陰に陽に〈1〉
舞台は現代日本風です。
登場人物は、リンちゃんの他に、台詞がない方々にご協力をして頂きました。
それでは、始り、始り。
【あなたの信じた道をあなたの望む道筋で】=サンダーズ=
《がらくた発掘本舗》と、掲げられる看板の店に[定価1500円〕のシールが貼られる音盤。その品物に目を止めたのは、ロトだった。
ジャケットを飾るアーチストの男女に、思いを張り巡らす形相を浮かべ手に取るものの、陳列棚にそっと、戻していく。
「迷ってた様子だったけど、思い切り買えば良かったのでは?」
人が行き交う白線が塗られる道に靴を鳴らしていると
『信号が赤に変わります。横断を止めて下さい』のアナウンスに駿足しながらタクトはそう、言った。
「あいにく、余る程の持ち前はない。其れより、あの二人を探す事に集中するのだ」
ロトはそう言いながら、四つの車輪で走行する物体の群れを凝視する。
「こんなに人が溢れている中で、しかも〈この時〉に足を踏み込んだ途端、全く“力”が使えなくなるのも、大変だよね?」
「郷に入れば郷に従う〈創造〉は其処まで実体験させる。不便だが、その代わり、生活に関わる道具類は、機能性豊かなのが特徴と見なす」
「其れは、あくまでも〈この時〉を過ごす人達にとってだと、僕は思うよ?ロトくん」
「うっかり俺達の素性を述べても《現実逃避思想》と、受け止められてしまう。気を付けとくのだよ、タクト」
お腹すいた。ご飯が食べられるお店に入らない?
『金』がない。見ろ、一杯のコーヒーを飲むだけでも、篦棒な料金だ!
【カフェ・ニャホ&ニャゴ《本日の珈琲 ブルーマウンテン 450円》】
「この店は、その専門店だからだよ。ホラ、あっちの店はコンビメニューが200円だから、行こうよ!」
腹部より鳴く虫に、ロトも渋渋と、タクトが促すその飲食店に入り《ハンバーガー・コンビ》を注文して、店内に設置されるカウンター席に腰を下ろしていく。
「ミュージシャン!?」
「あくまでも〈創造〉だけどな。思念を形にさせた経緯が、全く思いつかない」
ロトは、ストローが刺すソフトドリンクの容器を、テーブルに置き、苦虫を噛むような形相を浮かべる。
「ハロルドさんとエリカさん。此処ではどんな関係かな?」
「食いつくように、言うな」
「キミは気にならいの?」
「さっさと、食べろ!バース達とはぐれたままなんだぞ」
ロトは立ち上がる拍子に、こつりと、肘に固体が当たる衝撃を覚える。
「ロトくん、それって、さっきまで僕達の隣にいたおじさんの持ち物では?」
「鉛みたいにずっしりしてる。よく、こんなものを軽々と、しかも、忘れてしまうか?」
「特徴は僕、しっかり覚えているよ」
「髪が一本も無くて、その隣にいたのは、右目に眼帯を着けていた。どっちも中年風なのは……」
また、キミの知り合いに似ていた。向こうもキミに気を止めない様子だった。と、言うことだよね?
そんなに、ポンポンと、先を読むな……。
【交番】息を切らせ、やっとの思いで其処へ辿り着くロトとタクト。
「うーん……。君達が届けてくれた拾得物は、取り合えず保管はするけど、持ち主に返ると、いうのは期待しない方がいいと思うよ?」
「ニケメズロさん……じゃ、なくて、お巡りさん。其れは、僕達に分け前……いや、その品物は余り、良くない物と、言うことですか?」
「タクト、知り合いを彷彿させて否定しつつ、尚且つ貪欲的な言葉を滲ませていたぞ!」
「ロトくん、僕達の所持金合わせていくらだと思うの?バースさんを探す為に〈この時〉では絶対に足りないに決まってる!」
「よく、分からないけど、君達も《迷子》なのかな?」
そばかす、癖ッ毛の巡査のその言葉に、双方は瞬時に身体を硬直させていく。
「ロトくんが《おもてなし戦隊ヒゴレンジャー》に夢中になってたからだ……」
「タクトこそ、ご当地ゆるキャラ《グレートマザー》のグッズ選びに足留めしていたっ!」
喧々諤諤、ああ言えばこう言う。諤諤然然……。双方、一向に言葉の戦闘を止める気配無し。
──良かった!二人とも、散々探して私も、諦めて此処にお願いするところだったのよ。
「おや?お嬢ちゃん、この二人の友達なのかな」
「修学旅行の自由行動の最中だったの。ホラ、さっさと行くわよ!」
髪をふたつに縛る少女は、ロトとタクトの腕を掴むと【交番】を駆け足で後にしていく。
「ねぇ、キミ。僕達を助けたつもりだろうだけど、どうして嘘をついてまでこんな真似をしたの?」
「お黙りなさいっ!あなた達こそ、危うく巻き込まれるところだったのよ」
「さっき届けた荷物についてか?」
ロトの言葉に少女は足を止めて、溜息を吐く。
「……姿はばっちり見られてしまったのは仕方ないけど、名前は訊かれなかった様子が幸いだった」
「凄く、嫌な言い方する理由を聞かせて貰えるよね?」
「まずは、私に黙ってついて来てっ!」
「一応、キミの名前を訊く。ロトくんは何だか知ってるみたいだけどね?」
「ふーん。私はあなた達が外国人にしか見えないわ」
「その服装は、制服と言うのだろう?キミが団体行動に耐える性質に見えない」
「ロトくん、今はこの子の名前を僕が訊いてるのだよ?」
「俺達の名前を訊かれなかったのに、安堵してる!そっちが怪しいと、思わないのか?」
──あの荷物、最悪なものが詰まっていたの。関わってしまった人は、すっぽんのように追い掛けられて、最期は……ね。
「……ハンバーガーとソフトドリンクでは、さすがにあっという間にお腹が空いてしまった」
「タクト、自分の立場より目先の食欲か?」
「身の危険を少しでも回避する為に、他にどんな方法があるの?ロトくん」
「素直な言い分よ。お腹一杯にさせてあげるから、ついて来て」
少女は道行くタクシーを手を挙げて停めて、ロトとタクトは乗車させられる。
「で、念のために訊く」
「ロトだっけ?私にそっくりな知り合いの人は、何て名前かしら?」
リン……。そう、呼んでいた。
カチコチと、ウィンカーの音が響き、ロト達を乗せるタクシーは、更に走行していく。
「なら、そう呼んでいいわ……」
少女のこの呟きに続く会話はなく、フロントガラスにポツポツと、雨粒が貼り付き、暫くするとワイパーが交錯を始めていった。
お金に困るとは……。でも、ロト達が拾った物は?中年風のおじさま達は?
お元気娘リンちゃんの活躍、次話に続きま~す。




