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Phantom:異世界の英雄に  作者: Alter
第一章
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第一章2 『急な惨劇』

  「結構、壁遠いな…」



  広場から壁に向かって歩き出して、もう一時間程経っている。だが、まだ壁に着くような気配は無く、歩き出した時と、あまり変わらない大きさで壁が見えた。


 だが実際は、壁はそこまで遠くはない、なのにまだたどり着けてない理由は、アオイの単純な体力の無さだった。

 

  太陽は完全に沈んでいるが、あまり暗くはなかった。その理由は街の明かり。そして夜空に浮かぶ月の光だった。



  「へー異世界にも月ってあるんだなー、いや正しくは月ではないと思うけど…まぁ同じようなもんか。ていうかまだ誰かの視線を感じる…本当、迷惑だな…」



  見たことの無い星たちの中に、元の世界でも見た事のある月が、ひときわ眩しく光っていた。確かによく見ればクレーターの形などは違う。だが、元の世界にもあったものと同じ様なものという事実が、多少なりとアオイの不安を少しだが消していた。が、その不安の根源のストーカーはまだ着いてきているらしい。



  「それにしても、本当に壁遠いな…つく頃には朝になって…るよ?」



  一度その場に立ち止まり、ため息をこぼしながら、月よりも手前にある壁を眺める。いまだに壁につけないことから、本当にアオイの体力の無さがわかる。なぜなら少し歩いたら休憩、が多すぎる。

 そして、そんな変わらない壁を見ていると、突然壁の上に人影が現れた。



  「あ?なんだあれ?人か?なんであんな場所に…」



  月の光に浮かび上がる人影、そしてその人影は自身の右手を前に突き出した。するとバチバチと黒色の稲妻が走り、人影の前に赤色の魔法陣の様なものが浮かび上がった。巨大な円の中に、四角形や三角形がかさなっていて、その魔法陣は遠くから見ていても、鮮明に分かるぐらい大きく、綺麗な赤色に光っていた。



  「すげぇ…もしかしてあれが魔法…か?」



  大通りにも、たぶんだが魔法関連の建物はいくつかあった、が魔法そのものを見るのは初めてだった。それは、とても幻想的な光景だった。



「やばいやばい!めっちゃかっこいいじゃん!これを待ってたんだよ!これぞ異世界!!」



  初めての魔法に興奮しつつ壁の上の人影と、魔法陣を眺める。すると、魔法陣がさらに大きくなっていき、魔法陣の回りにさらに黒色の稲妻が走り始めた。


  そしていつの間にか人影は消えていて、魔法陣と黒色の稲妻だけが壁の上で光っている。

 辺りには、地響きのような轟音が鳴り始めていた。その音に気がついたのか、辺りの家からも何人か人が出てきたり、窓から外を見ている人がいた。



  「お、おい…あれって…」


  「クソっまた来やがった…」


  「誰か、急いで兵を呼んでこい!!」




 回りにいる人達は壁の上の魔法を見て、ざわつき始めていた。魔法を初めて見たアオイなら分かるが、今までも見てきているはずのこの世界の住人にしては反応がおかしかった。



  「なんだ…?これってもしかして、ちょっとやばめな状況?」



  ━━━━━━このざわつき…あまり見ない魔法ってことか…?いや、でもまた来たとか言ってたな…


 

  アオイがそう考えるのと、同時に答えが出る。いや、正しくは出てきた。


 

  「…は?なんだあれ?…爪?」



  考えこんでいた間に、魔法陣に変化があったらしい。魔法陣は更に大きくなっていて、魔法陣の中央に黒色の巨大な穴が出来ていた。それは空間そのものがねじれて出来ていた。



  その穴から出てきているもの、それは明らかに生物の体の一部、爪だった。それも人間の爪ではなく、爬虫類の様な爪だ。

  先端が鋭利になっていて、爪全体は放物線を描いていて黒く輝いていた。



  「なんだよあれ…もしかしてあれ━━」

 


  気付くと、壁の上の魔法陣は消えていた。

 その代わりに壁の上に、巨大な影が浮かび上がる。


  鱗で覆われた巨躯に、長く伸びる尻尾。背中から尻尾にかけてトゲのような物が生えている。そのトゲの横には巨大な翼が二つ生えていて、その翼を大きく広げていた。頭には二本角が生えていて、ギョロリとした目で街を見下ろしている。

 


  「━━━ドラゴン…?」



  アオイが呟くのと同時に、ドラゴンが行動を起こす。

  ドラゴンが大きく口を開けると、大量の牙の中に炎が現れる。口の回りには火の粉が飛び始めた。そして巨大な質量の火の玉がちょうどアオイの当たりに向かって放たれた。炎の塊が、死が近づいてきていた。だが、



  「はあっ!!」



  アオイの前に急に白色の綺麗なローブを身にまとった少女が飛び出してきた。そしてその少女の声に、大気が、世界が反応した。少女の伸ばす手の前に氷の塊が徐々に形成されていく。その光景はとても幻想的でアオイにとっては2度目の魔法だった。


  その氷の塊は少女の手から空へ、火の玉へと放たれた。飛んでくる火の玉と氷の塊が空中で衝突すると火の玉は空中で爆発し、氷の塊も砕け散った。



  「大丈夫だった?」



  少女はアオイの安否を確認しながらアオイの方に振り向く。ローブの下には綺麗な銀髪に、整った顔立ち。絶世の美貌をもった少女だった。大紫色の綺麗な双眸にアオイを映していた。



  「あ、あぁ助かった…?」



  いくら今は助かったからと言ってその根源は消えていない。いつ自分の場所にも降ってくるか分からない状況だ。その光景を見ていた、回りの人々は「逃げろー!」「走れ!はやくしろ!」などと叫びながら家を飛び出して、壁とは反対側に逃げ始める。子供の泣き声なども聞こえるが、そんなのお構い無しに皆逃げ惑う。

 辺りは完全に混乱状態になっていた。



  「や、やばい、取りあえず逃げなきゃ!!」



  混乱は人に伝染するものだ。周りの人が混乱して逃げ始めたら、誰だって逃げなくなる。当然の事だった。だが混乱するとその混乱の原因をあまり見なくなってしまう。それが原因だった。頭の上に一瞬だけ熱いものを感じた。すると、



  「まって危ない!!」



  「は?」



 再び少女の声が聞こえ、後ろから右手を掴まれその場に立ち止まり振り返る。そしてその瞬間、走っていた向きつまり後ろ、数メートル先に巨大な爆発音が響いた。木々が燃える音や骨の砕ける音、肉の燃える音なども聞こえてくる。



  「うそ…だろ?」



  自分の前を走っていた人達の半分ぐらいが、一瞬で血肉となり巨大な衝撃波と莫大な質量の火の玉に潰されていた。

 石造りの道は抉れ、衝撃波をくらった家の窓は割れ、辺りには焼ける木の匂いと人の悲鳴が響き渡っていた。そんな地獄絵図が目の前で起こり、呆然としていると、




  「止まっちゃだめ!!」



  そういい右手を掴んだ少女は真っ直ぐではなく横道へ走り始めた。当然掴まれているためアオイも引っ張られる様な形で走り始める。

 悲鳴が響く火に包まれていく石畳の道を、二人で駆け出した。そして、



  「ど、どこに逃げるんだよ!?そもそも君は誰!?」



  手を引かれ走りながら、前を走る少女に叫ぶような形で質問をした。横道に入ったため、さっきまでいた大通りよりかは静かだが、今も辺りからは悲鳴や木の焼ける音などが聞こえている。



  「取り敢えず上に、王城のほうに逃げましょう!」



  「え?あ、あぁ!」



  そういって少女は手を掴んだまま、すこし加速して走ろうしたが後ろにいる人物、つまりアオイがいきなり走るのを辞めた。そして、掴んでいた手を離し後ろを振り返る、



  「どうかしたの?怪我でもした?」



  街が火の海になりかけているのだ。怪我をする可能性は十分にある上、ずっと走っていたから足に怪我をする可能性はかなり高かった。そのため、心配しながらアオイを見るが目立った怪我などはしてないようだった。



  「怪我とかはなくて大丈夫そうだけど…?本当にどうしたの?」

 


  そう言った瞬間、アオイが急にその場に膝をつき咳き込みはじめた。



  「だ、大丈夫!?」


 

  そういい焦ってアオイの肩を揺らすと、ゆっくりと顔を上げ、



  「ゲホッゲホッ…オェ…。え?ごめん体力なくなってて話し聞いてなかったわ」



  と言ってきた。見ると顔は蒼白く息もかなり上がっていて荒くなっていた。さらに心臓ら辺のジャージを思い切り掴み苦しんでいる。確かにかなりの距離を走った場合、いくら高校生でもかなりのダメージはあると思うが、



  「あなた、見た目的に私と同じ17歳ぐらいでしょ!?なんでそんなに体力ないのよ!?」



  少女が叫ぶのも当然だ。実際に走った距離は横道を少し走った程度だから50メートルあるかないかぐらいだった。それなのにアオイは咳き込み、心臓の痛みを訴えていたのだから。



  「なんでそんなに体力ないのよ!?」



  と、誰しもが思う質問をアオイに投げかける。すると、



  「運動したら負けだと思ってるからだ」



  と手をグッドの形にして、なぞにかっこつけながら言い放った。

 そしてこの瞬間、この場の空気が固まっていくのが分かった。

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