027 再び王都に向けて
◆ファート 中央広場
ランフランク山でダールベルクを討伐後、アルマは山の麓の森で薬草を採取したり、追加で猿や大猿を討伐したりしながらファートの町へと帰ってきた。
日が沈み切る前に帰ってこれたのは幸いである。
アルマはその足で冒険者組合へ行くと受けていた依頼の完了報告を行った。
「さて、いったん落ちるか………それとも、宿屋で休むか………。」
冒険者組合への報告が終わるとログアウトするかファートで1晩を過ごすかで悩みながら中央広場を歩いていた。
さすがにこんな時間から王都に向かって出発するなどという考えは浮かんですらいなかった。
特に夜間にやることがないなら1時間程度ログアウトしてしまうほうがいいに決まっている。
「うん、戦利品の確認が終わったらいったん落ちよう。」
そう結論付けたアルマは度重なる森での戦闘、そしてダールベルクとの戦闘の成果を確認するためにファート中央広場のベンチに腰かけた。
夕暮れの街並みを眺めながらアルマは仮想ウィンドウを開いた。
(まずは、アイテムの確認から………。)
そう思うとウィンドウを操作してインベントリを開いた。
そこにはトート街道で討伐した狼、鶏、兎の素材、森で討伐した猿や大猿の素材の他にダールベルクを討伐した素材が入っていた。
本来ユニークモンスターはパーティまたはパーティが集まったレイドでもって討伐されることを想定されている。
そのためダールベルクの素材は1匹だけの討伐なのにも関わらず大量の素材が手に入った。
(「岩狂暴竜の硬鱗」「岩狂暴竜の大竜皮」「岩狂暴竜の岩石」「岩狂暴竜の大牙」………岩狂暴竜というのがダールベルクのこと何かな。)
そんなことを考えながら一つ一つの素材を確認していった。
(問題はこれだよね………「ダールベルクの暴核」。)
ダールベルクの暴核【素材】
品質 :ユニーク
所有者:アルマ
岩狂暴竜ダールベルクの力の源。この素材を使用して作成されたものにはダールベルクの力が宿る。
※ユニーク素材は製造契約以外の譲渡・売買ができません。
※ユニーク素材で作成されたものはユニーク素材の所有者以外が使用することができなくなります。
ダールベルクの暴核を『鑑定』した結果がこれである。
ダールベルクの力というのがどれほどであるかは読み取ることができなかったが、少なくとも弱いということは無いだろう。
そして何より「品質:ユニーク」という今まで見たことが無い要素が出てきたことが問題だ。
これを見る限り品質ユニークはその所有者が決まった時点で他に移ることは無い。
そしてそのユニークを手に入れるのはユニークモンスターとの戦闘でMVPを獲得したものであること。
MMORPGとはリソースの取り合いである。
それはこのMSOでも変わりない。
それに拍車をかけるかのようなこのアイテムの存在にアルマは戦慄していた。
(………見なかったことにしよう。)
だからと言って今アルマに何ができるわけでもない。
アルマはそうそうにそのことを頭から追い出し続いてステータスの確認をした。
(と言っても、ステータスはランフランク山にいるときに確認していたから、それから大きく変わっていることは無いだろう。………お、『初級水魔法』が上限に達した。)
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プレイヤー:アルマ
種族 :レプラコーン
レベル :8
スキル:
[初級短剣術:レベル9]
[初級水魔法:レベル10]★MAX
[生産成功率向上:レベル6]
[調薬:レベル7]
[錬金:レベル6]
[鑑定:レベル5]
[探索:レベル9]
[投擲:レベル6]
残スキルポイント:11P
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それが今のアルマのステータスであった。
ダールベルクを倒して得た経験値で種族レベルは8となり、また度重なる戦闘で『初級水魔法』が最大値に達した。
それによりボーナスでスキルポイントが1P入りダールベルクの討伐報酬と合わせて11Pとなった。
(早速、『初級水魔法』を上げるか。)
そう思うとアルマはすぐさまウィンドウを操作した。
<スキルポイントを2P消費して『下級水魔法』スキルを取得します。>
表示されたシステムメッセージを確認し、「取得」ボタンを押した。
結果、『初級水魔法』スキルは『下級水魔法』スキルに変化した。
(えっと、『下級水魔法』スキル、レベル1で手に入った魔法は変化の【アロー】か………。)
『初級水魔法』スキルを『下級水魔法』スキルに変えたことで今まで使えていた、【ウォータ】【ボール】【フロート】【シュート】【ミスト】に加えて【アロー】の魔法を使えるようになった。
これは魔法の対象となる水を矢の形状に変化させる魔法だ。
(これは今度試してみるとして、………ダールベルク討伐で取得可能になったスキルがあったな。)
そう思うとアルマは取得可能なスキルの一覧を表示した。
そこには『狂化』スキルの名前が確かに書かれていた。
『狂化』スキルそれは一定時間ステータス上昇を与える代わりにバットステータスの「バーサク」を得るスキルであった。
(ダールベルクが強化されたのはこのスキルのせいか………。んー、使いどころが難しいな。)
ソロで活動しているアルマからすればバーサク状態になり突発的な変化に対応できないと死につながりかねない。
だからこそこのスキルを取得するのは躊躇してしまった。
(ま、取得可能になったからと言って必ず取らなきゃいけないわけじゃないから今回は放置でいいだろ。)
その考えに至るとアルマはスキル取得を止めて、一覧を閉じてしまった。
(最後は、………称号か。これが一番よくわからないんだよな。)
称号とはプレイヤーが成した偉業をわかりやすく表したものでありそのプレイヤーが何者なのかを示す名刺代わりのようなものである。
プレイヤーは取得した称号の中から1つのみ設定することができ、称号に対応した恩恵を受けることができる。
アルマはそれをヘルプウィンドウで確認すると自分が獲得した称号を一つ一つ確認していった。
称号「ダールベルク討伐者」
岩狂暴竜ダールベルクを討伐したものに送られる称号。
『狂化』系統スキルのステータス上昇値+4%。
称号「最初の解放者」
ユニークボスモンスターを最初に討伐したものに送られる称号。
最大HP+30%、最大MP+30%。
称号「一騎当千」
1人でボス級のモンスターを討伐したものに送られる称号。
全ステータス値+5%
称号「絶対強者」
初めて1人でボス級のモンスターを討伐したものに送られる称号
全ステータス値+10%
(………!!、!!!!)
アルマはただただ戦慄した。
称号というシステムについてではない。
自分が獲得した称号の破格さについてである。
(「最初の解放者」もやべぇが、特にやばいのが「絶対強者」。こいつだ!!なんだ全ステータス+10%って!!)
その称号は特性上必ず全プレイヤーの中で一人しか獲得することができない。
だからこそ「絶対強者」なのだろう。
だからこそそれだけ強力な恩恵が用意されていたのだろう。
その効果にアルマは戦慄する。
しかし………。
(………あれ?俺のプレイスタイル的には「最初の解放者」のほうが相性よくね?)
アルマは敵の攻撃を避けながら毒薬や炸裂薬を水魔法でぶつけるという戦法を取っている。
水魔法の威力自体は知力値参照だが、ダメージソースは薬の毒と爆発でこれはアイテムの品質依存である。
唯一ステータスが影響するのは攻撃を避ける際に参照する敏捷値だが、アルマは現在に至るまで自分の持つ敏捷値で避けれない攻撃をしてくる敵はいなかった。
だからこそ水魔法を放てる回数を増やすために「最初の解放者」のほうが相性はいい………。
(でも、「絶対強者」のほうがカッコいいだろ!!っつ、ゲームやってんだからカッコよさ優先だろ!!!!)
そう思うとアルマは自分の称号に「絶対強者」を設定した。
(まあ、別に設定したら後で変えられないというわけでもないし、しばらくはこれでいいだろ。)
そう思うとアルマは自分の称号の欄に記載された「絶対強者」の文字を嬉しそうに眺めていた。
日はもう暮れ切っており、中央広場にはアルマ以外誰もいなかった。
虚空に向かってにやにやと笑いかけるアルマは贔屓目に見ても変質者であった。
(さて、一通り確認したし、いったんログアウトするか。)
ひとしきり称号を眺めて満足したのか唐突にアルマはそう思うと、すぐさまウィンドウからログアウト操作を行い現実世界へと戻っていった。
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次にアルマがログインした時、太陽は真上を過ぎていた。
「………うん、少しゆっくりしすぎたかもしれない。」
当初の予定では現実世界で1時間程度の休憩を挟み、日の出直後にファートを断つ予定であったが実際にはその時間を大きく過ぎてのログインである。
いや、まだ目的の日中にログインできただけましなのかもしれないが。
そんなことを考えつつも足はファートの東門に向けて歩きはじめていた。
「あ、あの。」
ファートの東門前に来たときそんな風に声をかけられた。
そちらに目を向けると長槍を持った10代後半くらいの少年がたっていた。
その少年は灰色の髪に灰色の目をしており、装備から初心者であることが見て取れた。
種族<<レイス>>についても一目瞭然である。
その少年の頭からは髪色と同じ灰色の獣耳が突き出しており、腰からはこれまた灰色の毛並みを持つふさふさの尻尾が生えていた。
「あの?」
向き直ったのに反応のなかったアルマを訝しんでか少年が再びそう声をかけてきた。
次はしっかりと目を見て話しかけてきた。
「あぁ。なに?」
「はい。あのこれから王都に向かうのなら一緒に行きませんか?」
突然そう話しかけられアルマは混乱した。
アルマは少年の話を詳しく聞いた。
少年はどうやらついさっきMSOを始めたばかりの初心者でこれからチュートリアル最期の王都へ向かうクエストを実施するという。
そこで他にも同じように王都に向かう人がいるならばいっしょにパーティを組んで安全に行きたいと考えてこのファート東門前で待っていたらしい。
少年から見てアルマの見た目は少年同様に初心者のそれであるためきっとアルマもこれからチュートリアル最後の王都へ向かうクエストを行うのではないかと考え、声をかけたそうだ。
初心者装備はしているもののチュートリアルは完了しているアルマではあったが、その少年の申し出を受け入れることにした。
特に理由などは無く単にパーティというものに興味があったからだ。
少年以外にもある程度人が集まっているとのことだったのでその人たちのところに向かうことになった。
向かうと言っても街中に戻るようなことは無く、単に通行の邪魔にならないように東門近くの道から外れた場所に集まっていただけではあるのだが………。
そこには2人の女性がいた。
2人に軽く事情を説明すると少年が口を開いた。
「さて、まず自己紹介させてください。僕はワルテと言います。見ての通り狼のビーストで戦闘では槍を使います。先ほど説明させていただいた通り先ほどMSOを始めたばかりの初心者です。」
少年………ワルテは元気よくそう自己紹介すると「よろしくお願いします。」と片手を出してきた。
アルマはそれにこたえるように自身も片手を出して握手しながら「よろしく」と返した。
「次は私ね。私はマリリーズ。人間の魔術師よ。魔術は風と土を使うわ。ワルテ同様についさっき始めたばかりね。」
そう自己紹介してきた女性は橙色の長い髪に同じく橙色の瞳をしており、背丈は150cmと少し小柄であった。
手には木製の杖を持ち、ボロボロのローブを着込んでいる様はまさしく初心者であると言わんばかりであった。
マリリーズも自己紹介をするとワルテ同様に「よろしく。」と言って握手を求めてきた。
アルマもそれに応じる。
「次はわしじゃな。わしの名は紅葉じゃ。デミ・オーガの剣士じゃが一応支援魔法も使える。わしは2人と違って半日ほど早く始めておったが、クエストの進みぐわいとしては同じくらいじゃの。」
独特の口調で自己紹介をしてきたのは長い黒髪に黒い瞳、肌も薄黒く頭から特徴的な2本の角をはやした女性であった。
身長は130cmとマリリーズよりも1周り小柄で、その様子から子供が背伸びして大人のまねごとをしているように見えた。
装備は皆と同じようにボロボロの初心者装備に身を包み、腰にはロングソードを佩いていた。
3人が自己紹介すると、その6つの瞳がこちらを向いた。
「最後は俺だね。俺はアルマ。レプラコーンの薬師だ。俺はチュートリアルも終わらせていて王都には一度行っている。今は知り合いの生産職から依頼を受けてファートに来ていたが、今から王都に戻るところだ。よろしく。」
そうアルマが自己紹介するとワルテやマリリーズは一度王都に行ったことのあるアルマが一緒にいることに頼もしさを感じているのか笑みを浮かべた。
一方、紅葉は何やら思案するような表情をした。
「………むむむ、アルマとな?お主、もしやワールドアナウンスのか?」
紅葉はアルマの方を向きながら真剣な表情でそう聞いてきた。
アルマは照れくさそうな表情をしながら答えた。
「一応そうだよ。」
「これは愉快じゃ。よもやこのようなところでトッププレイヤーに出会うことになろうとはの。」
紅葉のその言葉にワルテとマリリーズが疑問を浮かべるような顔をしていた。
紅葉は何が楽しいのか呵々と笑いながら説明しだした。
「おぬしらユニークモンスターは知っておろう?こやつはのそのユニークモンスターを討伐したのじゃ。おそらくMSOの正式サービス開始初であろう?」
そう聞いてくる紅葉にアルマは「まあ、そうだよ。」と肯定の意を示す。
その2人のやり取りを見てワルテとマリリーズも事の大きさを察したのか恐る恐るといったふうに口を開いた。
「あの、今回僕たちのパーティに加わって貰ってもいいんですか?」
その疑問はアルマがあまりにも先に進んでいることを恐れての疑問だったのだろう。
しかし、アルマとしては自分が初心者であるという認識が間違っているとは思っておらず、今回こうしてパーティに誘ってもらえたことにも喜んでいる。
だからこそそれを伝えるためにアルマはワルテに向き直って口を開いた。
「いや、俺が初心者なのは間違いないよ。そもそもまだ正式サービス開始して1週間も経ってないんだから初心者も経験者もないと思うけどね。パーティに誘ってもらったことは純粋にうれしいと思うし、是非こちらとしてもパーティに参加させてほしいと思う。」
そうアルマが口にするとワルテもマリリーズも胸を撫でおろしほっとしていた。
そんな光景を何が楽しいのか紅葉はくすくすと笑いながら眺めていた。
「さて、パーティはこれで全員?それともまだだれか来るのかい?」
ひとしきり自己紹介が終わるとアルマはそうワルテに聞いた。
ワルテは少し考えこむようにしながら答えた。
「そうですね。元々アルマさんをお誘いする直前にそろそろ出発しようと話していたところなのでこれで行きたいと思います。」
「そう、アイテムの準備とかも万端だよね?」
3人はアルマのその質問を肯定した。
アルマも含めて4人ともファートの東門に来ているだけあってもうすでに準備万端であった。
「では、行きましょう。」
ワルテのその言葉を合図に4人は王都に向けて歩き出した。




