035 薬屋とキュアポーション
◆王都グレアム
「えっと、ここかな?」
ルサールカに種族進化したアルマはその黒い双眸で1軒のお店を眺めていた。
看板には「薬屋」と何を取り扱っているのかわかりやすく書かれていた。
アルマがここに来ることになったのはなぜか。
事の起こりは少し前に遡る。
王都グレアムの生産者組合の1生産室でアルマはいつもの如く薬の生産を行っていた。
作業自体は慣れたものでそれは種族進化した今でも変わりなかった。
何種類もの薬を作ってはインベントリにしまい、作ってはしまいを繰り返していた。
ポーションに毒薬、炸裂薬と今まで役に立ってきた、謂わばアルマにとっての切り札ともいうべき薬は特に数を多く作った。
薬の材料となる素材は王都の森でこれでもかと言うほど採取できていたため満足のいく量を作ることができた。
また、王都の森にはランフランク山麓の森には無かった薬草もあった。
それらを使って新しい薬を作ることもできた。
作業開始時には窓から日の光がさんさんと入り込んでいたが作業が終わる頃には非も沈み切っており、部屋を照らすのはランプの光のみとなっていた。
全ての作業を終えて時間を確認すると、まだ生産室レンタルの終了までは少し時間があった。
だからこそだろう。
アルマはインベントリの中身を整理することにした。
と言っても要るものと要らないものに分けるだけだ。
ここで要らないものを捨てることはできないので結局はインベントリの中に入れることになる。
でも、今のうちにやっておかないと次いつやるかわからなかった。
そう考えたからこそアルマはインベントリの中身を上から順にグループ分けしていった。
そんな時、1つのアイテムが目に入った。
「グルナラの手紙」
アイテム名はそう書いてあった。
そう薬師としての師匠グルナラが王都で何かあれば姉弟子を頼れと渡してくれた手紙である。
アルマは今の今までその存在を忘れていた。
確かに今までは特別困ったことは無かったからこそ必要なかったともとれる。
しかし、せっかく手紙を書いてもらった以上一度顔合わせをしといたほうが良いのではないかと思った。
特に今は種族進化もして王都から離れようとしているときだ。
この機会を逃すと次いつ王都に来るのかわからない。
だからこそ今のうちに訪れようと考えた。
しかし、そう思ったのはいいものの、アルマは姉弟子………ゲイルの居場所を知らなかった。
しばし考えたのちに頭を悩ませても知らないものはどうしようもないと結論付けて、生産者組合に相談することにした。
それはちょうどいま生産者組合にいるからこそ思いついた案だったのだろう。
善は急げとアルマは生産室を後にした。
結論から言うと生産者組合の職員はゲイルの居場所を知らなかった。
しかし、何も手掛かりがないというわけではなかった。
ゲイルが薬師であることを説明すると、それなら薬屋に相談するといいと王都の薬屋の場所を教えてもらえたのだ。
そうしてアルマは姉弟子ゲイルの居場所を聞き出すため王都の薬屋に訪れた。
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さて、薬屋を訪れたはいいものの中が何やら騒々しい。
アルマは薬屋の入り口前で中の様子を伺った。
どうやら1人の客が店員に向かって何やら喚き散らしているようだ。
アルマは静かに扉を開けて中に入った。
中にはうるさい客1人と店員1人しかいなかった。
どちらも今店に入ってきたアルマには気が付いていないようだ。
それほどまでに白熱した議論を繰り広げていた。
いや、白熱しているのは一方的に怒鳴り散らしている客側だけのようだ。
店員の方はおどおどしたふうではあるがしきりに客に説明を繰り返していた。
「だから、おたくのキュアポーションが効かなかったから死に戻りすることになったの!?わかる?こっちは不良品を掴まされたんだ!」
定員に掴みかかるようにして恫喝するその客はどうやらプレイヤーのようであった。
よくよく全身を見回してみると大きなブロンズ製の剣を背中に担いで、その身は同じくブロンズ製の鎧を着こんでいた。
身長は170cmほどで短い金色の髪をしたヒューマンの男性であった。
代わって店員の方に視線を向ける。
こちらもヒューマンの男性であった。
身長は金髪の彼と同じくらいだが、低姿勢なその立ち振る舞いから小さく見える。
服装は一般的な布製の服の上からエプロンのようなものをかけていた。
「すみません。すみません。でも、キュアポーションは必ず解毒できるものではありませんので………その………。」
店員は「すみません、すみません。」としきりに謝りながら男にキュアポーションについて説明している。
しかし、その低姿勢が悪いのか男は追及の手を緩めない。
「あ?解毒できないキュアポーションなんてあるわけあるか?そう言うのを不良品って言うんだよ!!不良品売ってんだから誠意を見せろや!!!!」
その様子を見ているといつぞやの馬鹿を思い出す。
そうファートの冒険者組合で見かけたあのパーティだ。
こういった手合いは一定数いるのは知っているが、異邦人としてこんなのと一緒だと思われるのは癪だと思いアルマはその口論に口を挟むことにした。
「おい。少しいいか?」
「あ!?」
「は、はい?」
まだ、周りの言葉を受け取るだけの頭はあったのか1言声をかけただけで2人はこちらを向いてくれた。
………と言っても、アルマの低身長を前に1度は声の主を見つけることはできなかったが。
「横で話を聞いていたが、今のままでは何時までたっても終わらなさそうだったからな。少し口を挟ませてもらうぞ。」
「あ!?なんでそんな事されなきゃならないんだよ!?」
異邦人の男が食い下がる。
アルマはそれを一瞥すると無視を決め込めて話を続けた。
「この男の言い分はこの店で買ったキュアポーションが現場で効かなかった。そうだな?」
アルマは異邦人の男を指さしながら店員に話を聞いた。
「は、はい。」
「おいおまえ。おまえが買ったキュアポーションは何類だ?」
「あ?何類?なんだそれ?そんなの関係ないだろ!?」
「だ、第1類です。今店にはそれしかありませんから。」
異邦人の男に向けた質問は店員の方から答えが返ってきた。
その程度のことも知らないのかと呆れつつも再度男に質問する。
「おまえが受けた毒というのは何の毒だ?」
「だからそんなの関係ないだろ!?」
「関係あるから聞いているんだ!!」
「な!蛇だよ!ポルジン森林の!!」
強い口調で問い詰めると男はたじたじといったふうに質問の答えを返してきた。
返答は大声で話しているも虚勢であることがありありとわかるようであった。
「最後の質問だ。店員、ポルジン森林の蛇毒は第1種キュアポーションで治るのか?」
「い、いえ。無理です。蛇毒は第2種キュアポーションが必要です。」
アルマの予想通りの答えに満悦しながら異邦人の男に向き直る。
「これで分かったろ。キュアポーションは不良品では無かった。単におまえの物の使い方がなってなかった。それだけだ。」
「な!ふざけんな!そんなので納得できるわけないだろ!何だよ第2種キュアポーションって!それなら最初からそっちを売ればいいじゃねえか!それを別の物売ったんだらか店側が悪いに決まってるだろ!!」
「さっき店員も言っていたろ。ここには第1種キュアポーションしかないと。ならそもそも第2種を売ることはできない。そもそも、どちらを使うかは店ではなくおまえが決めることだ。それを知らなかったから第1種を使った。おまえの無知を店のせいにするな。」
馬鹿を諭すように懇切丁寧に男を糾弾する。
男はアルマの言葉を受けて顔を真っ赤にして今にも爆発してしまいそうだ。
「う、うっせーな!!横から出てきて!!何様のつもりだ!?」
「そこまで言うならしょうがない。ここから先は衛兵に相手してもらうか?」
そう言うと男は言葉に詰まった。
しかし、必死に頭を動かして言葉を絞り出す。
「な、何で衛兵が出てくるんだよ!?それは関係ないだろ!!」
「不当な要求で店を恐喝している姿は誰が見ても犯罪者だ。犯罪者の対応は十分に衛兵の仕事だろう。」
「な!!」
ようやく男が黙った。
しきりに口を開いて何かを喋ろうとするも言葉が出てこず口を閉じてしまう。
そんなことを何度か繰り返すと「覚えてろよ!」といういかにもなセリフとともに店から出ていった。
勢いよく閉じられた扉が大きな音を立てる。
アルマはそれを確認して店員に向き直った。
「え、えっと。あ、ありがとうございます。」
店員は変わらず低姿勢でアルマにお礼を言う。
アルマも満更でもないといった表情でそれを受け取った。
「しかし、あの手の手合いは何をしてくるか分からないからな。念のため衛兵に連絡しておいたほうがいいぞ。」
「そ、そうですね。」
「ああ、それとパルマーダ街道が解放されたから、今後はポルジン森林の攻略に力を入れる可能性がある。今のうちに第2種キュアポーションも用意しておいたほうがいいじゃないか?」
そう言うと、店員はますます体を小さくした。
顔は暗い表情をしており、明らかに何か問題があることを示していた。
「なんか問題があるのか?」
「はい。えっと、第2種キュアポーションの原料はポルジン森林で取れるんです。そのため以前までは冒険者に依頼してその薬草を取ってきてもらっていました。」
「うん?なら今回もとってきてもらえば?いや………以前までは?」
「は、はい。今はポルジン森林にレーンクヴィストが居座っていて、それで冒険者の方も近づこうとしないんです。なので素材が無くなってしまい………。」
「それで、作れなくなったと………。」
店員の話を聞いてアルマはそれは確かに今はどうしようもないと納得する。
しばらくの間、店内を静寂が包んだ。
「………仮に、異邦人がその薬草を取ってきたら第2種キュアポーションを作ってもらえるか?」
「え?え、えーっと、はい。素材さえあれば作ることはできます。」
アルマは再び考え込むようなしぐさをした。
しばらくして決心がついたのか口を開く。
「じゃあ、俺が森に行って取って来よう。」
「え?ほ、本当ですか?」
「ああ、ただし条件が2つある。1つ目、これはまずは今回限りの依頼という形で受ける。今後も継続的に納品できるものではない。」
アルマのその言葉に目に見えて落胆の色を示す。
「だから以降は俺が納品する素材から作った第2種キュアポーションを使って、別の異邦人に依頼しろ。」
「は、はい。」
アルマが回避策を提示すると表情を明るくした。
その忙しなさに少しおかしくなりアルマはくすりと笑う。
「え、えっと。もう1つの条件は?」
「ん。ああ、もう1つは第2種キュアポーションのレシピを教えてくれ。これは先払いで頼む。森の浅瀬でいくつか確保したら現地で自分で作る。その後奥に進む為にな………。」
「それくらいなら………。」
そう言うと店員は口頭で第2種キュアポーションのレシピをアルマに教えた。
アルマはインベントリからレシピブックを取り出すとそれにメモを取った。
そのレシピは第1種キュアポーションと大きな違いはなかった。
ただ、使用する薬草が異なるのみであった。
「うん、だいたい分かった。ありがとう。」
「お、お役に立てて何よりです。」
「さて、じゃあ依頼の話に行こう。納品する薬草はいくつあればいい?」
「あ、はい。えーっと、と、とりあえず200株ほどあれば十分です。それで、報酬は20000ギル程で、ど、どうですか?」
「ああ、問題ない。」
店員に提示された依頼内容に問題が無い旨を伝えるとシステムメッセージが届いた。
<クエストが発生しました。>
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クエスト:ポルジン森林の薬草採取
達成条件:
ルデン草200株の納品
制約条件:
なし
報酬:
20000ギル
スキルポイント1P
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(へー、薬草の採取量に対して報酬が安い気がしたけど、スキルポイントが手に入るのか。)
アルマはそのクエストの内容を確認して「クエスト開始」のボタンを押した。
「で、では。よ、よろしくお願いします。」
「ああ、任された。」
そう言うとアルマは薬屋を後にした。
当初の目的は完全に頭の外であった………。




