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金色の魔王

生け贄の勇者

作者: ゆきんこ

なぜ暴食の魔王が我が王の側に居るのだ

何故この我では駄目なのだ?

贄も我ならばもっと多くを用意出来るというのに……

嗚呼、早く我が金色の魔王にこの身を持って仕えたいものだ


ベゼルブブ……暴食の魔王は勤勉だ

我ほどとは言わぬが、よくやっている

我であればもっと早くことを進められよう

嗚呼、我が王よ

いつその力を示して頂けるか?

こんな憎き勇者の祝いなど、我が王がするようなことではない

我が王になんということをさせているのだ

……怠惰だ

それは我の冠

なぜ暴食なのだ?

我ほど勤勉な者はいないとうのに

我が王と言葉を交わしたい

暴食だけがそれを許されているなど……なんと怠惰だ

……暴食など放っておけばよい

我も王を見倣って祝ってやろう


「アリスの為にありがとう」


初老に差し掛かるか、その手前かの女はずっと笑顔でいる

我にまでその笑顔で喜びで祝いの礼を述べてくる

その笑顔は我が王に向けておればよい

誰にでも向けるものじゃない

アレがアリスか

勇者の魂……

アリスは純白のドレスに包まれなんと幸せそうな顔をしているのだ

我が王に祝われておれば当然か

どこにでもいる女に見えるが、その奥にある魂は忌まわしい

我が王はこのような者にまで祝うのだからなんと勤勉なことか

あそこの黒い男の側にいるのが我が金色の魔王か

金色の髪が日の光に輝いている


「このような喜びの場になんと幸せなことでしょうか」


心にもない我が言葉を我が王は嬉しそうに聞く

青く心地よい目が我に向けられている

隣に立つ黒い男が我と我が王の間に入り込む

なんと失礼な男だ

その美貌で我が王を誘惑するつもりか?

我が王を誘惑しようとはなんと勤勉で罪深き男だ

人間風情が……我が王を誘惑できるわけがないがな


キャンキャン


小五月蝿い

黒い小犬が足元にまとわりついてくる

懐かしい

だが、邪魔だ

我と我が王の邪魔をするな

いつでも側に居られるおまえとは違うのだ

小犬に追い立てられられるように我が王との距離が開いていく

なんと勤勉で怠惰だ

我は我が王の側にいたいだけであるぞ

邪魔だ

人目のないとこまで小犬に追い立てられるとは……

その姿で我をここままで邪魔をするとは……勤勉な

どこまで我を追いたてるのだ


「ベルフェゴール、なにをしに来た?」


黒い小犬はその姿を懐かしい姿に変えた

古めかしく着飾った嫌らしい男の姿

暴食の魔王ベゼルブブ

我が王に仕える7体の魔王の一つ

懐かしい顔だ

我も我が王の側にいたいだけである


「結婚の祝いに決まっているだろう」


ベゼルブブは我の言葉を信じてはいないようだ

我も心にないことを言う

信じられず当然だ


「真意はなんだ?」


真意など決まっている

他になにがあるというのだ


「我が王の様子を見に来た」


「それで?」


ベゼルブブは瞳の奥に殺気を込めた

そのような顔をされる覚えはないのだが?


「我が王は美しい。我が王は尊い。我が王は恐ろしい」


これは遥か昔から変わらぬ我の想い

ベゼルブブの殺気は変わらない


「我が王はいつまで人間なのだ?」


早くその力に目覚めてもらいたい

我が王の悲願叶えて差し上げたい

これは7体全ての魔王の忠誠だ

ベゼルブブは怠惰だ

いつまでこの状況に甘んじているのだ


「我が王に生け贄はいらないのか?」


生け贄を与えればもっと早くお目覚めになるのではないか?

我が王に会いたいと思うものはもっといる


「いらない」


即答とは……

勤勉さの欠片もない


「力の使い方もわからない王にはまだ早い」


お目覚めになれば今すぐにでも使えるようになるだろう

躊躇うことなどない

我が王は勤勉であるのだから問題ない


「今は節制の時。焦ることはない」


焦ってなどいない

我が王への忠誠がそうさせるのだ

この箱庭に我が王が再び現れたのだ

我が王の為に生け贄を用意することなど容易い

今ここにいる人間達を生け贄とすればいいだけのこと


「必要ない。生け贄ならばすでに差し出している」


おお。なんと勤勉なことだ

それならばなぜ我が王は今だ人間なんだ?


「勇者の力は強いということだ」


まさか勇者を生け贄としているとは……

……なぜ、まだアリスは生きているのだ?

適当なことで誤魔化されはしないぞ


「王は力の使い方を思い出すことが先だ。その間の護衛としてアリスは役に立つ」


それだけか?

ベゼルブブは先程の黒い小犬の姿に戻った

……その様子でその先を語ることはないのだと知った

なぜこの怠惰でなく暴食を選ばれたのだ?

勤勉な我の他に勤まるとは思えぬぞ

今日の我も勤勉なり

暴食を手伝ってやろうじゃないか

ちょうどいい

そこにいるのは花婿か

アリスと違い只の人間

ちょうどいい

花婿を隠し成り代わる

呆れた様子を暴食は隠すことなく我に向けているが気にすることはない

暴食に従う義理も義務もない

ただ我が王の側にいられるのは暴食だということに納得がいかないだけだ

アリスが花婿に化けた我に腕を絡ませてきた


「アルバート。嬉しいね」


そんなに嬉しそうな顔を我に向けるな

勇者の顔など見たくもない

こうして触れることすら気味が悪いというのに

頭を飾るその天使の好きな花も趣味が悪い

お前にはもっと禍々しい花の方が似合うだろうに

昔から勇者には近づきたくない

表情にでないように気をつけ、したくもない笑顔を作った


「その花、とても似合っているよ」


棒読みになっては……いないな

アリスのその照れて恥ずかしそうにした顔

我もよく言うわ

我が王が酒を呑んでいた

あんなジュースのような若い酒よりももっといいものがあるだろうに

ここにはそれすら用意されていないのか

なんと怠惰なこと……


「アリス。その見慣れない格好……孫にも衣装というやつか?」


我が王は良い例えをだす

花嫁に言うような言葉ではないと思うがまさにその通りだと思う


「大丈夫。今日のアリスは誰よりも綺麗だよ」


アリスの顔が先程より赤くなり俯いた

暴食も呆れるな

我もこの言葉はないと思っている

我が王が我をじっと見ている

この男、なにかしでかしていたか?

我が王は我から目を離す事なく顔を近づけ、臭いを嗅いだ

なんだ?

我が王は首を傾げ、我を見ている


「おまえは誰だ?」


……気が付かれた?

いやそんなはずはない

アリスなど周りにいる者が我が王に詰め寄り


「香りが違うんだ」


皆訳が解らぬといった顔をしていた


「いつもはもっと良い香りがするんだが、今のアルバートは卑しくも懐かしい香りがする」


なんと……

喜ばしいことか

我が王は我のことを覚えてくださっていた

なんと嬉しいことか……

周りにいた者達が我から距離を取り始めた

笑みが溢れる

人が倒れた

弱い者から倒れていく

おや?

我から瘴気が漏れてしまったか

まあよい

こんなに喜ばしいことはないのだから

我が王に膝を折る

我が王は驚き怪訝な目線を我に向けた

今はまだ全てを覚えていなくとも我の忠誠は変わらない

鼻先を剣先が掠めていった

横に払われた剣を避け我が王との距離が開いた


「アルバートはどうしたの?!」


我が化けた男はどこにやったかな?

どこでもかまわないか

剣を構えたアリスの側に黒い小犬に化けた暴食が控えている

花嫁に聖剣、暴食の魔王を従える勇者……

なんとも可笑しなものだ


「ベゼルブブ、嬉しいぞ。我が王は我を忘れてはいない」


アリスに向けて闇の刄を投げる

人間に闇は扱えない

勇者アリスはどうする?

アリスに届く前に闇が霧散した

アリスは呆けた顔をしている

これは……

ベゼルブブ?


「貴様……我が王に対して許されぬぞ?」


怠惰だ

その怠惰は許されない


「アリスはまだ必要だ。節制しろ」


ベゼルブブぼ声は人間に届かない

そこまで必要なものか?

勤勉に……今こそ我が王を目覚めさせる時ではないのか?

小犬の姿でありながらも我に向ける目は魔王そのものだ

よく勇者に気が付かれないものだ


「怠惰は怠惰らしく怠けてろ」


我が王はなにもせずなにも言わない

そうだ

昔から我が王はなにも……

アリスも我に対していつ掛かってくるのか

あの目は今にも食って掛かって来そうだ


「今日は勤勉な気分なんですよ」


そうだ

いつまで時間を掛けているのか

だから我が王が今だに目覚めないことにイライラするんだ


「譲った金色の魔王の側にいる役目、いつでも代われるぞ」


暴食から怒りの色が滲む

我が王に再び膝をおりその手に口をつけた

我が王はその青い目で我を見る


「我の忠誠はいつでも我が王に」


アリスの剣が我を切り裂くも、切り裂いたものは我の影

なにも問題ない

暴食もいつまでもその怠惰な態度は許されない


「我が親愛なる父よ。兄弟よ。その日がくること楽しみに待っている」


闇に隠れ我が王の目覚めの時まで我は惰眠を貪るとしよか



勇者達は小犬をケロベロスと呼んでいる

まさか暴食の魔王だとは思っていない

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