プロローグ
「かはっ、かははっ、かははははははっ!」
その男は、笑っていた。
「ああ、ようやく死ねる、遂に死ねる、やっと死ねる。幾千幾万の月日、どれほどこの時を待ちわびたことかっ!ああっ!ああっ!!最高だ、ああ最高だっ!如何なる道筋を経たとて、これほどの感動は得られなかっただろうさっ!!」
ぶふぉっ。その男は、大量の血を吐いて。
懐かしいなと、夢想する。
幼き日から、今日この日まで。
死を願い死を夢見て死に続けた。
それがようやく成就する。
例えばナイフで腹を裂き、
例えば縄で首を吊り、
例えば車道にその身を投げ出して。
それでもまだ、死ねなくて。
故にありとあらゆる死をその身で試した。
そして、遂に。
不死にさえ思える肉体が、終わりを告げる。
「ああ、神様、ようやく僕を殺してくださるのですね—――」
否。
永き歳月を掛けた男の自殺は、この時、終わった。
その光景を見つめていた二対の瞳があった。
「ああ、なんと悲しき魂だろうか」
「ええ。あんなに傷ついた魂は、わたくしも初めて見ました」
「じゃあ、救わなきゃあならんのう」
「ええ。そうですね」
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「ふっざけるなぁあああああああああああああああああ!!!」
ある場所の、ある深い森で。男は、怒りのままに吠えた。
「なぜ、なぜ、なぜっ!ようやく終わったというのに、また生きなければならないのかぁっ!うぅああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
その咆哮は物悲しく、暗き森に乗り込まれていく。
「ゲギャッ、ゲギャギャッ!」
「グギャグギャ!」
二体の獣が、男の前へ現れた。彼らを見つめる男の目に、光はなく、男は既に、完成していた。
「ああ、いいさ。俺はもう、何にも期待しない。だから、俺が死ぬまで、死合おうか」
—――但し、最悪の形で。