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036 ポルジン森林の隠れた敵


◆ポルジン森林


王都の薬屋を後にしたアルマはポルジン森林を訪れていた。

そこはランフランク山麓の森とよりも歴史があるのか生い茂る木々は太く大きなものであった。

空高くに浮かぶ太陽の光を遮る枝葉はアルマの手の届かないところまで伸びており、その1本1本はアルマの腕の太さを優に超える程であった。


森の中を抜ける風が木々を揺らしてガサガサと音を立てる。

風に揺られ落ちてくる葉は青々とした色をしていた。

苔むした幹から延びる根はこれまたアルマの身長を超えるサイズを誇り、それらが行く手を阻む。


歩きにくさを感じながらもやっとの思いで森の中へと入っていく。

所々、木々の間から日の光が差し込んでおり、その光は大地に別の草花を芽吹かせていた。

アルマはそれらの中から薬草となるものを厳選し、採取していく。


(よし、第2種キュアポーションの材料もだいぶ集まってきたな。)


依頼された分量には遠く及ばないまでも自分一人が使うには十分な量のルデン草が手に入ったことを確認したアルマは、周りに危険が無いことを十分に確認したうえで調合セットをインベントリから取り出した。

第1種キュアポーションを作る要領で、ルデン草を乾燥させ、粉末にする。

そして沸騰したお湯に入れて煮立たせる。


第2種キュアポーション【消耗品】

 品質 :D

 毒性第2種に分類される毒を解毒する。


出来上がったキュアポーションを『鑑定』して問題が無いことを確認する。

アルマは残りのルデン草も第2種キュアポーションに加工していく。

森の中にはアルマが薬研を引く音が響いていた。


「ふー。」


全てのルデン草を第2種キュアポーションに加工し終えてアルマは一息ついた。

第1種キュアポーションと同じ要領ということもあり元々慣れていた作業だ。

作業の時間はたいしてかからなかった。

アルマは調合セットをしまうと、再び森の奥に向けて足を進めだした。


--


―ガサ、ガサ


森の中で何かが動くような音が聞こえた。

アルマは採取を行っていた手を止め、そちらに注意を向ける。

音の主は草むらの奥にいるようだった。

アルマの立っている場所からはその姿を見ることができない。


アルマが草むらを分け入ってその姿を見に行くか迷っていると向こうから飛び出してきた。

それは蜘蛛であった。

アルマの身長ほどの体長を持つ大きな、そしてグロテスクな蜘蛛だ。

真っ黒な体躯に赤い血を垂らしたかのような模様の入った体を持ち。

その8本の足は体同様に真っ黒で、そしてその先はナイフのように鋭く尖っていた。


「………【ウォータアロー】【シュート】」


アルマは距離があるうちにダメージを与えてしまおうと、姿を確認すると同時に水魔法を放った。

水魔法はまっすぐに蜘蛛に向かって飛んでいき、その大きな腹に突き刺さる。

アルマは効果を確認する暇もなく短剣を抜き放ち、蜘蛛との距離を詰めた。


蜘蛛も水魔法で攻撃を受けたことで一瞬怯んだものの、すぐさま気を持ち直すと接近するアルマめがけてその足を振るった。

アルマは蜘蛛の攻撃を右へ、左へよけながら短剣で蜘蛛の体に傷を増やしていく。

何度目かになる短剣の振り下ろしで蜘蛛は光となって消えた。


―ガサガサ、ガサガサ


危なげなく蜘蛛との戦闘を終え、感傷に浸る暇もなく周りの草むらから新たに蜘蛛が飛び出してきた。

その数、実に6匹。


(え?だ、大家族ですか?)


その数に若干引きながらも落ち着いて短剣を構えるアルマ。

その顔には緊張の色が見て取れた。


(囲まれたら終わりだ。)


そう思うとアルマは必死に足を動かして6匹の蜘蛛に囲まれないように位置取りをする。

その間に隙を見て水魔法を放つことも忘れない。


蜘蛛もアルマの攻撃を黙って受けているだけではない。

アルマの水魔法を避けながらアルマに向かってその鋭い足を振るう。

しかし、敏捷値の差のせいか、アルマが全力で回避をするとその体をとらえることはできなかった。


水魔法による攻撃、短剣による攻撃。

6匹の蜘蛛と入れ替わり立ち代わり攻撃を繰り返すアルマ。

アルマの攻撃は少しずつ蜘蛛のHPを減らしていった。

当然HPが0となった蜘蛛は光となって散って消える。

1匹また1匹と数を減らしていき、ついにはあと2匹というところまできた。


そのせいで気が緩んでしまったのか、アルマは蜘蛛と距離を取った場所で足を止めてしまった。

終始有利になるように立ち回っていたアルマがここで初めて足を止めたのだ。

その隙を蜘蛛が見逃さなかった。


今まで見せなかった攻撃。

それは蜘蛛の腹の先端をアルマに向けて放たれた白い糸であった。

アルマはそれを避けることができず、左腕に受けてしまう。


(な!!………でも、ダメージは無い!!)


HPをちらりと見てダメージが無いことを確認するとアルマはすぐさま蜘蛛めがけて駆けようとする。

しかし、動かなかった。

違う、動けなかったのだ。


アルマの左腕に着いた糸はアルマの体を真後ろの木にがっちりと固定してしまい、その場から動くことができなくなってしまった。


(動けない!!まずい!!)


アルマが動けないことを確認した蜘蛛はゆっくりとアルマに迫る。

アルマはせめてもの抵抗と水魔法で近づく蜘蛛を牽制する。


蜘蛛がその大きな顎から延びる牙を煌めかせる。

その牙からは何やら緑色の毒々しい液体がしたたり落ちていた。


後一足でアルマに届くというその距離で蜘蛛は大きく飛び跳ねた。

しかし、アルマもあきらめてはいなかった。

固定された左腕を軸にして大きく体を捻って、蜘蛛の噛みつきを避ける。

そして、近づいた蜘蛛めがけて右手に持った短剣を勢いよく振り下ろした。


蜘蛛も満身創痍だったのであろう。

その攻撃を受けて蜘蛛は光となって消えてしまった。

残りは後1匹だ。


仲間の1匹がやられて学習したのか蜘蛛はアルマの身動きを取れなくするために再び糸を吐き出した。

アルマは体を捻ってそれを回避する。

しかし、それが何度も続かないことはアルマ自身が知っていた。


アルマはイチかバチかにかけてインベントリから炸裂薬を取り出す。

そして水魔法で牽制しつつその炸裂薬を蜘蛛めがけて投げつけた。

運がよかったのだろう。

炸裂薬は蜘蛛の胴をとらえた。

大きな爆発音とともにもたらされるその衝撃は蜘蛛のHPを0にすることができた。


「ふー。」


アルマは危機が去ったことを悟ると胸を撫でおろす。

落ち着いた手つきで左手に絡まった蜘蛛の糸を切り、自由を取り戻した。

そして、再び森の奥に向けて足を進めるのであった。

採取したルデン草はまだ足りない。


--


―ガサガサ、ガサガサ、ガサガサガサガサ


アルマを取り囲むように無数の木々が揺らめく音が響く。


「な!!モンスターのポップおかしいだろ!!!!」


そんな風に叫ぶアルマに飛びかかる蜘蛛。

その後ろにも蜘蛛。

その横にも蜘蛛、蜘蛛。


見渡す限りの蜘蛛がアルマを襲っていた。


「畜生!!根性で回避しつくしてや、る!!!!」


語気を強くしながら飛びかかる蜘蛛の群れを必死に回避し続けるアルマ。

当然、合間合間に攻撃することは忘れない。

しかし、1匹2匹倒したからと言って余裕ができる程、眼前の蜘蛛の数は少なくない。

それほどまでに尋常じゃない数があふれていた。


「この森中の蜘蛛がここにいるんじゃねえよな!!」


今の状況に愚痴らずにはいられなかった。

身軽な体を生かして木の枝に飛び乗り地面を観察するとそこは蜘蛛の絨毯であった。

土の色がはっきりと見えない。

怪しく暗いその絨毯はもぞもぞとうごめいている。


アルマはその光景に鳥肌が立つような感覚を覚えた。

数匹の蜘蛛が木に張り付き上って来ようとする。

アルマはそれらを水魔法で撃退する。


何時までも木の上にいてもしょうがないと観念して、蜘蛛が待つ地上に降り立つ。

振るう短剣が蜘蛛の腹を切る。

飛びかかる蜘蛛が水魔法に当たって吹き飛ぶ


「何時まで続くのかな!?」


そう言いながらアルマは周りの蜘蛛に攻撃する。

右から飛びかかる蜘蛛を短剣で切り倒し、左から飛びかかる蜘蛛を炸裂薬で吹き飛ばし、正面から糸を吐き出す蜘蛛がいれば地面を転がり回避し、後ろから大きな牙を鳴らす蜘蛛がいれば振り返り水魔法をぶつける。


攻撃の合間にHPローポーションで回復しながら、アルマは蜘蛛との死闘を続けていた。

また1匹、アルマの水魔法が蜘蛛を葬った。


ようやく蜘蛛の数も数えられるほどまで減ってきた。

そんな時である。


ふと、背にしていた木がその枝を振るってアルマに攻撃してきた。


「っつ!!な、なに!?」


その勢いは強くアルマは吹き飛ばされてしまう。

HPが大きく減ったのが視界の端に映る。


木は追撃の手を止めなかった。

再びアルマめがけてその枝を振るう。

分かってさえいれば避けられない攻撃ではない。

アルマはその攻撃を見切りギリギリで回避した。


「………所謂トレントってやつか?」


落ち着いて周りを見回すと目の前の木以外にも根を動かしこちらに迫っている木々がいた。

どうやら危機は去っていないようだ。

アルマは数匹の蜘蛛と、トレントに囲まれていた。


「やってやる!!」


大声を出して気合いを入れる。

HPローポーションを使用してHPが回復したのを確認すると、まずは蜘蛛の数を減らすために目の前の1匹めがけて駆け出した。


(っつ、痛!!)


蜘蛛とトレントの攻撃を掻い潜りながら攻撃を繰り返す。

右手に持った短剣を振るい、水魔法を打ち出し、少しずつではあるがダメージを与えた。


(蜘蛛の糸がうざい!)


蜘蛛とトレントその攻撃の殆どはギリギリ避けても問題はない。

多少HPは減るがすぐに詰んでしまうものではなかった。


しかし、蜘蛛の糸は違う。

あれは当たってしまえばその後の行動範囲が狭まってしまう。

そうするとその後に繰り出される攻撃が避けられなくなってしまう。


そう考えたアルマは蜘蛛の糸だけは必死に避けた。

それが功をそうしたのかはわからないが、アルマは致命的な傷を負う前に蜘蛛をせん滅することができた。


(残りはトレント!!)


蜘蛛がいなくなっても変わらず激しく攻撃してくるトレント。

その1匹1匹をよく観察して、的確に短剣を叩きつけていく。


(やっぱり、木だけあって蜘蛛よりも固いな。)


それでも固さに比例するかのようにその攻撃は緩やかなものであった。

だからこそアルマは先ほどよりも余裕を持って攻撃を避けることができた。


被ダメージが減ってしまえば負ける要素などない。

そう言うかのようにアルマの攻撃はトレントを1匹、また1匹と数を減らしていった。


最後のトレントにアルマの持つ短剣が突き刺さった。

HPは0となり光の粒となって散り、虚空へと消えていった。

アルマはその光景を眺めながら肩で息をする。


「はぁ、はぁ。」


呼吸を整え落ち着きを取り戻す。

ゆっくりと胸の奥から達成感がこみあげてきた。


「よ、よし!!終わった!!」


両手を上げて喜びを表現し、そのまま大の字になるように仰向けに倒れた。

倒しきることができた達成感から疲労が心地よいものに感じられた。

アルマはその姿勢のまま減ったHPを回復するためにインベントリからHPローポーションを取り出す。


ポーションを使用しながら今の戦果を確認していた。

数多い敵を1人で倒しきったとあって、種族レベルもスキルレベルも上がっていた。

その数値を見ながらにやにやと笑い、嬉しさを表現していた。


しかし、今回森に来た目的は敵を倒すことではない。

しばし休憩をとるとアルマは再び森の奥に向かって歩き始めた。


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