陰に陽に〈4〉
ロトくんは遂に正面対決を迎える。あの、懐かしい人と……。
岡村の役目は此処まで!
それでは、スタート!!
どうっと、身体が空中に舞い上がる。ロトと岡村は二人の男から放たれる“力”の風圧を受け止めきれず、その流れに揉まれていた。天高く登り、星の瞬きに照らされるとお互いの掌を握り締め、旋回しながら着地する。
「ロト、おまえが男だったのが残念だ」
「岡村さん、今の言葉にがっかりしました」
ロトは岡村の掌を剥がし、地面を蹴り、右目に眼帯を付ける男を目掛け飛翔しながら“銀の光”を解き放していく。
「フリーッ!教えてくれ。あんたは何故、こんな場所で人の生き方を翻弄させる真似をしているのか?」
「命には限りがある。しかし、時は永遠。更に其処にも幾つもの世界がある。繋げれば無限となり、果たせなかった志を達成させる!」
「其れが正しい選択とは、俺は思えないっ!」
「生まれつきの“力”に誇りを持てない。ロト、もて余しているのならば、我々が代わりに使う。来るのだ!」
「あんたの事は、心から信頼していた!」
「揺さぶりを掛けても無駄だ。さぁ、ロト。新たな時と世界の誕生をおまえも見届けろ」
フリーは“力”を岩石に注ぎ込み砕けあげ、浮上させると照準を岡村に合わせ、そして間を置かずに弾丸の雨を降らせていく。
「岡村さーんっ!」
「来るなっ!奴等は、俺を潰す意図も兼ねている」
「何を仰っているのですか!急いで傷の手当てを──」
「どっちみち、こうなる覚悟はあった。俺は管理者として、過ちを犯した。利益を追求されて、何人も部下を犠牲にさせてしまった。負の連鎖を断ち切る……。そ……れ、が……俺の……」
「自己満足は構わないが、貴方を失ったら嘆き、哀しむ人の事を考えてみろっ!」
ロトは岡村に瞬時に移動する。額より血が滴るその身体に向けて掌を広げていると、陽の温もりに似た風が巻き起こり、その方向から震える声に耳を澄ませる。
──ロトさん、ありがとうございます。貴方も運命を旅する人。でも、世界が繋がるこの時で、素敵な物を手にする事も出来たのです。私達が消えても、其れだけは大切にされてください。
「志帆……。おまえ、人が好すぎる」
「岡村さん。今の私が在るのは、貴方のお陰なのです。ご恩返しするのは、礼儀です」
純白の衣を身体に纏い、きらり、と、眩しく輝く装飾品より音を奏でらせ、Yシャツを血の色で染める岡村に、ふわりと、綿を彷彿させる感触が迸る。
「義務か?」
「表現に誤解が生じましたね?訂正致します」
「待て、その続きは後でじっくりと聞く」
「夢は何処に繋がるのでしょうか?」
「目の前だ。いいな?」
手を繋ぐ二人。岡村の、穏やかな眼差し志帆に差し込み、言葉は柔らかく解き放たれる。
ペパーミントの薫りを含ませた風が吹き、光の粒が粉雪のように降り注がれ、辺り一面が白色に埋め尽くされると、支え合う岡村と志帆の身体が其処より舞い上がる。
「どうされるのですか?」
「ロトさん、ご心配は要りません。私達は、本来の時と世界に戻るだけです。此の方と幸せに過ごす……其れが喜びだと、私も気付いたのです」
「俺達の“力”を解放させる。象が現れたら、其れを手にして先を進め……」
「タクト……それに、アルマさんとバースの行方の手掛かりが掴めていない。三人を、置いていけるものか!」
「言い忘れていた。莉愛……いや、リンが導いてくれる」
「リンが?」
──岡村さん。
──ああ、待たせたな。行くぞ、志帆。
──はい。
岡村はふわりと、志帆を抱き寄せ、唇を重ねる。光は更に輝きを増し、閃光が四方八方に迸る。そして──。
静寂が訪れ、白色の空間にロトは身を任せていた。
ふかふかと、程好い感覚に目蓋が綴じられ、何処に流されるかも抵抗する事なく、まるで睡眠を貪るようにゆらゆらと、漂い続ける。
──フリー……。
白色の光に呑まれる彼の面持ちを、目蓋の裏に浮かべる。その時の言葉も繰り返し、思考に木霊させた。
──もう一度、ロト……。おまえと同じ時を過ごしたかった。其れだけは、真実だ……。
──また、会える。必ず、時の何処かで廻り会える。其れまで、新しい時を刻む準備をしててくれ。
──判った……待つことにする。
頬を濡らし、笑みを湛え一度お互いの掌を握り締めると、弾かれるように、離れていく。
★○★○★○★○★○★○
あ、お腹が鳴っている。
よすのだ。目を覚ましていたら、最悪な事態が発生するぞ?
タクト。最近、ふざける事が増えたな?
楽しいですよ。だって、僕と同じ位の──。
「折角、寝ていたのに、騒々しくて不愉快だ」
「あは!やっと、起きてくれた」
ぶすりと、ふて腐れるロトに、嬉々とするタクト。その様子を、アルマとバースは笑みを湛え見つめていた。
「よ!眠り王子様」
「……バース。おまえが一番、ふざけてる」
「ロトくん。キミのこれ迄の辛さや哀しみは、バースさんが一番理解しているよ?」
タクトはロトに掌を差し出す。
「バースの良き理解者だよ。タクト」
ロトも微笑して、その掌を握り締め、ゆっくりと立ちあがると視線をアルマと合わせる。
「ロト。この世界でどんな事を学べたのか、述べて貰えるか?」
「《愛》でしょうか?特に、あの二人は其れが強かった」
「“力”を超える《象》何事にも勇気が沸き上がる。想いを寄せ合う男女に当てはめるだけでなく〈友〉や〈師弟〉はたまた、繋りを持ち、信頼を得た人物にもだ」
「アルマさんが言うと、説得力があります」
「少しは、子供らしく振る舞ってみろっ!」
アルマに額をぴんっと、指で弾かれ、ロトは咄嗟にその痛みの形相を表していく。
「アルマさん。僕、見ちゃったよ」
「ほう!俺にも聞かせてくれ」
「やめろっ!あれ、だけは絶対に喋るな!!」
ロトは赤面しながら、逃げまくるタクトとバースを捕まえようと、駿足する。
「じゃれ合うのは其処までにするのだ」
アルマは視線の先のエメラルドに輝く〈扉〉を見つめながら言う。そして、その傍には──。
「貴女。少しだけ、ロトのお母様に似ているかしら?」
「リン、と呼べばいいな?私情は兎も角、これからの道案内を頼むぞ」
「任せて!アルマさん」
──行きますよーっ!銀次郎くん。
──その呼び方も止すのだ!
ロトはタクトの脇を肘で挟み、更に頭部へ拳を押込む。
一行より高らかと笑う声が沸き上がり、タクトが握る鍵が扉の鍵穴に差し込まれると、辺り一面に瑠璃色の光が拡がっていった。
──一方、その頃。ある施設にて、関係者が集い、物議を醸し出していた。
「フォーマルハウト……。この失態の責任は、誰が尻拭いするのか?」
「申し訳ございません。まさかのイレギュラーの事態が発生しまして、私もその場を離れるのが精一杯でした」
「しかも、時を繋げる装置を紛失して……。何にうつつ抜かしていたのだっ!」
「……マスター。その件に関しては、私より報告致します」
「訊こう、パワ・ハーラ」
パワ・ハーラと呼ばれた男は漆黒の炎に姿を変え、仮面を被るその人物の腹部に吸い込まれていく。身体は一度、炊き上がり黒煙がすっと、放出され、消滅する。
「くだらない……。だが、今一度機会を与える。いいな?」
「感謝致します。必ず“SILVER・WOLF”を取り押さえ、貴方の元へお届けに参ります」
「あの者達も……だ。特に、メッセージを解読した少年は、かすり傷を付けずに、連れてこい!」
「我々が誘き寄せたとは、まだ、気付いていません」
「さっさと、行け」
──御意!
フォーマルハウトは空間に溶けるように、その場を後にする。
仮面の者、首に掛ける装飾品を手にして、立体映像を写し凝視する。
──タクト……。
呟く声、低く重く。口から吐かれる漆黒の炎と交わらせていた。
裏話→フォーマルハウトさんが何装置を紛失した経緯です。あの時、余りの重量感に疲労困憊して立ち寄った店で頬張るポテトフライの味に感動して、すっかりと、忘れてしまったのでした。
[陰に陽に]此れにて、一件落着……。




