032 胡散臭い商人
◆王都グレアム
「さて、一仕事やり遂げると気持ちがいいな。これから酒でも飲みに行くか?」
ガルドがすっきりしたという表情をし、手を持ち上げてジョッキを飲むようなしぐさをしながら2人にそう提案してきた。
アルマはもう今日は落ちるつもりだったからそれもいいかなと考えていた。
「私はジョンのところに行かないといけないから。」
てるるはガルドの提案をそう言ってやんわりと断った。
ガルドの方もてるるの言葉を聞いて何やら渋い顔をしている。
「いけない。俺もジョンのところに行かないといけなかったんだ。」
そう言いながら頭をかいている。
その表情を伺うに渋々といった考えが透けて見えていた。
「ジョン?誰?」
アルマはそんな2人の会話に出てきたジョンという人物に心当たりがなかった。
だからこそ首を傾げえるように2人にそう聞いた。
「ジョンというのはプレイヤーだ。商人ロールのな。」
「商人?そんなプレイヤーまでいるのか?」
「ああ。あいつは特に戦闘を生業とするわけでもなく、生産を生業としているわけでもない。生産職から商品を買い取って、それを戦闘職に売る、もしくは戦闘職から素材を買い取って生産職に売るってことをしている。」
ガルドのその説明にアルマは余計に訳がわからなかった。
頭の中に疑問符を浮かべながらその疑問を解消するために再び口を開いた。
「えっと、単に生産した装備を売るだけならガルドもしているよな?広場で露店開いたりして。」
「あぁ。しかし、ずっと露店を開いているわけにもいかない。俺らの仕事は作ることだからな。特に数打ち品を売るために露店に出ていると、それだけで1日が終わっちまう。だからこそ商人がいる。」
アルマはそんなガルドの言葉を受け取り、それはそうかと考えに至った。
確かに他のゲームでも売買をNPCに任せるようなものはあった。
それがプレイヤーに変わっただけなのだ。
「ジョンのやつもそんな商人の1人さ。俺は特注対応のみを自分自身の手で引き渡し、数打ち品の多くをジョンのやつに売っている。露店はあれだ、暇つぶしだ。」
「なるほど。それでこれからジョンという人のところにその数打ち品を納品しに行くというわけか。」
「そうだな。あいつに任せていた分が在庫切れしそうだと連絡があってな。それで追加分を納品しに行く。てるるもそうだろ?」
「ええ。」
そう語る2人の表情はどこか緊張した面持ちであった。
いや、苦々しげともとれる表情からは渋々そのジョンという人のところに伺うのが見て取れた。
「俺も行ってもいいか?」
アルマが2人にそう聞いたのは2人にそんな顔をさせるジョンという人に興味があったからだ。
「それはいいが。言っちゃあれだが特に面白いもんでもないぞ。」
「それでもいいよ。言い方悪いけど商人なんてRPGゲームやっているうえでやろうと思う職種じゃないでしょ?そんな商人をやっているジョンって人に興味がある。」
「ああ、あいつはな………。」
歯切れ悪くそう言うガルドの表情はやはり暗い影を落としていた。
「まあ、いいか。じゃあ、ついてこい。」
そう言うとガルドは生産室を後にした。
アルマとてるるもそれに続く。
--
生産者組合を後にしてしばらく歩いた後、3人は中央広場へと赴いていた。
ガルドは並ぶ露店を1瞥すると目当ての人を見つけたのか、迷いない足取り1つの露店へと近づいた。
その露店は数多くの商品を並べていた。
剣や槍といった武器、鎧やローブ等の防具といったものから装飾品や果ては素材なんかも扱っていた。
その分、露店の規模も巨大である。
西門前広場でガルドやてるるがやっていた露店の優に10倍近くの大きさを持ち、その露店を1人のプレイヤーが運営していた。
そのプレイヤーは忙しそうにしていた。
ある剣士は剣を求め、ある魔術師は杖を求め、ある鍛冶屋は鉱石を求め。
そう言った客の注文を確認してはそれに適した商品をおススメし、売買する。
それを繰り返し、繰り返し行っていた。
ガルドはその客足が落ち着いたタイミングを見計らってそのプレイヤーに声をかけた。
向こうもガルド達が来ていたことに気が付いていたのか軽い調子で挨拶してきた。
「よう、ジョン。来たぞ。」
「ああ、これはガルド様。いつもお世話になっております。」
慇懃そうにそう挨拶をするのはすらっとした長身に能面のような笑顔を張り付けたヒューマンの男性であった。
その人の細く開かれた目の奥にどことなく恐怖を覚えてしまう。
「てるる様も、ようこそいらっしゃいました。」
「ええ。」
彼のその態度にてるるも若干引いてしまっているのが分かった。
「して、そちらの、えーっと、妖精種でしょうかね。妖精種の彼は一体どちら様でしょうか?」
「ああ、こいつはアルマ。俺とてるるの客だ。」
ガルドのその説明を聞いてその人はアルマの方に向き直り口を開いた。
「おお、初めまして。アルマ様。失礼ですがもしやユニークを討伐されたアルマ様でしょうか?」
その人は腰を折るようにして1礼をすると、顔に張り付いた笑顔は崩さずにアルマにそう聞いてきた。
「は、はい、そうです。」
「すばらしい。まさかかのユニークを倒し英雄の尊顔を拝謁させていただけるとは、卑賤なこの身に余る光栄であります。」
アルマの回答に満悦したのか、より一層の笑顔を浮かべて天を仰ぐようにして喜んだ。
「は、はぁ。」
いちいち大仰なその物言いにアルマは2人が苦々しく思っている訳を理解した。
アルマが圧倒されて、引いているのが分かったのであろう。
その人は落ち着きを取り戻し、姿勢を正して改めてアルマに向き直って口を開いた。
「これは失礼しました。私、姓名をジョン・ドゥと申します。しがない商人などをしております。」
「は、はい。えっとさっき紹介あったけどアルマです。」
アルマはそう言うとジョンが出した手を取り握手を交わした。
「さて、英雄アルマ様は本日どのようなご用件でしょうか?私共の商店………とは言えませんね。私共の露店では数々の商品をご用意しております。その見た目ですと短剣ですか?それともレザー装備ですか?いずれにおいても高品質のものをお渡しできることをお約束いたします。」
アルマに詰め寄るようにそう聞いてくるジョンに押されながら、アルマはガルドとてるるに助けを求めるような目線を送った。
ガルドはやれやれといったふうに頭を振りながら横から口を挟んだ。
「ジョン。アルマのほうはついてきただけで特に用はねえよ。用があるのはこっちだ。数打ち品が在庫切れそうだって聞いたから納品しに来た。」
「おやおや、そうでしたか。はい、確かにガルド様、てるる様に作っていただいた商品につきまして在庫が心もとなくなってきたところです。ですので新たにお売りいただけるのは助かります。」
ジャンは少し残念そうな声色をしたのもつかの間、すぐさま気持ちを切り替えるとガルドとてるるに向き直り、またも人が好さそうな笑顔を向けて対応した。
「カッパーの数は前回と同じだ。今回はブロンズもあるがそっちはどうする?」
「おお、ついにブロンズもご用意いただけましたか。嬉しいですね今までブロンズは特注の対応ばかりで数打ち品として回ってくることはほとんどありませんでしたから。ええ、そちらももちろん引き取りますとも。」
「私の方も小猿は前回と同じで、それとは別に大猿も用意したわ。」
「こちらも嬉しい限りです。是非、大猿装備も引き取らせてください。いやお二方の装備が市場に回ることで今以上に攻略が進むことでしょう。その一助となれること一商人として喜ばしく思います。」
3人はそんな風に商品の引き渡しと価格の相談を始めた。
アルマは遠巻きにその光景を見ていた。
そんな時だった………。
<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『カサモラータ』がパーティ『紅蓮の剣』によって討伐されました。>
<これによりパルマーダ街道の流通が回復します。>
そのシステムメッセージが来たとき当りをしんとした静けさが支配した。
普段なら喧騒にあふれている中央広場でプレイヤーの誰一人もが動けず、言葉を発せずにいた。
誰かが「え?」と一言こぼす。
それを皮切りにするようにあたりを喧騒が包んだ。
「えええええええええ!?」
「カサモラータ!?パルマーダ!?」
「紅蓮の剣がやった!やってくれた!!」
「すげええええ!!!」
無秩序な歓声が当りを包む。
現地人は何が何やらわからずあたふたとしている。
しかし、それを気遣うような余裕のあるプレイヤーは今ここにいなかった。
アルマ自身もこの喧噪の主に負けず劣らず驚いていた。
ああ、今まさにトッププレイヤーがユニークモンスターを倒したのだ。
アルマの胸の内から何かがこみあげてくる感覚を覚えた。
これを吐き出してしまえば周りと同じように叫ぶだけとなっていただろう。
しかし、アルマはそれをしなかった。
それは理性からなのか羞恥心からなのかはわからない。
ただ、胸の内で燃えるこの気持ちは吐き出さずに大事に、大事に持っていたいと思ったのであった。
(カサモラータ………たしか、王都の北に位置するパルマーダ街道に居座るユニークモンスターだよな。これが倒されたからこそパルマーダ街道が解放されたんだ。)
アルマは頭の中で地図を思い浮かべる。
(えっとWikiに書いてあったのは………。カサモラータ自体はβ時代にも倒されていたみたいだけど、パルマーダ街道の先はβ時代には無かったエリアだ。なら、今まさにβを越えたのか。ついに世界が広がったんだ!)
頭の中の地図とWikiに書いてあったβ時代の情報もとにその偉業を再確認していた。
それを思いますます胸の内にある気持ちが燃え上がるような思いを感じた。
紅蓮の剣それはトッププレイヤーのパーティだと聞いていた。
最初に種族進化をしたのがこのそのパーティのディートヘルムということを聞いていた。
その人たちはきっと今はまだ見ぬ世界の先へ行っているのだろう。
アルマはいまだ姿の知らないトップパーティに思いを馳せていつかは自分もという気持ちを新たに持った。




