12 取り柄
「あ、こんにちは! 多田さん!」
「こ、こんにちは……」
廊下でばったり出会った二人。
石黒真琴は非常に力強い声量で挨拶し、多田羽鷹はそれに怯みながら返事をした。
「この前は朱美ちゃんを許してくれてありがとね!
わざと当てた訳じゃないんだけど、ときどき許してくれない人ってやっぱりいて、朱美ちゃんほっとしてたよ」
「別に……そこまで言われることじゃ……」
「……多田さん大丈夫? 保健の先生も、頭を打ったことより寝不足のほうが心配だって言ってたよ。
何か悩みとかあるの?」
石黒は幾分か落ち着いた声で、心配そうに尋ねた。
多田の野暮ったい眼鏡の奥には凶悪な隈があり、寝不足なことを物語っている。
「心配してもらう程のことではないわ。勉強していただけよ」
「勉強を? そんな隈ができるまで?」
「……ワタシには勉強しか取り柄がないの。勉強が無くなったら、何も残らないわ」
「んー……」
多田は石黒が難しい顔をしているのを見て、ハッとした。自分は何を急に語っているのだろうと。
とりあえず謝ろうとしたが、その前に石黒が口を開いた。
「よし! じゃあ勉強以外のこともできるようになろう!」
「え……?」
「今日の放課後空いてるかな?」
「え、ええ……」
突然のことに、多田は素直に頷いてしまう。確かに帰っても勉強するだけで、予定らしい予定は無い。
だがこのことを、彼女は後悔するのだった。




