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日常のお仕事と始まりの日。(プロローグ)

他の小説は三人称視点で執筆しておりますが、今回は一人称視点で書いてます。

慣れてないので、ご不快な点が目立つかも知れません。

たく、クソつまんねぇなぁ。


頬を嬲る夜風に、排気ガスの放つ独特の刺激臭と喧騒を感じ取り男が呟く。

秋の訪れを待つこの季節、不快な蒸し暑さを感じ首元に指を差込みネクタイを乱暴に緩める。

時は、9月 ー 。

灰皿に煙草を押し付け、まだ若さをその容貌を漂わせた男が不味そうに紫煙を吐き捨てる。

男が中型保冷トラックの運転席で2本目の煙草を咥えてポケットの中にある筈のライターを探る。


若い男 ーー 釘島 新太はルート営業マンである。

地方都市にある鉄工所の次男として産まれた新太であったが、其の生活は決して楽では無かった。

低価格で卸される海外製品との価格競争、他行と合併したばかりの第二地銀の貸し渋りの前に揺さぶられ、社長である父親は不渡り債務を出し、あっさりと工場は抵当として回収されてしまった。

上の兄は何とか大学にまで通う事が出来たが、公立高校を卒業した新太は迷わず県内の食品卸会社に就職し家を出る事にした。

気付くと8年もの時間が過ぎており、比較的に離職率の高い職場でも古株の部類に足を突っ込み掛けていた。





〝じぃっ…ぼっ〟

かれこれ7〜8年近く使い込んで角の塗装が剥げ掛けたオイルライターで煙草に火を灯し、助手席に積んだ伝票をぱらぱらと斜め観ると残りは…と。

よし…今日はあと配達は一件だけか…

ちらっと左腕の腕時計に目を落とすと19時前 ー。

「良いねぇ!今日は早く帰れるんじゃね?」

久しぶりにソロで飲みに行くか。

一人でに緩む口元を感じながら、俺はギアを二速に叩き込みトラックを発進させた。





〝 …プッ…プルル…プルル… ガチャ『…あ?』〟

最後の配達先であった筈の個人経営の居酒屋には何故か明かりが点ってすら居らず、流石に不振に思い会社支給の黒い折畳み携帯でオーナーへと電話を掛ける事にした。

『…あ、山根さぁん。山下商事の釘島っす。お店開いて無いですよ…。』

『…あん?気分乗んねえな。其れ、白チー!…ん、俺休むわ。』

信じられない事に電話口からは不機嫌そうな嗄れ声と牌を混ぜる音が飛び込んでくる。

チッ…この腐れ野郎…背後でジャラジャラ鳴ってんの丸聴こえだろ?何が白チーだ、ボケぇ。

『…マジっすか?生ものも有りますよ。如何するんすか?』

『…あ?自分何言ってるん?別ん良かろうもんが。よっしゃ、通らばリーチぃ!…9時過ぎにゃバイトくっけん渡しゃ良かちゃぁ?忙しかけん切っばい…ブッ… …ツゥー …ツゥー』

耳障りとしか言いようが無いキツ目の九州弁で山根…居酒屋のオーナーが面倒臭そうに吐き捨てて通話を……切りやがった。

「…げっ?マジかよ。まだ2時間近くはあるじゃねぇか。…しゃあねぇ。近隣店舗で営業回りでもすっかね…」

一気に紫煙を吐き出し、携帯灰皿に吸い殻を乱暴に捩じ込む。

実際の所、既に夕食時の繁忙時間に食い込んでおり外食系卸しでは営業案内を掛けにくい時間だが、月半ばの平日で有れば問題の無い店舗も経験値として複数件は知ってる。

時間潰しと営業で一石二鳥だろ?




「毎度ぉ、山下商事でございまぁす。何時もお世話になっておりますね。」

先程までの不満顔は何処へやら、この8年で鍛え上げた鉄壁の営業スマイルを浮かべ、業務用出入口から、店名ロゴが入った黒いTシャツ姿の若い女性店員へと声を掛けた。

「あれっ釘島さん…?山下さんトコって今日の納品あったっけ?」

毛先の色が抜けた茶髪に、強めにアイラインを引いた派手目の女性店員…確か前田だったか?がこちらを見て小首を傾げる。

「いゃあ前田さん、今日も可愛いっすね。いやいや今日は納品じゃ無いですよ。お勧めの提案っす。あ、前田さんにはコレ差し上げておきますね。」

小脇に抱えた段ボールの箱から、如才なく用意しておいた冷凍の和菓子詰め合わせを差し出す。

「…釘島さん?ウチのお店って焼肉屋だよ?何で和菓子なん…?」

焼肉屋とは関連性の低い提案商品を目にした前田が更に困惑の表情を浮かべてこちらを見上げてくるが…心配無用だ。

〝すっ〟

一歩踏み込み前田の耳元へと小声で囁き掛ける。

(…こ・れ・は!前田ちゃんへのプレゼント。後でこっそり食べてね。)

「えっ?…って、もう!釘島さぁんチャラ過ぎぃ!」

頬を軽く紅く染めた前田が、慌てて両手を振り回すが、そそくさと厨房奥へと向かう。

「店長は事務所だよね?じゃ、またねぇ。」

と手の平をひらひらと揺らしながら、前田へと別れの挨拶を交わす。

然し、その視線は油断なく厨房内を巡らす。

ケッ…ウチの商品じゃ無ぇのが結構有るな……

ありゃ北山商会で、海原ん所のまで、もう少しココのスタッフをサンプルばら撒いて手懐・・け無ぇとな…

忌々しげに見慣れない他社製品を視線に引っ掛けた俺は事務所のドアをノックし声を上げる。

「ちいぃす。山下商事でござぃ!」





「あ…?何よ釘島ちゃん」

決して歓迎しては居ないであろう、抑揚の無いぼそぼそと不機嫌そうな声が俺を出迎える。

「てぇんちょーお、毎度!先日提案した揉みタレは如何っすか?」

握り締めたスマホから顔を上げる事も無い脂肪…。いや、多少…かなり太り気味の男へと向かい意図的にテンションを一気に引き上げて声を掛ける。

「は?あ…あぁアレね。アレ…リッター50円ぐらいで卸してくんない?それなら発注しても良いわ。…おっ?SSRキター!キティホークたんゲッチュー!」

唐突に始まった価格交渉と、打って変わってテンションが高い叫び声を聞き、無性にコイツを蹴り倒したくなる衝動に駆られるが、笑顔の下へと強引に抑え込む。

バァーカ!何がキティホークたんだ。クソデブ死ね!リッター50って水か?見積り見てんのか?

内心悪態を吐き続けるが、おくびにも出す事も無く、また営業スマイルは決して崩す事も無い。

ふっ、営業一筋8年選手を舐めるなよ?

「いゃあ!そりゃキツいっすね。じゃ初回発注頂けたら、1.8Lのボトル一本おまけしますんで其れでどぉっすか?」

「おまけぇ?毎回…つくの?」

チッ、クソが!100回死ね!10連ガチャを10回全部N引いて悶え死ね!


ま、無論として俺が放った渾身の呪いは届く事は無かったがな……



「……でさぁ、弟の店がさぁ。…来週末で一周年なんだよね。」

未だスマホから視線を上げる事も無く、脂肪…いや店長から飽き飽きする一方的な話が続く。

「あ、美蘭っすよね。ウチも納めさせて頂いておりますよ。ホントありがとうございます。」

内心、物凄く嫌な予感しかしないが、此処は愛想良く返事を返しておくのが一番だ。

「で、一周年記念パーティーやるから、パー券買ってよ…」

「じゃ、ウチの課の若いの連れて行きますよ。まだ席あるんすか?」

チッ、パー券だぁ?今時な……族か政治家ぐらいしか言わねえ様な事言いやがって。

「あ、パー券買ってくれたら、別に出席しなくても大丈夫だよ。……あ、一枚8,000円で10枚ぐらいで良いよ。」

はぁー、さいですか…

「……で、さぁ一周年祝いのお土産も持って来いよ。」

前言撤回。もっと死ね。1,000回死ね。糞詰まらせて悶死しろ!





「ん、コレと152番のJPS2カートンとホットのレギュラーを一つね。」

「あざぁしたぁー」

トラックを駅前のコインパーキングへと叩き込んだ俺は、コンビニで買い物をして気の抜けた声と、色気もへったくれも無い電子音に見送られ夜の街へと再び踏み出す。

はあぁ!たく、どいつもコイツも、こん腐れ共がぁ……

もはや営業を続ける気力すら萎え、延々と呪詛の言葉がだらだらと漏れ続ける。

「っうか、ヤル気の無え店が増えたよなぁ。」

ふぅと紫煙を勢い良く吐き出し酸味の強いブラックコーヒーを口へ運び、小脇からファイルを取り出す。


昨今の不景気の波は俺が担当する此の繁華街へも其の影を確実を及ぼしている。

不景気、少子化、家飲みに代表する外食消費の減退は、確実に卸業の売上に対して低下の兆しを見せて居り、また飲食店・販売店などの人手不足も深刻であって営業時間の短縮や深夜営業の中止を決めた店舗も数多い。

人員の減少はサービスの低下を生み、消費者の足は遠退く。経営者はより一層の経費を削減し人手不足を生み出す。

負のスパイラルって奴だ。

1円でも安く仕入れ、1円でも高く提供する。

そりゃま、サービス業の基本だ。

皆んなが皆んなソレやっちゃうとね……

突き詰めりゃ、皆んなフランチャイズ契約のチェーン店になっちまうよなぁ。


で、えぇと…来月のキャンペーン商品は『筍の炊き込みご飯・松茸の炊き込みご飯・栗とキノコの炊き込みご飯』?…全く、商品部の奴ら原価設定がクソ高えよ!…こんなん売れんのか?

チラシに挟まれた原価表を斜めに目を通し、PB商品プライベートブランドを開発した商品部への不信感が湧き上がる。

「はぁあ……商品部は専務の直轄だしな、利幅が大きい商品しか造れねえのか?」


実際の所、ここ数年で色々と変貌を遂げる会社に対して、俺自身も愛着を失いつつあった。

其の転機は社長の勇退話が出てからであった。社長の息子である長男派と社長の弟である専務派に社内が割れたのだ。


緩めの大らかな社風を踏襲する長男派と、経費削減と利益の確保を常とする専務派。

現在の勢力図としては、確実に数字を叩き出す専務派へと傾きつつあるが、高いノルマや取引先へと卸し価格引き締め、経費削減としての残業禁止など急速な方針転換とりえきにより嫌気がさした若手社員の大量退職などを引き起こし、社内の空気は混乱と悪化の一途にあった。


「何ぁにが残業禁止だ。ボケが!

定時にタイムカード通して後は自由意志?しまいにやパソコンを夜8時までしか使うなとかマジ湧いてんぞ。……で、朝の3時から使い放題?って終わってんなぁ」

独白は、恨み節となり独りでに口をつく。

無意識の内に、煙草のフィルターをがりがりと噛み締め、空になった紙コップを握り潰す。


2カートン分の煙草が入ったビニール袋をぷらぷらと揺らし、人通りが減ったアーケード街をため息ながらに一人そぞろ歩く。

「9時過ぎに納品して、会社に帰って検品して、明日の積込みして、伝票処理してぇ、……楽にテッペン超えるな…」

時間潰しの為、ため息混じりに行く当ても無くアーケード街を歩いていると、ぞろぞろと正面から歩いて来る高校生達とすれ違う。



ーー また…派手な高校生だね、こりゃ…

ちらっと視線を上げると、思わず言葉が漏れる。


パッと見た所、自分が通っていた公立校とは違うが、確か近隣にあった筈の私立校の制服で、男女数名が駅方面へと向かう姿であった。

……男子3人と女子が3名であるが、何処にでも居る普通の学生達とは、少し見た目からして違っていた。


175㎝と決して背が低い訳では無い自分よりも長身の男子2名と、自分と同程度の高さの男子が1名。

3人ともかなり整った顔付きをしており、各々のタイプは違えど、若手俳優だと言われても納得出来そうな面貌ビジュアルであり、嘸かし学校では騒がれる事であろう。

…然し、男などどうでも良い。


筆舌すべきは女子3名であろう。

一言で言えば、大変な美少女達であった。

そんな在り来たりな言葉で、表現して良いものかと思ってしまう程の美形揃いであり、そこらの多人数アイドル達など、其の前には霞んでしまいそうな外観と存在感をもった少女達であった。


へ〜、こんな都心部から離れた地方都市なのに、こんな娘達が居るもんだねぇ。ま、どうでも良いけどな……

ぼそりと呟いた俺は、ゲームアプリを立ち上げた左手の私物のスマホへと視線を落とす。

自分で言うのも何ではあるが、現実主義者な所があり、下手をすれば十は年齢が違う高校生相手に興味など抱現在なかった。当然、現実問題として手が届かないアイドルやグラビア女優達に対して憧れを抱く事も無く、身近に手が届く範囲での女性関係をポリシーとしていた。

ふん。手の届かんモノなどに興味無しだ!


「…おい!そこのおっさん。」

下らない事を考えていると、突如として、夕暮れ時を遥かに超えたアーケード街に若い男の声が響く。

ー ん?

ちらっと視線を上げる。

声の方向とする方向から予想すると、先程すれ違った高校生達だと思われる。

さては酔っ払いのオヤジにでも絡まれたのか?と思い、何気に後ろを振り向くが。


すると…6対の瞳が『自分』を見つめていた。

は?おっさんって俺っ?

正直に言って、凹むぞ。

おっさん?ってまだ、26だぜ……俺…



「おっさんさぁ…今、コイツの写真撮っただろ?盗撮じゃ無えのか…」

傷心気味の所へと、男子生徒が追い打ちを掛ける様に捲し立てる。

は……コイツ…?

黒髪短髪で中々にワイルドな容姿をした男子生徒が、横に立っていた美少女を親指で指し示す。


「は?盗撮…何言ってんだお前?」

驚きのあまり、馴れ親しんだ営業スマイルをも忘れ素で答えてしまうが…

「……あん?口の利き方知らねえのか?おっさん」

〝 かちん… 〟

口の利き方をどっちが知らねえんだ。と思わず言いたくなる男子生徒の物言いに、内心苛つきが鎌首を擡げる。

はぁ…… 何だコイツ?面倒くさ。


「…はいはい。何で御座いますか?お坊っちゃま方。私めに何か至らない事でも御座いましたでしょうか?」

深く溜息を吐きすてて、仕方無くも慇懃を装いつつ十二分に悪意の篭った返答を返す。

「あ?まあ良いや。おっさんさぁ、コイツの…葵蘭の写真撮っただろ?消せよ。」

きらん?…ぷっ!…どんだけキラキラネーム?

ずぃと一歩間合いを詰めた男子生徒が放つ高圧的な空気も意に介さず、懸命に笑いを抑え込む。


「はぁ…私が写真を撮ったと…?左様ですか。では、何か証拠でも御座いましたら拝見させて頂けますでしょうか?」

敢えて下から入ってみたが、さて兄ちゃんどうするよ?

と悪意を込めた視線を男子生徒へと向けてみたが。


「俺がそう見えた。其れが証拠だ!」

「はぁ?」

「へっ……」

ビシッと決め顔でそんな事を言いやがった!

流石にこの言い分には彼の仲間達からも驚きの声が上がる。

うん。馬鹿なのコイツ?


〝 しゅぼっ… 〟

「…ふぅ。なぁ少年。」

煙草に火を灯してから、素に戻って話し始める。

「正義感が強いのは結構なこった。けどな、流石に自意識過剰な上、唐突過ぎるだろ?」

朧げに赤く光る煙草の先端で、男子生徒を指し示し説教気味に言ってみた。

「…写真は事務所が煩えって話しだ!……それにコイツは俺が守る…ゴニョゴニョ。」

言葉尻が小さくなりながらも、男子生徒が自らの言い分をぐちぐちと口にする。

はぁ……事務所?ケツ持ちのヤクザ……って訳じゃ無いか。なら芸能事務所か?

ふぅーん。売れてないアイドルか、若手のモデルかなんかなのか?



「ぁ、あの…私の顔って、見た事無いですか?」

俺はかなりの呆れ顔を浮かべていたのだろうか、こっちへ向けて、葵蘭と呼ばれた女子高生が躊躇いがちに話し掛けて来た。


「ん?ま、確かに綺麗な顔立ちだとは思うが、会った事は無いと思うよ?」

「…ぇ?…私も、まだまだなのかなぁ?」

あっさりと「知らない」と一刀両断した事に、少女…葵蘭が意気消沈の表情を浮かべ小声で何事かを呟く。


「…えぇ!マヂで言ってんの、このおっさん…」

3人の少女達の中に居た小柄な身体に茶髪でツインテールを結い上げた生意気そうな少女が呆れた顔で驚きの声を上げて来やがった。

うわぁ苦手なタイプだよ。口ばっか回るタイプの娘。

だからさ、誰がおっさんだよ。この小娘が!

「…私達はね。…何と!〝フラワーフェアリーズ〟のメンバーなんだよ!」

ドヤ顔を浮かべたツインテール娘がそう言ってい胸を張る。


「そうか…



だが、知らん!」


「…は?」




痛い程の沈黙が、アーケード街に訪れる。


「…マヂ?ね!マヂで言ってんのおっさん!フラワーフェアリーズだよ。ほら、夕方18時から帯番組に出てる……。」

呆れ顔から必死の形相に変わったツインテールが畳み掛ける。

「んな時間にテレビなんて社会人が観れるか!こんボケェ。暇してるガキと一緒にすんな!」

もはや営業スマイルにも値しない。素の口調でツインテールへと言い返す。


「…ずぅ…ん。ショックですぅ。こんなおじさんから知らないって言われるなんてぇ…」

未だ口を開いて居なかった黒髪巨乳の娘が口を開くが……駄目だ。コイツもかなり痛い娘だ。

〝ずぅ…ん〟って口で言うな!痛いな…コイツ。


最早、不毛な会話を続ける事に苦痛を覚え、スマホを彼らに向かって差し出す事にする。

「ほれ!見たけりゃ見ろ。写真が無ければそれで良いんだろ?」

「あ…それはそうですね。ですが…宜しいのですか?個人情報ですよ。」

比較的冷静に一歩引いて居た眼鏡イケメンの男性生徒が、少し躊躇いがちに口を開く。

うんうん、形だけでも年上の人には敬語は大切だ。おまいは良い奴だな。


「ま、そりゃそうだが、盗撮魔扱いよりは、マシだろ?」

俺の回答に納得したのか、眼鏡イケメンはそれきり口を噤む。







「……うぅ~ん。車とバイクに山の風景とか……あとは食べ物の写真ばっかりですぅ。」

「女の娘の写真は、飲食店ぽい制服着てカメラ目線でポーズとってる分しか無いね。」

巨乳とツインテールの2人が、俺のスマホの画像フォルダを見て各々勝手な感想を言ってやがる。

そんな盗み撮りばっかしてる奴が、簡単にスマホ渡す訳無えとか考えないのか?たく、ホント馬鹿だろお前ら……



既に盗撮魔では無いと確信したらしい5人は、未だにスマホを睨みつける様にタップし続ける短髪生徒へと冷ややかな視線を向けていた。


「…颯斗さん。私は大丈夫ですから…あの男性に正直に謝罪しましょうよ…」

「…おい神宮寺。引く事はきちんと引く事が大事だって師匠に言われただろう…」

女生徒ー葵蘭と眼鏡イケメンの2人が、不満げに唇を尖らせた短髪生徒へと話し掛けている。

良いぞ。もっとやれ。敬語も使えない馬鹿はそんな扱いで良いんだよ。


然し、神宮寺 颯斗ってマジか?また凄ぇ名前だな……親が猛烈な中二病でも拗らせてんのか?

もう、色々とどうでも良くなり、煙草に火を灯した俺は、道端の自動販売機で缶コーヒーを買おうかと小銭入れを開ける。

お?小銭結構たくさんあるな。

「ん、お前らなんか飲む?」

大人の余裕って奴だな。あ、颯斗とか言うお前!お前には買ってやらんぞ。



「おい!おっさん。今回は許してやる……

次からは紛らわしい事してんじゃ無えぞ!」

いきなり颯斗ってガキが此方へと向かって人差し指を突き出し、吠える様に大声を吐いたかと思えば…駅方面へと向かって走り出した。

いやいや!紛らわしい事したのお前だよ?



「え?…えぇ?あれ謝罪のつもりか…」

俺だけでは無くて、残された5人も驚きのあまり暫く固まってちまったよ。


「…はっ?大変申し訳ありません。あんな無礼な事を言うとは…」

ようやく再起動した眼鏡イケメンが、そう言って頭を下げる。

「すいません…。今度お会いしたら、きちんと謝罪させますので…」

葵蘭達も口々に謝罪をし、ばたばたと駅へと向かって走り出す。


「あぁ…」

呆然と去って行く高校生達を見送るが…

よほどのボンボンなんかねぇ?全く、自分が悪い時には、悪かったって言えないと碌な大人には成れねえぞ…

そんな下らない事を考えつつ、内ポケットのスマホへと手を伸ばすと…

「あ?あれ…」

パンツのポケット、ジャケットのポケットなどを探るがスマホの姿が見当たらない。


「どこにやったかな…」

と首を捻り、考えてみるが。

「あっ!アイツ…俺のスマホ持ったままじゃ無えか!」

思わず叫び声を上げ、彼らが去った駅方面へと視線を向けるが、その姿はとうに消えてしまっていた。








「おい!ちょっと、待て…神宮寺。」

颯斗は肩を強く掴まれて、ようやくその歩みを止める。

「っ、何だよ…琢磨。ちゃんと謝ったじゃ無えか!」

「…初耳だな、貴様の家では〝あれ〟を謝罪と言うのか…?」

学園の級友であり、道場でも同門である伊達 琢磨が理性的な容貌に微かな苛立ちを浮かべて話しかける。

「お前…ここ数日変だぞ…妙にピリピリしていて…。」

「んな事無えよ…って言いたいところだがな…、葵蘭のヤツ…ここんトコ何かに怯えてんだよ。」

「怯える…?…ストーカーか何かなのか?」

「わからねぇ…何かに見られている気がするって言うんだよ。」

精悍な面貌に、怒りを滲ませた颯斗が身体を震わす。


葵蘭は俺が守る…

側から見ても、颯斗が右拳を握り締めて心の中でそんな事を言っているのが丸わかりである。

そして、後ろから歩いてくる女性陣3人と男子生徒1人へと視線を向けるが、その横でぼそりと琢磨が呟く。

「お前…ホントに如月の事好きだよな」

「ばっ!そんなんじゃ無…ぇ。」

慌てる颯斗に対して、琢磨が頭を抱える。

「全く……お前は子供か?誰が見ても分かるぞ。少しは考えて行動しろと常に俺は言っているん… 」



「キャアァ…ッ…!」

唐突に少女達の悲鳴が背後より上がった。

「なっ?」

「如月っ!」

何事かと驚きつつも背後を振り向いた2人と少し遅れ気味であった一人が、急ぎ道を取って返す。



「…なっ…誰なんですか…?」

怯える3人の前に立ち塞がるのは、2人の人物の姿であった。


身の丈で2メートルはありそうな屈強そうなフード姿の男と、1メートル程の小さく背中が曲がった傴僂男であった。

「ウム…ハチョウモ二テイオル、コヤツダナ…。」

擦過音混じりの聴き取りにくい声で、傴僂男が独言る。

「似てい…る?」

葵蘭がその意味を測りかね眉を顰めるが…

『ساقي على مر الزمن وعبر العالم. أهدى التضحية "الله سبحانه وتعال 』

傴僂男は委細かまわず、何事かの言葉を紡ぎ始める。



其の紡がれた言葉に応じて、地面に円形と方形が複雑に組み合わされた幾何学模様の方陣が浮かび上がり、そして…生命力を奪われたかの様に、周囲の街路樹や植木が見る見る立ち枯れ、路面の煉瓦が、テーブルやベンチ迄もが砂と化していく。


「ひぃ…いぃ?」

お互いに抱きしめ合った3人の少女達の口から悲鳴が上がり、傍目に見ても分かる程に表情を引き攣らせていた。

「テメェら何して… 」

急ぎ駆け寄った颯斗達が、その惨状を見て凍りつく。


「ハイジョスルカ…?」

「カマワヌ…ホオッテオイテカマワヌ…」

大男が傴僂男へと問い掛けるが、気にすることも無く、再び意識を儀式へと集中させる。







「おしっ!追いついた。お前、スマホ返… 」

脇道から飛び出した瞬間、不覚にも固まり言葉をも無くしちまったよ。

だってさぁ。目の前に広がっていた光景、それは…

不審人物にしか見えない怪しげな男が2人。

震える女子高生達。

表情を失い、呆然とする男子高生。

なにこれ?


トドメには、砂塵と化してゆくアーケード街の床。そして其処を埋め尽くさんと拡がる複数層を持った巨大な方陣であった。


ぉおっと?

コレってドラマの撮影って訳って訳無い……よね?


そして歪な形状を持つ魔方陣から光が弾け…俺の記憶は途切れた……











〝 かぁん……かぁん……かん!〟




い、痛てぇ?

……も、物凄ぉく凄ぉくい、痛い!な、なんだこりゃ。

額に五寸釘でも打ち込まれたんじゃ無いかって程の猛烈な痛みが前頭部につっ走り、意識を強制的に浮上させた。いや、させやがった。

「って痛えぇえぁあぁ!ってどこココ?」


……たく、酷え悪夢だって思ったよ。人様の頭に五寸釘打ち込むって何処のサイコだってな。


けどな、現実は小説より奇なりって言うだろ?

もっと酷い事があったら、人間言葉が出ねえよ。いゃマジ、大マジで。

だってさぁ、鎧兜・・で腰からまでぶら下げた完全武装の奴らが、寄って集って人の頭にを打ち込んでるでる姿なんて中々見ないだろ……?


……で、さぁ。

気になるだろ?さっき凄えデコ痛かったのは何だったかって?

おっかなびっくり額に触る訳よ……

「マジか……。」

ま、そんだけしか声出ねぇよ。

あぁ良かった。痛いだけで俺生きてる……とか言いたかったよ。

けどさぁデコから何が生えてる訳よ。


額の中心に生えてやがるのは、直径3センチぐらいの異物。突くとチン……とか硬い音が頭の芯まで響きやがる。

パパン、ママンごめんなさい。新太は傷物になってしまいました……よ。





目の前の状況に理解が追い付かないまま、仕方無く地面に直に座ってみるが。

あれ?下は床材じゃ無い。ん……土かよ!壁は木製でぱっと見ても仕上げは良くない。で、天井には照明は無し、壁には松明ぅ?電気も引いて無い余程の山奥か?

薄暗い室内を見回して見ると、暗い顔で座り込んでるのは皆日本人ぽい。女子高生が2人、男子高生が3人、サラリーマン風のおっさん2人。割烹着姿の厨房のおばさん2人に、OLのお姉さんが1人……

ナニコレ無作為過ぎだろ?

終いに鎧兜の男が沢山?何だよコレ…意味がわからん。



「愚鈍なる汝等!刮目し平伏せよ。偉大なる御方の御成にあるぞ!」

ぼぉっとして居たら、鎧兜の男達の中でも一際目立つ大男が、いきなり怒鳴り声を上げやがった。

うっせぇわ!怒鳴らなくても聞こえるわ。

いっそのこと怒鳴り返そうかと思ったが、右手にむき身で段平振り上げてやがる。

うむ、触らぬ神に何とやらだ……


現代人と鎧兜姿の中世人(?)が混在した不思議な状況の中、ま、当然の如く騒騒と現代人達がざわざわと騒めき立つ。


「静まれ、と言っても分からぬか?所詮は犬畜生であるな。

では……『大地へとひれ伏せ』 」


はっ……?

何処か男の声質が変わった、と思った瞬間。

俺は土の地面へとひれ伏していた……。

……なんだ、身体が勝手に?


見れば周囲の現代人達が、一様に平伏の姿勢を取って、いゃ違う。取らされていた。

な、何だよ。此れは……。

自らの意思を離れた身体は微動だにせず、平伏の姿勢のまま、指先一つ動かす事が出来ない。


「ふむ、此れで良し。では、異世界との狭間より零れ落ちし〝招かれざるモノ〟達よ。汝らはこれより家畜として、奴隷・・として、此の国にて身を粉にし、死すまで勤労に励むのだ。」





おう……?


いつの間に俺は、社畜から奴隷にレベルアップしたのでしょうか?







本日の成果。

此処はドコ?(アナタは誰)

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