きじとら。
しんしんと降り積もる結晶
辺り構わず雪は冷酷に現実を突き付ける
否応なく血へどが混じり咳き込んでしまった
もう 命は幾ばくも残っていないであろう
痛む腰に手を宛て 白む吐息に切なさが灯る
ああ 疲れてきってしまった
冷えきった大地に身を委ね
今まで一度たりとも
何も良いことなどなかったと不貞腐れた
良く言えばやりたい放題だった日々
散々 悪逆の限りをし尽くしてきた
後悔は先たたず
ただ 一点を見詰め
震える身体をちぢこませる
過剰な栄養不足
もはや喉元には水すら通っていなかった
カラカラになった身をゆっくりと横たえ
元は長い尾であったはずの
勝手に切断された尻尾が力なく震えた
絞り出されるべき か弱き鳴き声
儚き明日を恨む
野良猫となった今
かつての温かみなどは微塵も感じられない
仲間を求めるも余所者扱い
身体じゅうに傷つけられた跡を舐めようとも
舌先は渇ききり
毛玉だけが喉を潤していた
満腹感などあるはずもない
ただ孤独感だけが心を充たしていった
それでも生きようとして
辿り着いた場所
満月の光だけが
せめてもの救いだった
干からびた指先
ふくよかだった肉球は平べったい
爪はひび割れも甚だしく
手入れしてくれる者もいない
煌々とわたしを包む月明かりは
まるで神様のようだった
いつもより背を丸め
瞳を深く閉じる
飼い猫は外では生きてゆけないのだ
温もりに甘んじてしまったが故に
貪欲に
欲していれば良かった
しんしんと降り積もる雪の中
わたしの一生は終えるだろう
ありがとう
おかあさん
おとうさん
わたしはもうすぐ
そちらに往きます
我輩に名前は無い
ただの一匹の
猫である
昔飼っていたにゃんこ。
何処に行ったんだろうなぁ……。
 




