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039 蛇殺しは当りだったかもしれない


◆ポルジン森林


<ユニークモンスター『レーンクヴィスト』の討伐を確認。>

<称号『レーンクヴィスト討伐者』を獲得しました。>

<スキルポイント10Pを入手しました。>

<スキル『毒使い』の取得条件を満たしました。>

<貢献度からMVPを決定します………MVPはプレイヤー『アルマ』となります。>

<MVP報酬『レーンクヴィストの毒核』を入手しました。>

<ワールドアナウンス>

<ユニークモンスター『レーンクヴィスト』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>

<これによりポルジン森林が解放されます。>



ポルジン森林に仰向けに倒れるアルマはレーンクヴィストを討伐した達成感を噛みしめながら大量に沸いたシステムメッセージを眺めていた。

その表情は喜びが隠し切れないのであろう、にやにやと微笑みを浮かべた。


完全に弛緩しきっていた。

体中から緊張感が抜け落ち、冴えていた思考も今では亀の歩みのようなゆっくりとしたものとなってしまっていた。


ダールベルクに次ぐ2体目のユニークモンスター討伐。

その偉業を思えば彼のその行動も納得がいく。


しかし、ここはポルジン森林のど真ん中である。

今はレーンヴィストが暴れまわり周りに敵がいないからと言ってもそれも一時的なものである。

ましてやアルマはレーンヴィストの毒を受けており、それはまだ治っていないのだ。

今はHPリジェネローポーションの効果も切れて物凄い勢いでアルマのHPは減り続けている。


(………!!)


ひとしきりシステムメッセージを眺めて満足したアルマがついにその事実に気が付いた。

慌ててインベントリから新しいHPリジェネローポーションとHPローポーションを取り出してHP回復を試みた。


しばらく待って状態異常が回復したのを確認してアルマは立ち上がった。

辺りに敵はいまだ存在しなかった。

レーンクヴィスト討伐という大仕事をやり遂げて当初の目的が頭から抜け落ちてしまっていた。


アルマはしばらくぼーっと突っ立っていた。

ハッとなってポルジン森林に来た目的を思い出す。


ルデン草だ。

そう王都の薬屋で依頼を受けたルデン草の採取。

その作業の途中でレーンクヴィストに襲われたのだった。


未だ集まり切っていない薬草を思ったが辺り一面はレーンクヴィストが暴れまわったことで荒れ果てていた。

これでは目当ての薬草が採取できない。

そう思ったアルマは森の中に向けて再び歩を進めるのであった。


--


ポルジン森林でルデン草を集めきり王都に着くころには日が落ち切っており辺りは夜の暗闇が覆っていた。

空には星々が輝きを主張し、王都周りの草原は見渡す限りの闇が覆っていた。


暗闇の中遠くから見える王都に灯されたたいまつの光がゆらゆらと揺れる。

その光が外壁を照らし、王都の外周を怪しく浮かび上がらせた。

アルマはその光景を見ながら落胆の色を示した。


(夜だから当然外門は閉ざされているよね………)


ポルジン森林に面した王都の南門は固く閉ざされており、その前には数々の冒険者が野営をして夜が明けるのを待っていた。

ある冒険者は焚火を囲んで歓談し、ある冒険者は早々にテントの中で休んでしまっていた。

どうやら現地人と異邦人それぞれが入り混じっているようだ。


(結構いるみたいだけど、それでも西門、北門に比べたら少ないんだろうな………)


アルマの予想通り、南門で野営する冒険者は少ない。

それは王都南にはポルジン森林が控えており、この森林はアルマが倒すまでレーンクヴィストが居座っていたのだ。

そのため元々流通が多かった王都西門をはじめ王都の森やパルマーダ街道のある王都北門のほうが野営をする人々も多い。


それでも南門で野営している冒険者がいるのは、ポルジン森林で狩りをする命知らずか西門、北門の混雑を避けてきたかのどちらかだ。


(割合としては混雑を避けてきた人のほうが多いのかな………)


アルマがそう感じたのは彼らの装備を見てだ。

彼らの多くは狼もしくは小猿の皮から作られる防具に身を包んでいた。

もしも、ポルジン森林で狩りをするのであれば最低限大猿、できればブロンズを使った金属防具が欲しい。

アルマは自身がポルジン森林で得た経験からそう感じていた。


(それでも蛇毒の対応ができてないと結局死んじゃうんだけどね………)


王都の薬屋では第2種キュアポーションが無いことは以前確認していた通りだ。

素材はポルジン森林でしか手に入らず、ここ最近はその素材の入荷が悪いことも薬屋の店員から話を聞いている。

アルマみたいに個人で『調薬』を持っていて作成している場合もあるとは思うがここにいる冒険者は全員ががちがちの戦闘職のようであったから可能性は低いだろう。

そう考えるとやはりポルジン森林へ狩りに行こうとしている、もしくは狩りから帰ってきた冒険者とは考えにくかった。


そんなどうでもいいことを考えながらアルマは王都南門前で自身が野営をできるスペースを見つけた。

そのスペースに腰を落とすとインベントリから薪を取り出し火をつける。

ぱちぱちという焚火の弾ける音が響く。


焚火を眺めながらインベントリからケトルを取り出し、水を入れる。

焚火の火が十分に大きくなったのを確認してそのケトルを火にかけた。

アルマはお湯ができるまでゆっくりと待った。


ケトルの注ぎ口から湯気が立ち上り蓋がカタカタと揺れだした。

中の水が十分に温められたようだ。

アルマはそれを確認するとインベントリからカップを取り出しお茶を入れる。


「ふぅ。」


熱いお茶に口をつける。

安っぽいがどこか華やかな香りが口の中に広がる。

喉を通り、胃へと流れていくお茶が体を芯から温めてくれる。


ふと空を見上げる。

その夜空はいつぞやの野営で見たときと同じ、だけどどこか違った顔を持った星空だった。

星々の輝きが神秘な空気をまとっている。

アルマは再びお茶に口をつけた。

あたたかい。


周りでは冒険者たちが会話に花を咲かせる様子が耳に入った。

名前も知らないそんな彼らと同じ星空の下にいる、そんな当たり前のことを奇跡のように漢字ながらアルマはこの時間を楽しんでいた。


―くぅー


不意に腹の虫が空腹を知らせる音を鳴らした。

その音に可笑しくなって顔を綻ばせる。

アバターのステータスを確認すると満腹度が減っていた。


アルマはインベントリから兎肉を取り出し、それに長い串を指して火にかけた。

肉から滴る油が焚火に落ちてそれが食欲を刺激する。

ぱちぱちという焚火の音に合わせて、兎肉の色が薄い桃色から茶色に変わっていく。

時折火の当たる位置を変えながら兎肉を調理する。


兎肉の色がきれいなきつね色になったのを見て、中まで十分に火が通っていることを確認する。

『料理』スキルを持たないアルマにはそんな上等な料理を作ることはできない。

しかし、その油が滴った兎肉は十分においしそうな見た目をしていた。


串に刺したまま齧り付くように兎肉を口の近くに運ぶ。

こうばしい香りが食欲を喜ばせる

思わず顔に笑みがこぼれる。


(我慢できない。)


アルマはそのまま大きく口を開いて兎肉に噛みついた。

調味料など一切使っていないその肉はともすれば物寂しさを感じるだろう。

しかし、含まれた肉汁と滴る油が口の中で混ざり合い、不思議と甘さを感じた。

野趣あふれる兎肉自体の味や香りも相まって、それはアルマの空腹を満足させるだけにはとどまらなかった。

得も言われぬ幸福感に満たされる。

それはレーンクヴィストを倒したことの幸福感とはまた違ったものであった。


アルマは兎肉を堪能すると再び自身のステータスを確認した。

満腹度は回復しきっていた。

その結果に満足いったような表情をすると、再びお茶を入れたカップに口をつけた。

王都南門の夜はまだ長い。


--


「今のうちにレーンクヴィスト討伐で手に入れたアイテムを確認しておくか。」


そう呟きながらアルマはインベントリを開いた。

そこにはダールベルクのとき同様に膨大な数のレーンクヴィスト素材が入っていた。

それも当然である。

ダールベルクのとき同様に今回もアルマ1人での討伐なのだ。

本来なら複数人に分配されるアイテムがすべてアルマ1人のインベントリに入っているのだ。

アルマはそのアイテムを上から順に確認していく。


(手に入った素材アイテムは6種………「猛毒大蛇の厚鱗」「猛毒大蛇の大蛇皮」「猛毒大蛇の大毒牙」「猛毒大蛇の毒腺」「猛毒大蛇の蛇眼」そして「レーンクヴィストの毒核」か。)


猛毒大蛇。

それがレーンクヴィストを指した異名であることはダールベルクの例からわかっていた。

確かにあいつは猛毒をまき散らす大蛇であった。

それは直接戦闘したアルマだからこそ知っていたことである。


(この素材で何を作るか………武器も防具もダールベルク素材で作ったばっかりなんだよな………)


「猛毒大蛇の厚鱗」「猛毒大蛇の大蛇皮」は防具に「猛毒大蛇の大毒牙」は武器に利用できることは予想ができた。

しかし、それらは最近新調したばかりである。

RPGゲームである以上次のステージに行けば防具はどんどん強化する必要があるのはアルマだってわかっている。

しかし、現時点でダールベルク素材を使った装備に不満や力不足を感じたことが無いのである。

だからこそこれらをどうするか迷っていた。


(まぁ、これはガルド達に相談するか………)


これらの素材の中で「猛毒大蛇の毒腺」と「猛毒大蛇の蛇眼」は『調薬』や『錬金』で素材として利用できることが分かった。

しかし、それでできるのは強力な毒薬であろうことが予想できる。

しかも消耗品である。

貴重なそれももう手に入れることができないレーンクヴィストの素材を消耗品に使うことは戸惑われた。


(さらに大問題のユニーク素材だよな………)


「レーンクヴィストの毒核」それはダールベルクの時に手に入った暴核と同様に「品質:ユニーク」の素材アイテムだった。

当然それはレーンクヴィストの力を示しており、それから作れる武器や防具は岩狂暴竜のジャケットの例からわかる通りに強力なものとなることは明らかであった。

だからこそ死蔵するのはもったいないと感じていた。


(問題は武器にするか防具にするか………それもガルド達に相談するか………)


もうすべての問題をガルド達に投げればいいかと身も蓋もない考えに至りアルマはインベントリを閉じた。


次に確認したのは新たに取得可能になったスキルについてである。


(………これは!!)


スキル『毒使い』。

このスキルは2つの能力が複合されている。

「毒強化」と「毒耐性」である。


毒強化はスキル保持者が行った毒攻撃またはスキル保持者が作成した毒の毒性を強化する。

つまり、アルマであれば自身が作った毒薬を強化することができる。


さらにこの『毒使い』スキルにはスキル保有者が行った毒攻撃、またはスキル保有者が作成した毒に対する耐性も持っていた。

アルマが毒薬を【ミスト】で拡散した場合、自身もその毒に侵される。

このスキルがあればそれを防ぐことができるのだ。


アルマにとってこのスキルは自身のスタイルを単純に強化することができる神スキルといえよう。


(っつ、でもスキルポイント8Pも使うのか!!)


当然強いスキルになれば取得するのにかかるポイントも大きくなる。

アルマは悩みながらもこのスキルの有用性を考え取得する決心をする。


(レーンクヴィスト討伐してスキルポイントも入ってるし良いだろう!!)


アルマは仮想ウィンドウに表示された「取得」のボタンを押した。

保持している残りスキルポイントの数値が減少して控えスキルに『毒使い』が追加された。

アルマは早速、自身のスキルを整理して『毒使い』をセットする。


そして再び自身のステータスを見て満足そうに微笑むのであった。


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