたいことを察したようだ。
しかし、自分には無理だと言わんばかりに首を横に激しく振って否定した。
「きっちりと説明してもらおうじゃないか!!ええい、一から十まできっちりとな!!」
そこまで言い切ったガルドは肩で息をした。
その目はいまだアルマを見据えており、ドワーフという種族を抜きにしても恐ろしいものに思えた。
「え、えっと………1から説明すると………」
ガルドの言葉が切れたのを確認してアルマは口を開き、レーンクヴィストを討伐するに至った経緯を説明した。
最初は薬屋での騒動から始まり、ポルジン森林で素材採取をしていたこと。
採取中にレーンクヴィストに遭遇してしまったこと。
そのレーンクヴィストに逃げずに立ち向かったこと。
余すことなくアルマはガルド達に説明した。
アルマの話を聞いているうちにガルドも落ち着きを取り戻したのか、今では再び椅子に腰かけていた。
顔を見ればまだ言い足りないがという気持ちが伝わってくるようであったが、それでも落ち着いて会話をすることができる状態になった。
「おまえさんの話を整理すると、ポルジン森林で素材採取中にレーンクヴィストに遭遇したから倒した。そう言うことか?」
ガルドは頭を抱えながらそうアルマに聞いてきた。
「ま、まぁ、簡単にまとめたらそんな感じかな。補足すると別に勝てると思っていたわけじゃないよ。勝てたのは偶然さ。」
顔を引きつらせながらアルマはそうガルドに答えた。
「勝てたのは偶然………ね。以前にも聞いたような言葉だね?」
アルマの話を聞いててるるがそう口を挟んでくる。
それもそのはずアルマはダールベルクの時だって「勝てたのは偶然」と言っていたのである。
それをアルマも自覚しているのだろう少し居心地の悪さを感じながらもそれでもそれ以外に表す言葉が無いと開き直る。
「確かにダールベルクの時もそう言ったけど、そうとしか言えないのだから仕方がないじゃん。」
「くすくす。そうね。きっとそうなのでしょうね。でもね、偶然も重なれば必然になるの。」
「ん?何が言いたいんだ?」
「単独でのユニーク討伐。1度ならず2度までもとなるとそれはアルマ君にそれだけの力があることの証明となるわ。」
てるるのその婉曲的な称賛にアルマは照れくさくなる。
むず痒さを感じながらアルマは話題を変える。
「いや、俺がレーンクヴィストを討伐した話は置いておいて………それよりも素材のことで相談があるんだ。」
アルマがそう言うとガルドとてるるは途端に表情を引き締めた。
それは期待に溢れる生産者の表情であった。
「えっと、レーンクヴィストを討伐して手に入れた素材は6種類………「猛毒大蛇の厚鱗」「猛毒大蛇の大蛇皮」「猛毒大蛇の大毒牙」「猛毒大蛇の毒腺」「猛毒大蛇の蛇眼」そして「レーンクヴィストの毒核」だ。前と同じで全部机の上に出すぞ?」
アルマがそう確認するとガルドは首を縦に振って肯定した。
それを確認して素材アイテムを次々と机の上に並べていく。
レーンクヴィストという大蛇を構成していた素材だけあって1つ1つがとても大きく、そして強い存在感を放っていた。
アルマが机から離れると入れ替わるようにガルドとてるるが机に近づき、素材1つ1つを手に取り確認していく。
アルマはその様子を観察しながら椅子に腰を下ろした。
しばらくその時間が続いた。
生産室にはガルド達が素材を取り扱う音だけが響いていた。
「よし、だいたいわかったぞ。」
全ての素材を確認し終えたガルドがそう口にした。
てるるも首を縦に振ることで自分も確認が終わっていることを伝えた。
2人がアルマに向き直りガルドが口を開いた。
「さて、前回同様まずは武器についてと言いたいところだが、ちょっと武器の方はあれ何でな先に防具の方を説明してもらえるか?」
「そう?じゃあ、防具の方から説明させてもらうわね。」
アルマはてるるの方に向き直り言葉を待つ。
「まず、前回作ったレーンクヴィスト装備については元々強化の余地を残してあったからそれを強化する方向を考えているわ。それは武器も同じよね?」
「ああ、そうだ。」
「そのうえで、前回作った4種の防具。ジャケット、パンツ、グローブ、ブーツ。これらの強化に「猛毒大蛇の厚鱗」「猛毒大蛇の大蛇皮」が使用できるわ。どのような強化になるかはやってみないとわからないわ。」
てるるは「猛毒大蛇の厚鱗」と「猛毒大蛇の大蛇皮」を指さしながらそう説明した。
「さらに、「猛毒大蛇の大蛇皮」はダールベルクの素材に比べてだいぶ軽いからこれを使って外套………マントやローブなんてのも作れそうよ。さすがに全部を革製にはできないから大部分は布で作って、要所要所をレーンクヴィストの皮で補強するような形ね。ここまではいい?」
てるるのその説明を聞いてアルマは首を縦に振って話についていけてることを伝える。
「それで、外套を作るための布素材なのだけれど………アルマ君、ポルジン森林に行っているなら蜘蛛の糸を持っていないかしら?」
アルマはその言葉を聞いてインベントリを確認した。
確かにポルジン森林で幾度となく戦った蜘蛛の素材の中に糸が入っていた。
「ああ、持ってるよ。」
「それならそれを使えば今市場に出ている布の中でも最高のものが作れるわ。」
てるるは顔を綻ばせながらそう言い、これで防具の説明は全部だと説明を終えた。
続いてガルドが武器の作成案について説明を口にした。
「さて、武器についてだが防具と同様に依然作った短剣を強化する方向を考えている。素材としては「猛毒大蛇の大毒牙」を使用する。」
そう言うとガルドは一度言葉を切った。
作成方針について悩みがあるのかゆっくりとした口調で続きを話し出した。
「おまえさんに相談なのだが、「猛毒大蛇の毒腺」か「猛毒大蛇の蛇眼」。この辺は『錬金』の素材になるんじゃないか?」
「ん?ああ、確かにその2つは『錬金』または『調薬』の素材になるぞ。」
その言葉に何か思い至ったのかガルドは決心のついた表情でアルマに話始めた。
「それならこれらの素材を『錬金』で加工したものを武器に使ってみてもいいか?おそらくレーンクヴィストの攻撃性能の多くはその素材に集約しているはずだ。」
「え?」
ガルドの説明に始め何を言っているのかわからなかった。
それを察したのかガルドが補足を説明するように再び口を開いた。
「『錬金』スキルで作成したものは他の生産スキルで使用できる素材アイテムがほとんどだ。今回、この「猛毒大蛇の毒腺」と「猛毒大蛇の蛇眼」はそのままでは『鍛冶』に使えないが『錬金』で加工した素材なら使用できる可能性がある。だからおまえさんにその加工を頼みたいのだ。」
懇切丁寧に説明してもらったことでアルマもガルドが何をしたいのかはっきりと理解できた。
ここで使わなければ死蔵するだけなのでその提案は渡りに船であった。
「ああ。そう言うことなら大丈夫だよ。」
「そうか、そうか。それは良かった。」
そう言いながら顔を綻ばせるガルド。
しかし、それもつかの間再び何やら言いにくそうな表情をしてアルマに向けて話始めた。
「実は提案はもう1つあっての。」
「提案?なに?」
「王都の北パルマーダ街道が解放されたのは知っているな?その先にある町については知っているか?」
「王都の北の町?確かパルマーダ街道を越えてベルクマン街道を東に行ったところに港町リヴィエールがあるんだっけ?それがどうしたの?」
「そうかそこまで知っているか。ベルクマン街道を東に行くとリヴィエールがある。じゃあ、西に行くと何があるかと言うと鉱山の町ガーソンがあるんだ。」
「ガーソン?」
「そうだ。現在王都で手に入る鉱石の最高はブロンズだがガーソンに行けば鉄が手に入る。相談というのはな、一緒にガーソンまで行って鉄で武器を作らないかという誘いだ。」
そう言うガルドの表情は一緒に遊ぼうと誘う子供のように無邪気なものであった。




