陰に陽に〈3〉
ちょっと、深刻です。ロトくん、此処はキミがびっしりと決めてくれる。いや、キミでないと盛り上がらない!宜しくお願いします、ロトくん。
「今日はゆっくりと過ごしなさい」
ホテルの一階、ロビーの待合室にある長椅子に腰掛けるロトとタクトに岡村はそう、告げる。
「夕食だけならまだしも、宿泊費が貴方の自己負担だなんて、ビックリしました」
タクトは一礼すると、テーブルに並ぶティーセットのカップをひとつ手にして、注がれている紅茶を啜る。
「個人的な接待では経費を落とさないと、僕は決めている。其れに、君達は莉愛の友達だ。もてなすのは当然だよ」
「随分と甘やかし放題としか、受け取れませんよ?」
ロトはマカデミアナッツクッキーをぽくり、と噛み締めながら苦笑をしていた。
「失礼しちゃうわ!伯父様は、どんな時でも私の味方になってくれている。ただ、それだけよ」
リンは頬を膨らませ、ふいっ、と、首を横に振る。
「拓人、何か心配事があるのかな?」と、岡村はうつ向くタクトに声を掛ける。
「お世話になりっぱなし……。其れが、心苦しくて」
「そんな顔じゃない。さっきまでの、食事を堪能していた意気込みが消えていると、察してるぞ?」
「今頃、二人がどうしているのかな?と、思ったら、こんな処でのんびりしている場合ではないと……」
「その件に於いては僕も協力をする。まずは、休息をしっかりと取ることだ。焦る気持ちは判るが、ただ、闇雲に突き進むのは、空振りになる。其だけは、避けよう」
「さすがですね?岡村さん、貴方は〈大人〉です」
「買い被り過ぎだよ」
岡村は笑みを湛え、長椅子から腰を上げる。
「もう、部屋に行って休みなさい」
「はい。でも、銀次郎くんが莉愛さんと何だか、まだお話し中の様子ですよ?」
「はは……。僕達も知らない、二人の仲があるのだよ」
「そうですね?其れなら、僕がいたら邪魔になる。と、言うことで銀次郎くん、ごゆっくり!」
タクトはそう、告げるとエレベーターに向かって歩み、そして、他の宿泊客に混じり乗り込んでいった。
「嫌だ!銀次郎が変に絡んできたから、拓人が勘違いしちゃったわ」
「俺の所為にするな。莉愛、キミには山ほど訊きたい事がある」
「あら?呼ばれる名前の意味なら、いい加減に納得して欲しいわ」
「其れもあるが……」
「僕がいれば、訊くに訊けない。そんなところだな?」
「いえ、今は貴方のご意見に賛同しなければならない。そんな、状況です」
「賢明な発言だ。どれ、莉愛。送っていくから、帰るぞ」
「私も、此処に泊まりたい」
「却下!」
「伯父様、珍しく意地悪ね?」
「此処にはいろんな人がいる。特に、銀次郎くんが知りたい情報を握っている人物がいる可能性がある」
「わざと、誘き寄せる?」
「ちょっと、場所を変える目的も兼ねる。行くぞ、莉愛、銀次郎くん」
★○★○★○★○★○★○
「おやすみなさい。伯父様、銀次郎」
豪邸の門の前に、岡村が走らせた乗用車が停まり、開くウインドウより莉愛はそう、言う。
「今日の事は莉愛の両親には伏せとくから、明日はちゃんと学校に行くのだよ」
「サボりだったのか?」と、ロトは呆れ顔でリンを見る。
「失礼しちゃうわ!授業がつまんなかったから、抜けただけだもん」
「それをサボりと言うのだよ」
「もうっ!伯父様、さっさと銀次郎を連れていってよ」
「僕との約束は守れるかな?」
「学校が終わってから、銀次郎達と会う。で、いいのでしょう?」
「その通りだ。それでは……」
岡村はアクセルを踏み込み、走行を始める。
助手席に座るロトは溜息をして、リンの姿が遠くなるのを確認すると、真っ直ぐと前を見てハンドルを握る岡村を凝視していった。
「大変ですね?」
「莉愛のことか?根はいい娘だが、確かに世話は妬くな」
「其処まで理解しているのならば、矢鱈と甘やかすのはどうかな?と、思います」
「僕ができる範囲内で手を差し伸べてるだけだよ。さっきも、やるべき事を伝えたつもりだ」
「学校か……」
「そうだ。キミもそうだが、拓人くんだって本来なら、学業に専念する年齢だ。この状況下の事情は、ゆっくりと訊かせて貰う」
「今、説明してもいいのですよ?」
「まずは、あの二人と直接対面しよう。絶対に何かを握っている筈だ」
「……フリーとフォーマルハウト。どんな経緯で二人が繋がりを持ったのかも興味があります」
「そうだろう?莉愛をシースルーして、俺達を着けている。場合によっては、対峙も避けられない。今のうちに、その覚悟があるか述べてくれ」
「『イエス』です。宜しくお願いします、岡村さん」
「潔い、返事だ。どれ、この辺りは誰もいない様子だ。いいな?」
漆黒の闇を彷彿させる山岳の道を走り抜け、乗用車は薄明かりの外灯の下に停車すると、ロトと岡村は其処より降りて、後から到着する軽自動車のライトに目を眩ませる。
「やっと、まともにご対面できた。俺とこの少年、どっちを狙っている?」
岡村は絞めるネクタイを外し、上着を脱ぎ捨て更にYシャツの袖を捲り、ライトに照らされる追手の一組を睨む。
「我組織の裏切り者よ、おまえを此処で始末するのは簡単だ。だが、其れは其処にいる“SILVER・WOLF”をおとなしく引き渡すことで、無しにしてやる」
「俺はひねくれ者でな。おまえ達の条件は拒否だ」
岡村はロトを背後にさせて、ニヤリと歯を見せて笑みを湛える。
「岡村さん、貴方は一体何者なんだ?」
「《団体》の中間管理職……。または、ロト。キミも含めたタクト達の同志だ!」
「〈銀の蜃気楼計画〉を阻止する為に?」
「来るぞ!“力”を解放させるのだ」
ロトは、腕を伸ばし掌を空中にかざして“防御壁”を放つ。その壁に、男達が放出する“力の塊”が激突して、消滅していった。
タクトを置いて、ロトくんと岡村は例の二人と闘う!?どうなる、どうする?バースとアルマの出番がないまま、話はまだ続きます。




