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030 種族進化するということを考える

本日は2話投稿します。こちらは2話目です。(2/2)


◆王都グレアム


アルマは組合の銀行業務を利用してガルドとてるるから受けとった大金を預けた。

あんな大金を持っているのは精神衛生上よろしくないという判断からだ。

生産者組合に間に立ってもらいてるると製造契約を取り交わした後2人とは別れた。

彼らはアルマの依頼の装備を作るためしばらく生産室に籠るそうだ。

出来上がったらメッセージで連絡をくれるというのでそれまで王都観光のために外に出ていた。


ゆっくりと王都の街並みを眺めているとファートとの違いに愕然とする。

北西南の門から続く大通りに並ぶ店はどれも大きく立派なものであった。

中には貴族向けなのであろう、煌びやかな装飾品などを取り扱っている店もあった。


道の中は人通りが激しく時々馬車が通ったりしていた。

その馬車の装飾もまちまちでいかにもな荷馬車から貴族が載っているのであろう豪華な家紋が施された馬車もあった。

町の中には全身鎧を着こんだ騎士が巡回しており、時折起こる住民同士の諍いを仲裁している。


当然、現地人だけではなく異邦人の数もファート以上だ。

銅色の鎧に身を包んだ戦士や灰色のローブを着込んだ魔術師、ヒューマンやエルフはもちろんビーストやドワーフ、中には身の丈3mを超えるデミ・ギガントなんて種族もいた。

生産職は道の端で露店を開き、戦闘職はその露店で売られている商品を吟味していた。


アルマがふらふらと王都を観光していると中央広場までたどり着いた。

そこはファートと同様に中央に噴水が置かれた広場であった。

しかしそのスケールはファートと異なる。

噴水は大きく精緻な彫刻が施されており、周りの露店の数もファートの比ではなかった。


そして中央広場まで来ることで王都の一番の目玉。

王城をこの目にすることができた。

それは王都の東側に鎮座しており、その荘厳さは王都にあるどの建物よりも美しいものであった。

天高く伸びる尖塔は空に映え、真っ白な城壁は日の光を反射して輝いていた。

その美しさはいつまでも見ていられるものであった。


--


―ガヤガヤ、ガヤガヤ


アルマが中央広場から王城を眺めていると次第に周りにいる人々が賑わいだした。

何事かと目を向けるもこの広場には賑わいだすような目新しいものはなかった。

注意深く騒いでいる人を観察しているとどうやらそれはプレイヤー………異邦人であった。

広場にいる他の現地人は騒ぎに加わらず、変わらずに日常を謳歌している。

その光景を不思議に思いながら眺めていると不意にアルマに声をかける人がいた。


「あれ?アルマじゃん。」


アルマがそちらに顔を向けるとそこにはだらしない姿勢のヒューマン………ヨルゴがいた。

ヨルゴは片手を挙げながら「よう。」と軽い感じで挨拶をしながらアルマに近づいた。

アルマもヨルゴに挨拶を返すとそちらに向き直った。

ヨルゴはアルマの姿を上から下へ舐めるように見据えると口を開いた。


「おまえさん、まだ初心者装備じゃないか?それでユニーク倒したのか?」


口にした内容は予想通りユニークに関することだった。

それはそうだ。

ワールドアナウンスでプレイヤー全体に通知が言っている以上それを知らないわけがない。

知っているからこそ、そう疑問に思うのも納得できる。

アルマは何度目かになるそんな視線に少し辟易しているといったふうを見せながらヨルゴに答えた。


「ダールベルクのことはたまたまさ。運がよかったから倒せた。」


「運だけであれが倒せるとは思えないがな。まぁ、いいや。」


そんなことを言いつつもヨルゴはたいして興味がないのかそれ以上の追及はしてこなかった。

ヨルゴは懐から煙草を出すも、周りを見回すと吸わずにしまってしまった。


「ここじゃ、あれだから何処か店でも行かないか?」


どうやら人がいる場所で吸うのは憚られたようだ。

ヨルゴはそう口にするとあさっての方向を指さした。

アルマがそれに頷くことで肯定すると踵を返し歩き出した。


--


―カラン、カラン


ヨルゴに連れられてきたのは雰囲気のいい喫茶店で会った。

店内の調度品はアンティーク調で統一されており、部屋の端に飾られた観葉植物の緑が安らかな気持ちにさせてくれる。

カウンターの向こうでは年配の男性がきっちりとした服装に身を包んでカップを拭いていた。


店内には他にも何人か客がいた。

その客は現地人に限った話ではなく中には異邦人の姿もあった。

皆一様にカップを片手に会話に花を咲かせていた。


ヨルゴは何度か来たことがあるのか、カウンターの向こうのマスターに片手を挙げて挨拶を済ませると店の奥にあるテーブルについた。

アルマもそれに倣い、ヨルゴと向かい合わせになる形で椅子に腰を下ろす。


「コーヒーでいいか?」


アルマが席に着くとヨルゴがそう聞いてきた。

それに「ああ。」と肯定するように言葉を返す。

それを確認するとヨルゴはマスターに聞こえるようにコーヒーを2つ注文した。


ヨルゴはおもむろに懐から煙草を取り出し1本を咥えた。


「おまえも吸うか?」


「貰えるなら。」


そう答えると、ヨルゴは箱から1本取り出しアルマに差し出す。

アルマはそれを受け取ると口に加えた。

それを確認するとヨルゴは【トーチ】の魔法を使って火をつける。


「ありがとう。」


「ん。」


それだけやり取りするとヨルゴは自分の分にも火をつけ、深く煙を吸い込んだ。

アルマも自身の煙草を深く吸う。

口の中に煙草の香りが充満する。

深く呼吸をするようにゆっくりと煙を吐き出す。

吐き出した煙はゆっくりと上へ上へと昇っていき天井にぶつかり霧散した。


しばらく2人はその時間に堪能した。

小さな火が煙草の葉をチリチリと焼く音が聞こえるようであった。


煙草の長さが半分ほどになる頃、マスターがカップを2つ持ってテーブルにやってきた。


「どうぞ。コーヒーです。」


静かにそう言うとテーブルの上にカップ2つとミルク、砂糖を置いた。

その中には黒々とした液体が湯気を立ち昇らせていた。


ヨルゴが手でどうぞと示したのを確認してアルマは砂糖とミルクをコーヒーに注いだ。

黒々とした液体に真っ白なミルクが模様を描いていく。

スプーンでかき混ぜると2色は交わり綺麗な肌色となった。


アルマはカップを手に持ち、口をつけた。

少し熱いその液体が口内へと入ってくる。

口の中がコーヒーの重厚感あふれる香りで満たされる。

下を刺すその苦みがいいアクセントとなって思考をクリアにしていく。


カップをテーブルに置くとアルマはもう一度煙草を口にした。

コーヒーの香りと交わって先ほどまでとは違った味わいを奏でる。


対面するヨルゴも今は同じようにコーヒーと煙草を楽しんでいるようだ。

ミルクも砂糖も入れないそのブラックのコーヒーに口をつけ、時々煙草の煙を体に入れる。


「さて、アルマ。」


煙草を吸い終わる頃、不意にヨルゴが口を開いた。

アルマはカップを置いて次の言葉を待つ。


「ダールベルクの置いておくにしてもそろそろ装備を整えたほうがいいんじゃないか?」


「ああ、それなら大丈夫。今ガルド達に装備の作成依頼しているところだから。ダールベルクの素材も使ってもらうから結構いいのができる予定だよ。」


「それならいいんだ。おまえさんが今後どこを拠点とするにしても今の装備じゃ心もとないからな。」


そう言うヨルゴの表情は安堵したものであった。

ヨルゴなりにアルマのことを心配していたようだ。

そんなヨルゴに気を良くしたのかアルマは今までのことを色々と話して聞かせた。


「普通は王都に来たらトート街道で手に入れた素材を使って装備を整えるんだがな。それをファートにトンボ帰りするとは変わってるな。」


「いや、あれは俺の意志ではないから。ガルド達の依頼が無ければ俺だって装備整えて王都の森へ行ってッて考えていたさ。」


「それが、今ではダールベルクを倒してしまうんだからな。おまえさんなら王都の森に行かずにランフランク山でレベリングしていたほうが効率的じゃないか?」


「そうかもね。王都の森って出ても小猿でしょ?それならランフランク山麓で大猿狩りのほうがいいかも。そうなるとまたファートにすぐ帰ることになるのか………。」


ヨルゴと話していて今後の予定を組み立てていくアルマ。

順当に行くのならばファートに戻って狩りをするべきだがその移動が億劫であると顔に書いていた。

そんなアルマの表情を見てかヨルゴがフォローする。


「まあ、わざわざ戻らないでもいいかもしれないがな。ファートとの移動時間を考えてこっちでレベリングしている連中もいるからな。それにおまえさんならその辺のユニーク倒して狩りできるエリアを広げられるだろ?」


冗談めかして言うヨルゴのそのセリフにアルマは突っかかった。


「いや、ダールベルクはたまたまだから。そんなバンバン倒せるものじゃないでしょ、ユニークっていうのは。」


「違いない。じゃあ、紅蓮の剣の連中にでも期待するんだな。」


「紅蓮の剣?」


ヨルゴが口にしたその単語に聞き覚えが無くつい聞き返してしまった。

ヨルゴは何でもないことのように軽い調子でその説明を口にした。


「紅蓮の剣っていうのは攻略組トップのパーティ名さ。すでに全員がブロンズ装備に身を固めているらしい。」


「へー。」


「リーダーのディートヘルムはレベルも全プレイヤー中トップだろうよ。なんでも、もう種族レベル10に達して種族進化したって話だぜ。」


「え?そうなの?」


もうすでに種族進化に至った人がいる。

その事実に驚愕し、ヨルゴをじっと見つめてしまう。

アルマのその様子に気圧されたのか、若干引きながらもヨルゴは答えた。


「お、おう。ついさっき出た情報だ。」


「さっき?………だから、中央広場でプレイヤーが騒いでいたの?」


「ああ、たぶんそうだろうな。おまえさんは掲示板とか見ないたちか?」


「掲示板?あんまり見ないかな。」


「そうか。ついさっき、ティートヘルム本人が掲示板に種族進化したこととその情報を書き込んでいたんだ。なんでもヒューマンからハイ・ヒューマンに進化したって話だぜ。」


ヨルゴのその説明を聞きながらコーヒーを口に運んだ。

種族進化。

アルマだって既に種族レベル8なのだからそう遠くないうちに選択するときが来るだろう。

ゲームを開始した当初は早く全く別の種族への転生を考えていたアルマも今まで経験してきてレプラコーンもいいと思うようになっていた。

だからこそ種族進化か転生かと選択肢を出されたときにどちらを選べばいいか迷ってしまっていた。


「ヨルゴは種族進化と転生どっちをするかもう決めているの?」


「ん?ああ、たぶん種族進化だな。よほど特殊な転生先が出ない限りは進化が安定だろうよ。そう聞くってことはおまえさんは迷っているのか?」


「ああ。ゲーム開始した時はレプラコーンという種族が自分のやりたいことに合致していなかったからこそ早く転生することを目標としていた。でも、レプラコーンでもユニークを倒せると知った今、その可能性を潰してまで転生する勇気が無い。」


だからこそ迷っているのだ。

そう言外に言うアルマの表情を見てヨルゴは口を開いた。


「それは、おまえさんが決めないとな。それでも少しアドバイスするなら面白い方を選ぶべきさ。」


そんな身も蓋もないようなヨルゴの言い分に確かにその通りだとアルマは思った。

これはゲームなんだ。

ならば自分が面白いと思える方を選ぶべきなんだ。

そう思うと少し気持ちが楽になった。

ヨルゴに「ありがとう。」と感謝を伝えると再びコーヒーに口をつけた。


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