出口戦略について考えてみる(後編) ~高齢者FIREという選択~
今回のお題は「出口戦略について考えてみる(後編) ~高齢者FIREという選択~」です。
前回はデータを元に年金制度について徒然なく語っていきましたが、今回は僕が考える高齢者FIREについて語っていこうと思います。
個人的な話題になりますが、僕は起立性貧血持ちなので現場仕事が合わない人です。
仕事はもっぱらデスクワーク。
5,6年前にはフィッシャー症候群という急性の末梢神経障害にかかり、呼吸困難からの歩行障害が発生して救急車で運ばれたりしました。フィッシャー症候群という病気は人口10万人あたり年間0.5人程度しか発症しない病気。現在は回復しましたが、副作用なのか無理な休出とか残業を繰り返すとあっという間に体の調子が悪くなります。
こんな体調なので、とてもじゃないですが70歳どころか65歳まで働けそうもありません。
身体がぐちゃぐちゃになる前に年金を繰り上げ受給するには、経済的自立が成り立つようなプランを考えるしかありませんでした。
労働者不足を補いたい経済通産省や、年金支給を少しでも減らしたい財務省にしたら迷惑な考え方ですが、晩年も寿命を削ってまでフルタイムで働きたくないのです。
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前回も軽く触れましたが、一般的な高齢者FIREは定年まで待たずに引退する生き方です。
僕が提案する高齢者FIREは年金生活者が収入のために、時間を時間を切り売りすることからの解放を目指しています。
なぜこのような考えが重要か?
内閣府が公開している「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」で、就労の継続を希望する理由を収入と回答された方が5割を超えている現状を思い出してください。
寿命が残り少なくなった身の上で、尚も経済的束縛を受ける現状を僕は変えたいのです。
その手段が高齢者FIRE。
FIRE生活者はある種の理想像として語られますが、実際に生活すると色々課題があるようです。
まずはこの点を整理するところから始めましょう。
①就労が不要になったことによる喪失感
②不労取得生活者に対する他者の無理解とある種の嫉妬
③安定収入を失ったことによる不安感
他にも課題はあると思いますが情報収集していると、この3つに集約するようです。
そこで①~③について、一つずつ確認していきますね。
①就労が不要になったことによる喪失感
年金生活者にも同様の傾向があるので、FIREと年金生活には差異は無いと考えてよいでしょう。年金生活者のほうが歴史が長いのですから、むしろFIREの方が同じ悩みを共有するようになったというべきか。
この点については生き甲斐や趣味などを事前準備するしかないでしょう。
ある意味、僕も含めて皆さんも両親に聞いた方が早いのかもしれません。
②不労取得生活者に対する他者の無理解とある種の嫉妬
定年した方に対する家族の無理解と近い感覚なのかもしれませんが、FIREと異なり高齢者就労をしないとしても隣人や親類から白眼視される可能性は低いでしょう。
その意味ではFIREよりも生きやすいのですが、子供たちが経済的支援を求めてくるケースがある点には注意が必要。このようなケースが発生する理由は現役世代の名目賃金が減少傾向にあるのに、教育費や食費などの生活コストは増加傾向にあるためです。
年金生活者=金持ちというイメージを抱きやすいので注意が必要。
災害や病気などがおきなくても想定外のトラブルに巻き込まれる可能性があります。
年金生活者は一致額以上の収入を得られないので金持ちとは呼べないのですが、不労収入=金持ち というようなイメージを結び付けやすいのでしょう。お金持ちには人が群がってくるものですからね。
ニュースサイトの焼き直しみたいなこと書いているな!
いえいえ、僕の親類で似たようなケースが発生しているのです。
とある事情からマイホーム購入が必要になった親類が、頭金不足を補うために同居していない義父から結構な額の資金援助を受けたのです。資金援助を受ける方は助かるでしょうが、援助をする側にしたらたまったものではありません。他人なら絶交すればよいだけですが、身内となればそうはいきません。
親類とはいえ家族ではない僕は外野なので関係ないですが、想定外の出費を求めてくる人物には十分注意が必要でしょう――というか注意する以外対処方法が無いのですが、脳内シミュレーションするだけでも効果があると思います。
人は不意のトラブルには動揺するものですが、想定していたトラブルには落ち着いて判断できる傾向がありますからね。
③安定収入を失ったことによる不安感。
従来唱えられているフルFIREは保有する金融商品だけで生活費を稼ぎだします。
そのため相場の上下に影響されやすく、下落相場次第では想定外の資産減少に直面する可能性がありました。サイドFIREはパートタイムで働くことで一定額の収入額を得て、相場に左右されにくくするという生き方。一定程度の経済的自立を成立させるのがサイドFIREですね。
僕が提案する高齢者FIREはサイドFIREと似ていますが、根本的な部分で異なります。
僕の提案する高齢者FIREはメインが年金であり、金融資産はサブ。
生活費のメインとなる収入を、金融商品ではなく年金としている点です。
提案の意図やメリットがイマイチ理解できないのだが?
年金は一定額を定期的に政府から支給されるお金です。
マクロ経済スライドなどの要素はありますが、支給額が急激に増えることも減ることもないお金――つまり安定収入なので市場に左右されることはありません。FIRE実践者が抱く安定収入を失ったという不安感からは解放されます。一方で「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」の「図表 3-4-3 日々の暮らしに困ることの有無」によれば、経済的に困っている方の比率は33.8%でした。
33.8%は決して低い比率ではありません。
年金だけではかなりの確率で生活費が不足するのです。
僕の提案する高齢者FIREの趣旨は、不足分を就労や年金繰り下げで対応するのではなく、金融商品の活用で補おうというもの。
注意してほしいのは収入目的の就労からの解放であり、生きがいとしての就労を否定してない点。
ワーカーホリック気味の日本人は、働くことで幸せを覚える傾向がありますからね。
違いが分かりにくい方がいるかもしれないので、抽象的な例としてロケットを想像していただけばよいでしょう。
従来のFIREはメインロケットが一機のみで、その差はロケットに搭載される燃料――投資金額の多寡にすぎません。
全てを金融商品に委ねるのですから、出力が安定しているとは言えないでしょう。
燃料というなの投資資金が切れれば、地上に落下するしかありません。
1憶円もあれば心配する必要はないでしょうが、3000~5000万程度では相場や家庭環境の変化で想定外の出費に耐えられないこともあるでしょう。いや従来のFIREを実現している方もいるので、無理のある計画ではないのですけどね。
一方で僕が提案する高齢者FIREは年金をメインロケットにしつつ、サブロケットとして複数の金融商品を搭載します。
メインは年金ですから安定性が十分確保。
メインロケットはやや出力不足ですが、その点はサブロケットとして準備した金融資産で補います。サブロケットは出力だけでなく安定性も考慮して複数の金融を商品を搭載し、年齢と共に順次サブロケットを点火することで加速を維持します。
構想的にはこんな感じです。
趣旨は理解するけど、50歳からのFIREじゃダメな理由が不明なんだけど。
年金だけに頼るのではなくメインに据えるという主張は理解したけど、経済的自立を犠牲にしていないか。
さっさとFIREしたほうが良くない?
その話がまだでしたね。
FIREをすることで経済的自立をするということは、厚生年金を納める期間が短くなることを意味します。
厚生年金保険第1号の平均年金月額は145,665円。
国民年金受給者の平均年金月額は56,479円。
関係式にすると
FIREを実行すると受給できる年金額は、56,479円<FIRE生活者<145,665円
になります。
従来の高齢者FIREは厚生年金を納めている期間が短いので、厚生年金を満額受給できません。このケースの場合は具体的金額が不明なので、従来の高齢者FIREが受給できる金額を10万円と仮定し、その金額で繰り上げ受給した場合の金額を計算しました。
FIREを実現した上で年金を60歳から繰り上げ受給すると減額率は24%です。
受給される金額/月:76,000円
得られなかった金額/月:145,665円 - 76,000円 = 69,665円
と計算できます。
年間受給金額:76,000円×12か月=912,000円
得られなかった金額:69,665円 - ×12か月= 835,980円
得られなかった金額835,980円は少なくない金額ですよね?
もっとも年間受給金額912,000円は103万円の壁以下なので税制上は有利な気がしますが、税制の話しをすると切りが無いので今回は触れません。
30~40歳という若い年齢でやりたいことをするためにFIREをするならまだしも、50代くらいの方が高齢者FIREを実行したときに捨てる年間金額835,980円は小さくないと僕は思います。
金融資産が大きければ捨ててもいい金額と思うかもしれませんが、年金は金融商品と違い安定収入です。
投資資産が1憶もあるならばまだしも投資資産3,000~5,000万あたりならば、FIREをやらずに定年まで働いた方がメリットが大きいでしょう。
YouTubeとかで語られる窓際FIREというやつです。
窓際FIREは僕の提案とは少し違いますけどね。
いずれにしても安定収入分をより多く得ることで、リスクを抑えた資産構成を組みことができると考えるのですよ。
◇
現状分析や趣旨はこのくらいにして、僕なりの出口戦略を語って行きますね。
僕のざっくりとした資産構成を公開する前に、日本銀行HPで公開されている2024年8月30日発行の「資金循環の日米欧比較」から、日本、米国、欧州における「家計の金融資産構成」を確認してみましょう。
貯金大好き日本人の資産構成は、貯金が50.9%、株/債権/投資信託が20.9%、保険/年金/定形保証が24.6% その他3.6%。
リスク大好き米国人の資産構成は、貯金11.7%、株/債権/投資信託が57.9%、保険/年金/定形保証が27.7% その他2.7%
ルール大好きバランス型の欧州人の資産構成は、貯金34.1%、株/債権/投資信託が35.2%、保険/年金/定形保証が28.7% その他2.0%
見事に個性が現れますね。
高齢者FIRE成立時点での僕が想定する資産構成は、貯金25%、株/債権/投資信託45%、保険/年金/定形保証25% その他5%。
ルール大好きバランス型の欧州人とリスク大好き米国人の中間みたいな構成です。
会社員ではなくなるから貯金額の比率を上げるのは理解できるけど、なぜ保険比率が高いのだ。
馬鹿じゃない?
保険分を投資に回せばいいだろう?
いやいや、これには理由があるのです。
これらの保険は年金保険や60歳以降の年金支払いまでの給与補填型の保険であり、個人ではなく団体保険で加入しているのでかなり
有利な条件でした。
保険なんて加入者を喰いモノにするカスみたいな商品だろ?
外貨建て保険とか年金保険とかはその典型じゃないか!
指摘を否定しませんが、僕が加入しているのは少し違うのです。
個人ではなく団体という組織をバックにしているので、かなり有利な条件が提示されていました。どういうことかというと、途中引き出ししても減額されないし、一括支払いは不要なうえ追加支払いもできるし、通貨選択型でもなく、なにより重要なのは複利なのです。
そう、複利なのです。
金利は確定ではなく市場に左右されまるので大体1.3~1.7%程度と高くはないですが、元本保証がされている複利というのは旨味が大きい。
デメリットなしで途中引き出しが可能で、しかも複利というのはあまりにも有利過ぎる条件でした。
こんな有利な条件は銀行や保険の窓口ではまずお目にかかれないでしょうし、ネット型保険も取り扱っていない気がします。僕が所属する組織が大きいことを最大限に利用した団体保険だから可能な条件でしょうね。
僕は給与補填型として60~65歳、年金型は70~80歳、合計15年間年金を支給されます。
残る期間は65~70歳と80歳以降。
僕の計画では62歳までは所得税対策として継続雇用を選択するつもりなので、2年分の給与補填型年金を貯金する形で2年スライドできるのです。67歳の頃には嫁さんが年金を受給できます。残る問題は80歳以降ですが、いままで投資していた資金にようやく手を付ける計画。
給与補填型と年金型を組み合わせることで、60~80歳の投資期間20年を買ったのです。
※年金と失業手当は同時に支給されないので注意が必要。年金繰り上げ申請してから失業手当を支給申請すると却下されるので、失業手当を使い終わってから年金繰り上げ申請をしてください。なので僕のケースでは年金繰り上げは63歳からになります。
20年+現在の残り期間を合計すれば、どれほどリスクを抑えたとしてもリターン200%は固いでしょう。
それよりも大きいリターンを期待できますが、期待し過ぎは良くないですからね。
これが僕が年金型保険と契約した理由。
企業年金があればいうことないのですが、生憎僕が所属する会社には企業年金は無いのです。
無いもの強請りをしても仕方がありません。
このような商品があるから、保健に25%の比率を当てる気になったのです。
団体保険でもない限り有利な保険は早々ありませんが、年金保険について少し語っていきますね
保険のデメリットは途中解約による解約返戻金の減額にありますが、現金比率を上げるなどすることでリスクを管理できるでしょう。要は保険金を取り崩さないと生活が成り立たなくなるような金額を入れなければいいだけ。
自己管理の問題であり、保険の問題ではないのです
思ったよりも金利が得られない点は、契約時点で把握すべきことであり、契約したということは同意したのですから問題視するのは的外れでしょう。シミュレーションを入念に繰り返すことで、期待できる金額を事前に把握すればいいと思います。
他のデメリットとしては保険が投資よりもリターンで劣る点にありますが、通貨選択型のような変額年金保険はその点を補っています。
もっとも僕はこの手の商品を勧めませんが……
でもでもリターンが欲しいじゃん!
リスクとリターンは相容れないのです。
元本保証が欲しければリターンを諦めるしかなく、元本変動型を選択すれば多少リターンは期待できますが、保険に不釣り合いなリスクを冒すことになります。
僕個人は保険本来の意義を元本保証にあると思うので、元本変動型をお勧めしません。
保険でリターンを求める商品はコストが高く、投資信託商品以上のリターンを期待できないのです。コストばかりが無駄にかかるので、恐らく悪名高いバランス型投資信託よりもコストが高くなり、リターンは少なくなるでしょう。元本変動型を選択するくらいならば、他と比べれば相対的に運用コストが安いeMAXIS Slim バランス(8資産均等型)のような商品を購入したほうが、元本変動型や外貨建て保険を購入するより遥かにマシな選択でしょう。
iDeCoを利用することで年金保険の代わりにする手もありますが、60歳まで引き出せないため仕様を政府が変更しない保証が無いのが気がかり。事実、政府はiDeCo制度の変更を実施しています。
一度あることは二度あるもの。
それでも元本変動型や外貨建て保険を選択するよりも、iDeCoを利用するほうが遥かにマシでしょう。
iDeCo制度が税制上有利なのは確かですが、制度変更の裁量権をもつ政府をどこまで信用できるか……
この点が悩ましいですね。
僕は団体保険のメリットを最大限に利用しているので、他の方も同じような保険に加入できるとはいえません。
それでも少し調べてみる価値くらいはあるでしょう。
あればの話しですが……
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そろそろ締めに入りますね。
投資の出口戦略を考えるとき、年金との組み合わせを考慮する必要性があります。
金融商品は保有期間が長いほど勝算が高い傾向があるので、定年と共に切り崩しを始めれば保有期間を短くすることに繋がります。
年金保険を組み合わせれば安定性は増しますが、信頼性のある年金保険を探し出すことは、信頼性のある投資信託商品を探すよりも難しいでしょう。変額年金保険でリターンを期待できますが、そのリターンは保険という商品としてはリスクに見合いません。
保険はコストが大きい商品です。
コストとリスクとリターンを天秤に賭けるとしたら、僕なら変額年金保険などやりません。それよりもリスクをある程度抑えて運用コストが安いeMAXIS Slim バランス(8資産均等型)をお勧めしますね。
まあ、変額年金保険との比較論ですが。
iDeCo制度を利用するのも手でしょう。
問題は一度制度変更をした政府が、二度、三度と制度変更をする可能性が否定できない点。
iDeCo制度が税制上有利なのは確かですが、制度変更の裁量権をもつ政府をどこまで信用できるか……
この点が悩ましいですね。
いずれにしても変額年金保険を選択するくらいならば、遥かに妥当な選択だと思います。
出口戦略は人それぞれです。
ですが、資産の多寡が老後の安定を意味しないことを忘れてはいけません。
僕の祖母のように準富裕層でも老後破産はするのです。
僕の両親のように頼れる家族がいないならば、出口戦略は一層慎重に計画するべきでしょうね。
人生100年時代、経済的自立はゴールではなく、生きがいを見つけるためのスタートラインに過ぎません。
僕自身もまだ模索中ですが、このエッセイが読者の皆さんが自身の『生きがい』について考えるきっかけになれば幸いです。
今回のところは、この辺で。
では、では。




