033 種族進化!悪戯な水妖精?
◆王都の森
カサモラータ討伐のワールドアナウンスがあってから数日がたった。
あれから王都はますますの賑わいに包まれていた。
攻略組を自称するプレイヤーはパルマーダ街道を北上し、新たな敵を見つけ出してはそれから得られる素材を王都に運び、生産職は運び込まれた新たな素材を使って数々の装備を作り出していた。
パルマーダ街道を解放するという偉業を成したパーティ………紅蓮の剣はパルマーダ街道の向こうに新たな町を見つけていた。
パルマーダ街道を北上するとベルクマン街道へと出る。
そのベルクマン街道を東に進むことで港町リヴィエールへたどり着けるという。
幾人かのプレイヤーはもうすでにリヴィエールへ拠点を移し活動している。
狩場が増えればレベルアップの効率も上がってくる。
当然、種族進化を果たしたプレイヤーも続々と現れてきた。
アルマの知り合いではガルドやてるる、ヨルゴなんかも種族進化を果たしているらしい。
アルマは自分もすぐに追いつくのだという思いから王都の森で猿狩りを行っていた。
「ふー。」
1匹の小猿を短剣で切り殺して一息ついた。
度重なる戦闘で種族進化可能なレベル10まであと少しというところまで来ている。
それに伴いスキルのレベルも大きく上昇していた。
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プレイヤー:アルマ
種族 :レプラコーン
レベル :9
スキル:
[下級短剣術:レベル3]
[下級水魔法:レベル4]
[投擲 :レベル9]
[索敵 :レベル3]
[鑑定 :レベル9]
[調薬 :レベル11]
[下級錬金術:レベル1]
[生産成功率向上:レベル9]
残スキルポイント:7P
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それが今のアルマのスキルレベルであった。
『初級短剣術』スキルは『下級短剣術』スキルとなり、『探索』スキルも『索敵』スキルへと変化していた。
生産系のスキルについても『錬金』スキルは『下級錬金術』スキルへと変化していた。
これらのスキルレベルからもわかるようにこの数日アルマが精力的に自身の強化のために活動していたことが見て取れる。
それはあのワールドアナウンスを受け取って自分も早く広い世界を見たいという思いからきたものであった。
その思いは今も色あせることなくアルマの胸の内で燃え盛っている。
だからこそ今もこうして王都の森でレベル上げに勤しんでいるのだ。
「………【シュート】。」
またも小猿を、次は水魔法を使って倒した。
その表情に喜びの色は無くただ淡々と作業をこなす様に攻撃を繰り出していた。
次の獲物を見つけるために視覚と聴覚に集中する。
―ガサ、ガサ
森の中を何かが動く音が聞こえた。
『索敵』スキルのレベルも上がり、感じ取れるものも格段と多くなった。
すぐさまアルマはその方向に向けて駆け出す。
音の主は小猿だった。
その姿を確認するとすぐさま【ウォータアロー】の準備をし、狙いを定めて打ち出す。
水魔法は確かに小猿に命中し、大きくその体勢を崩す。
その隙を逃さず距離を詰めて右手の短剣を振るった。
小猿の胴体に大きな傷跡を残し、数舜ののちに光となって散って消えた。
システムメッセージの受信を示す通知が耳元でなった。
アルマは周りに他に敵がいないことを確認すると、そのメッセージを開いた。
<レベルが上がりました。>
無感情なメッセージは今まで何回か見たことのあるメッセージと同じであった。
しかし、それは今まで以上にアルマに感動を与えた。
(やった!ようやく、ようやく種族進化できる!!)
待ちに待ったと言わんばかりに喜びを全身で表現するアルマ。
それもそのはずである。
1つの目標である種族進化が可能なレベル10に至ったのである。
レベル10とは1つの節目である。
種族進化するにしても転生するにしても今自分ができることの幅が広がる。
強くなることができるのだ。
この先、2回、3回と種族進化や転生を繰り返していくことになるであろう。
今まさにその第1歩を歩み始めた。
そう実感してアルマはこみ上げてくる感動を我慢することができなった。
そして、レベル10ともなれば解放されたパルマーダ街道の先にも行けるだろう。
まだ見ぬ世界へ飛び出すことができるだろう。
もうすでに先人が到達した港町リヴィエールはもちろん、未だ誰も行ったことのないベルクマン街道の東や海を越えた向こう側。
そう言った場所への思いを馳せる。
まだまだ世界は広く、プレイヤーが活動している範囲はその世界に比べてあまりにも小さい。
だからこそアルマは自分の足で広がる世界を感じずにはいられなかった。
その事実を噛みしめながらアルマは次にどうするべきかを考えていた。
(種族進化をするためには町の教会に行く必要があるんだよな。ここからな当然王都だな。)
そう。
種族進化もしくは転生をする場合、教会にある女神像のもとに行く必要がある。
アルマもその事実はWikiを見て知っていたため、急いで王都に向かおうと踵を返した。
その時である………。
<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『ドロズドフ』がパーティ『白翼』によって討伐されました。>
<これによりパウワー街道ならびにクレメンテ街道の流通が回復します。>
数日前にも聞いたあのアナウンスが再びプレイヤー全体に流れたのだ。
「え!?」
驚きから足が止まる。
またも知らない誰かが偉業を成し遂げた。
その事実を頭が理解するのに短くない時間がかかった。
理解とともにゆっくりと胸の内にこみ上げてくる激情を寸でのところで飲み込む。
自然と笑みがこぼれるのを我慢ができない。
ああ、今まさにさらに世界は広がったのだ。
誰かは知らないあなたが世界を広げてくれたのだ。
そう思うアルマの胸の内はクレメンテ街道を解放したパーティ「白翼」に感謝の気持ちでいっぱいだった。
(えっと、ドロズドフはファート、そしてエレムスの南にいたユニークモンスターだよな。と言うと、この国の北側だけでなく南側にも行動範囲が広がったのか!)
アルマが頭の中で思い描いた通り、始まりの町ファートの南から延びるパウワー街道、そしてファート西の町エレムスの南から延びるクレメンテ街道、ドロズドフその2つの街道を封鎖する形で存在したユニークモンスターだ。
当然それぞれの街道の流通は正常化され、カプアという町に行くことができるようになった。
アルマはその事実を知りはしない。
しかし、確かに世界が広がったことに格別の喜びを感じていた。
(よし、俺も種族進化して行くんだ。)
そう思うとアルマは再び王都に向けて足を動かし始めた。
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王都の教会。
そこは大きく荘厳な建物であった。
真っ白な外観は神聖さを醸し出しており、天高く聳える鐘楼は精緻な策を施されたカリヨンを有していた。
建物の中に入れば大きな礼拝堂が顔を出した。
ずらりと並ぶ長椅子はきれいに磨かれており、埃1つ見当たらない。
立ち並ぶ太く大きな柱はこれまた細やかな意匠を凝らしており、1つ1つを見ていて飽きることは無い。
礼拝堂の奥には巨大で色鮮やかなステンドグラスをバックに1柱の女神像が安置されていた。
アルマはその豪華な意匠に圧倒されながらも女神像の前へと歩を進めた。
アルマが女神像の前にたどり着き、その像を見上げると目の前に仮想ウィンドウが表示された。
<種族変更いたしますか?>
アルマはそのメッセージを確認し「はい」のボタンを押した。
すると目の前に進化をするか、転生するかを選択するメッセージが表示された。
アルマは少し迷うように手を止めるも、すぐに迷いを断ち切り「進化」を選択した。
またもアルマの目の前には選択肢が表示されていた。
その表示にアルマは混乱していた。
(あれ?進化の場合は1パターンだから選択肢なんてないはずなんだけど………。)
そう思いながら選択肢として出てきた種族をそれぞれ見ていく。
エルダー・レプラコーン
レプラコーンの上位個体。
戦闘は苦手であるが手先が器用で物作りが得意。
種族特性:《小さな体》《堕落した妖精》
ルサールカ
上位の水妖精の1種。
水辺に佇み近づく人間を水底に引きずりこむこともある。
種族特性:《小さな体》《堕落した妖精》《悪戯な水妖精》
(エルダー・レプラコーンの方はレプラコーンの正当進化先だよね種族特性もレプラコーン同等だし。ルサールカは適正値的にはレプラコーンと大きく変わらないかな。でも、種族特性に《悪戯な水妖精》が追加されている。)
アルマはさらにその種族特性の詳細を確認していった。
(《悪戯な水妖精》は水魔法以外の属性魔法が取得できないことの代わりに水魔法の適正が上がるのか。この適正って何だろう?………詳しく書いていないな。)
アルマは1度種族の選択でミスを犯している。
実際にはうまく立ち回ることができたが少なくともアルマ本人はそう思っていた。
だからこそこの種族の選択には大いに悩み続けていた。
(エルダー・レプラコーンになると単純に今できることが強化される感じなんだよな。いや、戦闘面はあまり変わらないかな?)
教会にアルマ以外に人がいなくて幸いしたことだろう。
本来はすんなりと終わるはずの種族の変更について教会内部で延々と悩み続けているアルマの姿は傍目に可笑しく映ったことだろう。
それでもアルマは悩むことを止めなかった。
(ルサールカは水魔法の適正が上がるといってもそのデメリットで水魔法以外の属性魔法が取得できなくなるのか。今は取得するつもりが無いからいいんだけど、適性が上がるって何かわからないからな。)
次第には腰を落としてしまった。
教会の女神像を前に胡坐をかいて「うーん、うーん。」と唸っているアルマは現地人、異邦人どちらの視点から見ても異常者であった。
彼の閉じられた瞳の向こうではそれぞれ提示された種族になったときのことをシミュレートしているのであろう。
エルダー・レプラコーンなら………、ルサールカなら………。
しかし、答えは出なった。
それはやはりルサールカの種族特性《悪戯な水妖精》が原因なのだろう。
その説明文はアルマが思い描く自分像に不明瞭な部分を作り出していた。
意を決したように目を見開いた。
(よし!よくわからないけど、正当進化から外れたほうが面白そうだ!ルサールカにしよう!)
そう思うとアルマはすぐさま「ルサールカ」の選択肢を押していた。
それは今だって想定されたレプラコーンとしての生き方からは外れているんだという自覚から来たのかもしれない。
そんな、オンリーワンなプレイをしているアルマだからこそ正当よりは特殊な進化を選択したのだ。
ルサールカを選択したアルマの目の前に表示されたのはまたもやアルマの予想していたものとは違った。
<種族の外見が大きく変わる変更を選択しました。キャラクターの見た目を作り直しますか?>
確かに予想外ではあったがそのメッセージはさほど悩まずに選択できた。
アルマが「はい」のボタンを押すと以前にキャラクターメイク時にあったように自分の見た目を設定するためのウィンドウが表示された。
そこには今のアルマの外見をそのままに顔の横に耳の代わりにに魚のヒレのようなものが付いた姿が映し出されていた。
(見た目を変更するといっても大きく変える必要はないよな。感覚も変わっちゃうだろうし。なら、髪と目の色だけ変えとくか。)
そう考えたアルマは耳部分の魚のヒレの色に合わせて、髪の毛と瞳の色を青黒い色に変更した。
変更内容をウィンドウで確認すると「完了」ボタンを押した。
再び仮想ウィンドウが表示され「本当に種族を変更しますか?」と最終確認のメッセージを表示してきた。
それにも迷いなく「はい」を選択すると、体を強い光が包んだ。
眩しさから目を閉じる。
瞼の向こうで光が止んだと感じると、ゆっくりと瞳を開いた。
そこには先ほどと変わりない女神像が安置された礼拝堂が広がっていた。
(これで、種族進化完了だよね?)
そう思いアルマは自分のステータスを表示する。
そこには「種族:ルサールカ」と「レベル:1(累計11)」の文字があった。
確かに種族進化が完了したことを示していた。
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アルマのステータス
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プレイヤー:アルマ
種族 :ルサールカ
レベル :11
(レプラコーン:10)
(ルサールカ : 1)
スキル:
[下級短剣術:レベル3]
[下級水魔法:レベル4]
[投擲 :レベル9]
[索敵 :レベル3]
[看破 :レベル1]
[鑑定 :レベル9]
[調薬 :レベル11]
[下級錬金術:レベル1]
[生産成功率向上:レベル9]
残スキルポイント:7P
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