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スモーキー教授  作者: 目262
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 スモーキー教授の死去から一週間後、彼の助手が早朝の霊園入り口に立っていた。ただし前回来たときの喪服姿とは異なり、作業着に大きなリュックを背負っている。どう見ても墓参りの格好ではない。それもその筈、彼がここに来た目的は墓参りではなく、教授の墓を掘り返すことだった。

 実はスモーキー教授の死体を発見した翌日、助手は一通の手紙を受け取っていた。差出人はスモーキー教授当人である。死者からの手紙とは何事かと訝る助手が封を切り中身を見ると、文面にはスモーキー教授の癖のある字で次のことが記されていた。

「君がこの手紙を読んでいる頃には私は既に死んでいるだろう。驚かないで欲しい、学内で流れていた噂は本当で、私は長年独自に不死の薬を研究していたのだ。そして先日、画期的な薬が完成した!これは生物を一旦死に至らしめるが、一定時間が過ぎると生き返るというもので、限定的な形だが死を克服する薬だ。既にマウスや大型のサルで実験したが、百パーセントの再現性が見られた。生き返るまでにかかる時間も正確に計算できる。驚くべきことに死んでいる間は細胞や血液は腐敗はせず、生き返ってからも一切の後遺症は見られない。後は人間に試すだけだ。そして最初の被験者は私がやろうと思う。今まで自腹を切って研究を続けてきたが、それも限界に達していた。これ以上の成果を求めるならば、もっと大規模な設備と資金が必要だ。私に対する実験が成功すれば、必ずマスコミが注目して大きな宣伝になる。そうすれば国から援助が得られるし、本当の不死の薬が実現できる。だが、実験を事前に公式発表することは危険だ。不死の研究など誰も信じないだろうし、そのような状況で実験が成功しても何らかのトリックを使ったパフォーマンスだと世間は思うに違いないからだ。そうなれば私の信用と名声は地に堕ちて、学会から追放されるかもしれない。だから私は秘密裏に実験を行う。すなわち、今日この薬を学内で飲むのだ。私が研究室で死んでいれば、当然警察の詳しい検視が入り、私の死亡が公式に認められる。その後私が生き返れば、これは研究の正当性を認める確実な証拠になるだろう。だから君には私が生き返ったときに、私を墓から掘り出して欲しい。前もって妻には、私が死んだら土葬にすることと伝えてある。もちろん本当のことは伏せた。妻はお喋り好きで、だれかにこの実験のことをうっかり話してしまうかも知れないからだ。真相を知っているのは私と君だけでなければならない。この薬が私を死なせてから生き返らせるまでに、計算ではきっかり一週間かかる。私の死体を一番に発見するのは君だろうから、そのときから丁度一週間後に私の墓を掘り出すのだ。早すぎても遅すぎてもいけない。早すぎれば生き返る前の私の死体を君が掘り出すことになり、人目に触れれば君が何らかの罪に問われるだろう。遅すぎると私が生き返っても、その後棺の中で窒息死してしまい、二度と生き返れない。そして君はやはり私の死体を掘り出すことになり、やはり何らかの罪に問われることになる。もう一度繰り返すが、まさしく一週間後に私の墓を掘り出すのだ。この実験が成功し、公的な援助が得られるようになれば、大勢の学者を雇うようになる。その暁には君を共同研究者として迎え入れよう。遠からぬ日にノーベル賞の共同受賞者として、私と一緒に歴史に名を残すのだ。念を押すが、私の死からぴったり一週間後に私を墓から掘り出すのだ。今からこの手紙を学内のポストに投函する。明後日には君の元に届くだろう。そして私は研究室に戻り、この薬を飲む。おっと、その前に煙草を一本吸ってからにしよう。最後の一服というやつだ。そして、また生き返ったときに吸う最初の一服は極上に旨いにちがいない」

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