024 激突!ダールベルク!
本日から1日1話投稿となります。
◆ランフランク山
アルマはダールベルクと戦うべく腰のナイフを取り出し戦闘態勢を取った。
強者の余裕か、悠々とダールベルクはアルマを眺めている。
「なめやがって!!」
そう口にすると同時に大きく地を蹴った。
接敵するアルマを確認するとダールベルクは体を左に傾け、右足を大きく持ち上げた。
アルマはダールベルクがやろうとしていることに察しが行ったのか急ブレーキをかけて左に大きく飛んだ。
その瞬間、ダールベルクはアルマを踏みつぶそうと右足を強く地面にたたきつけた。
―ドン
ダールベルクの巨体から放たれるその攻撃は辺りをギシギシときしませる。
間一髪でその攻撃を避けたアルマはすぐさまダールベルクと距離を詰めると今しがた踏みつけた右足めがけて右手のナイフを振るう。
―カン
甲高い音が響き、文字通り岩を殴りつけたような感触が手に伝わる。
案の定というべきかその攻撃はダールベルクにダメージを与えることができなかった。
ダールベルクの前身は岩石に覆われている。
その装甲を抜くためには巨大なハンマーでも持ってこないと話にならないだろう。
もしかしたら、MSOの世界には岩をも切るファンタジー金属があるかもしれないが残念ながらアルマのそのナイフにはそれはできなかった。
「くそ!!」
ナイフが効果がないとわかるとアルマはすぐさま体を回転させてダールベルクから距離を取る。
その際に水魔法を使いダールベルクの巨体に【ウォータ】【ボール】の魔法をぶつける。
しかしこちらもダールベルクの岩肌を濡らすだけで、効果を発揮することは無かった。
ダールベルクも黙って突っ立っていてくれるわけでもない。
アルマが離れようとする瞬間、その巨大な尻尾を振るってアルマを叩き潰そうとする。
しかし、その攻撃は空を切った。
ダールベルクの予想を反してアルマの敏捷性が高かったからである。
ダールベルクは頑丈さ、アルマは機敏さをもってお互いがお互いにダメージを与えられない攻防が続いた。
アルマは一度大きく距離を取るとナイフや単なる水魔法では効果が無いと結論付けてナイフをしまいインベントリから薬瓶を取り出した。
それは大猿相手に猛威を振るった「ザルゾ毒液」である。
(これならいけるだろ!!)
その毒液は今までだってアルマに勝利をもたらしてきたいわばアルマのとっておきなのだ。
アルマは自信とともにその毒液を水魔法でダールベルクの顔面目掛けて飛ばした。
ダールベルクは先ほど水魔法で効果がなかったことを覚えていたからか、その攻撃を避けもしなかった。
(これでどうだ!?)
ダールベルクの様子は変わらなかった。
(やっぱりあの巨体だと1つじゃ効果は無いか!?ならば!!)
そう思うと続けざまに2個、3個と毒液を取り出してダールベルクに飛ばしていった。
効果が無いと言っても鬱陶しさを感じたのであろう。
ダールベルクは「ガーーー」と一度大きく咆哮し、アルマのそんな行動を制した。
咆哮のせいで体が緊張してしまい固まるのを感じ取ったアルマは悠然と歩んでくるダールベルクをただ眺めていることしかできなかった。
後一息の距離まで詰めてきたダールベルクはその巨体を横にして、タックルをするようにアルマに迫ってきた。
「くっ!!」
寸での所で硬直から脱したアルマは地面に転がりダールベルクの下をくぐるようにその攻撃を避けた。
ダールベルクはその巨体を岩壁にぶつけ止まると、アルマが攻撃を回避したことを理解したのであろう。
すぐさまアルマに向き直り尻尾を振り回してきた。
アルマは持ち前の機敏さをもってそれを回避し、距離を取る。
都合6度は当てた毒薬の効果が無かったのかダールベルクの動きに陰りは見えなかった。
(ただの毒薬じゃダメなのか?それなら!!)
そう思いアルマがインベントリを操作しようとしたその時である。
度重なる攻撃がアルマに当たる気配がなくフラストレーションが溜まったのかダールベルクはひときわ大きく「グガーーーーー!!!!」と咆哮をすると、体中に燃えるような赤い文様が浮き出した。
その文様はあたかも血管のように体中、そして体から生えた岩石を巡っていた。
(な、なんだ!?)
アルマのそんな疑問はすぐに解消された。
それは他でもないダールベルクの行動によってだった。
ダールベルクは地を大きくけるとアルマめがけて距離を詰めてきた。
その速度は先ほどまでの悠々としたものとは異なり俊敏な動きであった。
1舜の呼吸の間に距離を詰めたダールベルクはその大きな尻尾を振るう。
その勢いも先ほどまでの比ではなかった。
1撃で岩石どころか城壁さえも砕きかねないその1撃を1度ならず、2度、3度と繰り返しアルマに振るう。
そのすべてをギリギリのところで回避するアルマの頭にあるのは「当たったら死ぬ。」というシンプルな答えだった。
勢いを増すダールベルクの攻撃にアルマは手が出せないどころか、全身全霊をもって回避に専念することしかできなかった。
右に左に尻尾を振るい、時には足を持ち上げて踏みつけ、時にはその巨体をもって体当たりを試みるダールベルクの目は確かにアルマを見据え続けていた。
(こ、このままじゃ避けきれなくなる。)
ダールベルクの攻撃は確かにすべてがアルマを狙ったものであったが、アルマだけに被害を及ぼすものではなかった。
他でもない今戦っているこの地形そのものがダールベルクの攻撃を受けて刻一刻と変化しているのだ。
それはアルマが逃げるためのスペースを殺し、果てにはアルマ自身を殺すことになるだろうとアルマは想像ついていた。
それでもアルマには避けることしかできなかった。
攻撃を行うことも、距離を取ることも封じられ、その嵐のような暴力を避け続けることしかできなかった。
いや、事ここに至ってはよく避け続けていると褒めるべきだろう。
普通の人であればこの暴風はおろかダールベルクが赤く染まる前の攻撃さえも避けることは困難だろう。
アルマが避けられるのは何故なのか?
その答えはレプラコーンという種族とアルマ自身にあった。
レプラコーンは低いHP、筋力値、知力値の代わりに物凄く高い敏捷値を持つ。
この敏捷値こそがアルマがダールベルクの攻撃を機敏に避ける一助となっているのだ。
しかし、それだけではない。
いくら機敏に動けると言ってもその攻撃を正しく認識しなければ避ける動作すらとることはできないのだから。
それこそがアルマ自身がリアルから持ち込んだ力である。
アルマ自身気が付いていないが、アルマには他の人より優れた動体視力があった。
だからこそダールベルクの暴風のような攻撃を正確に読んで避けることができたのだ。
1分、2分とダールベルクの暴力は続いた。
未だに衰えは見えなかった。
アルマの方もまだまだ集中力は切れておらず避け続けることができている。
しかし、そんな1人と1匹のロンドも幕切れはあっけなかった。
「あっ………。」
ダールベルクが暴れて崩れた地面に巻き込まれるようにアルマは足を躓かせた。
ダールベルクもその機を逃さずに両足に力を込めてその大きな尻尾を振るう。
直撃は免れないそう思った矢先である。
「………グゥ。」
ダールベルクが膝を折り、地につけた。
それに呼応するかのように振るった尻尾もアルマを避け、空を切る。
どうやら膝から力が抜けたかのようだ。
そう見えるダールベルクの様子にアルマは勝機を見出した。
(効いている!!毒が効いているんだ!!)
そう思ったのもつかの間、膝をついたダールベルクから距離を取るようにアルマは地を駆けた。
十分な距離を取ったところでインベントリを操作し、新しい毒薬を取り出した。
ザルゾ毒濃縮液【消耗品】
品質 :C-
毒性 :第1種(毒)
ザルゾ草の毒を限界まで煮詰めて濃縮した液体。濃縮したことによりザルゾ毒液より強力な毒性を持つようになった。第1種キュアポーションで回復可能。
その毒薬は先ほどまで使っていた「ザルゾ毒液」を濃縮したものであった。
毒の種類こそ第1種で変わりないもののその毒性は強力なものになっている。
アルマはその薬瓶の蓋を開けると今までと同じように水魔法でダールベルクめがけて放った。
ダールベルクは毒が回っているのか思うように動けていない。
そのため避けることができずに顔面でその「ザルゾ毒濃縮液」を受けてしまう。
この隙を逃すものかとアルマはインベントリからどんどん「ザルゾ毒濃縮液」を取り出すと次々とダールベルクへ向かって放っていった。
(これで勝てる!!)
そうアルマが思ったのも仕方がないだろう。
確かに今この局面ではアルマのほうが優勢に見えるのだから。
だがしかし、たかが毒1つでこの恐竜が倒せるものか。
ユニークモンスターがその程度のものか。
そう言うかのようにダールベルクは「ガアアアアアアアアアアアアァ!!」と空にほえた。
変化は突然だった。
赤く染められたダールベルクの体は次第に黒く、黒く染まっていった。
それは墨汁を垂らしたかのように一点の光さえ許さない黒であった。
怒りが臨界点を越えてしまっているのであろう、アルマを睨めつける瞳には理性というものを何一つ感じさせなかった。
「だ、第3段階!?」
アルマは驚きながらもそのダールベルクの変化を眺めていることしかできなかった。
「ガアアアアアアアアアアアアァ!!」
再びダールベルクが吠える。
次はアルマに向けて。
その咆哮をもろに浴びてしまったアルマは全身の筋肉が硬直するのを感じた。
体中の勇気を総動員してせめてもという思いから必死に開かれたその瞳が移したのは、両の足に力を込めて飛び跳ねるダールベルクであった。
「と、飛んだぁーーーー!!」
アルマの身長は優に超えて高く飛び上がったダールベルクが目指すのは当然アルマ自身である。
アルマもそのことはわかっている。
必死に回避しようとするも意志に反して体は先ほどの咆哮の硬直から抜け出せずにいた。
もう後がないそんな時不意に緊張の糸がほどけた。
それが功をそうしたのか、アルマはその場で尻もちをつくように座り込んでしまう。
つかの間「これは好機!!」とアルマはそのまま後転するように地面を転がった。
先の尖った石が背中に刺さる感覚があるがそれは無視しながらアルマは後転してダールベルクから距離を取った。
―ッッッッッッドン!!!!!
2回、3回と回ったその時グレネードが直撃したかのような音と衝撃が当りを襲った。
当然、小さな体を持ったアルマはその衝撃に吹き飛ばされてしまう。
しかし、生き残ることはできた。
吹き飛ばされた影響でHPを大きく減らすことにはなったが、直撃を免れたためにアルマはいまだに五体満足でいられたのだ。
(よし!!しなやす。しなやす。)
痛む体に鞭を打ちながらアルマは立ち上がりダールベルクの様子を伺う。
そこには先ほどまでは確かにあった理性をかなぐり捨てて暴れまわる恐竜がいた。
すでにアルマのことなど眼中にないかのように暴れまわるもののその暴威は先ほどまでの比ではなく無秩序に飛び交うダールベルクの攻撃やそれによって飛び散る石や岩は直撃こそしないまでもアルマの体力を徐々に減らしていった。
(ぐぅ………それでも、さっきよりはましか?)
ダールベルクの理性が消し飛んだことでせっかく作り上げた袋小路はその形を崩していた。
逃げることはいまだできないまでも岩と岩が作り出した隙間は飛び交う石から体を守ることができる程度のことはできた。
アルマはダールベルクが離れた一瞬を見計らってその隙間に転がり込み急いでインベントリを操作して「HPローポーション」を取り出し減ってしまった体力を回復する。
HPが回復したことを確認したアルマはダールベルクの行動を観察することに努めた。
(さっきの様子から確かに毒は効いていた。それが今ではあそこまで元気に暴れまわれているのは何故だ?………考えられるのは2パターン。狂暴化によって毒のデメリットが効力を失っているか毒事態が効力を失っているか。前者の場合はこのまま放置していればそのうちHPが0になると思うが………そんなに優しくはないよね?)
ダールベルクはいまだ理性を失ったまま暴れまわっていた。
アルマが隠れ潜んでいることなど眼中にないのであろう。
その暴力は目的などなくただただ暴れることそのものが目的なのだと言っているかのようであった。
(後者の場合はもう一度毒を浴びせれば効果があるのかが問題だ。………いや、たとえ毒の効果があったとしてもあれだけ暴れまわっているダールベルクに毒球をぶつけることなんてできないぞ。)
ダールベルクの暴力は一所にとどまらない。
アルマがこうして冷静に考えられるのもダールベルクがこちらに近寄るまでの短い時間だ。
そう思うからこそアルマは必死にそれでいて冷静に自分の取りえる手立てを組み立てていく。
(いや、水魔法のレベルが上がって覚えたあれを使えば毒を浴びせることはどうにかなる。あとは毒以外のダメージソースに関しても………まだ、試していなかったやつがあったな。)
アルマの目に希望の光が灯った。
岩陰からダールベルクが今だ遠くで暴れまわっていることを確認したアルマはインベントリを操作して2つの薬瓶を取り出した。
1つの薬瓶の蓋を開けるといつもと同じように水魔法で中身を宙に浮かせる。
準備ができると岩陰から飛び出し、猛然とダールベルクに向かって駆け出した。
ダールベルクの攻撃が届かないギリギリまで近づいたアルマは「【シュート】!!」の掛け声とともに宙に浮かせた薬液をダールベルクに飛ばした。
その薬液はダールベルクの胴体に当たった。
その瞬間。
―ッドン
轟音とともに爆発した。
爆発の威力はそこそこありダールベルクもこれにより体勢を崩すほどであった。
(よし!!炸裂薬は効果があるぞ!!)
アルマが使った薬液はベラスベリーという発火作用のある植物から作られた炸裂薬であった。
つまるところ液体の火薬である。
そんなものを勢いよくぶつけられたダールベルクはその真っ赤な双眸でアルマを見据えた。
(次だ!!)
そう心の中で意気込むと手に持っていたもう一方の薬瓶の蓋を開け口を開いた。
「………【ミスト】!!」
【ミスト】………『初級水魔法』がレベル3になったときに覚えた新たな魔法でこれは液体を霧状に変化させる魔法だ。
この【ミスト】の魔法を使い「ザルゾ毒濃縮液」を霧状にした。
当然、アルマはダールベルクを見失うしダールベルクもアルマを見失う。
その霧に紛れるようにしてアルマはダールベルクから大きく距離を取った。
―ドンッ、ドンッ
霧の範囲から脱出したアルマの耳に届いたのはそんな音であった。
それは姿の見えないダールベルクが絶え間なく暴れ続けている証拠であった。
それでも未だ霧の中からダールベルクが出てきていないことを確認するとアルマは急いでインベントリを開いた。
(うげ。霧状にしたから案の定、俺も毒受けてんじゃん!!)
当然である。
特別毒に対抗するスキルを持っているわけでも、毒に抵抗を持つ種族というわけでもないアルマは霧状にした毒の効果をしっかりと自分自身でも確認していた。
急いで開いたインベントリの中から「第1種キュアポーション」を取り出すと、すぐさまそれを服用し毒を治す。
ダースベルクはいまだ霧の中で暴れまわっていた。
それを確認するとアルマは新しい炸裂薬をいくつか取り出し、水魔法を使って霧の中目掛けて打ち出す。
当然ダールベルクの姿が見えない以上すべてが当たることは無かったが、運がいいことにいくつかの炸裂薬はダールベルクの体に直撃した。
度重なる爆発がダールベルクの体を襲い、その衝撃で霧も散ってしまった。
次にアルマが目にしたダールベルクの体には今までなかった傷が確かについていた。
霧も晴れアルマの姿を確認したダールベルクは、ズシリズシリとその巨体を揺らしながらアルマに迫る。
その足取りは先ほどまでと違いふらついているようであった。
それは毒が効果を発揮したのかはたまた炸裂薬のダメージが出かかったのか、アルマには判別つかなかったがそれでも確かな手応えを感じた。
(よし、あと少しだ!!)
そう思ったアルマは再三にわたりインベントリから炸裂薬を取り出し、それをダールベルクめがけて打ち尽くした。
「グゥ、ガアアアアアアアァ!!」
全ての炸裂薬を打ち尽くすとダールベルクはそんな叫び声を上げながら倒れ伏した。
「や、やったか?」
アルマのそんな言葉に答えるかのようにダールベルクの体はポリゴン状に砕けて、そのすべてが光となって消え去った。
壮絶の戦いがあったのが嘘であるような静寂のみが辺りを包んだ。
「や、やった。やった!!」
アルマは両手を上げて勝利を喜んだ。
アルマの視界端には数多くのシステムメッセージを知らせる通知が鳴り続けていた。
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<ワールドアナウンス>
<ユニークモンスター『ダールベルク』がプレイヤー『アルマ』によって討伐されました。>
<これによりランフランク山廃鉱が解放されます。>




