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040 魔女を探してあっちへこっちへ


◆王都グレアム 薬屋


王都南門の前で1夜を過ごしたアルマはその後、日が昇り門が開くのを待って薬屋に訪れていた。

理由は当然ルデン草の納品のためである。

営業時間がまだなのであろう薬屋の入り口には「Closed」と書かれた看板が掛けられていた。

しかし、中に人がいるのか物音はする。

依頼の報告なのだから急いだほうがいいだろうと思いアルマは扉を開けた。


―カラン、カラン


扉につけられた鐘が来店の合図を送る。

その音を聞きつけておくから人がやってきた。


「すみません。まだ、準備中でして………。」


カウンターの奥から来たのはあの日みた店員であった。


「あ、あなたは。」


「こんにちは。」


「あ、はい。こんにちは。」


アルマは店員と挨拶を交わす。

ぽかんとしている店員をよそにアルマは店員に近づく。

2人はカウンターを挟んで向かい合わせになった。


「依頼されていたルデン草の採取が完了したから、納品しに来た。」


「もうですか!?」


店員はアルマの仕事の速さに驚きを示していた。

アルマは店員のそんな反応を無視してカウンターの上にルデン草を積み上げていく。


「確認をお願い。」


「は、はい。」


淡々としゃべるアルマに押されながら店員はルデン草を1つ1つ手に取って、確認していった。

普段おどおどしていてもやはり薬師なのだ。

薬草を見るその目は真剣そのものであった。


200株もあるルデン草を1つ1つ確認していくだけあってその作業はとても時間がかかるものとなってしまった。

暇を持て余したアルマは店内を歩き回り、商品を観察した。


並ぶ棚には数多くの薬が陳列されていた。

アルマが作ったことのある基本的な薬から未だ作ったことのない薬、この辺では手に入らない薬草を使った珍しい薬まであった。

棚に並ぶ薬を1つ1つ興味深く見ていくとひときわアルマの注意を引き付ける薬棚があった。


(なんだこれ?………魔法薬?)


その棚には「魔法薬」と書かれていた。

その言葉に聞き覚えの無いアルマは立ち止まってそこにある薬をよく観察した。

一見するとポーションなどと同じで薬瓶に入っている水薬であった。

しかし、どこかその薬が放つ存在感のようなものが違っていた。


アルマはこの時知らなかったが魔法薬というのは薬の効果が表れるメカニズムの中に魔法的な要素が含まれるものを指す。

そのため魔法薬の製造には魔法の素養が不可欠であり、その分生産できる人も限られてしまう。

それほど珍しい薬をこの薬屋では扱っていたのだ。


(へー………こんな薬もあるのか………)


アルマが薬棚に並ぶ薬を興味深く見ていると店員から声がかかった。


「確認、終わりました。」


アルマは名残惜しさを感じながら店員の元に戻る。

店員の顔はどこか晴れやかに見えた。


「全部、問題ありません。」


店員は200株のルデン草を確認した結果をアルマに伝えた。

その言葉に胸を撫でおろす。


「それは良かった。」


アルマは努めて冷静に店員にそう返した。


「はい。それでこちらが報酬となります。」


店員はそう言うとカウンターの上にお金の入った袋を取り出した。

店員のその行動に呼応するようにクエストクリアを知らせるシステムメッセージが流れる。

アルマは店員の差し出した袋を受け取ると口を開いた。


「以前にも言ったが今後は他の異邦人にでも頼むといい。」


「は、はい。そうします。」


「ああ。それにレーンクヴィストは討伐したから現地人の冒険者も依頼を受けてくれるかもしれない。そっちも確認してみるといい。」


続くアルマのその言葉に一瞬店員はぽかんとした表情を浮かべた。

しかし、それは驚きに変わった。


「え、ええええ!!れ、レーンクヴィストを倒したのですか!?」


「ああ。ルデン草を採取している際に出くわしてな逃げきれそうになかったから、そのまま戦闘をしたんだ。そしたら運よく倒せた。」


大事なところが色々と抜け落ちらアルマのそんな説明に店員は訳が分からないといった表情をする。


「って、逃げ………いや、そうじゃなくて。え?運よく?って、えええええええ!?」


混乱する店員の話はすでに言葉となっていなかった。

アルマはそんな様子が可笑しく映ったのか、くすくすと笑っている。


きっと、ワールドアナウンスが流れた直後の異邦人たちもこんな反応をしていただろう。

そんなことを思いながらアルマは店員が落ち着くのを待った。


「は、いや。はあぁ。」


驚き疲れたのか肩で息をしながら店員はゆっくりとアルマに向き直った。


「まぁ、突然言われても嘘のように感じるのはわかっている。」


「いえ、疑っているとかではなくてですね。ちょっと、信じきれないというか………」


「うん。では討伐した証に素材でも出してみようか?」


「は、はい!?いや、確かに討伐したならあってしかるべき何でしょうけど………」


アルマはそう言うと店員の返答を待たずにインベントリを操作した。

そして「猛毒大蛇の大毒牙」を取り出した。


それは1mほどの巨大な牙であった。

真っ白なその牙は表面が綺麗なものでこれがレーンクヴィストのような凶悪なモンスターの物とは一見して分からなかった。

しかし、その牙が持つ存在感がその辺の有象無象の獣の物ではないことを証明していた。


「っつ!!」


店員はその牙を見て絶句してしまっていた。

アルマはしてやったりといった表情をしながらまたもくすくすと笑っていた。


「こ、これがレーンクヴィストの牙?」


「ああそうだ。これでレーンクヴィストを討伐したことの証明となったかな?」


アルマのその問いに店員は勢いよく首を縦に振った。

アルマはその様子を見て満足したのか「猛毒大蛇の大毒牙」をインベントリにしまった。

店員はいまだ興奮が冷めやらぬといったふうであった。


「さて、この通りレーンクヴィストは討伐されたから冒険者組合に採取を依頼しても問題なく受けてくれると思うぞ。」


「は、はい。おそらくポルジン森林の調査をする必要があるのですぐとはいえませんが、これで以前のように第2種キュアポーションを販売できるようになると思います!」


そう話す店員の表情はすごく晴れやかなものであった。

それは長い間頭を悩ませていたポルジン森林の素材が手に入らないという問題が解決されたからなのだろう。

そんな希望に満ちた未来を思ってきらきらとした目をアルマに向けた。


「うん。それは良かった。」


「はい。え、えーっと。あ、ありがとうございます。」


店員は体を大きく折り曲げてアルマに感謝を伝えた。

大げさともとれるそんな店員の感謝にアルマは気恥ずかしさを感じながらも誇らしく感じていた。


--


「そうだ、いくつか訪ねたいことがあるんだけど今時間は大丈夫かな?」


ふとアルマはこの店員に聞きたいことがあったことを思い出してそう口にした。


「はい。なんでも聞いてください。」


店員は満面の笑みでそう答えた。

レーンクヴィストの件があったからかとても機嫌がいいようだ。


「この店で売られている魔法薬。あれの製法を知りたいんだ。もちろん機密であるというのならば無理に聞き出したりはしない。」


「あ、魔法薬ですか………」


一転して店員の表情は暗いものとなった。

アルマはそんな様子を見て首を傾げた。


「何か問題があるのか?」


「はい。実は魔法薬を私は作れないのです。なので、製法は知らないのですよ。」


神妙な顔つきでそう話した店員の声色はどこか自信なさげであった。


「全く知らないのか?ほんの少しでもいいんだ。自分が作るうえでのヒントとなれば。」


「そ、そうですね。えーっと、魔法薬というものをどれくらいご存じですか?」


食い下がるアルマに店員は困ったようなしぐさをしつつそう聞き返してきた。


「全く知らない。」


「そうですか。魔法薬というのはですね、その薬の効果が表れる工程で魔法的な作用が働くものを指しています。例えばですね………。」


店員はそう言うと店の魔法薬の棚に近づき1つの魔法薬を手に取ってアルマの元に戻ってきた。


「この魔法薬………武器強化薬はですね、この薬をロングソードなどの武器に振りかけますと一時的に武器の持つ攻撃力を底上げしまう。」


店員はその薬をアルマに見せるようにしてそう説明した。


「しかし、普通に考えたら武器に水薬をかけたからと言って攻撃力が上がるのはおかしいですよね?」


「ああ、そうだな。」


「その認識は間違いではありません。しかし、その認識を越えてそれらを実現するのが魔法薬です。」


店員はそう言うと1度言葉を区切った。

ゆっくりと考えるようにして次の言葉を口にする。


「魔法薬はその特性上製造の工程で必ず魔法の素養が必要となります。薬の作成段階で魔法的な処置をしていると言われていますね。それは例えるなら鍛冶における付与のよなものだと考えられています。」


店員はそこまで言うと「以上です。」と言って説明を終わらせた。

アルマはその説明に納得の色を示した。


「なるほど、鍛冶の付与のようなものか………ありがとう。もう一つ聞きたいのだが、何故、作れないものが店の棚に並んでいるのだ?」


「それはですね、以前まで王都にいた魔女の方に作ってもらっていたからなんですよ。今ではその方も王都を離れてしまっていて次いつ入荷するかわかりません。そのため、魔法薬は今ある在庫分が切れると売れなくなってしまいます。」


そう言う店員の表情はだんだんと暗く沈んでいった。

それは自分の不甲斐なさを悔やんでいるようであった。

その雰囲気にアルマも申し訳なさがこみあげてきた。


「そ、そうか。いや答えにくいことを聞いてしまった。申し訳ない。」


「いえ、いいんですよ。」


店員はそう言うと持ってきていた武器強化薬を再び棚に戻した。


「もう1つ聞いていいか?」


アルマはそんな店員の所作を眺めながらそう口にした。


「はい。大丈夫ですよ。」


店員からの返答を聞くとアルマはインベントリを操作して1つのアイテムを取り出した。

それは手紙であった。


「実は俺はファートの町でグルナラさんという薬師に『調薬』の基礎を教わっていてな。俺が王都に行くといった際にグルナラさんの弟子、俺にとっては姉弟子にあたるんだが………ゲイルさんにあてた手紙を預かっている。これを届けたいのだけれど広い王都のどこにいるかわからなくて困っていたんだ。知っていたらでいいんだがゲイルさんの居場所を教えてはもらえないか?」


アルマがそう口にすると店員は驚いたような表情をした。

店員が再びアルマの前に立って、意を決したように話し出した。


「ゲイルさんという方は知っています。しかし、現在は王都にいらっしゃいません。先ほど魔法薬の説明の際に話していた魔女がゲイルさんなのです。」


アルマはその説明に驚きを隠せなかった。

そして期待をせずにはいられなかった。

もしかしたら、ゲイルに魔法薬の作り方を教えてもらえるのではないかと。

王都にいないのだから今すぐは無理でも自分は異邦人の冒険者だ。

ゲイルがいる場所まで行けばいいのではないかと考えていた。


「そ、それで。今どこにいるかとか知らないか?」


店員は少し考え込むようなしぐさをしてから口を開いた。


「たしか………以前王都をたつ際にはルースに行くと仰っていたと思います。」


「ルース?」


「はい。この国の北、フリートライト帝国との国境に近い街ですね。」


「なるほど北か………」


アルマは店員のその言葉を聞いて次の自分の目的地を定めた。

目指すは北。

そこに行きゲイルから魔法薬の作り方を教えてもらうんだ。

そう決意するとアルマは店員にお礼を言って店を後にした。


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