10 傷痕
「ッ! なにその傷!」
入学して間もない頃、教室の一角でそんな驚きの声が上がった。
「ん? どこのだ?」
「そのデコの傷! うわ……ぼこぼこじゃん」
「ああ、喧嘩の痕だな。いつのやつだったっけ?」
「頭突きなんて最初の時からやってたからなー」
驚く周りに対し、なんでもない風に返すのは柿崎憂と小門泊の両名である。
数え切れない程殴り合いをしてきた二人は、頭突きで割れたり、壁にぶつけたりで額がぼろぼろだった。
「うわっ……うなじとかミミズ腫れみたいになってるし……」
「よく引っ掻かれたからな」
「きっつ……、こっちの耳なんてここ抉れてない?」
「噛まれたときのかな、あのときめっちゃ血がドバドバでたっけ。
絶対噛み千切られたって思ったよ」
「それを言うならよー、アタイだってここ、今でも腕に噛まれた痕が残ってるぜ。
あんときは本気でぶっ殺してやるって思ったよ」
「ああ? ならこっちだって足の腱にめっちゃ爪が食い込んだとき、お前も歩けなくしてやろうかって思ったぞ」
「ああ? 誰だって目の前に憎たらしい足があったら、思いっきり握り潰したいって思うだろ」
「おーおー、今まさに目の前に憎たらしい顔があるから、潰してやりたいぜ!」
「いいぜ! 潰してやるよ!」
そんなクラス内の注目が集り騒がしくなっていく中で、マイペースに喋っている二人がいた。
伊野丸春と八栖坂雅美の両人だ。
「春ちゃんはあの二人注意しないけど、なんで?」
「ああ、あいつらとは同じ中学の出身でな。
物を使ったりしないし、周囲も巻き込んだりしないから放っておいてる。
最初の頃は注意したんだけどな、あの二人はそういう関係を変えられないらしい。私にはさっぱり分からないな。
小学生の頃はもっと酷かったらしいが、石黒がなんとかしたらしいぞ」
「へー、おな中なんだ」
八栖坂にとっては、質問の答えよりそっちのほうが気になるのであった。




