025 それぞれの反応
◆王都グレアム
<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『ダールベルク』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>
<これによりランフランク山廃鉱が解放されます。>
ガルドはいつも通り西門前の広場で露店を開いているとき、そのシステムメッセージを確認した。
「は?はああああああぁ!?」
ガルドのその大声は周囲の人々の喧騒にかき消された。
それもそのはずである。
今まさに同じメッセージを受け取ったプレイヤー………異邦人は皆一様に驚きを表していたのである。
しかし、ガルドと彼らで違いがあるとすればユニーク討伐という偉業を成したそのプレイヤー………アルマのことを知っているか、知っていないかである。
アルマのことを知らない多くのプレイヤーは、皆口をそろえて「誰だ?」という疑問を口にしているが、アルマのことを知っているガルドからしてみれば「何故?」という疑問が先に来ていた。
「いや、はぁ!?あいつ何してんだ!!」
アルマには今まさにガルドが依頼を出していた。
それは確かにランフランク山に向かう必要のある依頼ではあったが、ダールベルクが占拠している山頂付近には近づかないものであった。
だからこそ何故ダールベルクと戦闘することになっているのか、その理由がガルドにはわからなかった。
「!!!!」
それはいつも通りガルドの隣で露店を広げていたてるるにとっても同じ疑問なのだろう。
横目に見るその表情はまさに絶句と言わんばかりであった。
「いやでも!!仮に戦闘する理由があったとしても、………どうやって!?」
次にガルドを襲った疑問は「どうやって討伐したのか?」である。
アルマは確かに低レベルで大猿を討伐するというレプラコーンという戦闘向きではない種族では考えにくい成果を上げているが、それがあってもまさかユニークモンスターを討伐できるとは考えにくかったのである。
ワールドアナウンスを何度も見直しては頭の中で膨らみ続ける疑問にガルドはアルマのやつを問い詰めてやろうと思い至った。
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◆ファート
<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『ダールベルク』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>
<これによりランフランク山廃鉱が解放されます。>
そのアナウンスをセージたちパーティはファートにある冒険者組合で確認していた。
アナウンスを確認した直後、しんと静まり返った。
セージたちは今まさにランフランク山を下りてファートの町に帰ってきた。
アルマとはランフランク山で出会っていたのである。
(その時はダールベルクの討伐など話していなかったのになぜでしょうね?)
セージはそんな疑問を冷静に頭の中で思いながらも、友人の成した偉業に胸が熱くなるのを感じた。
「すっごーい!!あんなに弱そーにみえたのに!!」
静寂を打ち破って、第一声を上げたのはティアナである。
ティアナの真っ直ぐな言葉は確かにここにいるみんなの心にあった疑問であろう。
アルマの装備は上下ともに初心者のボロ装備、武器は一応変えているとはいえ銅装備であった。
レベルも本来ならばランフランク山の適正に届かないレベル5である。
β時代にブロンズ装備で身を包んだレベル10のパーティが敵わなかったダールベルクに勝てるとは到底思えなかった。
公式サービス開始にあたってダールベルクの難易度が下がったのかと一瞬考えるも、このゲームを作成している会社はそんなことはしないだろうと棄却する。
「本当にどうやったのでしょうか?」
「………うむ。ダールベルクだけが弱体化されているとは考えにくい。」
セージの心の声に同調するようにパトリシアとホルストがそう言った。
2人ともβからの付き合いだ。
当然ダールベルクやそれ以外のモンスターの強さもよく知っている。
今までの経験からダールベルク以外のモンスターはβと違いがなかった。
ダールベルクだけが弱体化はされていないだろうという結論もセージと同様であった。
「アルマさんはレベル5でランフランク山に行ける程なのできっと何か奥の手があるんですよ。格上のモンスター相手に善戦できるだけの奥の手が。」
静かにルナがそう言った。
確かにそのとおりである。
セージたちが知らない手段がない限りはレベル5でランフランク山にたどり着く前に森の中で猿たちに倒されてしまうだろう。
「………僕たちも負けてられませんね。」
セージが話をまとめるようにそう口にするとパーティメンバーたちは皆口をそろえてそれに賛同した。
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◆王都の森
<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『ダールベルク』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>
<これによりランフランク山廃鉱が解放されます。>
「ほう。」
そのアナウンスをヒューマンの魔法剣士………ディートヘルムは王都の森で確認した。
180cmを超える身長に短く切りそろえられた赤髪、顔に深々と彫り込まれた皺は歴戦の貫禄を漂わせていた。
全身を青銅の装備に身を包み、腰にはロングソードを佩いたそのいで立ちはまさに戦士のそれであった。
「いやぁ、先を越されちゃったね。」
ディートヘルムの横からパーティメンバーのエルフ………ヘクトールが声をかけた。
彼はその顔に笑顔を浮かべながらも瞳の奥では悔しさを隠していた。
そんなヘクトールの気持ちを知ってか、知らずかディートヘルムは口角を上げながら応じた。
「いや、確かにユニークの初討伐という偉業は奪われてしまったが。俺らの目標はカサモラータ。………パルマーダ街道に居座る巨狼だ。」
「そうだね。それでも、もうちょっと悔しそうなそぶりを見せてもいいじゃない?」
「む。それはおまえも同じだろう。」
そんな会話をしつつも2人の中ではユニークモンスターに対する熱が燃え上がっていた。
他でもないアルマがダールベルクを討伐したからである。
自分たちの目標としているモンスターとは違うとは言え、同じユニークモンスターを討伐するプレイヤーが現れた。
その事実は彼らの闘争心を掻き立てるには十分な事件だった。
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◆王都の路地裏
<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『ダールベルク』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>
<これによりランフランク山廃鉱が解放されます。>
「へー………、あの坊主がね………。」
ヨルゴはそのアナウンスを王都の路地裏で煙草をふかしながら確認していた。
そこはプレイヤー………異邦人の姿がない静かな路地裏であった。
ヨルゴ以外にそのアナウンスに驚きを表すものはいない。
ヨルゴはそのアナウンスを見ながら以前であったレプラコーンの少年のことを思い出していた。
見るからに初心者な彼が数日の間にユニークモンスターを倒すに至った。
それはヨルゴに驚きを与えたもの、その驚き以上に別の感情が彼の胸の内を満たしていた。
「ワールドアナウンスで名前が出た以上ただの初心者ではいられないぜ………アルマ。」
誰に言うわけでもないヨルゴのそんな呟きは彼が吐き出した煙草の煙とともに宙へと消えた。
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◆ランフランク山
ランフランク山上層部、アルマはダールベルクを討伐した喜びを噛みしめていた。
「よっしゃーーーーー!!!!っつ、疲れたーーーーーー!!」
アルマはバタンと仰向けに倒れる。
背中に突き刺さる石の破片がアルマの貧弱な物理防御を突破して僅かにHPを削る。
しかし、そんなことはどうでもいいと言わんばかりにアルマは満面の笑みで空を眺める。
ダールベルクを討伐した。
それはβ時代を合わせて誰も成しえ無かった偉業である。
そのことはガルド、セージたちから嫌というほど聞いていた。
だからこそ今の自分が………、レプラコーンである自分がそれを成しえたことに驚きとそれを超える喜びに満ち満ちていたのである。
ひとしきりこの幸福感を味わい尽くした後、まずアルマが気になったのは先ほどから絶えずなり続けていたシステムメッセージについてである。
「なんか、めちゃくちゃメッセージが来てたな。………なんだこれ?」
アルマはメッセージを開き、その中でも特に気になったものを注意深く確認した。
<ユニークモンスター『ダールベルク』の討伐を確認。>
<称号『ダールベルク討伐者』を獲得しました。>
<スキルポイント10Pを入手しました。>
<スキル『狂化』の取得条件を満たしました。>
…
<貢献度からMVPを決定します………MVPはプレイヤー『アルマ』となります。>
<MVP報酬『ダールベルクの暴核』を入手しました。>
…
<ユニークモンスターの初討伐を確認。>
<称号『最初の解放者』を獲得しました。>
…
<ボス級モンスターのソロ討伐を確認。>
<称号『一騎当千』を獲得しました。>
…
<ボス級モンスターの初ソロ討伐を確認>
<称号『絶対強者』を獲得しました。>
…
<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『ダールベルク』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>
<これによりランフランク山廃鉱が解放されます。>
圧巻である。
アルマが成したことはやはり偉業であるとシステム自身が認めてくれたようであった。
「えっと………、ダールベルクの討伐はいいだろ。称号?なんだこれ?………MVP?報酬は………え、ユニーク?」
ダールベルクを討伐してもたらされたものに若干引きながらアルマは1つ1つのメッセージを吟味していった。
「………ユニークの討伐やら、ソロ討伐やらで称号。………最後のこれはワールドアナウンス?つまり、全プレイヤーにこれが届いているのか?」
一通り確認したはいいものの何がどう変わったのか結局よくわからなかったアルマはメッセージを閉じて、自身のステータスを確認する。
「お、おぉ!!種族レベルが3も上がってる!!」
そこにはレベル8と確かに表示されていた。
大猿撃破後にレベル5だったことを考えると確かにダールベルクの討伐だけでレベル3も上がっていた。
それほどまでにダールベルクが今のアルマにとってはるか格上の相手であったということだ。
―ピピピ
アルマがしばらく自分のステータスを眺めているとシステムの通知音が鳴り響いた。
………どうやらフレンド通話の着信を知らせる通知のようだ。
「えっと、誰からだ?………ガルド?」
送信元はガルドであった。
何かあったのかなと考えつつアルマは普通に電話に出る要領で着信を受け取った。
「はいはい、ガルド?どうした?」
「ん?アルマだな?どうしたじゃねぇ!?なんださっきのワールドアナウンスは!?」
通話越しのガルドの声は彼が冷静さを欠いているのがありありとわかる声色をしていた。
その勢いに驚きながらものほほんとした口調でアルマは答えた。
「何って?ランフランク山のダールベルクを討伐したんだよ。」
「そんなのはメッセージ見ればわかる。聞きてぇのは、どうしてとどうやってだ!!」
「んー、どうしてと言われてもな。………成り行き?」
「………はぁー。アルマ、おまえさんまだランフランク山か?」
通話越しにもガルドが呆れているのが分かるようであった。
「ん?ああ、そうだよ今から下山するところ。」
「下山したら王都に向かうんだな?」
「んー、下山後は日が傾いているだろうから明日の朝にでもファートを出るつもり。」
「………まぁ、いいだろう。よし王都に着いたらすぐに俺のところまで来い。前と同じで西門前広場にいる。」
「はぁ、元々そのつもりだからいいけど。どうした?」
一連の会話の流れからガルドが何を言いたいのかわからずアルマは聞き返す。
「どうしたもこうしたもあるか!!あんなアナウンスがあったからなじっくり直接問い詰めてやるんだよ!!」
「あ、あははは。」
「いいか?明後日、王都に着いたら真っ直ぐ俺のところに来るんだぞ!!」
「わ、わかったよ。」
それだけ言うとアルマは通話を切った。
「さてと………。」
ひとしきり休憩も終わりと立ち上がり、大きく伸びをする。
その後、アルマは静かになったランフランク山を下山するために歩き始めた。




