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038 2度目の偉業


◆ポルジン森林


―シュー、シュー


風船から空気が抜けるような音を発しながらレーンクヴィストは静かにアルマを見据えていた。

それはまさしく獲物を見定める目であった。

確かにこの場においてレーンクヴィストは捕食者であったし、アルマは被捕食者であった。

それほどまでに力の差があったのだ。


レーンクヴィストはアルマを観察するのをやめたのかゆっくりと動き始めた。

しかしそれは襲うのをやめたわけではない。

助走をつけるようにゆっくりと首をもたげた………次の瞬間!!

レーンクヴィストはアルマめがけて大口を開けて飛びかかった。


度重なる蛇との戦闘でこの手の敵がどういう行動をとるかをアルマは知っていた。

しかし、今まで戦ってきた蛇と比べてレーンクヴィストの大きさはけた違いであった。


(くっそ!!避けきれるか!?)


だからこそ全力で回避しても避けれるかどうかは際どかった。

しかし、見事にアルマはその攻撃を回避した。

攻撃を回避されたレーンクヴィストはその巨体で回りの木々をなぎ倒していく。


アルマは地面に倒れた姿勢でそれを眺めていた。

すぐさま次がくる。

そう感じたアルマはその両の足で立ち上がる。

アルマの予想通り、レーンクヴィストはUターンするように戻ってくると再びアルマに向かって飛びかかってきた。


アルマは再びそれをギリギリで回避する。

攻撃し返す余裕などなかった。

それでもこんなところで死んでたまるかという一心でアルマは回避し続けたのだ。


何度目かになるレーンクヴィストの飛びかかり。

それを同じように避けたアルマであったが、ここにきてレーンクヴィストが行動を変えた。

レーンクヴィストは避けられるのを予測していたのか、その大口がアルマに当たらないのを確かめると次に飛びかかるのではなく長いその胴をアルマめがけて薙いできたのだ。


レーンクヴィストが暴れたことで木々がなぎ倒され、広いスペースができていたためその攻撃を邪魔するものはなにも無かった。

アルマも攻撃を避けた直後ということもあってその攻撃に対処することはできなかった。


巨体が誇る重量が攻撃力となってアルマに襲う。

アルマの小さな体は吹き飛ばされ、2回、3回と跳ねて止まった。

HPは大きく減っている。


しかし、アルマにとっては減ったHP以上のダメージを受けていた。

回避に全力を費やしても避けきれない。

その事実はアルマが今まで戦ってきて初めてであった。


それでも逃げ出すわけにはいかない逃げようとすればすぐさまレーンクヴィストはアルマを仕留めに来るだろうと考えたアルマはすぐさまHPローポーションを使用してHPを回復する。

幸か不幸か大きく吹き飛ばされたことでレーンクヴィストとの距離が開いた。

だからこそ回復する隙ができたのだ。


しかし、そんなものは幻想であった。

遠く離れたレーンクヴィストが大口を開けてアルマの方を向いている。


(また、飛びかかりか?)


そう思った直後にレーンクヴィストはその口から緑色の毒々しい液体を飛ばしてきたのだ。

それは例えるならば砲弾のようであった。

直径1mは超える水球がアルマめがけて一直線に飛んでくる。

その攻撃はアルマの予想を超えた速度を誇っていた。


回避は間に合わない。

しかし、直撃したらまずい。

そう考えたアルマはとっさに両手を顔の前で交差させて防御を図る。


次の瞬間巨大な水球はアルマに直撃した。

その勢いは強く、アルマは再び吹き飛ばされてしまった。

視界の端で回復したHPが再び減っていくのが見えた。


吹き飛ばされたアルマは地面を転がり、止まった。

ゆっくりと立ち上がり残りHPを確認する。


(っつ!!おかしい、HPが徐々に減っていっている!!まさか!?)


アルマのHPは確かに時間経過とともに徐々にその数値を減らしていたのだ。

これはおかしいとアルマは必死に頭を悩ませる。

まさかと思い至りステータスを確認する。


状態異常:猛毒(第5種)


アルマのステータスにはそう表記されていた。


(な!!猛毒!?それも第5種ってなんだ!?)


今まで見たことが無い状態異常であった。

通常毒に侵されれば状態異常の表記は「状態異常:毒」となる。

それが猛毒となっているということは今のこの状態がより強い毒の影響なのだと実感させた。


そのうえその毒性は第5種である。

現在手元にある第1種キュアポーションならびに第2種キュアポーションでは治すことができない。

それはつまり今まさに減り続けているHPを止める手立てが無いということ。

HPが0になるまでにレーンクヴィストを倒すなり、逃げるなりしないといけないということだ。


(っつ!)


アルマはせめてもの抵抗とHPローポーションを飲んで減ったHPを回復する。

しかし、猛毒状態を治すことはできない。

レーンクヴィストは離れてしまったアルマとの距離を詰めるようにゆっくりとこちらに迫ってくる。

万事休すか………そう思った矢先にアルマはあるアイテムを思い出す。

アルマは急ぎそのアイテムをインベントリから取り出した。



HPリジェネローポーション【消耗品】

 品質  :D+

 回復量 :20~28

 持続時間:60秒

 HPを継続的に回復するポーション。回復量は少なめ。



それは王都の森で手に入った素材から作り出した新たなポーションであった。

これを使えばHP減少の速度を緩めることができるのではないかと考え、アルマはすぐさまそのポーションを服用した。

アルマの予想通り、猛毒によるHP減少は止まりはしないまでも緩やかなものになった。


(これで、まだしばらくは戦える!!)


そう意気込むも取れる手立てが無いことには変わりない。

アルマは必死にレーンクヴィストに勝てる手を考えた。


(避けることに必死になっている今勝つのは不可能。………ならば、避けなければ良いのではないか?それには………。)


アルマは1つの作戦を思いついた。

それは必勝とは言うことができないような策であった。

それを表す様にアルマの表情は不安の色を表していた。


レーンクヴィストはいまだアルマを間合いに納めていない。

やるなら今しかない。

その事実がアルマにその作戦を実行させる後押しとなった。


「………【ウォータ】【ミスト】!!」


アルマは水魔法を使い辺り一面を霧で覆う。

それはアルマ自身を包み込み、そしてレーンクヴィストさえも包み込んだ。

霧は深く、周りの様子はおろか自分の体さえもよく見ることができない。


(これならレーンクヴィストもこっちを見つけることができないはずだ!!)


しかし、それはアルマも同じ。

アルマ自身もこの濃霧のせいでレーンクヴィストの姿を見ることはできなかった。

アルマもそれは納得したうえでこの魔法を使っている。

続く、手立てでそれを打開しようとしていた。


「………【センス】」


【センス】………それはアルマの『下級水魔法』がレベルアップしたことで覚えた新たな魔法であった。

その効果は自身が魔法で操っている水に触れているものをアルマ自身も感じ取れるというもの。

アルマはそれを今まさに水魔法で生み出したこの霧に使用した。


(よし、レーンクヴィストの居場所がわかるぞ!!)


初めて使う魔法である。

そのためどの程度の効果があるのか判断がつかなかった。

しかし、その魔法はアルマが想像した通りの効果を発揮して今まさにアルマにレーンクヴィストの居場所を伝えていた。


(レーンクヴィストはこの霧で俺のことを見失っている!!これで一方的に攻撃できるぞ!!)


アルマはそう思うと右手に持った短剣を強く握った。

ずしりとした重さに頼もしさを感じる。


その頼もしさを手にアルマはレーンクヴィストめがけて駆け出した。

濃霧によってアルマの姿を見失ったレーンクヴィストはそれに反応しない。

そのままの勢いをのせてアルマは右手の短剣をレーンクヴィストの長い胴体めがけて振るった。


(っつ、蛇より硬い!!でも切れなくはない!!)


レーンクヴィストの強靭な体は確かに今までこの森で戦ってきたどの敵よりも硬いのであろう。

しかし、ダールベルクの素材から作られた短剣、恐竜牙の青銅短剣の誇る攻撃力を前に決して切れないものではなかった。


「グルルルルル」


攻撃を受けたことによる痛みからかレーンクヴィストが低く唸る。

アルマはそれを聞きながら2度、3度とレーンクヴィストの体を切り裂いていった。

たまらず胴体をうねらせて暴れるレーンクヴィスト。

アルマはいったん距離を取りながらそれを回避するとすぐさま次の攻撃のために駆け出した。


1人と1匹の周りは変わらず濃い霧が包んでいる。

じっとりと肌に着く嫌な感覚が今は頼もしく感じる。

アルマは視覚に頼らずにレーンクヴィストの体全体の動きを把握し、次々と攻撃を当てていった。


(このまま攻撃を続ければ勝てる!!)


攻守は完全に逆転していた。

先ほどまではアルマは避け続けることしかできなかったし、レーンクヴィストは攻撃だけを行っていればよかった。

それが今ではアルマは攻撃だけに全神経を集中して、レーンクヴィストはそんな攻撃者の動きを止めようと暴れまわっている。


アルマは時折、猛毒で減ったHPを回復するためにHPローポーションを使用したりしてはいるもののほぼ休みなく攻撃を続けていた。

だからこそ生まれたのであろう。

それは油断だった。


アルマはレーンクヴィストはこちらを見ていないからこそ攻撃し続けることができると思っていた。

実際、霧を生み出してからこちら今まではアルマが一方的に攻撃し続けていた。

しかし、いつからだろうかレーンクヴィストのその顔がアルマの方を向いていたのだ。


アルマはそれに気が付かない。

このままいけば勝てる。

そんな希望に縋って今もひたすらに右手に握る短剣を振るっているのだ。


レーンクヴィストがその首を大きく振り上げた。

アルマも一瞬何をしているんだと疑問に思うもすぐにその考えを追いやると攻撃するためにレーンクヴィストとの距離を詰めた。


それは強い衝撃を持って襲ってきた。

レーンクヴィストが大きく振り上げたその首をアルマめがけて強く、強く振るったのだ。

レーンクヴィストが攻撃することなど考えていなかったアルマはその攻撃をもろに受けてしまう。


アルマは遠くに吹き飛ばされる。

当然その衝撃はアルマのHPを大きく減らした。


(っつ!!痛い!!!!なんで!?なんでレーンクヴィストが俺めがけて攻撃できるんだ!?)


その疑問はもっともである。

アルマの建てた作戦では濃霧を持ってお互いの姿を見えなくしてしまい、そのうえで別の魔法を持ってアルマだけが一方的に攻撃するというものだから。

今も濃霧は変わらずレーンクヴィストを包んでいる。

その濃さが変わっているということは無い。


(なんで!?今までうまくいっていたのに!?)


レーンクヴィストはすでにアルマの姿をはっきりと認識しているのであろう。

その首はしっかりとアルマの方を向いていた。


(くっそ!!)


次の瞬間には霧を出す前と同様にアルマめがけてレーンクヴィストが飛びかかってきた。

【センス】の魔法でそれを感知したアルマはすぐさま回避を行う。


(とにかく回復しないと!!)


再びレーンクヴィストがアルマめがけて飛びかかる。

それを回避しながらアルマはHPローポーションを使用してHPを回復した。


(何であの蛇はこっちが見えているんだ!?)


回避を続けるアルマの頭にあるのはその疑問だけだった。

またも攻守逆転とばかりにレーンクヴィストの激しい攻撃が続く。


(蛇。………蛇!?)


アルマは1つの考えに思い至った。


(蛇は単純な視覚で獲物を見ているわけではない。確かピット器官と言ったかな?それを使って熱を見ることで獲物を見ているんだ!!)


レーンクヴィストの振るった胴体を避けきれずにまたもアルマは吹き飛ばされてしまう。

ふらつきながら立ち上がりHPローポーションで回復する。

その目は絶望に染まっていた。


(畜生。畜生!!今の俺に手立てはない。勝てない。)


吹き飛ばされたことで再び2者の距離が開いた。

そのためにレーンクヴィストの攻撃もいったんは止んだ。

しかし、それも時間の問題である。

レーンクヴィストが距離を詰めれば、またその巨体はアルマに襲い掛かるだろう。


絶望的な表情でそれを見つめるアルマ。

しかし、勝てないとわかってはいても思考を止めることは無かった。


(ピット器官、熱。………熱!!)


アルマは急ぎインベントリを開いて目当てのアイテムを探した。

レーンクヴィストはゆっくりとアルマに迫っている。

残された時間はあと僅かであった。


(あった!!)


目当てのアイテムを取り出し『鑑定』する。



耐寒薬【消耗品】

 品質  :D-

 耐寒  :低

 持続時間:8時間

 服用することで体温を上昇させ、一時的に寒さに強くなる。また、空気に触れた場合は液体そのものが発熱する為保管には注意が必要。



この薬は本来寒冷地で普段通りの活動をするために体を温める薬だ。

しかし、保存が難しく空気に触れるとこの液体自体が発熱するという特性がある。

そうこの液体自体が熱を持つのだ。


熱を感知して獲物を見つけるレーンクヴィスト。

この薬を使えばやつの眼を欺けるかもしれない。

アルマはすぐさまその薬瓶を開いた。


「………【フロート】【ミスト】」


そして、水魔法を使って先ほど同様に濃霧を作り出す。

次はただの水ではない。

この耐寒薬を使って濃霧を作り出した。

濃霧は瞬く間にアルマとレーンクヴィストを覆い隠した。


「………【センス】」


先ほどと同様に新たに生み出した霧に対しても【センス】の魔法を使う。

そうするとレーンクヴィストの姿が目を使わずとも感じ取れるようになった。


「………よし!」


アルマは小さくガッツポーズをした。

【センス】の魔法で確認したレーンクヴィストの姿はアルマの姿を見失ったのであろう、長い首をもたげて右へ、左へと動かしていた。

まるで、獲物の姿が突然見えなくなってしまったかのようであった。


アルマは再び右手に持つ短剣を強く握った。

今ならばレーンクヴィストに一方的に攻撃できるはずだ。

その思いを持って地を強くけった。


肉薄するアルマにレーンクヴィストは無反応だ。

耐寒薬は確かに仕事をしてくれた。

そのことがアルマにさらなる自信をつけさせてくれた。


その勢いを殺さぬまま、アルマは右手を振るった。

レーンクヴィストの体に再び切り傷が刻まれた。

2度、3度。

アルマは何度も何度も攻撃を行う。


レーンクヴィストもただされるがままではなかった。

見えないならば見えないなりに考えたのであろう。

全身を激しく動かし、自身を攻撃してきているアルマに攻撃を試みる。


アルマは【センス】の魔法でそれを正確に捉えるとその高い敏捷性を生かしてすべての攻撃を避けていく。

すれ違いざまに右手を振るうのを忘れずに。

攻撃事態はお互いにしているはずなのにレーンクヴィストばかりが傷が増えていく。

再び攻守が逆転したのだ。


アルマはもうここでけりをつけるという勢いで攻撃をし続ける。

最後の一撃。

そう意気込んで木々を使ってレーンクヴィストめがけて大きくジャンプした。

空中に浮いているアルマをレーンクヴィストは見失っている。

アルマはレーンクヴィストの頭めがけて右手の短剣を強く突き刺した。


「グ、グァアアアアアアアアアアアアア!!」


断末魔を上げてレーンクヴィストが倒れる。

つられてレーンクヴィストの頭にいたアルマも投げ出される。

アルマはすぐさま起き上がりレーンクヴィストの様子を【センス】の魔法で伺う。

それはもう動き出すことは無かった。

しばらくするとその死体は多くの光の粒となって虚空へと消えていった。


アルマの勝利だ。

あの凶悪な大蛇に確かに勝ったのだ。

それはアルマの視界端に映る通知が示す通り数多くのシステムメッセージが証明してくれた。


--


<ワールドアナウンス>

<ユニークモンスター『レーンクヴィスト』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>

<これによりポルジン森林が解放されます。>


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