陰に陽に〈2〉
キラキラ、華やか~♪
本日もリンちゃんは元気です。フォーマルハウトさんとフリーさん。そして、鈴藤キャラからあの二人を登場させました。
それでは、始り、始り~。
【ヨヤスサンセットパレス】巨大なシャム猫の大理石の像、淡い紅色の花びらの薔薇が咲き誇る庭園。そして、敷地いっぱいに広がる池に優雅に泳ぐ錦鯉の群れと、流れ落ちる滝に揺れる川の水面。
地上35階建て。そのフロントに少女──リンは、深緑のブレザーとチェックのスカートと同柄のネクタイ、緑のベストと同色のソックスに黒の革靴で……押し問答になっていた。
「誠に申し訳ありませんが、本日は満室になっておりまして──」
「シングルでもいいの!何度も言ってるけど、この二人だけを宿泊させてよ」
「如何なるご事情でも、原則的には御予約があるお客様が優先でございます」
〔浅田志帆〕フロント係の胸元に貼り付くネームプレート。リンは其れを見つめながら、こう、付け加える。
「支配人をお呼びして頂けませんか?」
「ただ今会議中の為、席を外す事は出来ません」
「あら?従業員の方が上役のその日の予定を何故、ご存知なのですか」
ニヤリ、と、リンが笑みを湛えると、係の女性の形相が忽ちに焦りを含ませていく。
「……空室の確認を致しますので、少々お待ちください」
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エレベータは最上階のフロアで止まり、ロトは呆れながらこう、訊く。
「リン、あのフロント係の女の人にほぼ、脅していなかったか?」
「ぜーんぜんっ!人を見て宿泊拒否した対応したのがいけないのよ」
ふんふん、と、鼻唄混じりのリンは《VIP》と架かる扉の錠に、カードキーをスライドさせていく。
「其れにしても、この部屋の宿泊代、僕達では払えないよ」
「その心配は要らないわよ。あ、ちょっと失礼!」
リンは困惑の面持ちのタクトにウインクしながら、豪華に装飾される部屋に入り、着信音がする通信機を手にしていく。
「スマートフォンと、呼ばれる通話機か……。俺も結局使いこなせなくて、がらくたにさせてしまった」
「ロトくん、キミはどんな時代を生きていたの?」
タクトのその言葉に、ロトは僅かに身体を硬直にさせる。
「タクト、人に踏み込む事は、自身の何かと比較するのと同じ行為だと、伝えとく」
「人聞き悪い。なら、言い方を変えよう!」
タクトは、ロトの睨む眼差しに躊躇して、思考を
──空想が現実に刷り変わったこの世界を、時の輪の中で体験している。
と、張り巡らせる。
──〈思念波〉か。タクト、俺に今語り掛けたのか?
まさに、頭の中にその声が響く。タクトは更にこう、言葉を浮かばせていく。
──僕の思っていることを?街の中では、お互い使えなかった“力”がどうして──。
「二人とも、何、見つめあったままなのかしら?」
「え?リン、通話はもう、いいのかな」と、タクトはロトを白いレースとフリルがふわふわと施されているベッドの上に突き飛ばしていく。
「嫌だ!ロトがいくら、綺麗な顔立ちしているからとは言え、私の目の前で押し倒すなんて……」
リンが頬を赤く染めていると、タクトは瞬時に、こう、言う。
「僕達、まだ、ちゃんとした自己紹介していなかったと、思うけど?」
「……そう?でも、素敵なニックネームでしょう!」と、リンはひらり、と、スカートに風を含ませて、部屋のベランダの扉を開いていく。
「何を考えている?」
「あなた達、こそ。よ」
ロトはベッドを降りて、リンの側に歩み寄り、溜息をすると雨空を仰いでいく。
「漸く、俺を記憶していた人物に遭遇した。他にも誰かいるのか、リン、知っているのだろう?」
「私〈此処〉では御令嬢になってるの。少し休んだら、そう、呼んでくれる人と会わせる」
「どうした?じろじろと、俺を見つめてさ!」
「ディナーでその服装は断られるわよ。ショッピングフロアに行きましょう!」
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「ふふふっ!ピッタリ、ビッシリと似合ってるわ」
満面の笑みを湛えるリンに戸惑いを覚えながら、ロトとタクトは其其で着用している服装を、見比べていた。
「ロトくん……ネクタイの付け方、間違っている」
タクトに苦笑いをされて、ロトは眉を吊り上げながら、咳払いをする。
「あら、退いてタクト。ロト、私が手直ししてあげる」
リンはしゅるりと、そのネクタイを解き、指先を動かしていく。
「止してくれ、人が振り返って此方を見ている」
「可愛いカップルだ、なんて、思っているに決まってるわよ」
「リンッ!!」
「はい、これでいいわよ!あ……」
リンは、ぽん、とロトの胸元に掌を乗せていると、スーツ姿の青年に笑みを湛えながら手招きをする。
「晴一叔父様、今日はありがとうっ!」
「この二人が莉愛の友達か……。えーと、名前はどう、呼んでいいのかな?」
──りあ?
──この世界での彼女の名前だろう。
ロトとタクトは〈思念波〉で話していると、こほん、と、リンの咳払いに振り向いていく。
「此方のちっちゃい男の子が隼田拓人くん。そして、ちょっと、背が高い子が織本銀次郎くん!」
「ギンジロウ!?」
ロトは驚愕してタクトと目を合わせるものの、その顔は吹き出し笑いを懸命に堪えていた。すると、青年は笑みを湛えると
「君達の事情は、追追訊かせて貰うことにしよう。僕は岡村晴一。莉愛の叔父です」
そう、言って二人と握手を交わしていった。
「叔父様、食事をする席は何処かしら?」
「景色が最高に美しい場所を指定していた」
そして、ロト達は岡村にホテルのレストランに案内されていく。
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【レストランムーンストック】ロビーにまでピアノとバイオリンの生演奏が響く、その窓際の席にロト達は腰を下ろしていく。
「ディナーに限らず、此処はビュッフェ式だ。僕に遠慮せずに、どんどん食べなさい」
「そのつもりです!頂きます」
タクトは皿を持ち、魚のマリネ、本マグロの大トロ、鮃のムニエル、ズワイガニのグラタンと、次々に盛り付けていく。
「みんな、魚介類か?」
「僕の好きな、しかも、滅多に口にする事がないものばかりで、嬉しいな!銀くんも早く、料理を取りに行きなよ」
タクトはがちゃりと、山盛りの皿をテーブルの上に置き、再びいそいそと、その場所に行き、更にアワビのステーキ、伊勢海老の活作りと、満面の笑みを湛える。
「銀次郎、拓人に先を越されているわよ」
リンもタクトに負けじと、サーロインステーキ、スペアリブ、生ハムのサラダ、ローストビーフを皿から溢れるほどに積み上げて、席に着く。
「莉愛……咄嗟とはいえ、俺を何故そう、呼ぶのだ?」
「まずは、食事を楽しみにましょう!ね、叔父様」
「その通りだよ。腹が減ってはなんとやら、だよ?」
「岡村さん、貴方もこの〈世界〉に捲き込まれた方なのですか?」
ロトの言葉に、岡村の形相が瞬時に険しくなっていく。
「銀次郎くん、マグロの解体ショーを見る振りして今から僕が取る行動の先を、見てくれ」
岡村はそう、言って、手に握り締めるフォークを、床へと落としていく。そして、ロトはその前方、更に今も尚豪華な料理に目を奪われているタクトの背後に着席する二人の〈客〉に驚愕する。
「……まるで、僕達の行動を監視している様子ですね?」
「キミは、あいつらの本当の名前を知っているか?」
ウェイターが代わりのフォークを置いて、立ち去って行くと、岡村とロトは、会話を続けていく。
「フォーマルハウトと、フリー。姿、声、時の輪の中で忘れた事は、一度もなかった……」
ロトは唇を噛み締めて、グラスに注がれるミネラルウォーターを一気に飲み干し、今一度、その名であるだろうと、いう〈客〉を凝視していった。
ロトくんとタクトの呼ばれ方。世界は日本だから、リンちゃんはそれにピッタリの名前を考えたのでした。タクトはともかく、ロトくんは髪の色で決めた……と、思います。
タクト、伊勢海老と本マグロの大トロ食べられて、羨ましい。