最初に運用目標を決める、全てはそれから
投資を開始するときに、最初に決めておくことが一つあります。
それは目標。
野球を始めた子供がその目標をレギュラー選手になることか、甲子園出場を目標にするか、プロ野球選手を目指すかで最初の選択をするようなものです。
投資を開始するときも、最初に目標を決めなければいけません。
投資における目標とは、運用利回りです。
運用利回りの目標を決めることが何故それほど重要かというと、それによって投資をする対象が決まってくるから。
投資対象云々は次回以降に回すとして、貯蓄を貯金ではなく投資にまわす理由は前回説明しました。
投資をする理由は「お金を目減りさせないため」―――インフレリスクに勝つためです。
将来直面するであろうインフレ率を予測したら、目標とする「運用利回り」は自ずと決まってきます。なぜなら予想するインフレ率3%なのに、運用利回りは1%にすると貯蓄は減るからです。
「3%の運用利回りは怖いから1%にしたけど、貯金のみで運用するよりお金を目減りしないから良いよね」
こんな風に納得した方は、投資をしない方がいいでしょう。投資をする理由がそもそもズレていますから、必要以上に貯蓄を危険に晒しているといえます。
じゃあ、インフレ率はいくつを予想すればいいの?
非常に残念ながら、それは誰にも分りません。
愛読している書籍の著者ジョン太郎 氏の言葉を借りるなら、投資における絶対の大前提は、「正解はだれも知らないし、未来は誰にも分らない」です。
話しを先に勧める前に、このことだけは絶対覚えておいてください。
繰り返しますが、「正解はだれも知らないし、未来は誰にも分らない」のです。
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嘘だ! TVや書籍やらで偉そうに語っているのを見たことがある!
当然、このように反論される方がいるでしょうから実例を上げましょう。
20世紀の偉大な経済学者にジョン・メイナード・ケインズ氏がいますが、彼でも相場を読み間違えて破産を経験しています。ケインズと同時代の天才的経済学者にアーヴィング・フィッシャー氏がいますが、彼は1929年の株式市場暴落「世界大恐慌」を読み間違えて、回復は間もなく訪れると明言し続けました。
例が古いと思われる方のために、最近の例も上げましょう。
ノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズ氏は、自分の論理を実証するため、LTCM「ロングターム・キャピタル・マネジメント」を設立しました。
金融工学と呼ばれる最新の経済学を駆使し、ノーベル経済学賞受賞者らを集めることで、驚異的な運用利回りを実現しました。が、彼らをもってしても破産の運命から逃れられなかったのです。
歴史に偉大な足跡を残すような偉人や、ノーベル経済学賞を受賞する天才でも相場を読むのが困難ということは、「正解はだれも知らないし、未来は誰にも分らない」と断言しても構わないでしょう。
この事実を前にしても正解を知っていると断言する方がいるとしたら、その人物は予知能力者かタイムトラベラー、あるいはケインズ氏やフィッシャー氏を超えて21世紀に偉大な足跡を残す人物、そうでなければ詐欺師の類。
投資家やアナリストが、「……かもしんれない」「……と考えられる」みたいに断言を避けるような物言いをするのは、責任逃れをしているのではなく、市場を恐ろしさを知っているからです。
投資家は予想が困難だと知った上で、受け入れ可能な範囲でリスクを負っているだけであり、ケインズ氏やマイロン・ショールズ氏は、そこを読み間違えたのです。
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脱線したので、インフレ率の話しに戻りましょう。
将来のインフレ率を断言することは困難ですが、ある程度辺りをつけることはできます。
散々脅してこの言い草ですから、椅子から転げ落ちるかもしれませんが、大雑把ならできなくないのです。
2020年の段階で日本のインフレ率は、1%に届くか届かないかで水位していますが、 第31代日本銀行総裁の黒田 東彦氏は、インフレ目標は2%と断言しています。
日本銀行総裁は極論をいうと、経済において日本で一番偉い人です。その黒田氏が目標としているのですから、いずれは2%になるかもしれません。ということは、ターゲットとするべきインフレ率は、2%以下に設定するのは賢明ではないという結論になります。
ただし経済において日本で一番偉い人が頑張っても、インフレ率は1%で水位してるのも事実。
黒田 東彦氏も、実は来年のインフレ率を知らないのです。
では上限はいくらにするか?
困ったときは世界各国のインフレ率を確認します。2018年にIMF「国際通貨基金」が発表している世界の消費者物価上昇率 国際比較が参考になるでしょう。
イタリア1.24%
ドイツ1.93%
アメリカ2.44%
ブラジル3.67%
メキシコ4.9%
モンゴル7.65%
アルゼンチン34.28%
適当に国名を挙げるとこんなところ。
黒田氏が掲げるインフレ率2%というのは、端的に言えばアメリカやドイツ並みの国になろうということです。
イタリアは慢性的な債務国でしたが、EU加盟によりインフレ率が低下していますので、この数値はイタリア以外の要素が大きいでしょう。
3~4%となるとブラジルやメキシコみたいな国で、インフレをコントロールするのに四苦八苦しています。モンゴルは単純に経済力が不足しているだけで、アルゼンチンは債務不履行になったため、信用を失ったためにこのような数値になっています。
上記の数値から読み取れることは、2%以下の運用利回りは賢明ではなく、かといって7%の運用利回りを目標するかは微妙といったところ。
ちなみにこの数値は貯蓄を目減りさせないための数値であり、資産を増やすために高い目標を設定するのを否定しているのではありません。あくまでも最低限の数値目標を決めるために、指標として上げているだけです。
目標する運用利回りが少しイメージできたと思いますので、今回はここまでとしますね。